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『精神障害をもつ人たちのワーキングライフ――IPS:チームアプローチに基づく援助付き雇用ガイド』

デボラ ベッカー・ロバート ドレイク著、大島巌・松為信雄・伊藤順一郎監訳 200411 金剛出版,253p.

last update:20210125

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■Becker. D. R. and Drake, R. E. (2003) A Working Life for People with Severe Mental Illness. New York: Oxford University Press. =200411,大島巌・松為信雄・伊藤順一郎(監訳),『精神障害をもつ人たちのワーキングライフ――IPS:チームアプローチに基づく援助付き雇用ガイド』金剛出版.[amazon][kinokuniya]

■内容

(紀伊国屋ホームページより)
 地域生活に基盤を置いた精神保健福祉が推進される中で、精神障害をもつ人たちの「働くことを含む人生」(ワーキングライフ)へのニーズに応えることが、ますます重要な課題となってきている。本書では、どんなに重い障害をもっていても、本人に希望があれば一般就労は可能であるという強い信念に基づいた「IPS(個別職業紹介とサポート)」による援助付き雇用の実践ガイドラインが、28に及ぶ詳細な実例とともに紹介されている。

■目次

第1部 IPSの概念的・経験的基盤
    *援助付き雇用の概念、歴史的・理念的基盤
    *IPSの理論的基礎
    *援助付き雇用へのIPSアプローチ序説
    *IPSの研究
第2部 援助付き雇用の実践ガイドライン
    *IPSの概要
    *地域精神保健機関におけるIPSの構造
    *IPSの始動
    *就労に基づく総合アセスメント
    *求職活動
    *仕事の維持
第3部 特別な課題
    *重複障害と就労
    *高等教育と就労
    *援助付き教育
    *異文化理解と就労
    *結論
資料

■言及


■書評・紹介


■引用

p. 3
アメリカの精神保健サービスシステムは、施設ケアから地域を基盤とし、リカバリーを中心としたサービスへと、ゆっくりと時間をかけて変化してきました。〔中略〕一般雇用は、自分のリカバリーを追求できる中心的な方法の一つであり、患者役割から勤労者や、より十分に社会参加した市民へと移行させるものです。「個別職業紹介とサポート」(Individual Placement and Support ; IPS)による援助付き雇用プログラムは、働くことに大きな希望を持つ人たちを手助けする科学的根拠に基づく実践(Evidence-Based Practices)プログラムの一つなのです。

p. 4
私たちが1980年代後半に、雇用に関する研究をニューハンプシャー州で開始した際、多くの方々が私たちの取り組みに力を貸して下さった。ニューハンプシャー州の行動保健部の・・・、職業リハビリテーション部の・・・、ボストン大学精神科リハビリテーションセンターのWilliam Anthony氏、メリーランド大学のGray Bond氏(サバティカル休暇の1994〜1995年)。

p. 5
本書では、「IPS」(個別職業紹介とサポートモデル)という名称を使用しているが、同時に、他の援助付き雇用アプローチもまた、IPSの原則を採用し始めている。〔中略〕IPSサービスは、精神保健とリハビリテーションのさまざまなプログラムや機関、センター、診療所、団体、施設などで採用されている。

p. 17
1950年代に始まった精神障害をもつ人たちの脱施設化は、精神保健専門家たちの治療や援助の態度をただちに変えたわけではない。彼らはそれから数十年にわたって、精神障害をもつ人たちを社会的弱者であり能力がなく、保護が必要な存在として扱ってきた。84) 107) 113)

p. 18
脱施設化に対する世間の関心は、精神障害をもつ人たちが地域に統合されることではなく、潜在的な暴力の可能性をコントロールすることに向けられていた。38) 〔中略〕重い精神障害よりも薬物乱用が暴力事件の割合を増加させる背景になっているにもかかわらず、127) 統合失調症や慢性の気分障害など重い精神障害をもつ人たちを拘置所や刑務所に追いやることによって、これまでと異なった種類の施設へ再施設収容化する傾向も続いていたのである。1)

