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last update: 20190919

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■Sunstein, Cass R. & Nussbaum, Martha Craven eds. 2004 Animal Rights: Current Debates and New Directions, Oxford University Press=安部圭介・山本龍彦・大林啓吾 監訳,『動物の権利』,尚学社,446p. ISBN-10:4860310950 ISBN-13:978-4860310950 [amazon][kinokuniya]
 *キャス・R・サンスティン, マーサ・C・ヌスバウム

 人間と人間以外の動物との関係における現在の問題を,動物の権利論を軸として多角的に検討するべく編まれた論文集を,翻訳。 原著者は法学(法哲学,憲法,財産法,動物法),哲学,倫理学を中心に, 女性学さらには神経科学の専門家や動物保護運動に関わる弁護士などで,いずれもそれぞれの分野で長年活躍を続けている人物である。 動物に対する法的保護のあり方はことあるごとに日本でも取り沙汰されてきたが,アメリカでの議論においてここ30年ホットイシューであり続けた 動物の権利論も少しずつ広がりを見せている。人間の作った法で保護されただけの「動物の福祉」を超えて, さらに人権のようなものが動物にあるとすれば,いったいどういったもので,何が含まれているのか? また,人間に所有される「財産」という今の地位が引き起こす様々な問題とは,そして,それを克服できる新たな地位を作ることは可能なのか? 権利を持つ動物がいるとして,どの動物に権利が認められ,認められない動物との境界線はどこに引かれるのか? ――第I部では議論の現状を考察し,第II部では法や政策の実務と理論の新たな方向性を示し,議論を進める論考が収録されている。 翻訳にあたっては想定対象読者を専門家のみならず一般読者にまで拡げ可能な限り平易な文章となるようこころがけ,各章の冒頭には訳者の手により,その章のポイントと日本での議論との橋渡しとなる解説を付している

出版社からのコメント
感情に流されずに,人間と動物の関係について,本気の議論をしてみませんか? 動物の権利論の行方を占う名作,日本語版登場。

著者について
エリザベス・アンダーソン(ELIZABETH ANDERSON)
ミシガン大学アナーバー校哲学および女性学の教授。主要著書にValue in Ethics and Economics(1995)。価値理論,民主政論,法哲学,フェミニスト的認識論,科学哲学などに関する著作多数。

コーラ・ダイアモンド(CORA DIAMOND)
ヴァージニア大学ケナン記念哲学講座教授および大学名誉教授。主要著書にThe Realistic Spirit: Wittgenstein, Philosophyand the Mind(1991),また,編書としてWittgenstein's Lectures on the Philosophy of Mathematics, Cambridge, 1939(1976)がある。近刊として,論文集Ethics: hifting Perspectives。

リチャード・A・エプスタイン(RICHARD A. EPSTEIN)
シカゴ大学法科大学院のジェイムズ・パーカー・ホール記念講座教授,フーヴァー研究所ピーター&カーステン・ベッドフォード記念上席研究員。2010 年よりニューヨーク大学法科大学院教授。

デヴィッド・ファーヴル(DAVID FAVRE)
ミシガン州立大学法科大学院教授。動物の権利保護基金の理事として20 年以上動物の法的問題に携わる。1977 年以来財産法,1983 年以来野生生物法について教えている。

ゲイリー・L・フランシオン(GARY L. FRANCIONE)
ニュージャージー州立ラトガーズ大学ニューアーク校法科大学院教授およびニコラス・デベルヴィル・カッツェンバック記念法哲学研究員。著作に,Introduction to Animal Rights: Your Child or the Dog?(2000),Rain Without Thunder: The Ideology of the Animal Rights Movement(1996),Animals, Property, and the Law(1995)。動物の権利に関する法を20年以上にわたり教え,アンナ・E・チャールトンとともに,ラトガーズ動物の権利クリニックの共同所長を務めた。

ギゼラ・カプラン(GISELA KAPLAN)
ニューイングランド大学(オーストラリア)神経科学・動物行動学研究所教授。鳥類,霊長類,その他の生物の行動の研究を行っている。動物に関する研究の倫理に強い関心を持ち,大学動物倫理委員会の委員長を務め,関連するいくつかの諮問機関に加わった経験を持つ。研究室では,大学院生らとともに動物の福祉の研究にも当たっている。

