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『地球生まれの異星人――自閉者として、日本に生きる』

泉 流星 20031206 花風社,262p.


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泉 流星 20031206 『地球生まれの異星人――自閉者として、日本に生きる』,花風社,262p. ISBN: 4907725574 1680 [amazon][kinokuniya] ※ a07.

■広告

内容(「BOOK」データベースより)
いじめ、居場所を求めての留学、バブル期の東京で感じた違和感、職場でのつらい日々、摂食障害、アルコール依存…。さまざまな苦しみを味わいながら「自閉症」という診断をきっかけに立ちあがろうとする著者の魂の記録。

内容(「MARC」データベースより)
小さい頃からいじめに苦しみ、一流大学を卒業しながら引きこもりとなった著者は、30代になって初めて自分が「自閉症」であると知った。様々な苦しみを味わいながらも自閉症の診断をきっかけに立ち上がろうとする魂の記録。

■著者紹介

泉流星[イズミリュウセイ] 人生を通じて常に日本社会との違和感に悩んできたが、理由はずっと謎のままだった。自分の居場所を求めて高校時代にアメリカに留学。その後も色々な国を旅し、異文化の友人と交流する経験を通して、世界の多様さを楽しむようになる。大学卒業後就職し、事務・販売の仕事に携わるが、適性のない職場で混乱する。その後結婚。経済的自立を失った自分にふがいなさを感じ、アルコール依存や摂食障害を経験する。結婚生活にも行き詰まりを感じ、自分のどこが不具合の原因なのか生来の旺盛な好奇心を発揮して色々な文献を調べていくうち、自分の自閉症的な傾向に気づき、三十代半ばにして自閉症スペクトラムとの診断を受ける。組織に属して働くことは難しいため現在はフリーランスで、技術特許やテレビ番組のための翻訳などをしている。フィクション・ノンフィクションも書いていて、学生のころ短編小説で賞を受けたこともある。雑誌へ記事を投稿した経験もある。自らのサイトMoonWritingではWebコラムを連載中

■目次

第1章 地球に生まれる
第2章 ここはどこ?“外”の世界と初めての遭遇
第3章 私の居場所はどこに?
第4章 挫折
第5章 地球人と暮らす
第6章 立ち直りに向う日々
第7章 自分を探す道程

■引用

まえがき

 「自閉症スペクトラムというのは、脳のつくりや働きが生まれつき普通の人と違うために、周囲の世界のとらえ方、感覚や思考のパターンなどが普通とは異なっている人々をさしている。簡単に言えば、普通の人とは別の世界に住み、異なる文化を持っている。重度の自閉症から部分的な要素を持つ人までを含めて、自閉圏の人々には共通する特徴があるため、最近ではスペクトラム=連続体、というとらえ方をするようになった。その特徴とは、対人関係の困難、コミュニケーションの困難、限られた対象への反復的で常同的な興味、活<0006<動、行動があることの三つだとされている。」(泉[2003:6-7])

 「私の場合、三十代半ばになってようやく診断にたどりつくまでは、脳に機能的な問題が存在することなど誰も想像さえしなかったから、言い訳の余地はまったくなかった。私は人の表情や言外の意図を読むことができず、場の雰囲気を感じることもできない。他人の微妙な表現がわからないというのは、周囲に配慮したデリケートで適切な表現の仕方が学べないことでもある。そのため、私は対人関係や社会適応の面でたびたび問題を起こしてきたのだが、そうやって「世の中」で失敗するたびに、人格そのものを疑われ、性格の悪さを指摘され、自分を否定され続けてきた。[…]<0008<  […]私にとって診断がついたことの最大の利点は、色々な専門書や研究事例を参考にして、自分のハンディをうまくカバーし、トラブルを避けて、「世の中」ともっと上手に関わっていく方法を工夫できるようになったことだ。」(泉[2003:8-9])

