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『フリーターという生き方』

小杉 礼子 20030315,勁草書房,192p. 2000

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last update: 20151022

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■小杉 礼子 20030315 『フリーターという生き方』,勁草書房,192p. 2000
・この本の紹介の作成:金原由実(立命館大学政策科学部4回生)

■執筆者紹介

小杉礼子
1975年 東京大学文学部卒業
 現在 日本労働研究機構キャリア・ガイダンス研究担当、主任研究員
 主著 「自由の代償、フリーター 現代若者の就業意識と行動」 日本労働研究機構

■目次

はじめに
第一章 フリーターとは 
1.フリーターの定義
2.フリーターの数
3.フリーターの年齢
4.フリーターの学歴
5.フリーターの比率と地域
6.フリーターの類型
第二章 就職できない
1.新規学卒厳選採用とフリーターの増加
2.新規学卒労働市場の質的変化
3.高校生の就職プロセス
4.就職からフリーターへ
5.雇用慣行の変化と新規学卒採用
6.若年失業とフリーター
第三章 就職しない
1.決めることの先のばし
2.「やりたいこと」へのこだわり
3.フリーターを選ぶ理由
4.自由な時間と気楽な人間関係
5.費用をまかなえない家計
6.フリーターを選ぶ高校生の生活
第四章 大卒フリーターと正社員への移行
1.大卒無業・フリーターの増加
2.正社員への移行
3.無業・フリーターと大学属性
4.無業・フリーターと就職活動
5.インターネット時代の落とし穴
6.卒業四年目までの就業状況の変化
第五章 フリーターの仕事と職業能力
1.フリーターの仕事
2.職業能力の獲得とキャリア形成
3.キャリア形成の方向
4.フリーター経験と職業能力形成
5.現実の就業機会との接点の認識
6.キャリア形成・能力開発上の問題点と対応策
第六章 諸外国のフリーター
 1.フリーターは日本だけの問題か
 2.大学卒業直後の就業状況
 3.卒業四年目の就業状況
 4.キャリア形成と意識の比較
 5.日本の大卒者のパートタイム・有期限雇用の問題点
第七章 「学校から職業への移行」の変化
 1.新規学卒採用の変化
 2.学校から職業への移行
 3.学校から職業への移行の実態
4.無業・非正社員からキャリア形成の問題点
 5.キャリア探索期間としての意味
 6.正社員へ移行した後の新規学卒就職者との差
 7.フリーターになりやすい層とフリーターから離脱しにくい層の存在
 8.必要な対応策
補論 フリーター時代への対応
 1.雇用多様化時代の仕事選び
 2.フリーターから「はじめの一歩」
 3.仕事の世界からのメッセージを
 4.常識でなくなった「就職」
 5.高校生の就職難への対応

文献
終わりに

■引用

はしがき
 多様な若者の姿が「フリーター」という言葉の中に入り混じっている。フリーターがなぜ増えているのか、はたして問題なのか、大人たちはどうしたらいいのかを考える必要がある。最近になって、若者と働くことをめぐる議論が急激に広がっている。企業社会の問題が、若者の厳しい現状を生んでいる視点がある。また学校と社会をつなぐ接点も問題になっている。


第一章 フリーターとは

1.フリーターの定義
 「フリーター」という言葉は、1980年代後半、アルバイト情報誌『フロム・エー』によって造られ、広められた言葉である。これからフリーターの問題を考えるために、誰のことをフリーターと呼んでいるのかを限定する。本書での定義は、「15〜34歳で学生でも主婦でもない人のうち、パートタイマーやアルバイトという名称で雇用されているか、無業でそうした形態で就業したい者」を指す。(p.1-3)

2.フリーターの数
 『労働白書』(2000年)では、総務省の「就業構造基本調査」(1997年)を用いて、先に見た独自の定義に従うと、およそ151万人と推計している。また性別的には女性が6割前後と多い。(p.3-5)

