香山リカ『就職がこわい』
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『就職がこわい』

香山 リカ 20040224 講談社,218p.


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香山 リカ 20040224 『就職がこわい』 講談社,218p. ISBN: 4062122693 ISBN-13: 9784062122696 1365 [amazon] ※ m.

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内容(「BOOK」データベースより)
なぜ若者は就職しようとしないのか!?職に希望を持たない若者。就職する意志もない若者。働くことをあきらめている若者の「就職不安」の本当の原因と は!?仕事に揺れる若者の「生き方と心」の悩みを分析する。

内容(「MARC」データベースより)
職に希望を持たない若者。就職する意志もない若者。働くことをあきらめている若者の「就職不安」の本当の原因とは!?
仕事に揺れる若者の「生き方と心」の悩みを分析する。

■目次

第1章 就職と不安―結局、自分なんか誰も必要としてくれないんです
無業という進路
就職をあきらめるまでの四段階
リタイア型の具体例
若者が抱く「不安」の定義
会社という戦場
自分がどうなるかわからない
インターンシップで増す不安
ハッキリとした不安、曖昧な不安
でも、何をしたいかわからない
「就職試験は恐怖」
離職の理由も"人間関係"
就職活動がトラウマになる
友だちづき合いは"引き出し化"
回避される職業決定
自己効力感という自信
「いつか」を待ち続ける若者たち
疲れやすい学生が増えている
あくまで自分に合ったペースで?
大事なのは「自分らしい生活か」

第2章 『絶対内定』にすがる若者―あれ、あの気分の高まりは何だったのだろう?
学生をやる気にさせるためには
職業探しは自分探し
夢探し=就職
名指しされてわきたつ「高揚感」
自己催眠状態の必要性
熱狂の嵐が過ぎ去ったあとには
受け入れたら勝ち組なのか

第3章 就職を遠ざける五つの病理―お金のためには、働きたくない
1 就職とかい離
  バブル崩壊と無業者と解離性障害
  サバイバル術、適応としてのかい離
2 就職と短絡
  理解されない「まわり道」
3 就職と自己愛
  「私は特別」なはずなのに・・・
4 就職と万能
5 就職と"自分探し"
  晩婚化問題と就職の共通点
  自分探しを勧める危険性

第4章 「女であること」と就職未満―女の子っぽい仕事に就いて、早く結婚をしたい
ジェンダーフリーの世の中は幸せか
女なんだから女らしいのはあたりまえ
女らしさが進路選択を狭めるまで

第5章 就職問題の背景―この仕事は、私でなくても誰でもできる
決められない、考えてない、仕方ない
悪いのはどっちだ
「私だけへのメッセージ」を求めて
"その他大勢"感――少子化時代なのに
どこかに「私だけにしかできないこと」が?――オンリーワン幻想

第6章 打つべき手があるとすれば――あなたは人生のエキストラでは絶対にない
仕事はすべてを解決してくれない
自立を阻む親のエゴ
ひとりひとりに届くメッセージとは

おわりに

■書評

読売新聞 2004.04.18

 2003年度の大学卒業者の就職率は55%、ほぼ2人に1人だという。就職を怖れる若者の心理について、精神科医兼大学の就職委員でもある著者が考えて いる。
 本書には「『いつか』を待ち続ける若者たち」「自分探しを勧める危険性」などの的確な指摘が充ちている。だが、それらは例えば「今の若者は苦労してない から甘えてて根性がないんだ」という単純でおやじな意見に対する反証にはなり得ない。そのすれ違いと無力感に耐えながら、著者は安易な結論づけに向かうこ となく丁寧な考察を積み上げてゆく。
 「自分探し」を至上の価値としてインプットされた若者が、逆風の現代に「就職がこわい」のは当然とも云える。本書の試みは、就職に対する学生の心理分析 であると同時に、「自分探し」という異様な価値観を生み出した、「おやじ」たちの「苦労」の果てとしての「今」についての考察にもなっている。

評者・穂村弘(歌人)

