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『雇用構造の転換と新しい労働の形成
――大失業時代における非営利協同、ワーカーズ・コープの展開』

大黒 聡 20030301 こうち書房,251p.


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■大黒 聡 20030301 『雇用構造の転換と新しい労働の形成――大失業時代における非営利協同、ワーカーズ・コープの展開』,こうち書房,251p. ISBN-10: 4876475962 ISBN-13: 9784876475964 2625 [amazon] ※

■内容(「MARC」データベースより)
雇用制度が構造的に変化を起こし、新たに形成されつつある制度によって失業等の諸問題が発生しているとの認識に立ち、ワーカーズ・コープや高齢者協同組合等の例を取り上げ「新しい働き方」を提示する。

■著者略歴(「BOOK著者紹介情報」より)
大黒 聡
1947年、岡山市生まれ。神奈川大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、桜美林大学経済学部非常勤講師。専攻は、社会政策・労働経済学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次
はじめに
 1.悪化する雇用状況
 2.「新しい働き方」としてのワーカーズ・コープ
 3.ワーカーズ・コープ発展の背景
第1章 雇用構造の変化
 第1節 今日の雇用状況の特徴
 第2節 雇用構造変化の方向
 第3節 「日本的雇用制度」とその変化
第2章 雇用の構造的変化と労働者の対応
 第1節 雇用構造変化の特徴
 第2節 労働組合の対応
 第3節 ワークシェアリング
第3章 新しい働き方――ワーカーズ・コープ
 第1節 仕事起こしと労働者
 第2節 ワーカーズ・コープ
 第3節 ワーカーズ・コープと労働の未来
第4章 高齢者協同組合
 第1節 高齢社会と高齢者
 第2節 高齢者協同組合の設立
 第3節 高齢者協同組合への加入と期待
終章 現在と未来
 第1節 非営利セクター
 第2節 課題と展望
附論1 フリーアルバイターの増大と労働意識の変化
 第1節 フリーアルバイターの増大
 第2節 若年層の労働意識の変化
 第3節 フリーアルバイターへの沈潜
附論2 「公益」と非営利=協同の事業
 1.公益=公共性とは何か
 2.「市場の失敗」と公益事業
 3.公益事業の転換――政府の失敗
 4.非営利=協同の事業が提供する「公益」
あとがき
参考資料・参考文献目録
人名・事項索引

■紹介・引用

 近年、中途退職者や定年退職者、主婦などによって従来のものとは異なった店や企業が作られ始めている。「新しい働き方」と称されるそれらは、従来のものとどこが異なり、何が違っているのであろうか。(p.9)
  ↓[……]
 以上三つの例を紹介したが、今日このような形での事業が増加してきている。この新しいスタイルの事業に共通していることは、@ひとつの想いをもった事業であること、A想いをもった者自身が働いていること、B資金は自分たちで出し合っていること、である。[……]しかし、ここに提出した例が「起業者」や「ベンチャー」と明確に区別するものは、企業設立が営利を目的としていない、ということである。そして、「人を雇わない」ということでもある。参加する人々はすべて等しく出資者であり、したがって経営者であり、同時に労働者でもある。このようなスタイルの事業体を「ワーカーズ・コープ」、あるいは「労働者協同組合」という。
 ワーカーズ・コープが、組織として営利企業と異なる点は、協同組合(ワーカーズ・コープは協同組合に含まれる)が人的結合体、すなわち「人」が集まった組織であり、資本構成体である株式会社(営利企業の代表である)、つまり「かね」の結合ではない、ということである。(p.11)


 名称に関して、「生産」という用語が入るケースがないわけではないが、今日ほぼ「労働者協同組合」という名称に統一されているようである。個別的には、「労働者協同組合」という名称の団体が日本に存在するから、一般的には「ワーカーズ・コープ」、「ワーカーズ・コレクティブ」などと呼ばれている場合が多い。その理由として、従来の「労働者生産組合」などとは異なって非組合員を雇っていないか、あるいは雇っていたとしても限定されていること、業務分野も製造業だけではなく、サービス業を含んでいることがあげられる。なお、本書では一般的な名称として「ワーカーズ・コープ」としたい。なお、「ワーカーズ・コープ」と「ワーカーズ・コレクティブ」には本質的な違いはなく、とくに「ワーカーズ・コレクティブ」と名乗る場合、そこに集まっている労働者(ワーカー)の直接民主主義をより強調しようとする意図が見られる。
 以上のように、現在「労働者協同組合」、「ワーカーズ・コープ」、「ワーカーズ・コレクティブ」などと呼ばれるものには、本質的な違いは少なくとも本書で論ずる範囲においては存在しない。それらに共通する形態的特徴は、@労働者によってつくられる、A労働者によって事業活動が行われる、Bその事業は主として生産的事業である(近年ではサービスも含めて考えられているが)、C協同組合的組織である、 >114> などといったところにある。(pp.113-114)


