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『21世紀の医療政策づくり』

国民医療研究所 編 20031115 本の泉社,213p.


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■国民医療研究所 編  20031115 『21世紀の医療政策づくり』,本の泉社,213p. ISBN-10:4880238252 ISBN-13:9784880238258 \1890 [amazon][kinokuniya] ※me

■内容
「上からの医療政策づくり」でなく、「下からの医療政策づくり」へ。「御用金」によってつくられる医療政策の、国民によっての有益無益さを明らかにしながら、「下から積み上げる形の医療政策づくり」を試みる。 (「MARC」データベースより)

■目次
序章  危機に立つ日本の医療・福祉
第1章 戦争と平和、そして医療政策
     1.医療における「日常」と「非日常」
     2.Emergency Careの歴史
     3.看護婦の反ミリタリズム運動
     4.戦争、Emergency技術、マンパワー
第2章 医療政策を考える
     1.医療政策とは
     2.医療政策の史的展開
     3.望ましい医療政策とは
第3章 共通の足場を求めて
    ――医療におけるリストラ連鎖と生き残り志向
     1.医療機関を設立主体別にとらえることの意味
     2.国立病院・療養所の再編成計画がもたらした地域医療への視座
     3.日本赤十字社と済生会の場合
     4.協同組合による地域医療
     ――厚生連の保健・医療活動とその課題
     5.大学付属病院と分院ネット
     6.企業経営病院論
     7.地域医療における非営利・協同組織
     ――医療生協と民医連に着目して
第4章 「Emergency(有事)医療」対「日常性の医療・福祉」
    ――海外文献解題的に
     1.リストラ連鎖と戦争加担政策
     2.「代替」と垂直分化
     3.全人的看護への起点
     4.日常性の医療
     5.トータル・ヘルス、協同組織、公的下支え
第5章 グローバリゼーションと“下から”の保健医療政策
     1.下からの医療政策づくりとは
     2.グローバリゼーションの下での保健・医療政策づくり
     3.グローバル保健・医療政策の事例
     4.いま求められるもの
第6章 医療政策づくりへの視点
     1.医療関係団体の政策検討資料
     2.公衆衛生分野から医療政策づくりへの注文
     3.安全性と人権の医療政策づくりを
第7章 社会福祉と医療政策
     1.社会福祉からの提言
     2.ジェンダーの視点で
     3.暮らしの中で背負う健康問題への視点を
     ――障害児・者の家族介護者のくらしと健康問題に関する実態調査から
     4.社会保障運動から
第8章 医療労働組合と政策活動
    ――政策活動の現状と課題
     1.日本医労連本部や関連部会、専門委員会が作成したもの
     2.地域医療のあり方や各病院の政策など、加盟労組が行ったもの
     3.「病院給食政策」づくりの経緯と教訓(事例として)
     4.政策活動強化の課題
補章  診療報酬支払システムの展望
     1.診療報酬と医療労働者
     2.厚労相の立場で歴史を生かせば
     3.「疾病金庫」と「金庫医」
     4.医師会の支払基金化と健康保険組合の育成
     5.道府県の数だけあった単価
     6.今日的状況のとらえかた

■引用
◆第5章 グローバリゼーションと「下からの」保健・医療政策づくり (松田 亮三 著)

◇「下からの」保健・医療政策づくり
「保健・医療政策は、住民の保健・医療に関する公共政策である。」(p97)
「本稿では「下から」の政策づくりを、公共政策の結果が生み出される現場で、>97>その結果に利害関係をもつ者が、政策形成に参加していくこと、としてとらえておく。」(p97-98)

