『来るべき〈民主主義〉――反グローバリズムの政治哲学』
三浦 信孝 編 200312 藤原書店,381p. ISBN:4-89434-367-3 3990
■三浦 信孝 編 20031230 『来るべき〈民主主義〉――反グローバリズムの政治哲学』,藤原書店,381p. ISBN:4-89434-367-3 3990 [amazon]/[bk1] ※ * m01
■内容説明[bk1]
02年10月、日仏会館で行われたシンポジウム「グローバル化時代のフランス政治思想」を基に構成された論文集。80年代以後のフランス政治思想の多様な展開をあとづけ、「民主主義」の可能性を問う。
■著者紹介[bk1]
〈三浦〉1945年盛岡市生まれ。東京大学大学院仏文科博士課程中退。中央大学文学部教授。日仏会館常務理事。著書に「現代フランスを読む」、編著に「多言語主義とは何か」など。
■目次
序 ポストモダン後の思想の共和国 三浦 信孝著 7-22
I グローバル化と戦争
内的秩序と戦争 西谷 修著 23-28
新しい戦争のディスクール ダニエル・ベンサイド著 三浦 信孝訳 29-43
暴力とグローバリゼーション エチエンヌ・バリバール著 松葉 祥一訳 亀井 大輔訳 44-61
正義のポリティックス 増田 一夫著 62-90
II 民主主義の原点
民主主義の逆説―A・de・トクヴィル 西永 良成著 91-109
批判的人間主義に向けて―T・トドロフ 小野 潮著 110-126
政治的リベラリズムと文化権―A・ルノー 北川 忠明著 127-142
「分け前なき者の分け前」を求めて―J・ランシエール 松葉 祥一著 143-156
フランスにおける「平等」 糠塚 康江著 157-176
III 自由と平等
民主的専制下の自由 桑田 礼彰著 177-193
多様性の政治学―E・トッド 荻野 文隆著 194-211
女性と市民権―E・バダンテール 井上 たか子著 212-231
自由主義、共和主義、多元主義―A・トゥレーヌ 長谷川 秀樹著 232-248
グローバルな社会運動の可能性―P・ブルデュー 桜本 陽一著 249-268
IV 友愛の共同体
多文化主義とフランス共和制 中野 裕二著 269-283
クレオール化の政治哲学――共和国・多文化主義・クレオール 三浦 信孝著 284-304
相互性と稀少性 沢田 直著 305-322
記憶と歴史、忘却と赦し 久米 博著 323-341
非−系譜学的共同体の哲学 フランソワ・ヌーデルマン著 菊池 恵介訳 三浦 信孝訳 342-361
◆正義のポリティックス 増田 一夫著 62-90
「アメリカの国防総省は、一時間に(「一時間に」に傍点)四二〇〇万ドルという金額を支出するとされている(二〇〇三年二月現在)。それに対して、世界に存在するとされるHIV感染者の数は四二〇〇万人であると報告されている(二〇〇二年十二月現在(49))。異なったグローバル戦線へと連なる一つにして二つの数字。だが、いずれの数字の方が現実的であり、いずれの戦いの方が現実的なのだろうか。上記の金額と人数のいずれが、最も現実に基づき、または幻想に基づいているのだろうか。この文脈のなかに、「アメリカに(そして富める国々に)とってよいことは、世界にとってもよいことである」という命題を投げこむとどのような解が期待されるのだろうか。考え得るすべての要素を投入しつつ、この二つの数字から、グローバルな状況を算定し、それにふさわしい行動を導き出すことは、政治と知が共有する重要な課題の一つであろう。」(p.83)
「(49)二〇〇三年二月五日、アメリカ国防長官ドナルド・ラムズフェルドがあげた数字(http://defenselnk.mil/speeches/2003/sp20030205-secdef0005.html)。エイズ感染者数は、UNAIDS/WHO HIV/AIDS Regional Estimate as of End 2002による数字。」(p.87)
◆自由主義、共和主義、多元主義―A・トゥレーヌ 長谷川 秀樹著 232-248
「フランスにおける多文化主義に対する偏った、あるいは感情的な見解[…]。それは、多文化主義は共同体主義に同じだという見方、そして共同体主義は個人と国家以外に権利の主体を公認しない共和主義を否定するものだ、という理屈である。さらに、多文化主義はアメリカなどアングロサクソンの思想であって、フランスにはなじまないという意見もある。総じてフランスでは多文化主義に対する評価は否定的で、多文化主義は共和主義に反するという図式がある。フランスで多文化主義を掲げることは、共同体主義者で反共和主義者と同一視される傾向がある。