p. 19
福祉的作業所や通所リハビリテーションプログラムは、その構造と綿密な監督による保護、地域生活準備のためのゆっくりとした段階的なアプローチ、成果に対する期待の低さなどが大きな特徴であった。これらのプログラムは、精神障害をもつ人たちを隔離し、世の中の主流である仕事や主流である労働者、主流である社会から引き離していた。〔中略〕精神障害をもつ人たちは地域に移っては来たが、隔離と「患者」としての状態は、精神保健ケアとリハビリテーションの方法を規定し続けてきたのである。66) 115)

p. 19
職業プログラムで主流を占めていた「トレイン−プレイス」(train-place)は、実際面ではまったく無意味なものだった。というのは、官僚主義的な評価手続きが、精神障害を持つ人たちを就職準備が整っていないと決めつけることにより、職業サービスから排除するように機能したからである。要約すると、施設収容化が入所者の無力化を助長し、機能的な技能減退を導くと認識されるようになったものの、精神保健分野には、病院の否定的な特徴を数多くすぐさま受け継ぐ新たな地域ベースの施設、すなわち精神保健センターやグループホーム、福祉作業所、デイセンターなどが発展した。107) 地域における隔離と保護的な環境が病院にとって代わったというだけであった。現実にはこれらの活動は多くの場合長期入院と同様に孤立化し、スティグマの対象となった。訳注3)地域精神保健センターとは、1963年に地域精神保健センター法によって設置されたアメリカ地域精神保健の第一線機関。連邦からの補助金によって運営されており、民間の精神保健機関が委託される場合が少なからずある。入院、外来、救急、デイケア・デイホスピタル、コンサルテーションと教育訓練などの機能を持つ。人口7万5千人から20万人に1カ所設置されることになっている。

p. 22
1980年代後半以降、アメリカの精神障害リハビリテーション領域における目標概念として注目され、精神障害をもつ本人を含む関係者間に幅広く熱狂的に受け入れられてきた。同時にそれらの人たちによる数多くの定義がなされている。(p.24参照)

p. 23
慢性の疾患で予後が不良であることを強調した厳しい精神保健モデルや、不適切な地域ベースの援助システム、広範に拡がったスティグマ、入院医療と投薬に没頭する精神医学界などに嫌気がさして、精神保健ケアの受け手である精神障害をもつ人たちが、相互支援を提供したり、地域でより効果的なサービスを求めて当事者組織を結成し始めた。52) 最近これらの団体は精神保健システムの改革を要求するだけでなく、精神障害をもつ人たちのセルフヘルプ・サービスを促進しようとしている。37) 39) 49) 97)

p. 23
回復の体験談には一貫した主要テーマがあった(たとえば、Deegan 49), Fergeson69), Leete88), Ralph112), Steele & Berman128) 。いくつかの共通の観点を強調している。すなわち、自分自身の病気の管理に個人的な責任を取ることと自分の人生に責任を持つこと、将来に対して希望を持つこと、支援を受けるために一人あるいは複数の人たちと親密な人間関係を築くこと、目的や達成の感覚を補強する意味ある活動を見つけることである。同時に個人的体験から、いくつかの精神保健治療・援助の中には、破壊的な影響を及ぼすものがあったことを示された。

p. 23
精神障害をもつ人たちのコンシューマー運動は、1980年代および1990年代に特に大きな力を持つようになった。113) セルフヘルプとエンパワーメント、サービスの選択、リカバリーを強調することにより、精神障害をもつ人たちは、「患者」としての状態や、無力感、依存、悪化で特徴付けられた慢性疾患の専門家モデルを拒絶したのである。〔中略〕隔離され従属的な環境の中で、無意味な作業を行うような代替的な活動に追いやられるのではなく、地域の統合された環境でふつうの成人役割に復帰する目標を後押しするサービスでなければならないと主張した。

