HOME > BOOK >

『寄せ場文献精読306選』

日本寄せ場学会編 200405 れんが書房新社,229p.


このHP経由で購入すると寄付されます

■日本寄せ場学会編 200405 『寄せ場文献精読306選』,れんが書房新社,229p. ISBN-10: 4846202844 ISBN-13: 978-4846202842 \2600 [amazon][kinokuniya] p0206

■内容(「MARC」データベースより)

寄せ場・下層底辺に視座をすえ、日本近代史の再構築を志す人々への文献案内。
精読360冊、紹介1000点。

1 近代の寄せ場の成立と拡大(1890〜1925)(『小説 罪と罰』ドストエフスキイ・不知庵主人(内田魯庵)訳
『最暗黒の東京』松原岩五郎 ほか)
2 総動員体制と寄せ場(1926〜1945)(『浮浪者に関する調査』;『淫売婦』葉山嘉樹 ほか)
3 戦後復興から高度成長へ(1946〜1974)(『起ち上がる人々―壕舎生活者・浮浪者の実態調査』東京帝国大学社会科学研究会編;『都の社会救済に関する調査報告書』東京市政調査会・東京都総務部調査課 ほか)
4 オイルショックとスタグフレーションの下で(1975〜1991)(『在日朝鮮人関係資料集成』朴慶植編;『ルンペン学入門―放浪の詩』林光一 ほか)
5 動く現代―グローバリゼーション下の新しい下層(1992〜)(『地図のない街』風間一輝;『中浜哲詩文集』 ほか)

■引用

「石川島人足寄場に収容されていた無罪の無宿人を初め、幕藩体制の瓦解にともない、はじかれ放り出された多くの農民や町人は、明治国家体制下においても引きつづき隔離収容施設に閉じ込められたり、あるいは肉体重労働に従事するなど、その大部分が下層に組み込まれていった。後には没落士族層も、ほぼ同じ運命をたどった。1870代半ば以降本格的に実施されていった地租改正と、81年以降展開されたデフレ政策を軸とした松方財政とによって、離農者と貧窮者が急増、明治新体制下における近代的な賃金労働者群のもとを形づくった。
 こうして、封建体制下の沈殿層と近代資本主義体制における窮乏層とが一体となって、80年代には全国的に底辺下層社会(貧民層、細民層などと呼ばれた)が生成されていった。近代寄せ場の成立である。90年には初めての資本制恐慌が起こり、寄せ場は拡大し確立する。
 この時期の労働に特徴的なこととして、囚人労働の大量使用が挙げられる。三池炭鉱は20世紀初頭に至るまでもっぱら囚人労働によって莫大な収益を上げていたし、80年代末から90年代半ばにいたる北海道開発もまた、その多くを囚人労働に依っていた。そしてまた、産業革命を担った製糸紡績業もまた、寄宿舎に女工を閉じ込めつつ過酷な労働を強いたことで知られている。少し後になるが、製鉄、機械業における組夫など臨時労働者の存在もまた、重要不可欠であった。彼らの労働は、何らか自由を制限されながら労働を強制されるという意味での拘置労働に他ならなかった。
 近代日本国家なるものは、そうした下層の、時には差別、隔離、収容を含む不自由さと、厳しい重労働との上にそびえ立つ構造として出来上がっていたのであった。」(p.2)

「東京の都市形成史の観点で見逃せないのは、「新開町」の記述だ。
 江戸期の大名屋敷や藩邸跡が、明治期になって庶民の町に開発されてできたのが新開町で、本書では、三田の薩摩ヶ原、本所の津軽ヶ原、下谷の佐竹ヶ原、牛込の酒井屋敷などが挙げられている。「なかんずく茲に最も細民の便利を期して拓かれたるは佐竹ヶ原の新開町なり。幅員三丁にわたる地面はほぼ二千軒の汽車的小屋と仮屋的商店を列ねて新道縦横……」と書かれている。こうした新開町は、下谷万年町、四谷鮫ヶ橋、芝新網町といった貧民街とその性格を異にしており、東京のなかの新しい下層社会といっていい。
 東京の木賃宿は、1887年の宿屋営業取締規制によって、営業区域が制限され、都心から次第に本所や浅草などの周辺に移動していく。そうした木賃宿のエリアと新開町のエリアが重層的な下層社会を都市・東京の内部に形成していく動向を、ここに読みとることができる。その後、盛り場の周辺にできる新開地にまで、思いを及ばせてもいいだろう。」(p.5)

■紹介・言及

橋口 昌治 200908 「格差・貧困に関する本の紹介」, 立岩 真也編『税を直す――付:税率変更歳入試算+格差貧困文献解説』,青土社


UP:20090816 REV:
ホームレス/寄せ場/…  ◇格差・貧困に関する本の紹介  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME(http://www.arsvi.com)