3.フリーターの年齢
 年齢別に見ると、フリーターの中で最も多いのは20代前半である。また、フリーターになる意識、そこから離脱しようとする意識は、男女で大きく異なっている。(p.5-7)

4.フリーターの学歴
 文部科学省では毎年、高校や大学・短大等の卒業生の進路状況を全国的に調べて発表しているが、その進路の一つとして、就職も進学もしない「無業」の数も報告されている。2002年3月卒業者では、高卒の無業者は14万人で卒業者の約10%を占める。短大卒では3万人で卒業者の19%、大卒では12万人で卒業者の22%となっている。卒業時点で「無業」であったり「一時的な仕事」に就いた場合、ここでいうフリーターになっている可能性は高い。そして、高学歴者はいったんはフリーターになっても、短期のうちにフリーター市場から退出している可能性は高い。これに対して、学歴の低い者、特に高校中退を含む中学卒業の学歴の場合、長くフリーターでいつづけていると考えられる。(p.8-11)

5.フリーターの比率と地域
 フリーターの比率は地域によって大きく異なる。比率が高いのは沖縄県、東京都、京都府、埼玉県、大阪府、神奈川県などである。逆に低いのは、石川県、福井県、富山県、長野県、愛媛県等となっている。フリーター比率は首都圏、関西圏で多い。フリーターは都市に集中する傾向がある。こうした大都市圏では、まずフリーターとして働く場、アルバイト・パートの機会が多いことが一つの要素として考えられる。逆に低い県を見ると、地場の製造業が比較的堅調であるなど産業基盤との関係もあると考えられる。(p.11-12)

6.フリーターの類型
 どうしてフリーターになったかという主観的な観点から、フリーターの類型分けをする。大きく三つの類型に分かれ、「モラトリアム型」、「夢追い型」、「やむをえず型」がある。(p.12-15)


第二章 就職できない

1.新規学卒厳選採用とフリーターの増加
 「やむをえず型」フリーターの多くは、就職試験を受けたものの内定を得られなかったためにフリーターになっている。その背景にあるのは、「土砂降り」とか「氷河期」とか言われてきた学校卒業時点での就職難であり、企業側の新規学卒に対する厳選採用の姿勢である。実際、90年代半ば以降、新規学卒者に対する求人は大きく減り、各社は厳選採用を続けている。(p.16-20)

2.新規学卒労働市場の質的変化
 新規学卒者への求人は激減すると同時にその求人の内容も変化した。高校生への求人は、数が7分の1になっただけでなく、大規模事業者やホワイトカラーの求人が特に大きく減り、その質が一変している。(p.21-22)

3.高校生の就職プロセス
 高校生の就職は、学校の斡旋による場合がほとんどである。まず、各企業は職業安定機関で求人内容の確認を受け、その上で独自に選んだ高校にこれを持参したり郵送するなどして伝達し、学校推薦を依頼する。新聞の求人広告などによる生徒への直接の伝達は、最近までは卒業直前の2月まで制限されていたので、実質的には学校推薦以外での応募の機会はほとんどない。また、実業企業からは卒業生からの情報が多く、仕事の内容や職場の近況についても学校側は多くの情報を持っており、応募する生徒の調整段階で適正面を加味することもできたし、応募する生徒にも伝えることができた。近年、新卒者の定着率が下がる傾向があるが、就職先についての情報の不足からくるミスマッチもその一因になっていることが考えられる。(p.22-24)

4.就職からフリーターへ
 高校生への求人が質量ともに大きく変化している中で、これまでの慣行を維持した就職斡旋が続けられている。このひずみがフリーターを生む一つの要因になっているのではないか。実質的な求人の学校間格差が広がる中で、成績と出席による配分のルールが各学校の中で貫かれており、その結果、特定の学校では数多くの生徒が就職希望をあきらめ、進路希望を変えている。そしてその多くがフリーターに向かっていると思われる。(p.25-29)

