HOME > BOOK >

『高度成長のなかの社会政策――日本における労働家族システムの誕生』

玉井 金五・久本 憲夫 編 20040215 ミネルヴァ書房,MINERVA現代経済学叢書,250p.


このHP経由で購入すると寄付されます

 このファイルの作成:村上潔(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程・2004入学)
 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/mk01.htm/立岩真也

■玉井 金五・久本 憲夫 編 20040215 『高度成長のなかの社会政策――日本における労働家族システムの誕生』,ミネルヴァ書房,MINERVA現代経済学叢書,250p. ISBN: 4623039765 4200 [amazon][kinokuniya] ※

■内容
(「MARC」データベースより)
少子高齢化と高失業が並存する現代にあって、社会政策の課題は広範に及んでいる。現代社会政策の原点を高度成長期において検討し、社会政策のなかでも家族を含む労働世界を中心に論じる。

■著者略歴
(「BOOK著者紹介情報」より)
玉井 金五
1950年三重県生まれ。1980年大阪市立大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、大阪市立大学大学院経済学研究科教授、経済学博士

久本 憲夫
1955年福岡県生まれ。1988年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。現在、京都大学大学院経済学研究科教授、経済学博士

■目次
第1章 労働・労使関係政策の展開―規制と誘導の体系
第2章 高齢者介護保障政策の萌芽とその発展―福祉と医療の間で
第3章 新規学卒者の労働市場―兵庫県の調査からみた労働移動
第4章 職業訓練政策の展開―養成訓練と技能検定の意味
第5章 日本的雇用制度におけるジェンダー・バイアス―ゲーム理論的アプローチ
第6章 家計構造からみた性別役割分業―経済の高度成長と日本型家族システムの確立
第7章 内職・家内労働と家族の変容―大阪府を事例として
第8章 被差別部落の実態と変容―大阪府和泉地区の事例を通して
第9章 外国人労働者問題対策の浮上と展開―「在日」の位置づけと初期の新規導入論議


第1章 労働・労使関係政策の展開―規制と誘導の体系

第2章 高齢者介護保障政策の萌芽とその発展―福祉と医療の間で

第3章 新規学卒者の労働市場―兵庫県の調査からみた労働移動

第4章 職業訓練政策の展開―養成訓練と技能検定の意味


5章 日本的雇用制度におけるジェンダー・バイアス―ゲーム理論的アプローチ
 川口 章 109-131

 1 課題
 3 日本的雇用制度における女性
 4 要約と含意
 「三つの理論モデルは、合計すると次の八つの制度を仮定していた。a)長い所定内労働時間、b)長い家事・育児時間、c)不規則な就業時間と就業場所、d)一人で家族が養える賃金水準、e)企業内人材育成制度、f)長期雇用制度、g)人事考課制度、h)内部昇進制度である。b)を除けば、これちはいずれも日本的雇用制度の特徴として挙げられるものであり、高度成長期に形成されたものである(ただし、労働時間については1960年から1975年にかけて短縮傾向にあった)。
 未婚時代の教育選択モデルでは、上記のa)からd)の要因によって家庭内において稼得労働と家事労働への専門化が効率的であれば、性的にバイアスをもった教育分野の選択が生じ、結果的に夫は稼得労働、妻は家事労働へと専門化することを明らかにした。また、企業による新卒採用モデルでは、a)からf)の仮定の下で、企業内人材育成を行う企業は、均衡において男性のみを採用することを示した。さらに、夫婦間分業モデルではf)からh)の仮定の下で、夫が稼得労働を、妻が家事労働を担い、企業が女性に不利な人事考課を行う均衡が存在することを明らかにした。
 このように、高度成長期の日本的雇用制度は、理念としては性中立的であっても、結果的に性的バイアスを伴う必然性をもっていたのである。石油ショック以降、日本企業は、日本的雇用制度の強みを生かして競争力を強化した。しかし、それは同時に、日本的雇用制度と不可分である性別分業をより強固なものにした。アメリカや北欧諸国が、性差別の撤廃に向けて大きく前進した1970年代から80年代にかけて、日本の性差別が改善に向かわなかった背景には、日(129)本的雇用制度の定着がある。」([128-129])



