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『病む人に学ぶ』

福永 秀敏 20040819 日総研出版,190p.

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last update:20160116

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福永 秀敏[amazon][kinokuniya] ※ md. ms. n02

■内容

(出版社より)
本書の特徴は、病院経営者:福永秀敏氏の側面が垣間見えることです。医療制度改革、障害者自立支援法などの難病医医療・福祉を巡る制度改革、そして医療安全に関する取り組みが求められるまっただ中で、経営者としてのいかに意思決定し、対応してきたのかがよくわかります。

■目次

第1章 難病医療・福祉の現場から
患者さんの思い出
生きるということ
敏秀(トシヒデ)

第2章 システム
医療というシステム
病院というシステム

第3章 肖像
ストレスマネジメント
生まれてきた路、そしてつれづれに

■引用

 「筋疾患のレベルは文化と経済の成熟度の指標
 一月二十、二十一日の両日、東京の全協連ビルで、第一回アジア・オセアニア筋疾患センターのワークショップが開催された。インドネシアやタイ、インド、中国、香港、台湾、韓国などのアジア各国とオーストラリアから、その国を代表する筋伏蕪学の医師や研究者が参加した。
 歴史的に見ると数十年前は日本でもそういう傾向があったように、いわゆる貧困で経済的に余裕のない時代には神経学を志す医師は少なく、ましてや筋疾患に興味を持つ学者は極めて限られている。東南アジア各国は現在まさにそのような状況にあり、多くの神経疾患や筋疾患の患者さんは放置されたままのようである。そして、主要な筋疾患も感染症によるものであったり、周期性四肢麻痺などが多いという。十年ほど前、筋ジス病棟の患者さんと台湾を旅行した時、台湾大学の神経内科の教授が、「台湾ではデュシェンヌ型の筋ジストロフイーはほとんどいないことになっています。十八歳ごろ、徴兵制のための検査の時、公式な統計上の数字が出ることになっていますから」と言われたことを覚えている。この懇親会の席上、杉田精神・神経センター名誉総長が私に、「筋疾患研究のレべルは文化と経済の成熟度の指標だね」と言われたが、的を射た言葉であると実感できた。もちろん研究者の中には、欧米▽185 の一流の研究機関に留学し、極めてレべルの高い研究成果を流暢な英語で発表する人もいた。シンガボールのWC Yeeさんは二十年ほど前に、当時重症筋無力症の研究で有名なジョンズホプキンズ大学のドラックマン教授のもとで研究生活を送っていたとのことで、懇親会の時、「ドクター・フクナガはあなたでしたか、あのLEMS(ランバート・イートン筋無力症候群)の論文はよく覚えています」とのうれしいお世辞に驚いた。ちなみに、シンガポールは情報通信(IT)とゲノム産業を国の柱に考えていると言う。
 このワークショップで、私は「日本の筋ジス病棟の現状と将来」について発表した。日本全国二十七ヵ所の筋ジス病棟に二千百五十六人の入院患者があり、九百人近くが人工呼吸器装着者であること、歴史的な変遷をまとめると、一九七〇年代の筋ジス病棟は、医療(リハビリ)、教育、生活の場であったが、高齢化や重症化、そして呼吸管理の患者さんが増えて、現在はICU、ターミナルケア、レスパイトケア(在宅で呼吸器を使っている人を一時的に病院で預かり、家族に休息の機会を保障する)の役割を担うようになったこと、そしてニ〇〇〇年代の筋ジス病棟は、必要な時、必要な人に医療が提供され、在宅の患者さんを含めて筋ジス患者さんのオアシス的役割を果たしたいと発表した。ただ、日本のようなスタイルの筋ジス病棟は世界的に見ても皆無であり、特に東南アジアの研究者にとっては、まさに別次元の世界で、ため息の出る思いであったかもしれない。
                           (平成十三年二月)」

■言及

◆立岩真也 2014- 「身体の現代のために・9〜」,『現代思想』 文献表


*作成:安田 智博
UP:20160116 REV:
福永 秀敏  ◇筋ジストロフィー  ◇「難病」  ◇病・障害  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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