5.雇用慣行の変化と新規学卒採用
 企業の新規学卒者に対する採用意欲が低下している原因に景気の悪さがある。景気要因以外に、構造的な変化からくる要因がある。高学歴者への代替は、新規高卒者のみの問題だが、非正規雇用への代替は新規学卒採用全体にかかわる問題である。(p.29-32)

6.若年失業とフリーター
 雇用慣行の変化を背景に、現在、わが国の若年層の失業状況は最悪の水準になっている。全体の失業率もこれまでにない高さで推移しているのだが、15〜24歳層での最近の上昇は急激である。失業している若者はどんな若者か、性・学歴別に検討する。若者の可塑性の高さや訓練可能性の高さを評価して、若者にチャンスを与えてきた労働市場が、むしろその職業能力の低さ、訓練の必要性の大きさにその入り口を閉ざしつつあるのではないか。(p.32-33)


第三章 就職しない

1.決めることの先のばし
 先の高校生調査では、フリーターになる高校生の約半数は最初は就職希望だった。逆に言えば、残りの半数は就職希望ではなかった生徒である。学校卒業時点での就職が非常に困難になったことがフリーター増加の一番の原因だが、一方にはこうした労働市場の要因とは別のところでフリーターを選んでいく若者たちの心理がある。(p.34-37)

2.「やりたいこと」へのこだわり
 インタビューに応えた若者の4割までが「やりたいこと」という言葉を使って、フリーターになった理由を話し、あるいは他のフリーターについて評価した。「やりたいこと」があるフリーターは共感できる、いいフリーターであるが、それがなくてフリーターを続けるのは悪いフリーターであるといった、「やりたいこと」の有無でフリーターを二部する捉え方は多くの若者に共通して見られる。「やりたいこと」へのこだわりは、フリーターを選ぶ心理として重要なものだと思われる。(p.37-40)

3.フリーターを選ぶ理由
 なぜフリーターになるのかという質問への回答も、やはり「他にやりたいことがあるから」という答えが一番多い。フリーターを選ぶ意識を理解するには、一番大きな選択理由だけを見ていたのでは不十分である。むしろ、心の状態からいえば、いくつかのことが頭にあってフリーターへの道を選んでいるほうが普通だろう。高校生がフリーターを志向する理由は、本人意識に沿ってみていけば、「自由・気楽志向」「進学費用」「就職難」「勉強嫌い」「やりたいこと志向」の五つの軸に整理できる。(p.40-45)

4.自由な時間と気楽な人間関係
 「自由・気楽志向」は、本人がよく語る理由ではないが、多くのフリーターになる高校生たちが共通して感じている理由である。「自由・気楽」な働き方としてフリーターを選ぶ意識は、フリーターを肯定的に捉えると同時に、正社員をあるいは働くことそのものを忌避する傾向につながっている。この傾向は正社員としての責任、あるいは、一人前の職業人として社会的役割を負っていくことを避ける意識だろう。ずっと避け続けるというより、先のばしするという事で、時間の自由があり、人間関係が気楽で、気軽に関係を変えられる、そうした状況をしばらく続けたいということだろう。(p.45-48)

5.費用をまかなえない家計
 フリーター本人へのヒアリング調査では、専門学校への進学費用を稼ぐために、期間限定でフリーターをしているという若者たちに出会った。フリーターにならざるを得ない状況から、むしろ自分の手で未来を切り開くべくフリーターを選んでいる若者たちもいる。フリーターを選択する高校生の背景には、いくつもの理由が絡み、個々の若者はその一面しか語らない。単純な切り口では理解しきれない、幾十に重なった理由からのフリーター選択なのである。(p.48-49)

