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『子育ては、いま――変わる保育園、これからの子育て支援』

前田 正子 20030424 岩波書店,220p.

last update:20100822

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■前田 正子 20030424 『子育ては、いま――変わる保育園、これからの子育て支援』,岩波書店,220p. 1800+税 ISBN-10: 4000228307 ISBN-13: 978-4000228305  [amazon][kinokuniya] ※

■内容

誰もが無理なく子育てをできる社会へ―。出生率の低下,出産後も働き続ける女性の増加、育児ノイローゼのクローズアップなど、 日本の子育ては大きな転換期をむかえている。設置基準の緩和や民間企業の参入などで大きく変わる保育園、始まったばかりの家庭における子育て支援など、 様々な現場での意欲的な試みを豊富な実例を交えて紹介しながら、子育てのいまと,将来に向けての課題を描き出す。

■目次

はじめに――進む少子化
少子化対策の変遷/少子化対策プラスワン

一章 急速に変わる保育園の姿
1 進む規制緩和
増える入園者と増える待機児童/地域によって大きく違う保育事情/地域によって違う共働き率/認可保育園と幼稚園・認可外保育園/量か質か

2 様々な保育園の登場
渕野辺保育園
現状に合わせた保育をめざして
東京都の認証保育園の試み
認証保育園の運営コスト/認証保育園のとりくみ――Jキッズ・ルミネ北千住保育園/適正な保育コストとは
横浜保育室
近所の仲間が集まって/認可になるかどうかの選択
公立保育園の民間委託
民営化に対する賛否両論/東台保育園/問われる保育の質

3 第三者評価
なぜ保育に評価が必要なのか/現場の反応は/オーストラリアで

二章 家庭での子育てを支える
1 子育てを楽しめる条件は?
孤立する母親/子育てにかかわれない父親

2 地域子育て支援センターの試み
せいがの森保育園の中の「わくわく」
「わくわく」のプログラム/地域に開かれた保育/保育園と地域子育て支援センター
親と子の「みずべ」
「人を迎える」気持ちで/居心地の良い場所づくり/多くの人の支えを得て

3 新しい子育て支援の試み
小さな親子のひろば――「びーのびーの」
自分たちの手で自分たちの居場所を作る/親が親に寄り添う
「止まり木」のような保育を目指して――「ミニデイザービスほっぷ」
地域の保育ニーズは/地域で育て育てられる関係を

4 地域で巡りあう子育て仲間
出会いのきっかけを作る――「カンガルークラブ」
ゆるやかにつながる/地域を変える
自主保育
プレーパーク/大人と子どもが出会う場/子育てが終わった後

三章 子育てと社会
1 子育てを支える制度をめぐって
先進諸国の仕事と子育ての関係は/各国の社会保障制度の枠組み/五カ国を取り上げて/スウェーデン/フランス/ドイツ/オランダ/米国/日本の場合は

2 子育て支援の今後
働き方を変えよう/育児休業制度/児童手当/子育て支援にはお金か現物か/子育て支援の現場で/子育て支援は何のために/子育て支援の人材は/保育について