運営原則:民主主義
事業:「非営利」  (p.116)
利益:「共益」 →「社会的有用生産」の思想と結びつく
運動:「社会的運動との結合」  (p.117)


 最後にもう一つだけつけ加えておきたい。それは、ワーカーズ・コープが「労働」を見直すものとなっている、ということである。ワーカーズ・コープにおける労働は前述したごとく強制と搾取のない労働であり、言い換えれば労働者の自主的・自発的な労働である。それは労働 >118> 者が経営する、経営と労働とを一致させようとしている点にもみられる。このことは、労働を「苦痛」から「喜び」に変えるものでもある。本来つくり出す、生み出す働きを持つ労働は、したがって人間が「生きる」ということに直接的に結びつく、より主体的な行為であり、自己実現であったはずである。しかし、資本主義的生産体制の下で労働者は労働力の販売者となり、資本に従属し、その指揮・監督の下で働く受動的地位に貶められたのである。自主的・主体的な労働を前提とするワーカーズ・コープにおいては、原理的に労働の本来の意味を取り戻すものである。とはいえ、受動的労働に慣れてきた労働者にとって、ワーカーズ・コープが自動的に労働のあり方を変えるものではないこともまた確かであるが。(pp.117-118)


 ワーカーズ・コープの第三の意義は地域づくりである。(p.135)


 第四の意義は、ワーカーズ・コープが産業構造の民主的転換を進める力となり得る、ということである。(p.136)
  ↓[……]
 ワーカーズ・コープは非営利=協同の事業体であり、そこに内在する理念、すなわち事業運営においては民主的運営、自主管理的労働、労働と経営の一致など、そして事業目的に対する理念の共有は、営利企業の利潤原理とは異なった事業体の存在を示すものである。このような事業体の発展は、働くもの、生活する者が中心となる新しい産業民主主義の基本構造を形成する力となり得るであろう。(p.137)


 最後にワーカーズ・コープが労働組合運動の強化にも寄与するのではないか、という点である。(p.137)


 そのような意味において、ワーカーズ・コープは明らかに未来を指し示しているように思える。それは、ワーカーズ・コープが仕事起こしをし、人々に働く場を創り出していく、というだけでなく、営利優先・大量生産=大量消費社会を転換させ、自然と環境を保護する中で豊かな生活を過ごすことのできる社会の成立をも射程に入れた運動であり事業である、というところに由来する。雇用不安が広がりつつある状況の下で、労働者が選択すべき方向はまさしくこの方向である。(p.205)


克服されなければならない、あるいは検討すべき課題:
@経営の確立
Aネットワークの形成
B民主的運営を確保するための課題
C教育・訓練制度の整備
D法制上の問題
E労働組合との関係
F公共セクターとの関係
(pp.206-207)


 ワーカーズ・コープは今日数多く設立され、また活発な活動を展開している。その意義も高く評価できるものではあるが、しかしその実態を克明に検討してみると、事業規模は小さく、事業分野もサブセクターに集中しており、労働内容等も必ずしも営利企業より優位にあるとは言い難く、いまだ経済体制を左右するものとなっていないことは明らかである。ここに今日的意義と同時に今日的限界も存在する。克服されるべき課題としてあげられた点は多く、ワーカーズ・コープの前途が多難であることを示している。だがしかし、社会は明らかに変化の方向を示しており、それはワーカーズ・コープの方向とも一致しているように思われる。(p.207)

■書評・言及
[……]

*作成:村上 潔(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
UP:20071226
ワーカーズ・コレクティブ  ◇労働  ◇日本における働き方/働かせ方  ◇BOOK
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