◇薬剤へのアクセス
「必須薬の90%は特許の有効期限が切れた薬剤であり、その価格は、ジェネリック薬による市場経済により、特許が有効な薬剤(新薬)に比べて安価である。このような場合には、競争入札のような政府による積極的な調達政策、汚職防>105>止などの国内薬剤管理制度の改善、供給制度を安定させるための財政・供給機構の改善、保健・医療職による合理的な薬剤使用の促進、などにより、薬剤へのアクセスは高めうると考えられる。
 しかし、新しく開発され、特許が有効な薬剤については、このような方法では限界があることも確かである。(中略)
 問題はこうした新薬についても、必須薬に該当するものがあるということである。例えば、HIV感染症に用いられる抗レトロウイルス剤がそうである。こうして、世界貿易機構(WTO)の発足とあわせて発行した「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の全面的実施の中で、特許に守られた高額の薬剤に対するアクセスの問題が国際政治の問題として大きく浮かび上がってきた。(中略)
 中・低所得国は、TRIPS協定が住民の健康を守る施策をさまたげることがないことを原則として提案した。また、オックスファム、国境なき医師団は、TRIPS協定が薬剤のアクセスに与える影響を重視し、必須薬の協定からの除外などのキャンペーンなどを行ってきた。これに対して多国籍企業は、特許制度からの除外は、開発意欲をそぐものであるとして、反対した。また、米国は、特許は薬剤へのアクセスを阻害するものではないとして、薬剤への特別な措置を行うことに対して否定的であった。
 しかしながら、2001年9月11日の世界貿易センタービルへのテロ攻撃、そして、それに続く炭疽菌によるバイオテロリズムへの対応により、高所得国においても特許は公衆衛生を超える価値を持つものではないことが明らかになった。(中略)
 このような出来事をはさんで、2001年にドーハで開催された第4回WTO閣僚会議では、「TRIPS協定と公衆衛生に関する宣言」(ドーハ宣言)が採択された。この宣言には、「参加閣僚は、TRIPS協定は加盟国が公衆衛生を>106>保護するための措置をとることを防げないし、また防げるべきでないことを合意した」という文章がもりこまれ、各加盟国には、HIV/AIDS、結核、マラリアや他の感染症を国家的緊急事態として、強制実施権を許諾する権利が与えられることが認められた。さらに、後発発展途上国の医薬品に関しては2016年1月まで経過期間を延長することが認められた。」(p105-107)

◇私的医療保険のグローバルな展開
「グローバリゼーションとの関わりでいえば、金融の自由化の中で私的医療保険がどのように展開していくかということが問われることになる。日本においても、1990年代に推進されてきた金融の自由化政策の中で、米国やスイスなどの生命保険の活動が活発化してきた。生命保険企業が提供する私的医療保険は、高所得国の医療財政の中では―米国やスイスを除いて―補完的な役割を担っているにすぎない。しかし、中・低所得国においては、公的医療制度が充分整っているとはいいがたく、私的医療保険の市場が広がっていく可能性がある―特に、経済成長が見込まれる場合には―ことに注意しておく必要があろう。
 医療制度は各国のさまざまな歴史を経てできているので、保険企業から見れば、市場が異なることになる。公的医療保険の状況や共済制度の普及などによって、住民のかかえているリスクが異なるために、医療商品の設計も変化してくる可能性がある。金融の自由化がすすめられるなかで、保険企業が国外の医療市場、特に保健医療市場に進出しようとすれば、その地域の市場を分析しなければならないことになる。(中略)
 もし、各地域の市場を正確に把握しておかねば、保険企業も手痛い失敗を経験する可能性がある。アメリカ合衆国の医療保険(マネージド・ケア)企業の大手、ユナイテッド・ヘルスケア社の失敗は、その例である。同社は、1993年から国際市場に本格的に乗り出すことを決め、1994年から南アフリカでの現地の保険会社とともに、サザン・ヘルスケア社を設立し、マネージド・ケア型の保険を導入しようとした。(中略)1996年にいざ事業が開始されると、米国のマネージド・ケアの悪評が伝わり、サザン・ヘルスケア社は、「医療帝国主義」「医療アパルトヘイト」と非難されたのである。結果的にこの合弁事業は解消され売却された。この失敗の背景には、薬剤の処方や給付で米国と南アフリカで大きな差があったことを考慮に入れていなかったため、利害関係者の不安と反発を招いたこと、マネージド・ケアによる費用節約により、低賃金労働者への保険給付を実現しようとしたが、その趣旨を雇用主によく理解してもらう努力が不足していたこと、南アフリカの人種政策の経緯について十分な配慮を欠いていたために黒人医師の協力を得ることができなかったこと、があげられている。」(p109)

■書評・紹介

■言及



*作成:角崎 洋平 
UP:20090223
医療経済(学)  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
 
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