キャサリン・A・マッキノン(CATHARINE A. MacKINNON)
ミシガン大学法科大学院エリザベス・A・ロング記念講座教授およびシカゴ大学法科大学院長期客員研究員。ミネソタの農場に育ち,合衆国内外で女性に平等な権利を実現するために,教育者・著述家・法律家・運動家として活動。

マーサ・C・ヌスバウム(MARTHA C. NUSSBAUM)
シカゴ大学エルンスト・フロイント記念法と倫理学講座教授。哲学科,法科大学院,神学大学院で教鞭をとる。最新著作にHiding from Humanity: Disgust, Shame, and the Law(『感情と法―現代アメリカ社会の政治的リベラリズム』)(2004)。

リチャード・A・ポズナー(RICHARD A. POSNER)
第7巡回区連邦控訴裁判所裁判官,シカゴ大学法科大学院特任教授。The Problematics of Moral and Legal Theory(1999)をはじめとして,法学・経済学・哲学の諸問題が交錯する分野に関する数多くの著作がある。

ジェイムズ・レイチェルズ(JAMES RACHELS)
アラバマ大学バーミンガム校で哲学の教授の地位にあった。著作には,Created from Animals: The Moral Implications of Darwinism(1991),Can Ethics Provide Answers?(1997),The Elements of Moral Philosophy(『現実をみつめる道徳哲学』)(4th ed., 2002)がある。2003 年逝去。

レスリー・J・ロジャース(LESLEY J. ROGERS)
ニューイングランド大学(オーストラリア)神経科学・動物行動学研究所教授。鳥類,霊長類,その他の生物の行動の研究を行っている。動物に関する研究の倫理に強い関心を持ち,大学動物倫理委員会の委員長を務め,関連するいくつかの諮問機関に加わった経験を持つ。研究室では,大学院生らとともに動物の福祉の研究にも当たっている。

ピーター・シンガー(PETER SINGER)
プリンストン大学アイラ・ディキャンプ記念生命倫理講座教授。著作としてAnimal Liberation (『動物の解放』),Practical Ethics(『実践の倫理〔新版〕』),Rethinking Life and Death(『生と死の倫理―伝統的倫理の崩壊』),One World(『グローバリゼーションの倫理学』)がある。

マリアン・サリヴァン(MARIANN SULLIVAN)
ニューヨーク州高位裁判所控訴部第1部の次席調査官。ニューヨーク市弁護士会の動物法委員会元委員長,ニューヨーク州弁護士会の動物法委員会委員。

キャス・R・サンスティン(CASS R. SUNSTEIN)
2008 年よりハーヴァード大学法科大学院教授。Designing Democracy(2001)を含め,数多くの著作をもつ。

スティーヴン・M・ワイズ(STEVEN M. WISE)
基本権の拡張を目指す会代表。ハーヴァード大学,ヴァモント大学,ジョン・マーシャル法科大学院,タフツ大学大学院獣医学研究科動物と公共政策専攻修士課程などで動物法の授業を担当した経験がある。著作に,Drawing the Line: Science and the Case for Animal Rights(2002),Rattling the Cage: Toward Legal Rights for Animals(2000)。

デヴィッド・J・ウォルフソン(DAVID J. WOLFSON)
ニューヨーク市の企業弁護士,ハーヴァード大学法科大学院2004年春学期の動物法の授業担当者。また,イェール大学にて動物法文献講読の共同担当,イェシーヴァ大学ベンジャミン・N・カードウゾウ法科大学院の非常勤講師の経験もある。動物法について,多数の論文を発表。ニューヨーク州弁護士会およびニューヨーク市弁護士会において,動物法委員会委員を務める。

安部圭介
成蹊大学法学部教授(英米法)
山本龍彦
慶應義塾大学大学院法務研究科准教授(憲法)
大林啓吾
千葉大学大学院専門法務研究科准教授(憲法)

上本昌昭
成蹊大学法学部非常勤講師(法哲学,移行期における正義論)
奥田純一郎
上智大学法学部教授(法哲学,生命倫理と法)
小山田朋子
法政大学法学部准教授(英米法)
葛西まゆこ
東北学院大学法学部准教授(憲法)
近藤紀子
総合研究大学院大学先導科学研究科学術振興会特別研究員(動物行動学)
土屋裕子
立教大学法学部助教(医事法,生命倫理と法)
萬澤陽子
公益財団法人日本証券経済研究所主任研究員(英米法,商事法)
横大道聡
鹿児島大学教育学部准教授(憲法学)