 「この頃、テレビで「片付けられない女性」というのが流行になっていた。ある種の人たちは、考えがまとまらなくてパニックになりやすく、うまく部屋を片付けられないという。理由として考えられるのは、脳のある種の障害だという。テレビに出てくる部屋の持ち主たちはどうもそれとは違うようだったが、精神科医の話と、そこで紹介された、片付けられない脳の障害というのをわかりやすく紹介した『片付けられない女たち』という本のことが、私の興味を引いた。片付けられない、掃除が苦手なのは子どもの頃からの私の大きな弱点で、料理をする時の手際のよさと好対照をなしていたからだ。もしかすると、私も<0230<、それかもしれない。私は早速近所の図書館へ行って、その本を読んでみた。
 それは正確にはADHD(注意欠陥多動性障害)とかADD(注意欠陥障害)といい、私が八十年代にアメリカに留学した頃、ハイパーシクティヴ・キッド、多動児という名前で呼ばれていた障害と同じものだとわかった。当時は、主に子どもの障害で、じっとしていられず常に騒ぎ立てるのが特徴。リタリンという薬に効果があり、大人になると自然に落ち着くものと思われていたのだが、実はそれは注意力と衝動性のコントロールがうまくいかないという脳の神経系の問題で、大人になっても目立たなくなるだけで問題は続くのだということが、最近の研究でわかってきたのだという。
 たしかに、私は多動こそあまり見られないものの、注意力のコントロールや衝動性には大いに問題がある。注意欠陥多動性障害には、私があてはまる項目がたくさんあった。[…]<0231<
 けれど、待てよ、この本の訳者はまえがきで、「自己判断は危険だ」と書いていた。訳者のプロフィールを見ると、この本を原書で読んでADDを疑い、専門家を訪ねたら高機能自閉症=アスペルガー症候群と診断された、と書いてある。そんなに似ているのなら、そっちも調べた方がいいかもしれない。私は、高機能自閉症についても読んでみることにした。[…]<0232<
 何冊かの専門書を読み、話題になっていた高機能自閉症者の自伝も何冊か読んだ。その結果は「恐ろしいぐらいぴったり」きた。まったく同じというのではないけれど、似たところがあまりにもたくさんある。たくさんの人が、高機能自閉者は「自分が宇宙人のような感覚を持つ」「周囲との間がガラスで隔てられているようだ」と書いていたが、それがとにかく、ぴったりだ。
 けれど、ある本には、高機能自閉症者の自伝を読んで「ぴったりだ」と言ってくる人は大方が違います。けれど、そうした著者のインタビューをテレビで見て、「そっくりだ」と言って受診する人はたしかに本物の場合が多いのです、と書いてあった。これでは、まだ決められない。そんな時、私はテレビで偶然、アスペルガー症候群の小学生のドキュメンタリーを見た。[…]
 この子と私はそっくりだ。<0233<[…]
 結局、私はインターネットで高機能自閉症について詳しい児童精神科医を見つけ、その人に事情を説明したEメールを送って、成人を診断してくれる人を教えて欲しいと頼みこんだ。ありがたいことに、その人は公立の機関で診断してくれそうな医師の名前を教えてくれた。<0234<[…]
 電話は結局、医師本人にはつないでもらえなかった。カウンセラーだと言う人が出て、とにかく一度、面談してみないと何とも言えないという。[…]
 診断を受ける
 最初の面談では、どうやら相手も半信半疑だったようだが、どうにか、診断を希望するならまず、成人知能検査をしてみましょう、というところにこぎつけた。<0235<
 […]
 結局、診断は、自閉症スペクトラムの範囲に入る。幼児期に大きな言葉の遅れがなかったようだし言語能力も高いので、中でもアスペルガー症候群寄りだろう、ということになった。[…]<0237<
 これまで知られてきた自閉症が、こうした連続的で多種多様なかたちをとる発達障害の一部分だということは、ここ二十年ほどの間にようやく認められてきたばかりだそうで、私も自分について調べ始めて初めて知った。私の子ども時代にはまだこういう考え方も診断もなかったし、典型的な自閉症ですら、親の育て方が悪いのが原因ではないかなどと平気で言われていた時代だった。
 今では発達障害は脳の障害だと確かめられているし、その多くが幼児期や学童期に診断がつくようになってきたそうだけれど、それでもなかなか、適切な対応はしてもらえないものらしい。」(泉[2003:230-238])

 「やっと診断がついたのだから、もっとホッとするだろうと思っていたけれど、それは間違いだった。私が抱えている慢性の憂うつが晴れるとか、そういった劇的なことは何も起こらなかった。診断は出たものの、自閉症スペクトラムもアスペルガー症候群も、脳のしくみや働きが生まれつき違う状態なのだがら、何か特別有効な治療法があるわけでもないと医者は言う。ただ、私がそういう人間だということがわかった、それだけのことなのだった。
 そしてもっと悪いことに、私がこれまで良くも悪くも、自分という人間のユニークな特質だと思ってきたことが、あれもこれも、アスペルガー症候群の典型的な例として専門<0241<書にあげられていた。[…]  診断がついたこと、自分のイライラが実は「恐怖」だということに気づいたこと、そして、自分のずっと抱えてきた、この漠然とした「生きにくさ」という感覚に、具体的な理由とかたちが見えてきたことは、私にとって貴重な発見だった。けれど、自分のアスペルガーらしさに気づけば気づくほど、「では、自分とは何なのか?」という疑問は大きくなった。自分のすべてがアスペルガー一色で、それ以外の部分を見失ってしまったように感じていた。
 自分の本を書く
 そんな時、私が診断のために書いた生育歴を読んだ心理カウンセラーが、「面白い。これで本が書けそうですね」と言った。何気ない一言だったけれど、私はその時、本当に書<0245<いてみようと決意した。」(泉[2003:245-246])

■言及

◆立岩 真也 2008- 「身体の現代」,『みすず』2008-7(562)より連載 資料,

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※


UP:20090425 REV:20090502
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