6.フリーターを選ぶ高校生の生活
 高校生がフリーターを選ぶ意識を理解するために、さらに、フリーターになる予定の生徒たちの高校時代の生活についてみてみる。高校生とはいえ、彼らのアルバイト収入は労働時間に応じて5万円前後になっているだろう。少なくない可処分所得を持つ彼らは、街の若者文化を担っている若者たちでもある。学校は欠席や遅刻が多く学校にうまく適応していない面もあるが。その分、街の文化には適応し、その発信者となっている者もいる。彼らが自分の将来の方向を、街の若者文化に重ねるのもごく自然な流れで、「やりたいこと」として、ダンスやバンドなど若者文化の担い手となることをあげる者が多いのは不思議ではない。(p.50-53)


第四章 大卒フリーターと正社員への移行

1.大卒無業・フリーターの増加
 大学生でも、卒業時点で就職も進学もしない無業者が増加している。急増し始めたのは1990年代初めの景気後退期である。無業者増加の背景要因として、まず考えられるのは新規大卒者への労働力需要の低下である。(p.54-55)

2.正社員への移行
 大卒者はフリーターになったとしても短期のうちにフリーターをやめている可能性がある。卒業後に無業やアルバイト・パートなどに就いた者は、その後、どの程度正社員になっているのだろうか。大学卒業時点で無業や非正社員であった者のうち、男性ではおよそ3分の2が、女性では半数が正社員に変わっていた。(p.55-57)

3.無業・フリーターと大学属性
 高校生がフリーターになる背景として、就職できないという要因の大きさを指摘したが、大卒でも同様に、就職の難しさがフリーター増加の背景にあることは間違いないだろう。(p.57-60)

4.無業・フリーターと就職活動
 現在の大学生の就職活動は、高校生とは異なり、自由応募が基本になっている。自由応募を基本とする就職活動では、本人の行動が就職の成否を決める大きな要素になる。卒業直後に無業やフリーターになる場合と正社員になる場合とでは、本人の就職活動のレベルに違いがあるのではないか。(p.60-65)

5.インターネット時代の落とし穴
 誰でもアクセスできる公平さが、逆に、インターネット経由の採用・応募の問題点となる。インターネット時代の就職こそ、一方での、大学の就職支援部門や教員との相談が重要になる。多くの情報からどう自分に必要な情報を取り出すか、その軸を確認する作業は相談を通じた方がしやすいし、また、インターネットには乗りにくい現実的な企業情報を持っている就職支援部門は多い。自由応募による個人の責任のもとでの就職活動こそ就職支援部門の存在が重要になる。(p.65-67)

6.卒業四年目までの就業状況の変化
 大卒の無業や非正社員を考えるとき、今問題にしなければならないのは、専門職養成型の大学教育修了者ではなく、一般に多く民間企業のホワイトカラーとして採用されてきた学部系統の卒業者で、卒業と同時に就職せずに、無業やアルバイト・パートなどに就いているケースである。民間企業ホワイトカラーのキャリアは、企業に採用されてから始まる。採用されなければ、キャリア形成の入り口にも立てないことになる。大学卒業時点で無業やフリーターになることの問題は、このことと大きい。(p.67-75)


第五章 フリーターの仕事と職業能力

1.フリーターの仕事
 アルバイト・パートでの就業は、全体としては、他の働き方に比べて低賃金の働き方である。さらに、賃金の低い仕事は大まかには必要な技能のレベルが低い仕事だろう。就業を通じての職業能力の伸びは、限定的なものであると考えられる。(p.76-78)

2.職業能力の獲得とキャリア形成
 フリーターであることの第一の問題は職業能力の獲得が遅れることだと思われる。若年期は、新しい知識や技能を修得しやすい可塑性に満ちた能力開発の好機である。新規学卒で正社員になっていれば、入社後の数年は、企業内での実務経験や教育訓練を通して急速に職業能力を高めていく時期だといえる。長期雇用を前提にした日本の雇用慣行のもとでは、企業主導での職業能力開発が活発に行われてきた。この過程で職業への意識が裏づけもされてくる。(p.79-81)