p. 24
彼らは、精神保健システムの中で助言者になったり、被雇用者になったりした。彼らはまた、健康とリカバリーを促進するためにコンシューマーセルフヘルプ・プログラムも開始した(たとえば、Copeland 47)。当事者リーダーの中には、怒りや非難合戦に巻き込まれ苦境に陥る人も、また精神疾患という概念を否定する人もいた。しかし、大半は地域統合とリカバリーという理念に基づく精神保健システムの建設的改革を支持した。精神障害をもつ人たちは、彼らが「リカバリー」と名付けたものを達成するために、知識や人的資源、対処戦略、ソーシャルサポート、セルフヘルプ、専門的サービスを利用することを提唱する。専門家が「リカバリー」を定義しようと試みたが、精神障害をもつ人たちは、定義が個人により多種多様であると主張した。

p. 24
精神障害をもつ人たちのリカバリー運動の例は数多くある、ニューイングランド地方のMaryEllen Copelandは、自身の著書や広範に開催するワークショップの中で、希望や個人的な責任、教育、アドボカシー、ピアサポート、効果的な精神保健システムの利用を学ぶことを強調している(たとえば、Copeland 47)。

p. 25
長期入院患者への態度や考え方、治療方法をそのまま地域に移行させるのではない、新しい援助のアプローチが急速に出現した。それら、地域での精神保健実現のための革新的アプローチに、包括型地域生活支援プログラム(Program for Assertive Community Treatment ; PACT)とケースマネジメントのストレングスモデル(Strengths Model)がある。PACTの創始者であるLeonard Stein と Mary Ann Test は、脱施設化の早い時期から、診療所で重い精神障害をもつ人たちに生活技能を教えることは効果的ではないと認識していた。

p. 26
PACTチームは、地域で活動するために必要な実際的な生活技能をその生活技能を実際に使用すると思われる環境の中でクライエントたちが学習するのを援助した。やがてこの方法は雇用にも広がった。クライエントたちが就労を準備するのを援助するよりは、彼らが仕事をすぐに見つけ、その職場で関連する技能を学ぶことを援助しようとしたのである。このようなマディソンのPACTチームは、精神保健領域で援助付き雇用の原理を採用した最初のグループになった。119) さらにTestは、この援助方法の変更が雇用の成果の劇的な改善につながったことを示している。132) 訳注7)ACTはケアマネジメントの一類型であり、保健・医療・福祉にわたる包括的なケアを、多職種のチームアプローチで集中的に提供する援助方法である。先頭にP(Program of)をつけてPACTと呼ばれることもある。ACT発祥の地であるウィスコンシン州マディソン市のメンドータ州立精神病院のACT、あるいはその方式を特にPACTと呼ぶことがある。

p. 28
精神障害リハビリテーション運動は、1940年代にニューヨークの病院から退院し、仲間を求めてニューヨーク公立図書館で出会った元入院患者たちのグループが始めたものである。かれらの会合は、かつての精神科患者が集まるクラブとなったファウンテンハウスの設立に発展した。その後1950年代になると、ファウンテンハウスは専門家をリーダーとして受け入れて、社会的サポートと共に職業復帰にも力を入れた。さらに心理社会的リハビリテーションの全国ネットワークへと発展した。13) このクラブハウスの運動は、楽観主義とセルフヘルプ、個人の尊厳、現実社会の中での体験学習という強い理念を導入することにより、精神障害をもつ人たちの地域統合をいっそう促進した。クラブハウス運動は全米に広がった。

