『変光星――自閉の少女に見えていた世界』
森口 奈緒美 20040110 花風社,334p.
■森口 奈緒美 20040110 『変光星――自閉の少女に見えていた世界』,花風社,334p. ISBN-10: 4907725590 ISBN-13: 978-4907725594 1890 [amazon]/[kinokuniya] ※ a07.
*1996年に刊行された本の再刊。
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内容(「MARC」データベースより)
極度に内向的な自閉症の女性が、独特な精神的世界と学校時代にいじめられた日々を綴った衝撃のメッセージ。社会というものの中で「異邦人」と見なされてしまった著者の壮絶な葛藤。96年飛鳥新社刊の復刊。
■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
森口 奈緒美
1963年福岡市生まれ。埼玉県越谷市に在住。父の勤務の関係で日本各地を転居した。埼玉県立春日部東高校を経て現・大宮中央高校を卒業後、日本デザイン専門学校に入学するも中退、10年間の引きこもり(ホーム・ステイ)の間、自閉症やいじめ・学校問題について、当事者の立場からの発言を試み続ける。本著『変光星』は刊行当時、新聞やラジオなどで取り上げられて大きな話題となる。「モな~Q(モナーク)」として音楽活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
■目次
1 幼年時代
幼児期
幼稚園
2 小学校低学年時代
小学校入学
大湊
ほか
3 小学校中・高学年時代
目黒
長崎
ほか
4 中学校時代
中学一年生
中学二年生
ほか
■引用
◆内山 登紀夫(よこはま発達クリニック) 「変光星の衝撃」,森口[2004:325-328]
「一九九五年には自閉症の療育プログラムで有名なノースカロライナ大TEACCH部に留学中だった。そのとき小さな書店で偶然みつけたドナ・ウィリアムズの[…]『自閉症だったわたしへ』[…]を読んだ。読みにくい文章だったが、読んだときの第一印象は「この作者は本当に自閉症なのだろうか」という疑問だった。TEACCH部の専門家の何かにその疑問をぶつけてみたが、当然ながら「診察してないのでわからない」と慎重な答えが返ってくるなか、言葉の端々に「自閉症ではない」とニュアンスが伝わってくることが多かった。それは私の印象とも同じだったし、ノースカロライナの自閉症の親の人たちはもっと明確に否定的な人が多かったように思う。自分自身もドナは自閉症ではないのではないかと思いながら帰国した。」(内山[2004:325])
帰国して『変光星』を読む。
「一読したあと、文章を振り返れば『変光星』の作者が自閉症であることは疑いようがなかった。森口さんが記す過去のエピソードも、その記述のスタイル(文体)も、自閉症の特性に満ちていた。変光星に触発されてドナの手記も読み返すと、今度はドナも自閉症ではないかと思い始めた。その後、ドナが出演したテレビ番組をみたり、ドナ自身に直接会うことで、ドナは自閉症であると考えを変えることになった。
[…]最近一〇年ほどで、自閉症の臨床には大きな変化が生じている。一九九〇年代の前半は自閉症といえば、知的障害を伴い、言葉によるコミュニケーションが成立しづらい、カナータイ<0326<プの自閉症のことであった。知的障害のない自閉症の人が受診すると医局で話題になるくらい珍しい存在だった。時に知能指数の高い自閉症の人に出会うことはあったが、大抵は映画「レインマン」のタイプの人で、知能指数は高くても文章表現は苦手な人が大半だった。つまりドナや森口さんのように文章で表現するタイプの人は例外的であった。しかし二一世紀の現在では高機能自閉症、あるいはアスペルガー症候群と呼ばれるタイプの一見「正常」にみえる自閉症の人に出会うことは決して珍しいことではない。
[…]最近の一〇年間で自閉症の概念は広がりつつあり、従来ならクリニックを受診ししない人たち、たとえ受診しても「学習障害」「注意欠陥多動性障害」「正常」などとされいた子どもたちや成人の人々が自閉症やアスペルガー症候群と診断されることが増えており、自閉症としての援助が必要があることもわかってきた。「高機能ブーム」と呼ぶ人もいるぐらいである。現在の高機能ブームのきっかけになったのは一九八一年に出版されたイギリスの児童精神科医ローナ・ウィングのアスペルガー症候群の[ママ]関する論文であり、その後高機能自閉症やアスペルガー症候群の論文が急速に増加することになった。このような専門家の関心の高まりにはドナや森口さんの手記も影響を与えているように思う。その後、外国では多くの当事者による自伝や手記が出版され、日本においても自己表現する当事者が増えつつある。このように当事者による発言は、多くの示唆を家族や専門家に与えている。」(森口[2004:325-327])
◆杉山 登志郎(あいち小児保健医療総合センター)「森口奈緒美と『変光星』」,森口[2004:329-333]
「八〇年代半ばにはテンプル・グランディンの自伝が登場し、さらにドナ・ウィリアムズの「Nobody Nowhere(自閉症だったわたしへ)」によって、旧来の自閉症に対する考え方、また研究のあり方は完全に打ち砕かれ、自閉症研究は新しい時代に入ることになった。
ドナ・ウィリアムズの自伝が登場した最初、現在は高機能自閉症の臨床家として高名なある自閉症研究者が、「彼女は自閉症ではないのではないか」と、ある論文で述べていたのを思い出す。これは今日から見ると不思議なほど、当時はいわゆる専門家ですら、自閉症を狭く、固定的に捉えていた一つの証拠であろう。このドナ・ウィリアムズの自伝はそれまでの手記や回想とは比較にならないほど鮮やかに、自閉症の体験世界をわれわれに語ってくれた。また同時に、この本は世界の様々な地域でひっそりと孤独な世界を生きてきた自閉症者に、自分と同じ仲間が存在することを教える契機となった。そしてこの自伝によって、自分自身について目覚めることになったものはわが国にも存在した。その最初の一人が、森口奈緒美である。<0330<
森口による『変光星』が登場したことによって、わが国の古い自閉症への考えかた、療育、教育は、根本的な大きな変革を迫られることになった。」(杉山[2004:330-331])
■言及
◆立岩 真也 2008- 「身体の現代」,『みすず』2008-7(562)より連載 資料,
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◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon]/[kinokuniya] ※