◆Anderson, Eizabeth 2004 "Animal Rights and the Values of Nonhuman Life"=2013 葛西まゆこ訳,「動物の権利と人間以外の生命の価値」,Sunstein & Nussbaum eds.2004:277-98=2013:366-395

 「限界事例の主張
 動物の権利/動物の福祉の観点にとっての中心的な議論は、人間としての能力をはっきりと欠いている人間と動物との間の類似性を引き出している。これは限界事例の主張(the argument from marginal case)」、またはAMCとして知られる(Dombrowski 1997)。たいていの人間は、動物が有していない、自律的な行動(autonomous action)のような、道徳的に関連する能力を有している。しかし、私たちは、人間に特徴的な能力を有していることを、権利を持つこと、または平等な配慮に値することの前提条件としてはみなしていない。というのも、私たちは、そのような、人間に特徴的な能力を持っていない、または発達あるいは回復することのできない、幼児、極度の知的障害者や認知症患者も、権利を有し、△370 平等な配慮に値すると認識しているからである。そのような人々は食用のために殺されない権利、人間の都合のために刑務所に入れられない権利、故意に障害を負わせる実験を受けさせられない権利、娯楽または利潤のために捕まえられ、または拷問を受けない権利を有している。これらの権利は、人間以外の生物もまた有している、意識や意思といったような、道徳的に関連する能力を有しているということに根拠がある。それゆえに、道徳ということで一貫させるのであれば、私たちは、同等の能力を持っすべての生物に対して、同じ権利や考慮を拡張して与えなければならないということになる。ドンブロウスキー(Dombrowski 1997,31)はトム・リーガンの見解を評して、「もし、権利を与えるに値する能力を特定の限界的な人間が有しているといっことが、特定の動物に対してもあてはまるのであれば、それらの動物もまたその適切な権利をもつに値する」と主張している。」

 「種への帰属という道徳的重要性
 動物の権利を主張する者は、ある動物がどの種に属しているかということが、その能力に違いをもたらすと認識している。イモリは痛みを感じることができるが、イソギンチャクは感じることができない。このポイントは、個別の動物の道徳的な資格(moral entitlements)にとって真に問題となるのは、その動物個人の能力であり、その属している種のメンバーの通常の能力ではないということであり、その属している種のメンバーの通常の能力ではないということである。人種差別主義者との類似がこれを分かりやすくしてくれる。というのも、人種差別主義の文脈において、私たちは、ある個人がどのように処遇きれるかとを決定する代用として、標準的な集団の能力を使用することの不正(injustice)を認識しているからである。この個人主義的な枠組みにおいて、個人は、一般に価値があるとされる集団のメンバーであるということとは独立して、個人は自らの真価によって資格(entitlements)を得なければならない。それゆえに、幼児、知的障害者、認知症患者は、通常の人間には合理的な能力(rational capacities)があるという説明によっては、権利を主張することができない。もし、彼らが権利を有するのならば、それは、人間以外の動物も平等に所有している、彼らが本来有している能力ゆえでなければならない。
 この思考方法の何が問題なのかを見るために、次のケースを考えてみよう。チンパンジーとオウムは、少なくとも幼児の言語レベルまでは、言語を教わることができるといういくつかの証拠がある。これが本当だと仮定しよう。その言語発達の可能性と同じ可能が標準的な幼児のレベルに限定されている、すなわちチンパンジーとオウムが有する言語発達の可能性しか有していない人間は幾人か存在する。どの人間も、そのような限定的な言語能力しかなかったとしても、言語△272 を教わるという道徳的権利を有するというのは明らかである。もしAMCが道徳的権利を個人の能力から引き出すという点において正しいのならば、チンパンーやオウムもまた言語を教わるという道徳的権利を有している。
 その結論は滑稽である。しかし、AMCがこのケースをきちんと理解するために単に細かな修正しか要求しないのであれば、このような結論を主張することは可能である。道徳的権利は、個人の利益を守ることを目的としている。入間、オウム、チンパンジーの言語能力が同じだったとしても、言語を習得するということに対する彼らの利益は同じものではない。チンパンジーやオウムにとっては、言語発達の可能性が限定されていることは不利益にはならない。なぜなら、チンジーやオウムの典型的な種の一生は、教養のある言語コミュニケーションを必要としていないからである。人間という種の人生は言語を非常に必要とするために、人間がチンパンジーやオウムと同様に言語能力が限定されることは、深刻な不利益をもたらす。それゆえに、すべての人間は、言語を習得する対して重大な利益を有している。すべての人間の言語を教わるという権利を根拠づけるのに、この利益は確かに十分に強いのである。」(Anderson[2004=2013:271-272])