p. 31
訳注8)1986年の米国リハビリテーション法改正で制度化された重度障害をもつ人たちのための新たな就労支援サービス。@重度障害がある人が対象、A一般就労(仕事はフルタイムか、パートタイムであっても週20時間以上の仕事で、最低賃金が支払われなければならない)、B統合された職場環境(職場は障害のある人と障害のない一般従業員が日常的に接することができる)、C継続的な支援(雇用期間中、職場で少なくとも月に2回の継続的・定期的な支援サービスを提供)の4要素を満たすものが援助付き雇用とされる。 本文) 従来型職業リハビリテーションのアプローチには、さまざまな種類の職業前訓練――たとえば、技能訓練や福祉的作業所、エンクレーブ(一般社員と異なる場所での仕事)などが含まれる。これらの段階的なアプローチは、「トレイン−プレイス」モデルと呼ばれている。訳注9) 援助付き雇用の基本実施モデルとしては、@個別就労モデル、Aエンクレーブ、移動作業班・モービルクルー、の3つに大別される。@では、障害をもつ1人の利用者にジョブコーチがマンツーマンで支援し、利用者の自立度が高まってくるに伴い支援時間を減少する(フェーディング)ことに対し、Aのエンクレーブ(飛び地)では1人のジョブコーチが障害をもつ複数を援助し、フェーディングは行わない。一般的に@よりも重度障害をもつ人が利用者となる。 本文) しかし、この段階的アプローチに対していくつか現場からの批判がされてきた。

p. 32
WehmanとMoonが援助付き雇用を、職業リハビリテーションのための「プレイス−トレイン」(place-train)アプローチとしてはじめて記述したのは1980年代の初めであった。140)彼らは重い障害をもつ人たちでも、速やかに一般雇用の職業紹介をし、続けて特別に焦点を定めた職業訓練と援助提供をするアプローチが、職業前の「トレイン−プレイス」(train-place)アプローチよりも優れていることを実証することができた。この援助付き雇用アプローチは、精神障害リハビリテーション運動に関わる何人かのリーダーによって精神保健領域に取り入れられた。8)68)99)

p. 33
WehmanとMoonは、「プレイス−トレイン」(place-train)アプローチが援助付き雇用にとって根本的なものであるとはっきりと述べている。140) しかしながら、援助付き雇用を法律に成文化した1986年の改正リハビリテーション法は、一般雇用と継続・同行支援(follow-along supports)、そして、もっとも重い障害をもつ人たちへの重点的な取り組みを定めているが、「プレイス−トレイン」アプローチは要求しなかった。この法律が制定されたことによって、援助付き雇用の提供をうたった広範で多様なプログラムが生まれたが、その多くは以前として「トレインープレイス」の方法に基づいていた。政治的な思惑は別として、〔中略〕多様なアプローチが見られるように、規則による硬直化を回避することにあったのだろう。

p. 34
1989年の初めから、ニューハンプシャーダートマス精神医学研究センターの精神保健サービス研究者のグループは、行動保健局の依頼を受けて、サービスモデルを明確化することや、職業サービスシステム改革における文書の変更、成果の研究、比較臨床試験の実施、政策変更に関する提言に協力してきたのである。

p. 35
リハビリテーションの専門家であるBeckerと臨床サービス研究者であるDrakeの基本的な目的は、重い精神障害をもつ人の多くが、社会の大部分がそうであるように一般雇用に関心を持っているために、私たちが彼らのその目標を達成するように援助してきたのである。〔中略〕精神障害リハビリテーションの基礎理論では、個人の機能的な適応能力は、@援助的な環境を探し作り出すことにより、またA個人の技能や能力を改善することによって、高めることができる。9) 91)

p. 36
多くの理論家たちは、疾病および成人役割からの排除という組み合わせが、スティグマや隔離、脱文化化(disculturation)、自尊心の減退、施設化(institutionalization)を経由して、下降線の悪循環にどのように結びつき得るのかを記述してきた。 74) 122)これらの考えの核心は、障害は疾病の固有の部分ではなく、付与された状態であって、社会(個人と制度)が疾病をもつ人たちにどう対応するかによって、その多くが作り出される二次的な問題だということである。疾病に苦しむ人たちが孤立しやすく、無価値とされたり迫害されたりし、自分自身を欠陥あるものと考えるよう社会化される一方で、癒されたり、回復や成長をしたり、成功する機会が得られずにいる。この課題は、Goffman74)やScheff1122)や、その他多くの研究者が何年も前に、精神病院の治療と関連付けて記述している。