■引用、要約

[第4章 「女であること」と就職未満より]
 男女雇用機会均等法の改正により、就職にあたってのジェンダーによる差別的扱いは一見、減ってきているが、逆に、外からは見えにくい形で存在している。 しかし筆者は、「しかし、女子学生たちを見ていると、完全なジェンダーフリーの社会が実現されることがはたしてこの若者たちすべての幸福につながるのだろ うか、と疑問を感じてしまうこともある」と言う。「自分」や「私」を選ぶ学生が多い昨今、特に女子学生がこれらのテーマを選んだとき、何の屈託もなくタイ トルやコンセプトに「女の子らしさ」という単語が使われていることが少なくないからだ。「「男は仕事、女は家庭」といったジェンダーによる役割の決めつけ がいまよりも強固だった時代のほうが、女性のなかで「自由になりたい」という気分が盛り上がり、強制が少なくなったいまは、逆に「まぁ、いいか」とジェン ダーをすんなり受け入れてしまう女性が増えたのかもしれない」と分析するが、「脳やDNAに男女差がある」とする動物行動生理学者の岩月謙司の理論も否定 できないのかもしれない、と筆者は考える。
 また、女性の職業選択やキャリア形成に母親の意向が大きく左右する、とも述べる。母親の嫉妬(小倉千加子の『セクシュアリティの心理学』での指摘を引用 −娘が高学歴で就職しキャリアを積むと、同じジェンダーなのに何故娘は父−息子ラインに上がってしまうのか、と母親が嫉妬する。「オヤジ化した娘への憎 悪」と呼ぶ)や、「母親の自己実現の肩代わり」によって、女子学生の職業選択が限定されてしまうのだ。

[第5章 就職問題の背景より]
 若者の就職がむずかしくなっている最大の理由は雇用の悪化だが、若者側の変化も就職離れの一端を担っている、と多くの研究が明らかにしている。『新卒無 業』と呼ばれるが、決められない、何をやりたいかわからない、考えられない学生が増えている。「考えられない」ことは悪いとも思わず、「考えられないから 仕方がない」と何の疑問もなく受け入れる学生たちだが、筆者は、この現状は屈託のないナショナリズムにつながっている、と見る。何をしたいのかもよくわか らないので、最後のよりどころとして「日本人」「日本文化」にすがろうとしている、というのだ。また、階層やナショナリティといった「自分の意志とは無関 係なところで決まっていること」をすんなりと受け入れる若者。「なぜ考えない、疑問に思わない、怒らない、要求しない」と若者にハッパかける本が刊行され るが、筆者はみな四〇代以上の大人である。
 また、個別に届く求人なら見るが、不特定多数のための情報が貼られている掲示板は見ない若者。筆者は、「競争相手がいれば「自分なんかが選ばれるわけは ない」という極度の自身のなさ、自己評価の低さと、そのもう一方にある「不特定多数を大正にした求人など、自分には関係にない」という特権意識――生活に はとっけに式を持てるときを待つ意識――のふたつということにまとめられる」と分析する。このふたつがまじりあって、大人には理解しがたい矛盾した態度 ――「やる気があるのか、ないのかわからない」――を作りだしている、という。
 少子化時代とあって、親たちは「ま、いいじゃないか」と子どもの独立を引き留めていることも一因である。「「経済的に苦しいのに、無理して独立すること はないじゃないか」と親は言うが、その背景にあるのは「子どもがいてくれたほうが楽しいから」といったまさに、"親益"である」。このように過剰に愛され ながらも子は「私である必要はない」と感じ、また、社会の中で「これが私」という自己評価を確立するチャンスをなかなか得られないため、「自分なんて」と いう疎外感を覚えるという。
 若者たちは「ナンバーワンよりオンリーワン」を望み、ある日突然どこかから「これはキミにしかできない」という"辞令"が来るのではないか、と思ってい る節さえある、と筆者は言う。その象徴的なモデルがアニメの「新世紀エヴァンゲリオン」であり、「自分がやらなければ誰がやる」という使命感を持たせる悪 徳ビジネスや新興宗教も後をたたない。「「これはあなたにしかできないお仕事です!」と誘われて悪徳ビジネスに身を投じ、いつの日か軍隊にも志願していく のだろうか」と筆者は懸念を示す。

[ 第6章 打つべき手があるとすれば]
 「子どものためを思って、好きにさせている」というメッセージのうらには、「この年になって子どもと離れるのは寂しいから、もうこのままでいいか」と考 えるの親のエゴがあり、それが子の自立を阻んでいる、と筆者は考える。「この子どもは自分なしでは生きてはいけない」と思うことは親にとっての生きがいで はあるが、親にべったりで暮らした三〇代、四〇代の子どもが、親が世を去ってから残された生活は「孤独地獄」である。就職率が急激に低下している昨今、こ れから二〇年後には「仕事も自分の家族もない」という"遺児"たちが、一気に家庭から社会に排出される可能性がある、と警告する。
 「必要なのは、仕事や結婚などに頼らなくても、「自分は自分なんだ」と自己肯定感を持ち、「私はほかの誰かとは替えがきかないんだ」と自分のかけがえの なさを内的に実感できるようにするにはどうすればいいのか、それをかんがえることに尽きるのではないだろうか。」と筆者は語る。


*作成:山本奈美
UP:20080618 REV:20081204,20090811
香山 リカ  ◇「若年者雇用問題」文献表  ◇精神障害/精神医療  ◇精神障害/精神障害者・文献  ◇身体×世界:関連書籍 2000-2004  ◇BOOK
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