この本が米国で出版された後、地域を基盤としたシステム・オブ・ケアにおける児童青年精神科医の臨床的役割とリーダーシップの重要性も大きくなってきています。今日では児童青年精神科医が責任者となっているシステム・オブ・ケアのプログラムが数多くあり、その他にも多くのプログラムで児童青年精神科医が中心的な臨床的および指導的役割を担っています。米国児童青年精神医学会American Academy of Child and Adolescent Psychiatry (AACAP)は最近、システム・オブ・ケアのモデルの重要性と、その根拠となるエビデンスを認識する大きなステップとして、地域におけるシステム・オブ・ケアの中での児童青年精神保健の診療基準を公式に採択しました。これはこの分野に関わる人たち全般への指針としても、システム・オブ・ケアの中で働いている児童青年精神科医に対する指針としても重要な意味を持つものです(AACAP, 2006)。
ますます多くの州の子どもサービス機関はシステム・オブ・ケアの原則を厳守していることを表明するようになり、地域を基盤とした介入にも資金を出すようになってきました。しかし、統合された行動保健、発達的、支援的サービスを提供するほんとうに柔軟な方法を目指して、多機関によるシステム・オブ・ケアのモデルを採用し、機関の間の障壁を除去し、混合的資金を使えるようにシステムを完全に改革をした州や地方自治体は、たとえあったとしてもほんのわずかしかありません。米国連邦政府と州政府の予算で運営されるメディケイド制度は(米国でのほとんどすべての公的な精神保健サービスと子どもの精神保健サービスの大半はここから資金が出ている)、まだこのモデルを本格的には採用しておらず、私たちが1990年代にAACAPのシステム・オブ・ケア小委員会で提言したような真の地域を基盤としたサービスの連続体に対する資金と給付は確立されていません(AACAP, 1996; Pumariega, et al., 1997)。これは米国で今後達成されなければならない課題ですが、それを困難にしている大きな問題は、真の精神保健ニーズのレベルに対する考え方の違い、この国での精神疾患に対する相当なスティグマ、既存の精神保健システムの既得権を持った利害関係者(政府機関、民間の保険会社など)と彼らの変化への抵抗などがあります。
日本の臨床家の皆さんがシステム・オブ・ケアのモデルを日本の臨床に取り入れ、日本独自の文化とエコロジーのニーズに合わせて適用し発展させていくことを、私たちは切実に願っています。そうすることによって、皆さんは自動車産業やその他の製造業において成功したように、地域を基盤としたシステム・オブ・ケアを達成することができるものと思います。日本は日本のためだけでなく世界の人々のために、非常にアメリカ的と考えられた制度(しかし停滞して変化に抵抗していた)を取り入れ、アメリカ人(デミング)〔訳注:統計学者のエドワード・デミング(1900?1993)は品質管理の父と言われ、日本の製造業に多大な影響を与え、先進工業国としての基盤を作るのに貢献した〕の概念的原則を修正して応用し、その過程、品質、成果を変えてきました。私たちは本書の日本語版が、地域を基盤としたシステム・オブ・ケアを変革しようとする人たちの創造性を刺激することに役立つことを願っています。日本の子どもたちとその家族、そして米国も含めた世界中の子どもたちとその家族は、皆さんの改革の受益者となることでしょう。
(日本語版への序文よりpp. 4-5)