3.キャリア形成の方向
 多くの者が将来のキャリアを意識し、探り、方向を捉えようとしている。彼らのフリーター期間には、キャリア形成のための試行錯誤期間としての意味が見出せる。しかし、「夢」がファッションにとどまり実現しようとする行動もなく意欲も感じられない者、モラトリアム状況を続け、あるいは新たにモラトリアム状況に陥り、消極的ながら現状を肯定している者など、キャリア形成という面では停止状況にある者も少なくない。(p.81-90)

4.フリーター経験と職業能力形成
 「いろいろなことを経験して自分にあった仕事を見つけたい」といった言葉は多くのフリーターから聞かれる。その経験が希望職業に関わる能力形成にどれだけ貢献しているのか。(p.90-93)

5.現実の就業機会との接点の認識
 自ら道を切り開いていけるだけの現実的「したたかさ」「たくましさ」をもってフリーターをしているならキャリア形成上の問題は少ないだろう。これに対して、こうした行動や意識がなくフリーターを続けている者では「安易さ」「甘さ」が感じられ、将来が危惧される。(p93-100)

6.キャリア形成・能力開発上の問題点と対応策
 フリーター期間を経て職業的方向が明確化しているものは多い。将来に向けてのキャリア形成を意識し、「夢」に歩を進めている者もあれば、方向転換して違う道を歩き始めようとしている者もいる。こうした者にとっては、フリーター期間はキャリア形成上重要な通過点となるだろう。しかし、一方で、「夢」に向かう具体的な活動や努力が欠けている者も見られる。こうした場合、フリーター期間のキャリア形成上の意味は薄い。対応策としては、まず、フリーター期間を無為に長引かせないために、若年期の職業キャリア形成上の重要性を意識させること。この時期の職業能力形成の重要性を認識させること。具体的には、在学中の職業経験を含むキャリア教育の充実である。(p.100-102)


第六章 諸外国のフリーター

1.フリーターは日本だけの問題か
 日本の若者のパートタイム雇用者や有期限雇用者の比率は、他のOECD諸国と比べると低い。学校卒業後、パートタイムやアルバイト形態で働く若者は、欧米の方が明らかに多いのである。しかし、欧米にはフリーターという言葉は生まれていないし、若年期のパートタイムや有期限雇用を問題視した議論は聞こえていない。(p.103-106)

2.大学卒業直後の就業状況
 日本の大卒者では大学卒業直後に、おおむね6割が正規雇用、すなわち期限の定めないフルタイムの雇用形態で働いていた。欧米諸国では、卒業直後の状況がはっきりしない者が多い。(p.106-109)

3.卒業四年目の就業状況
 日本の大卒者は、国際的に見れば、卒業直後から「雇用期限に定めないフルタイム雇用」に移行する者が非常に多いし、また、その雇用先に定着する者が多い。とりわけ男性でこの傾向が強い。この背後にあるのは、新規学卒一括採用と長期雇用に特徴付けられる日本の企業の雇用慣行である。(p.109-112)

4.キャリア形成と意識の比較
 大学卒業直後の「パートタイムまたは有期限雇用」は、欧州諸国の方が日本よりずっと多かった。なぜ日本でこれだけ問題にされているのか。これは、「パートタイムまたは有期限雇用」の内容が異なり、そのキャリア形成上の意味が日本と欧州諸国では異なるからであろう。(p.112-121)

5.日本の大卒者のパートタイム・有期限雇用の問題点
 日本の大卒者が十数万人という規模で就職も進学もしない無業者として卒業していく事態は看過すべき問題ではなく、社会人として対応を考えるべき問題であると思う。欧州の大卒者の方が卒業直後に無業やパートタイム・有期限雇用者になる比率は圧倒的に高く、さらに、卒業四年目でもその比率は日本より高い。しかし、欧州の場合は大学教育と結びついた専門職に移行する過程での無業やパートタイム・有期限雇用者である。日本の事務や販売職からスタートするキャリア形成への移行とは異なる。専門職としてのキャリア形成には雇用形態の影響は小さい。(p.121-123)