▼第6章 家計構造からみた性別役割分業――経済の高度成長と日本型家族システムの確立
 居神 浩 133-154

 「元号でいえば、大正から昭和初期にかけて都市部のある社会階層において性別役割分業の萌芽があらわれたのだが、それが戦時経済体制下でいったん否定され、戦後の混乱期からの回復の過程で徐々に再生し、高度経済成長期にかけて特定の社会階層を超えて全面的に開花したというのが本書で描こうとする一連の流れである。」([133])
 「高度成長期の時期とは、性別役割分業の経済的条件が確率する過程であったことがわかる。つまり、この時期にいわゆる「男の甲斐性」というものが、戦後初めて経済的な裏づけを持つに至ったと見ることができるのである。」([144])

◆1 高度成長前史――性別役割分業の起点としての1920年代

(1) 高度成長期下の専業主婦化とその起点
戦後の高度成長期に大きな流れとなった専業主婦化の動き:戦前にその源流
性別役割分業:1920年代が一つの画期/起点
 ・大正〜昭和初期:都市部のある社会階層において性別役割分業の萌芽
 ・戦時経済体制下:いったん否定
 ・戦後の混乱期〜回復の過程:徐々に再生
 ・高度成長期:特定の社会階層を超えて全面的に開花

(2) 性別役割分業の萌芽――1920年代の変化
○1 性別役割分業規範を担う社会階層の出現
「新中間層」(生産手段は所有しないが管理労働の末端を担う)の出現  性別役割分業を肯定
「工場労働者」が都市に定着しはじめる ……明治30年代
明治末〜大正初頭〜昭和初期:内職の選択が可能に→専業主婦化
千本暁子氏の分析のまとめ:「明治中後期から専業主婦の誕生期といわれる大正期、さらに昭和初期にかけて、新中間層とよばれた官吏や会社員、工場労働者、さらには都市下層に至るまでの広範な社会階層において、夫の収入の世帯支出充足率が1を超え、それと同時に妻の有業率が低下し、女性の専業主婦化が進行していった」(p.135)

○2 より上層への「キャッチアップ」
新中間層の近代的な生活構造の原型:1922年前後に確立、高度経済成長の時期まで維持
工場労働者層は、やや遅れてキャッチアップ、1926〜27年前後に確立
……戦後高度成長期にすべての社会階層を巻きこんで進んでいった中流社会化の小さな雛型 (――寺出氏の分析)
「各々の社会階層がより上層の社会階層の生活水準の享受を志向してキャッチアップしていった結果、家計の支出構造の平準化が進んでいった過程と、世帯主である夫の収入に依存して一家の生活費が賄えるようになり妻の専業主婦化が進んでいった過程とが同時進行していった」(p.136)
1920年代に生じた変化:都市部というごく限られた地域での現象=「萌芽」の段階 「それが日本全体をおおって「開花」するには、戦後になってようやく進展する農村から都市への人口の大量移動、都市郊外での職住分離的な生活様式の確立、産業構造の変化による労働力の雇用労働力化、被用者世帯比率の増大などの社会的・経済的条件の大規模な変化を待たねばならなかったのである」(p.137)

◆2 高度成長期――性別役割分業の全面的開花期

(1) 数値の確認
農村から都市への大量の人口流入 市部人口の割合が急激に増加
サラリーマン化が進展 妻の専業主婦化
サラリーマン世帯の専業主婦の数:517万人(55年)→797万人(65年)→903万人(70年)

(2) 若干の留保
○1 高度成長以降の変化
Mの形は上方にシフト
有配偶人口に占めるサラリーマン世帯の専業主婦の比率・絶対数:1980年をピークに減少
女性労働力率は、ほぼ50%前後で安定的に推移

○2 未熟なまま変容した「稼ぎ手システム」
今田幸子氏:「日本ではアメリカやイギリスと比べて性別役割分業は不完全な形でしか定着せず、未熟なまま変容を開始した」=「日本では米英のように稼ぎ手システムが一般化することなく、高度成長期に都市部などで部分的に成立しかけたところで、既婚女性の雇用労働への参入が始まり、このシステムのもつ問題性(「専業主婦の疎外感や空虚感といった自らの存在自体に対する根元的な悩み」)が徹底して問われることなく、変貌してしまった」(p.139)