pp. 36-37
Anthony10)やLiberman91)、Rapp113)、その他の研究者は、精神障害をもつ人たちの内的なストレングスと学習能力を重視する介入法を作り出してきた。これらの改革での中心テーマは、「成長」と「健康」と一致する、環境的に最適な場所を見出すことの強調である。地域環境は、たとえば、仕事や教育、家族や友人たちとの親交、言い換えれば地域の市民の誰も経験する健康的な諸活動全体のインクルージョン(包括)により、リカバリーを促進できる。隔離されあるいは施設化された環境から、統合されノーマライズされた地域環境に焦点を移すことによって、リカバリーを促進できるのである。この仮説は援助付き雇用の基礎となる、基本理論を構成している。

p. 38
リカバリー、地域統合、ストレングスという既存の理論の多くは、援助付き雇用の現在の認識に方向性を与えている。

pp. 39-40
援助付き雇用の一つであるIPSモデルは、次の経験的に導かれた8つの原則に依拠している。1)リハビリテーションは、・・・。2)IPSの目標は、職業前訓練や福祉的就労、もしくは隔離された環境下での職業経験を得ることではなく、統合された職場環境での一般雇用の実現である。3)重い精神障害をもつ人たちは、職業準備訓練を受けることなしに、直接的に一般雇用に就き、そこで成功することができる。・・・8)分離された機関や援助システムにおいて並行して行われる介入ではなく、(IPSにおける)多職種チームアプローチが、職業サービスと臨床的サービス、支援サービスの統合を促進する。

p. 40
IPSは、重い症状をもつ人や、就労経験が乏しい人、一般雇用への職業準備性が未確立の人をIPSプログラムから排除しない。就労支援スペシャリストは、一般雇用に関心を示すすべてのクライアントを支援するのである。というのは、IPSがもっとも重視している価値はクライアントの自己決定だからである。

pp. 44-45
IPSに関する最初の研究は、ニューハンプシャー州における自然発生的な実験として始まった。ある精神保健センターのリーダーが財政的その他の理由から重い精神障害をもつ人へのデイケアプログラムを閉鎖し、その代わりに、後にIPSとして知られる援助付き雇用プログラムを開始したのである。プログラムを変更したセンターは、雇用に関する取り組みは以前から積極的だったものの、プログラム参加者の中で一般雇用への参入率が33%から56%へと著しく改善したのである。比較群のデイケアセンターでは、雇用実績に変化はなかった。56) 比較群である近隣のセンターも、段階的にデイケアのプログラムをIPSに切り替えた結果、一般雇用への参入率が9%から40%に増加するという著しい成果を得た。55) 1990〜1993年

p. 45
こうした初期の研究に続いて、ニューイングランド各州の多くのデイプログラム、福祉的作業所、リハビリテーションプログラムが援助付き雇用プログラムへ転換され、たちまち雇用に関する成果が改善された。〔中略〕1つの事例を示すと、次のとおりである。福祉的作業所に長い間(5年以上)在籍していて、スタッフから一般的な雇用環境では働けないと見なされていた32名のクライアントが、自発的にIPSによる援助付き雇用プログラムの利用を始めた。その結果、1年以内にそのうちの74%が、年齢・診断名・性別にかかわりなく一般雇用で働けるようになった。11) このように、スタッフから一般雇用で働く能力がないと見なされ、何年もリハビリテーションプログラムや福祉的作業所に囲われていたクライアントの多くが、一般雇用の環境でも働けることが明らかにされたのである。

p. 46
ロードアイランド州のプログラム申込者の中で、デイプログラムに参加した経験のない新規のクライアントを対象にIPSの検証を行った。その結果、彼らの一般雇用へに参入率が50%を超えるのは、デイプログラムを受けていた人よりも早いペースだった。

