『地方交付税 何が問題か――財政調整制度の歴史と国際比較』
神野 直彦・池上 岳彦 編 20030731 東洋経済新報社,265p
■神野 直彦・池上 岳彦 編 20030731 『地方交付税 何が問題か――財政調整制度の歴史と国際比較』,東洋経済新報社,265p. ISBN-10: 4492610480 ISBN-13: 978-4492610480 3150 [amazon]/[kinokuniya] ※ t07.
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出版社/著者からの内容紹介
国庫補助金の削減、地方への税源移譲と並ぶ、地方分権の三位一体の改革の柱である地方交付税改革の方向を、制度・歴史・国際比較の観点から示した。
内容(「BOOK」データベースより)
国庫補助金の削減、地方への税源移譲と並ぶ、地方分権の三位一体改革の柱である「地方交付税」はいかに改革されるべきか。具体的に分析し、改革の方向を示す。
■著者紹介
神野直彦[ジンノナオヒコ]
1981年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授を経て、現在、東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
池上岳彦[イケガミタケヒコ]
1991年東北大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。新潟大学商業短期大学部助教授等を経て、現在、立教大学経済学部教授
■目次
第1章 財政調整の理論と制度 池上岳彦
第2章 日本における財政調整制度の生成過程
第3章 日本における財政調整制度の形成―アメリカ財政調整論の歴史的展開との関連から
第4章 地方交付税―推移と現状
第5章 ドイツの財政調整制度―調整効果の分析と問題点の整理を中心として
第6章 フランスの財政調整―財政補助の地域間再分配効果に関する統計分析
第7章 スウェーデンの財政調整制度―課税力と財政需要による水平的財政調整を取り入れた財政調整制度
第8章 インドネシアとフィリピンの財政調整制度―「統合のあり方」と財政調整制度についての試論
終章 地方交付税改革のシナリオ
■引用
◆池上 岳彦 20030731 「財政調整の理論と制度」,神野・池上編[2003:3-30]
1 財政調整は不要か?
「地方政府が教育、保育、介護、保健医療、環境衛生等の対人社会サービスを中心に公共サービスを展開していくためには、自主財源を拡充する自己決定権を認めなければならない。これにより、団体自治と住民自治とを兼ね備えた真の地方自治が可能になる。そこで、所得税と消費税における国税から地方税への税源移譲、事業税の外形標準課税などによって地方の基幹税を整備し、それに個別消費税の地方移譲や課税自主権の拡充と実践によって、自主財源主義を確立することが必要である。
ただし、地方政府に課税権を認めるだけでは、たんなる「自己決定」にすぎず、地方自治を支える自己決定権は確保できない。自己決定権を実現するためには、財政調整制度が必要である。これが本書全体を貫く立場であるが、ここで財政調整は不要であるとする議論に触れておきたい。」(池上[2003:3])
2 財政調整の必要性
2.4 財政調整の必要性
「以上の議論を総括し、あらためて財政調整の必要性を確認しておきたい。
地方自治を支える財政的な地方分権の観点からは、地方税を中心とする自主財源が最も重要である。しかし同時に、国民としての一体感が存在することも事実である。特に対人社会サービスに関しては、標準的なサービスを行うのに必要な一般財源を保障することが求められる。また、人間が一生の間に居住地を移動する権利を有することおよび水・森林・農地などの国土利用・保全を思慮すれば、都市と農村漁村は相互依存関係にあるといえる。
そして、すべての地方政府が同じ税制を持っていたとしても、供給できるサービスの水準は団体によって異なるのである。その理由としては、団体間で住民の所得水準に格差があるために人口1人当たりの地方税収入が異なること、自然条件によって公共サービスの供給コストや税外収入が異なることなどがあげられる。
このように財政力格差の存在を認める場合、同額の地方税を負担した者が同じ水準の地方政府サービスを受けられることを保障する水平的公平の観点からみても、また財政力の違う地方政府にそれぞれ適切な取り扱いをすることで地<0009<域間の所得再分配を行う垂直的公平の観点からみても、財政調整の必要性が導き出される。さらに、財政力の格差が過密・過疎問題や企業の集中を促進することを避けることも課題である。
したがって、財政調整は、市場主義的な想定を大きく超えて、地域社会の安定を図る制度である。その目的は、国民生活に不可欠な分野で標準的サービスを実現できるだけの財源を確保すること、そして同程度の公共サービスを行うことができるように、地域間の経済力格差およびサービスのニーズと提供コスト、つまり必要度の相違に基づく地方政府間の財政力格差を是正することである。これによって国土・地域社会の相互依存関係を維持することができる。ただし、この「公平な分配」をめざす制度は特定補助金によって画一的なサービスを行う「結果の平等」政策ではなく、あくまでも「機会の平等」を実質化するために必要な制度である。」(池上[2003:9-10])