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『人格障害論の虚像――ラベルを貼ること剥がすこと』

高岡 健 20030110 雲母書房,235p.


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高岡 健 20030110 『人格障害論の虚像――ラベルを貼ること剥がすこと』,雲母書房,235p. ISBN-10: 4876721300 ISBN-13: 978-4876721306 \1890 [amazon][kinokuniya] ※ m,

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小学校での児童殺傷事件や神戸の少年事件など、社会を揺さぶるような犯罪が起こるたびに、耳慣れない病名がメディアを飛び交う。AD/HD、外傷後ストレス障害、アスペルガー症候群。精神医学では人格障害と呼ばれる類のもので、海外から続々と輸入されている。これらの診断が裁判のゆくえを左右し、犯罪者の心理を説明するために使われる。本書は、輸入精神医学がもたらした怪しげな病名を検証し、人格障害というラベルを貼られた診断の正体をあぶりだしていくという、画期的な書物である。
人格障害という診断の歴史は、50年代のアメリカからはじまったらしい。郊外住宅地における幸せな家庭という神話を押しつけられた子どもたちの多くが、60年代に入ると、社会から脱落したり、薬物中毒や性的犯罪に走ったのだ。そこで、アメリカ精神医学界が彼らに貼りつけたラベルというのが「人格障害」であった。

日本社会では70年代に親から子への虐待殺人が相次ぎ、反対に両親殺害事件も起った。そこへ人格障害の概念が輸入され、広く受け入れられることになったという。なぜかというと、人格障害が家庭や学校などの社会を脅かさず、「一切を、個人の病理へと還元していく方法」であり、多くの人にとって都合がよかったからだ。

著者によれば、人格障害とされるものは実はどれもあいまいで、その症例は、しばしばモラトリアム期の不安や「自分探し」の行動と重なり、即座に精神病と断定することはできない。それなのに「社会全体の安心を目的として、特定の個人を葬り去るために貼りつけられるラベル」として、人格障害は機能してきた。

犯罪を起こすような「異常者」と、自分たちのような「正常者」はちがう、と言い切れるだろうか。著者は、それがそれほど自明なことではないと言っているのだ。(金子 遊)

(「BOOK」データベースより)
AD/HD、アスペルガー症候群、PTSD、境界性人格障害…社会を揺さぶる事件が起こるたび、耳慣れない「病名」がメディアを飛び交う。これら輸入精神医学が貼りつけるラベルをていねいに剥がし、人格の危機形成の考察から、独自の人格障害論を打ち立てた労作。

(「MARC」データベースより)
AD/HD、PTSD…社会を揺さぶる事件が起こるたび、耳慣れぬ「病名」がメディアを飛び交う。これら輸入精神医学が貼りつけるラベルをていねいに剥がし、人格の危機形成の考察から独自の人格障害論を打ち立てる。

■目次

はじめに
第一部 人格の危機はどう形成されるか――育つことと育てることの境界
第1章 「偽りの家族」と「偽りの自分」の生成
 ブリングアップとブロートアップ/一九五〇年代のアメリカ/『家族という神話』/『十七歳のカルテ』/スザンナの道程/家族神話の結論/「偽りの家族」と「偽りの自分」
第2章 「偽りの家族」と「偽りの自分」――日本の場合
 日本の住宅建設/nDKとnLDK/高校生首切り事件/転換点としての一九七〇年代早期(1)/転換点としての一九七〇年代早期(2)/一九七〇年代中期の虐待殺人/教育殺人/一九七〇年代の集大成としての良心殺害事件/『囚人狂時代』のT
第3章 人格障害概念の輸入
 境界性(ボーダーライン)人格障害概念の輸入/境界性人格障害の両親/境界性人格障害の少女/診断とは何か/境界性人格障害の診断/境界性人格障害の「治療」/素朴な善意?/さまざまな人格障害概念の輸入(1)/さまざまな人格障害概念の輸入(2)/さまざまな人格障害概念の輸入(3)/人格障害概念の輸入がもたらしたもの
第4章 「診断」と「治療」への復讐
 差異化強迫/拒食症という「自分探し」/中流家庭の均一性から生じる恐れ/拒食症の「治療」論争/拒食症・過食症と人格障害ののラベル/過食症の「自分探し/「自分探し」の封殺/孤立恐怖/旧い価値観としての孤立恐怖/「診断」と「治療」への復讐(1)/「診断」と「治療」への復讐(2)/「診断」と「治療」への復讐(3)
第5章 観念の上での両親殺害
 悪意の循環は停止可能か/『母を殺した少年』/父性の復権論の錯誤/祖母を殺して自殺した少年/開成高校生事件/『アブラハムの幕舎』
第6章 「家族解散」論
 「家族解散」の発見/『家族解散』という小説/「家族解散」の方法論/『ハッシュ!』の家族/子どもの世代からの「家族解散」/現実の中の『ハッシュ!』/人格障害概念を無効化するために