第七章 「学校から職業への移行」の変化

1.新規学卒採用の変化
 日本型の雇用慣行が大きく変化している。雇用の型を「長期蓄積能力活用型」「高度専門知識活用型」「雇用柔軟型」の三つにわけ、この組み合わせをそれぞれの企業で工夫していくという考え方である。こうした雇用のあり方の変化を背景にして、今、新規学卒者への求人は減少を続けているのだし、また、アルバイト・パートの求人が増えているのである。(p.124-126)

2.学校から職業への移行
 「学校から職業への移行」とは、一日の大半を学校で学ぶことに当てている状態から、職業人として自立した一人前の状態に変わることを指す。(p.126-130)

3.学校から職業への移行の実態
 在学中の者を除いた対象者のうち、卒業直後に正社員になった者はおよそ65%を占める。これを学歴別に見ると、中途退学の者では特に正社員比率は低い。卒業者では学歴が低いほど正社員になっていない。中途退学では新規学卒採用の対象にはならず、また、学校による就職斡旋サービスの対象でもない。(p.130-133)

4.無業・非正社員からキャリア形成の問題点
 無業はともかくとして、非正社員は就労しているのであって、むしろ新しい形態の働き方として認知していくべきものではないかという見方もあろう。実際、若いアルバイト・パート労働者抜きには成立し得ない産業もある。あるいは、日本型雇用に縛られない自立した労働者という見方もできるし、ファッションとか音楽とか、ゲームや漫画、新規学卒就職しなかった若者たちこそが、日本から世界に発信する新しい文化を担っているという側面もある。しかし、冷静に現実を捉えたとき、これまでの新規学卒就職に乗らないキャリアは、十分魅力的なのだろうか。これまでほとんど看過されてきた就職の枠外のキャリアであるだけに、その現実を正しく捉え、問題点を明らかにして、社会として対応していくべきものを見極める必要があろう。(p.133-136)

5.キャリア探索期間としての意味
 無業やフリーター期間がキャリア探索のために有効であったかどうか。キャリア探索とは、自分の今後の職業的方向性を探る活動、すなわち「やりたいこと探し・試し」である。この「やりたいこと」への志向という理由は、本人にとっても周囲の者にとっても納得しやすい理由となっている。(p.136-138)

6.正社員へ移行した後の新規学卒就職者との差
 フリーター経験は離脱後もハンディになるのか。フリーター経験後に正社員になった場合と、離学当初から正社員で定着してきた場合の労働条件等にどの程度差があるのか比較する。(p.138-141)

7.フリーターになりやすい層とフリーターから離脱しにくい層の存在
 一定の条件者の者がフリーターになりやすく、また、一定の条件の者はフリーターから離脱しにくいという、社会的な不平等が存在する。フリーターになるときの学歴、家庭背景、そして、離脱にあたっての性別という要素は本人の意識や行動とは別の次元で、彼らをフリーターという低賃金労働者に導き、そこに押しとどめる要因となっている。こうした社会的背景を持つ存在としてフリーターを認識するとき、社会的な対応策を講ずることが当然必要となる。(p.141-146)

8.必要な対応策
 パートタイム雇用の均衡・均等待遇化の議論が進んでいることを考えると、今後は有期限雇用の機会により職業能力の獲得につながる仕事が増えること、あるいは、長期雇用に入り口になることも考えられる。長期的には、次世代の社会の構成員をどのように育てるのか、この社会を継承し発展させてくれる若者たちをどのように育成するのか、学校ばかりでなく産業界も行政も、あるいは、親たちも共同して新しい枠組みを作っていく段階である。(p.147-151)


補論(p.152-183)

注(p.184-187)

文献(p.188-190)

終わりに(p.191-192)

コメント[執筆者の希望により省略]


UP:20040207
労働  ◇2003年度受講者宛eMAILs  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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