あとがき
参考文献

■引用

三章 子育てと社会
2 子育て支援の今後

子育て支援にはお金か現物か
 先にも書いたように児童手当は子どもの経済的基盤を保障するものだ。もちろんそれだけで、子育て世帯の経済的な安定を図るのは不可能だが、 子どもを社会がどう捉えているかという姿勢を示すものである。しかし、それでは親たちに「子育てしてくれてありがとう」とお金を渡せば、 子育ての問題は解決するだろうか。実はまったくそうではない。
 専業主婦のお母さんたちに、在宅で育児をしていることに対して手当を出す案のことを聞くと次のような答えが返ってきた。確かに、 お金をもらえばもらえないよりは良いが、それで>194>は子育ての問題は解決しない、現金をばら撒くことによって問題は解決した、として「はい子育てしてね」 と言われても困るというのだ。むしろ、今の子育てに足りないのは、お金では買えない、雨の日にも安心して子どもを遊ばせることのできる遊び場や、 子育ての仲間に会える場所、困ったときに相談できる人や、母親が病気になったときや出産の時に子どもを預かってくれる一時保育などだ。 そういう個人では作ることのできない拠点やサービスこそ、公費で整備して欲しいという。
 あるお母さんは「個人から集めたものを、また広く薄くばら撒いても意味がないと思う。地域振興券みたいに、みんなで焼肉を食べて終わってしまう。 個人から集めたお金だからこそ、ある程度の額にならないとできないもの、個人の力では無理で公的にしか整備できないもの、 子育てにとって必要なものに重点的に使って欲しい」と言う。
 また、一方で忘れてはならないのは、児童手当のような現金給付は産まれた子どもたちの生活を保障するという役割は担うものの、 それによって夫婦の子どもを産む意欲を向上させるという期待はもてないということだ。なぜなら、子育てに関して最もかかるコストは、機会費用といわれる、 母親が出産によって仕事を辞めたコストだからだ。仕事を続けていればそれなりの収入があったのに、出産によって仕事を辞めざるを得ないとしたら、 その失った収入を保障>195>することは不可能である。その機会費用を下げる最も有効な手段は、保育園を増やし、職場環境を改善して、 無理なく仕事と育児が両立できる条件や再就職しやすい環境を整えることとなる。

保育について
 保育についても様々な課題がある。まずは、利用者を誰にするかということだ。これまでは保育園は「保育に欠ける」子どものみが入園することが可能だった。だが、 実際には、在宅の親がいても保育が必要なケースがある。さらに、子育て支援に携わる人の中には、地域の子どもたちが自然に出会って遊ぶ機会が減っているため、 一、二歳の子どもでも、週に数日保育園に通って集団遊びを経験したほうが良いのではないかという意見を持つ人もいる。
 もちろん、都市部では従来の「保育に欠ける」子どもたちでも保育園に入れず、待機児童が深刻な状態であるため、そこまでの受け入れ能力はない。 保育園の一時保育も満杯状態で、在宅の子どもたちのいざという時の受け入れ先にはならない。だが、一層少子化が進展する今後は、保育園は誰のためにあるのか、 という議論をする必要はあるだろう。

 ここには、保育園の構造的な問題がある。批判を覚悟で問題が明確に見えるように簡単に東京の例を挙げていってみたい。例えば、 延長保育もあまりない東京の公立保育園に子どもを預けて仕事ができる親は、一般的にどういう層だろうか。フルタイムで働いているとすれば、 両親どちらかの職場が恵まれていて労働時間が短いか、親が近くにいてお迎えを頼めるか、二重保育のベビーシッターを雇う財力がある人になるだろう。 また公立保育園で働く公務員の保育士も労働条件は恵まれている。
 休日出勤があったり、平日の運動会に有給休暇を取れないような人や、遅くまで働く人で二重保育の費用が払えない人にとっては、認証保育園に行かざるを得ないだろう。 認証保育園の保育料が高くても、二重保育のコストを考えれば、かえって安くなる。そして、認証保育園の保育士の待遇は先の章で書いたレベルだ。
 それでは、例えば自営業の飲食業や弁当屋、美容院などで働く人たちはどうだろう。従業員を雇う余裕も無く、夫婦でギリギリやっている人や、 父子家庭で父親がいわゆる典型的な男性サラリーマンの働き方をしている場合は、休日保育もあり、 子どもを深夜まで預かってくれるベビーホテルに預けざるを得ないだろう。そしてそこで働いている保育士の労働条件は非常に厳しい。
 簡単に言ってしまえば、労働条件に恵まれた親を持つ子どもほど、公費がいっぱい投入され>206>た恵まれた保育園に行きやすいし、 そこで働いている保育士も恵まれている。親の労働条件が厳しくなるほど、子どもは環境的に劣る保育園に行かざるを得ず、 さらにそういう保育園では保育士も劣悪な労働条件で働いているという構造になっている。

■書評・紹介

■言及


*作成:北村 健太郎
UP: 20100822 REV:
子/育児  ◇家族  ◇女性の労働・家事労働・性別分業   ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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