第二部 人格障害とは何か――ラベリングからコミュニケーションへ
第1章 人格障害論の再構成へ――二つの前提
 人格障害論前史(1)/人格障害論前史(2)/変化する人格障害の臨床像(1)/変化する人格障害の臨床像(2)
第2章 演技性人格障害のなかのコミュニケーション
 歴史的視点からの「ヒステリー」/セントルイスの「ヒステリー」/リョウ子の場合/リョウ子のコミュニケーションと「境界例化」
第3章 反社会性人格障害と行為障害とAD/HDと
 反社会性人格障害/マキ子の場合/拡散・撤収型コミュニケーション/行為障害/AD/HDという診断の乱用
第4章 妄想性人格障害と閉じられた集団
 妄想性人格障害/コウイチの場合/封殺型コミュニケーション/閉じられた集団における見かけ上の人格障害
第5章 境界性人格障害論の再構成へ
 境界性人格障害/ナミ子の場合/境界性人格障害の三段階
第6章 心的外傷(トラウマ)と遺伝子決定主義
 心的外傷(トラウマ)/複雑性PTSD/ハーマンの見解に対する私の見解/外傷・戦争神経症論争の復活/遺伝子決定主義/クローニンジャーの説/クローニンジャーの限界と意義/遺伝子決定主義とのたたかい
第7章 分裂病型(スキゾタイパル)人格障害の内部構造
 もう一つの〈境界状態〉/分裂病型人格障害/ヒカルの場合/分裂病型人格障害の内部構造/〈孤立―受動・過敏〉人格のコミュニケーション/虚像の歴史的成立
第8章 分裂病型(スキゾタイパル)人格障害の外部構造
 アスペルガー症候群と高機能自閉症/テツジの場合/〈孤立―受動・過敏〉人格スペクトラム/「正常」にまで連続するスペクトラム
終章 人格とは何か、人格障害とは何か
 人格とは何か/人格とコミュニケーション/人格障害とは何か

引用文献
あとがき

■引用

第二部 人格障害とは何か――ラベリングからコミュニケーションへ
 第3章 反社会性人格障害と行為障害とAD/HDと
 「AD/HDという診断の乱用
 すでに少し触れたように、行為障害という概念の源流はイギリスにあります。同じものを指して、アメリカでは、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)と呼ぶ場合が多いのです。このことに関連して、イギリスの心理学会は、アメリカで行われているAD/HDの診断の乱用と、それに伴うリタリンという「治療」薬の乱用に追随しないよう、警告を発しています。
 AD/HDは、不注意と多動−衝動性を示す子どもに対して下される診断名です。不注意の中には、「指示に従えず、学業・用事・職場での義務をやり遂げることができない」などが含まれ、多動−衝動性には、「教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる」などが含まれます。
 こういう診断が恣意的に乱用されると、教室での出来事は、何でも子ども個人の病理に帰されることになってしまうでしょう。それは、火を見るより明らかだと思います。その背景には、アメリカの社会病理があります。そして、社会病理を個人に押しつけるという動きの<0152<一環が、AD/HDという診断の乱用にほかなりません。この診断名が乱用されるときには、行為障害の場合にはワンセットにされていたはずの、教育的・社会福祉的支援の必要性が、すっぽりと抜け落ちてしまうのです。
 近年、AD/HDの子どもは行為障害に発展し、さらに反社会性人格障害に陥ってしまう、というキャンペーンが、アメリカを中心に、激しさを増してきました。主として、アメリカ流の精神医学と、それを輸入した日本の精神医学者たちが、そう言っています。たとえば、福島章という人などです。
 しかし、ほんとうはそうではありません。むしろ、AD/HDというラベルを貼られることにより、子どもたちが自分を悪い子だと信じ込むようになってしまうことが、反社会的な行動を惹起してしまうのです。つまり、自己価値の低下です。自己価値の低下とは、文字通り、自分を無価値なものとみなしてしまうことをいいます。自分はどうせ無価値だから、暴力を振るおうが、万引きをしようが、これまでより価値が下がるわけがない、という心理です。このような心理なくして、AD/HDが自動的に反社会的人格障害へ至ることはありえません。」(高岡[2003:152-153])

■言及

◆立岩 真也 2008- 「身体の現代」,『みすず』2008-7(562)より連載 資料,

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※


*作成:岡田 清鷹 
UP:20081017 REV:20090602, 20140825
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