p. 46
異なるタイプの研究として、ニューハンプシャー州で、地域精神保健センターが行うIPSによる援助付き雇用プログラムか、あるいは8週間の技能の訓練後に、求職支援や継続・同行支援を段階的に行うリハビリテーションプログラムのいずれかに対し、18カ月の追跡調査を実施したところ、その結果は劇的なものであった。リハビリテーション機関のプログラムよりも、IPSプログラムのクライアントの方が、一般雇用により早く参入でき、フォローアップの期間中の雇用継続が長く、総労働時間も長く、賃金も高かったのである。その差異は2倍かそれ以上に及んだ。63)

pp. 48-49
ワシントンDCでの研究は、IPSによる援助付き雇用の限界を検討するために、ハイリスクの人たちを対象とした。62) すなわち都市型のケースマネジメント・プログラムにおけるIPSの効果を検討するために、ホームレスや施設入所中のクライアントを対象とした。その大半はアフリカ系アメリカ人で薬物乱用の重複障害、HIV感染、その他の深刻な課題を抱えていた。〔中略〕その結果、18カ月のフォローアップ期間中で、一般雇用に参入したクライアントの割合は、IPSの利用で雇用された人は61%だったのに対して、対照群のサービスを受けた人は9%に過ぎなかった。

p. 49
ボルティモア市の研究では、都市部に居住し、その多くが薬物乱用の重複障害を伴う精神障害をもつ人たちを対象に、一般雇用に関する成果を2年間追跡した。144) IPSクライアントの方が伝統的な精神障害リハビリテーションプログラムよりも一般雇用の結果が良いことが示された。しかし、全体の一般雇用への就業率は、他の都市部と比較しても実質的に低かった(IPS27%、リハビリテーションプログラム9%)。この研究における就業率の低さは、IPSサービスの質的な内容、精神保健システムの財政が研究実施の期間に十分に提供されなかったこと、あるいは職業リハビリテーションサービスに関心を示さないクライアントを対象にしたことなどによると、考えられる。

p. 50
ハートフォード市の研究では、さまざまな背景(アフリカ系アメリカ人やヒスパニックを含む)を持つ職業経験の極めて乏しい都市部の住人だが、働くことに興味を示していた。クライアントは無作為に、次の3群に割り当てられた。@大規模な精神保健センターでのIPSプログラム、A特別な作業場と過渡的雇用による心理社会的リハビリテーションプログラム、訳注14) そして、B精神保健センター以外の標準的なリハビリテーション機関で提供される援助付き雇用やその他のリハビリテーションサービス、である。2年間でのIPSプログラムの雇用成果は非常に高く、心理社会的リハビリテーションの4倍、リハビリテーション提供機関の3倍という結果だった。また、ニューハンプシャー州やワシントンDCの研究と同様に、複数の就労経験を持つ人の方が、未経験者や経験の乏しい人よりも雇用成果が高くなる傾向にあった。 訳注14)のAは、ニューヨークにあるファウンテンハウスにおいて1957年に考案され、その後、アメリカ内外のクラブハウスを中心に用いられている精神障害をもつ人の職業リハビリテーションプログラム。

p. 51
IPSによる援助付き雇用プログラムのクライアントは、仕事の種類、労働時間、職業的な好みなどに関して、一連の傾向のあることを示した。クライアントの大多数は、週5〜10時間程度の労働時間で最低賃金よりも若干高い程度の収入が得られる、入門レベルの仕事(その多くはサービス業関連であるが)から始めており、その内容はクライアントの教育歴や職業経歴に適合したものである。1年以上働くと、より高い満足の得られる仕事に転職し、平均労働時間も週20〜25時間程度まで延長することが多い(ただし、多くのクライアントは、労働時間の延長を希望する一方で、医療保険の受給資格を失うことを危惧している)。