■書評・紹介・言及

◆立岩 真也 2022/12/20 『人命の特別を言わず/言う』,筑摩書房
◆立岩 真也 2022/12/25- 『人命の特別を言わず/言う 補註』Kyoto Books

 第2章★20 「2019年に有馬斉の『死ぬ権利はあるか――安楽死、尊厳死、自殺幇助の是非と命の価値』(有馬[2019])が刊行された。私が書いたものを含め、書かれたものの多くが(おもに英語圏の)生命倫理学の論を広範に詳細に検討したうえで論ずるといったものでなかったのに対して、有馬は、英語圏的生命倫理学の大きなブブが死の多くを許容し肯定すものであるなかで、その様々な議論を紹介し、慎重に検討し、その帰結として慎重な主張をしている。そういう本はなかっただろうと思う。それは検討するに値すると思った人たちが当然いた。そして有馬は、私が関係する生存学研究センター(いまは生存学研究所)に関係した人でもあり、その企画として、2019年9月22日にこの本の合評会があった。由井秀樹と堀田義太郎がコメントし、有馬が応えた。検索して、私もそれに出席したことを知ったのだが、そのことを、またそこで何を話したのかも、△136まったく遺憾ながら、記憶にない。立場上ということもあって、催しの全体の時間を調整する役を担うという役回りになることが、もう長く、多い。1時間話すつもりだったのだが、他の人たちが熱心にたくさん話したので、全体を決まった時間内に納めるために、私の話は5分とか10分とかになることがよくある。その日もそうだったのかもしれない。
 […]
 それで私もAnderson[2004=2013]を読んでみたがとくに新しいことを教わった気はしなかった。インコに言語習得能力があり、ならば同じにということで、人と同様に言葉を教えたとしても、インコはそれをインコ社会で役立てることはできないのだから、それは必要ない、といった、それはそうだろうというようなことが書いてあった。 ヌスバウム(129頁)などケイパビリティなど持ち出す人がいかにも言いそうなことだと思った。
 有馬が本書第1章にまずあげたような人間(的特性)を予め信じてしまっているような人であるとは思われない。論理を辿ったらそうなったということなのだろう。そして、論の妥当性は有馬においては(また堀田においても)「直観」に適うかによって判断される――そのことについてはこの企画・特集の「序文」で安部彰が書いている(安部[2020])。引用した文章では「コイントス」は直観(直感、以下「直感」を使用)的に受け入れられないというのである。他方で、有馬もまた直感を大切にする、というかそれを根拠にあげる。例えば死ぬほどの苦痛にある人でも生きねばならないというのは、直感に反する、ならばSOL(生命の尊厳)の主張をそのまま受けいられない、そこでカント主義、という具合だ。
 いずれを救うかという問いに対して、人間だろうという「直感」があるのは、種差別批判にとって厄介なところだとは伊勢田も述べていた(本書70頁)。そして、その直感に反してでも、人のほうを救わないという線が論としては一貫しているが、しかし「ごうごうたる非難」を覚悟せねば、ということだった。△139
 たぶんいまあげた人たちはみな、直感をそのまま絶対のものとしようというのではない。絶対のものだと言ったら議論する必要もないだろうから。ただ、多数決で多数をとらねばというのでないとしても、いくらかは人々に納得、というほどでなくても理解してもらわねばということもある。また支持を得るためにという理由でなくても、人々が思うことからあまりに離れたことを主張するのはよくないという考えもある。そうしたことを考えながら、何を言うか。言えるか。本書(立岩の本)は、そのうえで、では何が言えるのかを言ってみようというものだ。


*頁作成:立岩 真也
UP: 20220727 REV:20221230, 20230103
殺生
安楽死・尊厳死  ◇生命倫理  ◇  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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