◆3 性別役割分業の経済的条件――社会階層の視点から

(1) 分析の視座
性別役割分業の確立度を測る指標:a.役割行動 b.役割意識 c.制約条件

(2) 分析の方法
○1 使用するデータ
総務庁統計局『家計調査』 1963〜1975年

○2 性別役割分業の経済的条件の指標
[夫の収入÷実支出]≧1
「世帯主収入家計充足率」(「男の甲斐性度」)

(3) 事実発見
○1 歴史的推移
1950年代:0.8台 1960年代:0.9台
1967年に1の水準を超える→上昇→1974年がピーク(1.084)
「ここから高度経済成長の時期とは、性別役割分業の経済的条件が確立する過程でもあったことがわかる。つまり、この時期に「男の甲斐性」というものが、戦後初めて経済的な裏付けを持つに至ったとみることができるのである」(p.144)
「高度成長期に確立した性別役割分業の経済的条件は、現在においても安定的に成立しているとひとまずはいえるであろう」(p.145)

○2 世帯主の勤め先産業による相違
世帯主収入の産業間格差

○3 世帯主の勤め先企業規模による相違
100人以上の企業規模であるか否かに本質的な差異
「300人以上、500人以上、1000人以上の企業規模では、高度成長の早い時期に1を上回った後、現在に至るまでかなり安定的に1以上の水準を維持している」(p.146)
「100人以上の企業規模であるか否かが、性別役割分業の経済的条件が成立する分岐点として、高度成長以降、固定化している構造であるといえよう」(p.147)

○4 世帯主の職業による相違
職員/常用労務者
「高度成長期に限定して、労職間の世帯主収入格差をみると、およそ1.4倍程度の格差があることがわかる。これらの点から、性別役割分業の経済的条件は、職員世帯、すなわちホワイトカラー層を中心に成立していたとみることができよう」(p.148)

○5 地域間格差
「まず高度成長期とは、様々な職業的属性による格差を伴いながら、社会各階層間の格差が平準化する形で、性別役割の経済的条件が広範に成立していった過程であったといえるだろう。しかし、高度成長以降までトレンドを引き延ばしてみると、オイルショックや円高不況などの景気循環のなかで、高度成長によっていったん潜在化した格差が顕在化していく状況がみてとれた」(p.149)

都市型/地方型

(4) 社会格差の潜在化と顕在化
「戦後における高度成長は、戦前にすでに部分的に進行しつつあった性別役割分業の経済的条件をより広範なかたちで展開させる契機となったが、その過程は夫の職業的属性による差異や地域的格差を伴ったものであった」(p.151)
性別役割分業の経済的条件:@大都市地域、金融・保険業などの大企業に勤務するホワイトカラー層を中心に成立 + 「高度成長によって一度は潜在化した様々な格差を再び顕在化させる不安定性を自らのうちに内在している」(p.151)

◆4 性別役割分業の不安定化要因――「規範的支出」の増大
「一定の家計支出構造の確立」=消費における「規範的性格」が強まっている
「支出構造の「規範性」の増大は収入構造における「夫のみが、もしくは夫が主たる稼ぎ手であるべき」というまた別の「規範」と互いに矛盾しあう関係となりうる」(p.152)
「つまり、理想の家族を実現しようと努力すればするほど、一家の稼ぎ手としての自らの役割を充足しきれない男性が増大するという状況が、ある一定の社会階層において必然化するおそれがあるということである」(p.152)
◇仮説1:「家計支出における規範的部分は、夫の職業的属性の如何にかかわらず、全ての家計にほぼ均等に作用している」
◇仮説2:「家計支出の規範的部分をゆとりをもって賄えるのは大企業ホワイトカラーなどのごく限られた層である」



第7章 内職・家内労働と家族の変容―大阪府を事例として

第8章 被差別部落の実態と変容―大阪府和泉地区の事例を通して

第9章 外国人労働者問題対策の浮上と展開―「在日」の位置づけと初期の新規導入論議


UP:20050926 REV:1013
女性の労働・家事労働・性別分業  ◇労働  ◇BOOK
TOP HOME(http://www.arsvi.com)