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『露の身ながら――往復書簡いのちへの対話』

多田 富雄・柳沢 桂子 20040430 集英社,269p


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■多田 富雄・柳沢 桂子 20040430 『露の身ながら――往復書簡いのちへの対話』,集英社,269p. ISBN: 4087812650 1470 [amazon][kinokuniya] ※

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いのち・老い・病・介護・家族・愛・ひと・科学・戦争・遺伝子・芸術・宗教・平和…。
突然の脳梗塞で、声を失い右半身不随となった免疫学者と、原因不明の難病の末、安楽死を考えた遺伝学者。
二人の生命科学者が科学の枠を超えて語り合う。

■目次

病で歩けなくなり、完全に寝たきりで二年間過ごしました(柳沢桂子)
私の文章で勇気が与えられるなら、もう一度本気で書いてみよう(多田富雄)
車椅子に乗る時はおしゃれをして乗ります(柳沢桂子)
病気を持つ者と介護する者の問題について(多田富雄)
文化はDNAの直接的な支配からは自由です(柳沢桂子)
人類はDNAとも違う何ものかに導かれて文化を創り出している(多田富雄)
「赤い」と「リンゴ」は、脳の中で「赤いりんご」になる(柳沢桂子)
大切なのはロジック、明晰な観察能力、それに感動を表現する努力(多田富雄)
クローンの怖さ(柳沢桂子)
ゲノムは人権そのもの、クローン反対は生命科学者の責任(多田富雄)〔ほか〕

■著者紹介

多田富雄[タダトミオ]
1934年生まれ。東京大学名誉教授。免疫学者。千葉大学医学部卒。千葉大学教授、東京大学教授、東京理科大学生命科学研究所長を歴任。95年、国際免疫学会連合会長。抑制T細胞を発見。野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など内外の多数の賞を受賞。84年、文化功労者。能楽にも造詣が深く、脳死と心臓移植を題材にした「無明の井」、朝鮮人強制連行の悲劇「望恨歌」などの新作能の作者としても知られ、大倉流小鼓を打つ。2001年、脳梗塞で倒れ重度の障害をもつ。おもな著書に『免疫の意味論』(93年、青土社、大仏次郎賞)、『独酌余滴』(99年、朝日新聞社、日本エッセイストクラブ賞)など多数

柳沢桂子[ヤナギサワケイコ]
1938年生まれ。お茶の水女子大学名誉博士。遺伝学者。お茶の水女子大学理学部卒。ニューヨークのコロンビア大学大学院修了。慶応義塾大学医学部を経て、三菱化成生命科学研究所主任研究員。69年、原因不明の難病が発病し、現在も闘病生活が続く。生命科学者・サイエンスライターとして病床から啓蒙書を書き続けている。多くの出版賞を受賞。おもな著書に『卵が私になるまで』(93年、講談社出版文化賞科学出版賞)、『お母さんが話してくれた生命の歴史』(93年、産経児童出版文化賞)、『二重らせんの私』(95年、日本エッセイストクラブ賞)など多数

■引用

 「カフカの『変身』という小説は、一夜のうちに虫になってしまった男の話だが、私もそんなふうであった。到底現実のものとは思えなかった。」(多田[2004:254]、「あとがきにかえて」)

 「もう体は回復しない。神経細胞は再生しないのだから、回復を期待するのは無理だ。それ<0259<だけは、この二年の間に嫌というほど思い知った。ダンテの「地獄編」に「この門をくぐるものすべての希望を捨てよ」とあったが、この病気でも同じである。
 しかし私の中に、何か不思議な生き物が生まれつつあることに気づくようになった。はじめのうちは異物のように蠢いているだけだったが、だんだんそれが姿を現したように思う。
 まず、初めて自分の足で一歩歩いたとき、まるで鈍重な巨人のように、不器用に足を踏み出そうとして戸惑っているそいつに気づいた。[…]
 声が出たときもそうだった。[…]
 私はこの新しく生まれたものに賭けることにした。自分の体は回復しないが、この不器用な<0260<巨人はいま形のあるものになりつつある。彼の動きは鈍いし、寡黙だ。それに時々は裏切る。この間こけたときは、右腕に大きなあざを作った。そのたび私は彼をなじる。
 でも時には、私に希望を与えてくれる。[…]
 もとの私は回復不能だが、新しい生命が体のあちこちで生まれつつあるのを私は楽しんでいる。昔の私の半身の神経支配が死んで、新しい人の半身が生まれるのだと思えば、障害者も楽しい。そう思って生きよう。そうすると萎えた足が、必死に体重を支えようと頑張っているのが、いとおしいものに思えてくる。」([259-261])

■言及

◆立岩 真也 20100701 「……」,『現代思想』38-9(2010-7): 資料


UP:20100605 REV:20130116
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