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『当事者主権』

中西 正司・上野 千鶴子 20031021 岩波新書新赤860,216p.


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中西 正司上野 千鶴子 20031021 『当事者主権』,岩波新書新赤860,216p. ISBN-10: 4004308607 ISBN-13: 978-4004308607 700 [amazon][kinokuniya] ※ d

■出版社/著者からの内容紹介

障害者,女性,高齢者,子ども,不登校者,患者など社会的な弱者として「私のことは私が決める」という最も基本的なことを奪われてきた当事者たちが,近年,様々なところで発言し,社会を変革している.障害者自立生活運動を長年行ってきた中西氏と,高齢者・女性の新たなネットワークを提唱している上野氏が,当事者運動の実際,そして可能性を熱く語る.

■目次

  序章 当事者宣言

  1 当事者主権とは何か/2 当事者であること/3 自立支援と自己決定/4 当事者になる、ということ/5 当事者運動の合流/6 専門家主義への対抗/7 当事者学の発信/8 「公共性」の組み替え  
     
  1章 当事者運動の達成してきたもの  
  
  1 当事者運動の誕生/2 自立生活運動の歴史/3 「自立」とは何か?/4 自立生活センターの成立/5 自立生活支援という事業/6 当事者の自己決定権とコミュニケーション能力/7 介助制度をどう変えてきたか/8 自立生活運動の達成してきたもの/9 新たな課題  
     
  2章 介護保険と支援費制度  
  
  1 介護保険が生まれてきた背景/2 介護保険の老障一元化をめぐって/3 支援費制度のスタート/4 介護保険と支援費制度の違い/5 育児の社会化をめぐって  
     
  3章 当事者ニーズ中心の社会サービス  
    1 属人から属性へ――自分はそのままで変わらないでよい/2 だれが利用量を決めるか?/3 だれがサービスを供給するか?/4 社会参加のための介助サービスをどう認めるか/5 家族ではなく当事者への支援を  
     
  4章 当事者たちがつながるとき  
  
  1 システムアドボカシー/2 縦割りから横断的な連携へ/3 ノウハウの伝達と運動体の統合/4 組織と連携/5 適正規模とネットワーク型連携/6 法人格の功罪/7 事業体と運動体は分離しない/8 採算部門は不採算部門に対して必ず優位に立つ  
     
  5章 当事者はだれに支援を求めるか  
  
  1 障害者起業支援/2 介護保険と市民事業体の創業期支援/3 政府・企業・NPOの役割分担と競合/4 規制緩和と品質管理/5 雇用関係/6 ダイレクト・ペイメント方式/7 ケアワーカーの労働条件  
     
  6章 当事者が地域を変える
  
  
  1 福祉の客体から主体へ、さらに主権者へ/2 家族介護という「常識」?/3 施設主義からの解放/4 精神障害者の医療からの解放/5 脱医療と介助者の役割/6 医療領域の限定/7 サービス利用者とサービス供給者は循環する  
     
  7章 当事者の専門性と資格
  
  
  1 ヘルパーに資格は必要か/2 ピアカウンセラーの専門性/3 資格認定と品質管理――フェミニストカウンセリングの場合/4 ケアマネジメントか、ケアコンサルタントか/5 ケアマネジャーの専門性と身分保障/6 成年後見制度と全人格的マネジメントの危険性/7 新しい専門性の定義に向けて  
     
  8章 当事者学のススメ  
  
  1 女性運動と女性学/2 性的マイノリティとレズビアン/ゲイ・スタディーズ/3 患者学の登場/4 自助グループの経験/5 精神障害者の当事者研究/6 不登校学のススメ/7 障害学の展開  
     
   おわりに 自己消滅系のシステム
  あとがき  中西正司 上野千鶴子
  当事者運動年表

■書評・紹介

◆立岩 真也 2004/02/01 「紹介:中西正司・上野千鶴子『当事者主権』」『ノーマライゼーション 障害者の福祉』2004-2

■言及

◆立岩 真也 2009/01/25 「『ニーズ中心の福祉社会へ』」(医療と社会ブックガイド・90),『看護教育』49-(2009-1):-(医学書院),
◆立岩 真也 2009/02/25 「『ニーズ中心の福祉社会へ』続」(医療と社会ブックガイド・91),『看護教育』49-(2009-2):-(医学書院),

■メモ

「当事者とは、「問題をかかえた人々」と同義ではない。問題を生み出す社会に適応してし>>2>>まっては、ニーズは発生しない。ニーズ(必要)とは、欠乏や不足という意味から来ている。私の現在の状態を、こうあってほしい状態に対する不足ととらえて、そうではない新しい現実をつくりだそうとする構想力を持ったときに、はじめて自分のニーズとは何かがわかり、人は当事者になる。ニーズはあるのではなく、つくられる。ニーズをつくるというのは、もうひとつの社会を構想することである。」(2-3)