トゥレーヌは多文化主義が共同体主義であるという図式そのものが共和主義であるとして批判する。また、自らが多文化主義であることを意思表明して反共和主義を掲げるという論法、すなわち多文化主義か共和主義かという二項対立論自体も、共和主義であるとしてこれを否定する(1994:236)」(長谷川[2003:242])
◆多文化主義とフランス共和制 中野 裕二著 269-283
1フランス共和制と文化的多様性
「統合理念としてのフランス共和制の特徴は、人間が言語・宗教など多様な属性を有した個人として行動する空間を「私的領域」、他方、そうした属性を捨象し、共和制への参加者すなわち市民(citoyen)としての属性のみをもつ空間を「公的領域」として区別し、「公的領域」と「指摘領域」を明確に分離する点にある。この統合理念のもとでは、諸個人は「私的領域」において自らの独自性を維持し、同時に「公的領域」において市民として平等である。」(269)
2多文化主義のフランスへの紹介とその反応
1一九九〇年前後のフランスの政治社会状況
2フランスへのアメリカ多文化主義の紹介と反応
「[…]アメリカの多文化主義は閉鎖的共同体同士の対立しか生まないもの、フランス社会を分裂させるものと位置づけられていた。」(273)
3共和制の批判的再検討
3フランスの多文化主義
1ロマンの「フランス型多文化主義」
2ヴィヴィオルカの多文化主義論
3フランス多文化主義論の特徴
「[…]「寛容」と比較したときフランスの多文化主義はどこにその特徴があるのだろうか。それは一つには、今日「国民戦線」支持者が増加し、人種主義が増大している原因をどこに見るかという点である。「寛容」派は差異の強調に原因を見いだし、「多文化主義」派の普遍主義の強調に見いだす。その結果、問題解決の方向も違っている。二つ目は、両者の議論のレベルである。「寛容」派はフランス共和制の統合理念や原則から多文化主義を批判する。「多文化主義」派は実際に困難をかかえるアクターの視点から、プラグマティックな視点で多文化主義を論じることを主張している。「寛容」派の議論からは、差異の尊重の具体策が見えてこず、逆に、「多文化主義」派には、ヴィヴィオルカ自身が認めるとおり理論的問題点も残る。井上達夫はケベックのフランス語文化保護のための特権付与を容認するウィル・キムリッカらの理論を「居直りの論理」と表現し、西川長夫は、多文化主義にはある種のうさんくささと曖昧さがつきまとっていると指摘している(井上、1999、95頁:西川、1997、258頁)
4多文化主義論から見たフランス共和制
◆クレオール化の政治哲学――共和国・多文化主義・クレオール 三浦 信孝著 284-304
1クレオール受容への四つの問い
2「文化的多様性」のトリアーデ
「[…]今日世界中いたる所にみられる多民族多文化社会において、共に生きることを可能にする社会モデルは少なくとも三つある。図式化して並べれば、「共和国」「多文化主義」「クレオール」のトリアーデである。」(289)
3共和主義による多文化主義批判とその限界
「第一の共和国モメントは、国民主権である。」(292)
「第二の共和国モメントは、開かれた国籍原理である。」(292)
「第三の共和国モメントは、政教分離である。」(292)
「統合の共和国モデルは、この非宗教性原理の民族問題への適用だと考えられる。」(293)
「多文化主義は自由主義のみならず共和国モデルと正面からぶつかる。多文化主義は「差異の政治」を追求するあまり、社会を複数のエスニック集団に分け、それらを真に統合しないで分断する危険をはらむからだ。ひとりの人間を黒人であるがゆえに優遇するためには、その人間を黒人として同定(「黒人として同定」に傍点)しなければならない。アメリカのセンサスが国民を五つほどのエスニック集団に分けて自己申告させるのは象徴的だ。」(294)
「八〇年代に勢いを増した「差異への権利」の主張は多文化主義の前兆だったが、ピエール=アンドレ・タギエフのような人種主義の専門家から、差別と戦うのに極右「国民戦線」など人種差別する側の「差異主義」と同じ論理に立っている限界を指摘され、以後言説としての有効性を失っていく。」(295)
「ただし注意が必要なのは、共和国の普遍主義は、人々を身分制や民族ないし宗教共同体のくびきから解放するときは自由・平等の原理としてはたらくが、共和国が内外の的から身を守る防衛的局面に立たされると、保守的で排他的なナショナル原理に転化する可能性を秘めていることだ。」(295)
4「クレオール化」の思想的射程
5日本社会のクレオール化のために