『日本の労働社会学[新装版]』
河西 宏祐 20030120 早稲田大学出版部,231p.
■河西 宏祐 20030120 『日本の労働社会学[新装版]』,早稲田大学出版部,231p. ISBN-10: 4657031015
ISBN-13: 978-4657031013 3780 [amazon]
■内容(「BOOK」データベースより)
"人間"を基本概念にすえて労働現象を分析するための独自の方法論を提唱する。
内容(「MARC」データベースより)
「人間」を基本概念にすえて、労働現象を分析するための独自の方法論を提唱する。1979年から約20年にわたって発表してきた論文の中から、労働社会学
に関係のあるものをまとめた論集。2001年刊の新装版。
■著者紹介
河西宏祐[カワニシヒロスケ]
1942年神戸に生れ、姫路で育つ。1971年東京教育大学文学研究科社会学専攻博士課程中途退学。
東京教育大学文学部助手。1974年千葉大学教養部助教授。1983年千葉大学教養部教授。1985年文学博士。1994年千葉大学文学部教授に配置換
え。1995年ハイデルベルグ大学客員教授。1998年千葉大学名誉教授。早稲田大学人間科学部教授(現在)。専攻、社会学(経営・職業・労働)
■目次
序章 労働社会学とは何か
T 労働社会学の離陸(1940〜70年代)
第1章 労働社会学と「生活共同体」研究
U 労働社会学の展開(1980年代)
第2章 労働社会学と地域・家族研究
第3章 労使関係史研究の方法
第4章 労働社会学と労使関係研究
V 労働社会学の発展(1990年代)
第5章 日本的労使関係の評価論争
第6章 労働者・労働組合・労働運動の研究動向
W 日本労働社会学会小史(1982年〜1999年)
第7章 日本労働社会学会の誕生まで(1982年〜1988年)
第8章 日本労働社会学会の10年
資料1
資料2
参考文献
初出一覧
あとがき
人名索引
事項索引
■引用
「C定義。したがって、労働社会学とは、労働現象のなかの〈人間〉を研究対象とし、そこにおける〈人間〉の意識・行動の特徴、そしてそれが形成する社会関
係・社会集団・社会組織・社会構造の特徴を実証的・客観的に把握し、その法則性の解明を目指す科学、ということになる。とりあえず、これを労働社会学と定
義しておく。」(p.2)
「もう一点、実証的研究において重要なことは、つねに「当事者の論理」と「研究者の論理」とを区分して考えなければならないということである(河西、
1999、4頁)。まずは研究対象となる当事者が何を考え、どのような意図をもって、どのように行動していたかを、できるだけ当事者に即して解釈し、それ
を資料として析出する作業が必要となる。次に、それに対する研究者としての判断や考察、批判を加える作業が必要となる。熟達した実証研究者の場合には、そ
れが同時に実行できることもあるが、学問上の手続きとしては、この二つの段階を自覚的に区分けしなければならない。(…)」(p.6-7)
「社会学は〈人間〉を直接の研究対象とするのだから、実証的研究の場合、研究資料としては文書資料にとどまっているわけにはいかない。〈生きた人間〉の創
意的な営みを動態的に把握したいのだから、さまざまな調査方法を駆使して、〈人間〉の実像に迫ることが必要になる。調査方法としては、質的調査法として、
聞き取り調査法(インタビュー法)、観察(参与、非参与)調査法、見学調査法があり、量的調査法として質問紙法(アンケート法)調査がある。それぞれに長
所、短所があるが、〈生きた人間〉を直接の研究対象とするのだから、相手の〈人間〉としての尊厳を最大限に尊重して調査をしなければならない。そのこと
は、相手の行動や意識を深層にまで立ち至って十分に深く適切に把握し理解しなければならないことを意味する。その意味では、当然、質的調査法が主にとな
り、量的調査法はその補助的手段となるだろう。(…)」(p.8)
「以上が1970・80年代の日本の労働者像の概観だとして、リストラの猛威、失業率の高騰の下にある1990年代の日本の労働者像はどのように描くべき
なのか。「豊かな労働者」の延長上で描くことが可能なのか、それとも別の文脈での労働者像が必要となるのか、これらの点はまだ混沌としたままである。日本
の労働者像の把握は労働社会学の悲願ではあるが、その多面的な相貌を描くには、あまりにも事例調査が少ない。まだまだ無数の事例調査が必要とされる状況に
あるというのが、率直な印象である。」(p.108)
「社会運動とは、なんらかの社会的な達成目的をもって、その実現のために、主として集団的・組織的な活動を行っているものを指す。個人的な活動を含む場合
があるが、その場合でも、それが社会的な影響、広がりをもっていることが条件となる。労働運動とは、社会運動のなかの、労使関係領域に関する運動のことを
指す。
このように広義に定義すれば、労働運動のなかには多数のものが含まれる。労働者が形成する集団・組織は、労働組合だけではない。労働争議の際の争議団も
あるし、各種のインフォーマル・グループや派閥もあれば、少数者による各種の運動もある。労働問題に関わる研究会や協会などの任意団体もある。また労働者
による文学、絵画、映画、演劇などの文化サークルも労働者の広義の生活向上を目指している。労働者の共済活動を行っている組織もある。組織性をもたない、
単なる集団にとどまる例も少なくない。それが運動を行うところが、新しい市民主義的労働運動の特徴となっている。運動を行うのは集団ではなく組織だという
古い発想にとらわれていると、最近の市民主義的運動の特徴が把握できなくなる。
このように、労働運動に関わる集団・組織は多様であり、その目指す目的も多様である。それらを「目的」と「主体」によって分類すれば、図6-1のように
なる。
以上の広義の「目的」と「主体」のなかでも、労働組合が最も一般的な目的である。実際、研究者が取り扱っている研究対象は、かなり労働組合に限定された
ものになっている。もちろん、労働運動の本来の定義に沿って考えた場合、その研究対象はもっと広げられてよいし、今後は労働運動と広義の社会運動との接点
はかなり強まってくることが予想される。そのような点を留保しつつも、とりあえず、これまでの研究状況の概要をみておこう。」(p.129-130)
「以上、労働者・労働組合・労働運動に関する実証的研究を主として社会学者による作品に限って概観してきた。それを通して導き出される今後の研究課題を列
挙すれば、次のようなものである。
@研究課題の多さにくらべて、社会学者による実証的研究がまだ不足している。この分野への若手研究者の参入が待たれる。
Aとくに運動論に立つ労働運動研究が不足している。運動論は社会学の特性=社会過程の研究が生かせる分野であり、研究の発展が望まれる。
B研究対象が依然として重厚長大産業(とりわけ自動車産業)に偏っている。労働力構成をとってみても分るように、第3次産業の比重の高まりは顕著なのだ
から、より多様な産業を対象とした、多様な実証研究が望まれる。」(p.154)