「当事者主権は、何よりも人格の尊厳にもとづいている。主権とは自分の身体と精神に対する誰からも侵されない自己統治権、すなわち自己決定権をさす。私のこの権利は、誰にも譲ることができないし、誰からも侵されない、とする立場が「当事者主権」である。」(3)

「ここでいう「介助」とは、当事者の主体性を尊重しておこなわれる、英語で言うpersonal assistanceのことをあっしており、高齢者や障害者を客体として保護や世話の対象とする介護careという用語と区別している。/介助では主体はあくまで当事者であるのに対し、介護では当事者は客体である。障害者自立運動では、当事者主権を強調するために、このふたつの用語を使い分けてきた」(29)

「研修で学んだことは、介助サービスだけを提供すると利用者は依存的になる可能性があるので、自立生活プログラムを平行して提供する必要があること。」(31)

「ピアカウンセラーが、「ここでは本当の自分を出しても誰も笑い者にはしない。ありのままの自分にかえってすべての前提を取り払って、なんでも可能だと考えたら、本当は何をしたいか。それが大学に行くことであれば、自立生活センターでそれが実現できるように、介助者を見つけ支援していこう」というように支えていく。」(36)

★「自立生活センターは、よそからは「できない」と思われてきた重度障害者の自立生活を、制度に先駆けて、つぎつぎに実績として積みあげてきた。この実践性が、政策的な説得力を持ったのである。」(44)

★「当事者運動は、第二期を迎えている。当事者運動の要求が、不十分とはいえつぎつぎに制度化されつつある今日、知らないうちに換骨奪胎されて似て非なる制度がつくりあげられる危険もある。交渉能力を維持しながら監視を怠らず、実績を積みあげるだけでなく、時代に一歩先んじた政策提言をすることが求められている。」(44)

「介護保険はケアの社会化の第一歩、支援費制度は第二歩だった。次のステップは、育児の社会化、それも親に対する支援ではなく、子どもが社会からの支援を得て育つ権利の保障だろう。老障一元化だけではなく、最終的には「老障幼の一元化」をめざしたい。」(80)

「…介助サービスは、量がたくさんあればあるほど便利というものではない。介助者が二四時間張り付いていては、プライバシーが何もない苦痛の毎日になる。安全と自由は裏腹である。緊急事態に介助者がいつでも来てくれて安全が確保されるという条件さえあれば、誰でも介助時間は最小限にしようというモチベーションが働くものである。おまけに一日は二四時間という上限が設定されているのであるから、行政がさらに上限を決める必要はない。」(86)

「支援費制度も、基本的なコンセプトは国が支援費を当事者に支払うということだが、認定を行政がすることで当事者ニーズ中心ではなくなった。ほんらい当事者による自己査定を国は認証するにとどめるべきであった。また支援費の代理受領方式を取ったために、事業者から介助者が直接給料をもらうことになり、介助者は利用者の評価より、事業者との雇用関係の方を優先するシステムになってしまった。」(90)

「家族、親、専門家が今後当事者運動を語る時に、障害者の親としての当事者性、障害者を家族に持つ夫や妻や兄弟姉妹や子どもとしての当事者性、障害者問題を扱う専門家としての当事者性、障害者行政にかかわる行政官としての当事者性を活かして、自分たちのなかにある障害者に対する差別性、優越感、特権性を受けとめ、そのうえで自分もまた背負ってきたさまざまな問題の当事者として、自分自身に向き合うことができるだろう。自分自身もまた差別の加害者でもあり同時に被害者でもあるという当事者性において、差別の実態を明らかにし、平等を達成するために克服しなければならない課題、制度の欠陥、歴史認識の再評価を、障害者とその関係者双方の、それぞれの当事者性においておこなっていくことが必要であろう。/世の中には障害者と非障害者のふたつのカテゴリーしかない。そのあいだの境界をつくっているのが非障害者の側である限り、この問題には実のところ、非当事者はだれもいない。>>93>>差別をなくすのが差別をつくりだした当事者の責任と課題であるならば、どのような当時者性においても、なすべきことは山積している。その先に見える地平線上には、障害の有無にかかわらない、理解と友情と和解が待っているだろう。」(93-4)


cf介助制度をどう変えてきたか(42)

1963 国のホームヘルプサービスの開始:生活保護世帯と非課税世帯のみ対象
   一人暮らしの重度障害者が地域に存在するとは考えてない
   → 介助サービスの国庫補助には制限あり、一日四時間の上限

1970年代なかば 上限を外させる運動

1982 通達:市町村は最低でも週一八時間のホームヘルプサービスを提供するように

   サービスの遅れている地域で重度障害者が暮らすという実績

1990 国から自治体へ指導:一八時間上限撤廃

   年に一、二時間ずつ時間数を増やすことに成功


UP:20081025 REV:20081215, 20101227(小林勇人
中西 正司  ◇上野 千鶴子  ◇全国自立生活センター協議会  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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