p. 54
職業以外の成果に対する職業的サービスの効果について、長い間、二つの対立する仮説が影響を与えてきている。その一方の視点は、一般雇用には結びつかないが、クライアントが安心できて構造化された日中活動をしている福祉的で就労効果の低いリハビリテーションプログラムが廃止されることへの懸念を、多くの臨床家、リハビリテーション専門職、そして家族などが表明していることである。123) この懸念には、第一に、クライアントは日中活動を安定して行う場を新たに見つけることができないために、退屈したりトラブルを招くようなマイナスの結果につながりかねないこと、第二に、援助付き雇用への期待の高まりが過剰なストレスを招いて、結果的に再発や再入院を余儀なくされかねない、といったことがある。他方で、これに対する反論が職業リハビリテーションサービスを擁護する多くの人たちから出されている。すなわち、クライアントは働くことを望んでいるのであり、また、働くことが健全な大人としての役割である以上は、職業リハビリテーションプログラムへの参加は、自尊心、病状の管理、新たな交友関係、そしてQOLに肯定的な利益をもたらすとする。22)35) IPS研究は、これらの二つの対立する仮説に焦点を当てるべきだろう。

p. 54
IPSに参加して一般雇用され、デイプログラムから離脱したとしても、症状の悪化、入院、ホームレス、自殺、治療の中断、自尊心の低下、もしくは人間関係の悪化、等を助長するような否定的な結果は見出されていない。デイケアの閉鎖で懸念される唯一のことは、クライアントの中にはごく少数ながら、孤独感を訴える人がいるということだろう。134) そのため、生活支援センター(ドロップイン・センター)訳注17) クライアント運用によるプログラム、その他のソーシャルクラブなどが、デイケアに代わって社会的なニーズを満たすために整備されてきている。136) 訳注17)ドロップイン・センターとは、ピアサポートやさまざまな精神保健の日中活動を提供する活動センター。利用者が利用したい時に利用できるという、時間的に融通の利く特長がある。

p. 55
働いているクライアントは、病気が再発したり臨床的に好ましくない結果に悩んでいるという証拠は何も示されていない。むしろ、クライアント自身は、働いていないことのほうがよりストレスになることを、賢明にも指摘している。そして、実際のところ、大多数の人には雇用されていないことが大きなストレスになっている、という確固たる証拠がある。さらにIPSアプローチでは、適切な仕事に就くことは。症状やその他の悪化の兆しに対抗してストレングスの強化につながる、と規定しているのである。

p. 56
IPSサービスにかかる費用は、クライアント一人につき、おおよそ年額2000〜4000ドルとみなされる。42) デイケアや福祉的作業所のプログラムに投入している膨大な経費をIPSプログラムに転換することで、総体的な費用は削減することだろう。

p. 58
経済的な効果についての課題とは別に、財源の問題がある。精神保健サービスと職業サービスに関する組織と財政の構造が分離している状況を考慮する必要がある。リハビリテーション当局がリハビリテーション機関への資金提供に際して使用する通常のガイドラインをIPSに適用することは、簡単にはできないのである。それゆえ、州の精神保健当局、リハビリテーション当局、財政支出当局(たとえば、メディケイド当局)、地域のプログラム提供者たちは、IPSアプローチを実施できる財政機構を統合する必要がある。94) 多くの州では、依然として、効果の乏しいデイケアや福祉的作業所のプログラムを続けている。

p. 59
個別にはIPSについて、そして援助付き雇用一般に、いくつかの懸念が生じている。それらの中には、IPSは費用がかさみすぎ、実行することが難しく、すべてのクライアントに適用できるものではなく、獲得した仕事は長続きせず、そして、仕事に就けないクライアントへの効果は小さい、といった批判がある。〔中略〕私たちの目標は、IPSという名称をブランド化することではなく、障害をもつ人たちのリカバリーを支援するサービスを発展させ続けることなのである。

p. 59
典型的には、おおよそ週20時間までの仕事に就くことで、メディケイドを取り消されない範囲で最大限の収入を得ており、初職の継続はわずか4〜6カ月であり、しばしば無意味な離職をしている。18)


*作成:伊東香純
UP:20210204
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