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『法廷のなかの精神疾患――アメリカの経験』

横藤田 誠 200209 日本評論社,272p. ASIN: 4535513384 4200


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 このファイルの作成:樋澤吉彦(立命館大学大学院先端総合学術研究科)*
 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/hy01.htm

■横藤田 誠 200209 『法廷のなかの精神疾患――アメリカの経験』,日本評論社,272p. ASIN: 4535513384 4200 [kinokuniya][amazon] ※,

■著者略歴

◇横藤田 誠(よこふじた・まこと) 広島国際大学教授
 http://www.hirokoku-u.ac.jp/ws/staff/myoko/gyouseki.htm
 http://www.hirokoku-u.ac.jp/ws/staff/myoko/myoko.htm

■内容

(「BOOK」データベースより)
本書では、「精神疾患と法」をめぐる6つの局面、すなわち、入院過程、入院患者の権利、家族、欠格条項、刑事司法、治療者の責任、のそれぞれについて、試行錯誤を繰り返してきたアメリカ合衆国の経験を裁判例中心に跡づけるなかで、日本における指針を得ようとしている。もちろん、法の体系も社会・文化的背景も異なるアメリカの法理をそのまま日本に直輸入することはできない。しかし、アメリカの判例は、類似の判例の少ない日本において、少なくとも理論的には大きな影響を与えている。本書は、各テーマについて、代表的な判例の背景・事実・判旨を紹介し、関連する判例、立法等とあわせて検討を加えている。そのさい、当然のことながら日本法との比較を常に念頭に置いている。

(「MARC」データベースより)
近年、精神障害者の権利・利益への法的介入のあり方をめぐって試行錯誤を繰り返してきた米国裁判例を中心に、法廷のなかでの精神障害者・精神疾患の位置づけを知ることで日本における指針を得る。


■目次

序章 精神疾患と法
第1章 治療の対象としての精神疾患
第2章 入院患者の権利
第3章 家族と精神疾患
第4章 欠格事由としての精神疾患
第5章 刑事司法と精神疾患
第6章 精神障害者の殺傷事件と治療者の責任


序章 精神疾患と法
1 「精神疾患と法」の諸相
2 アメリカの裁判制度
3 「精神疾患と法」の日米比較
4 本書における判例紹介

第1章 治療の対象としての精神疾患
 1 精神疾患は特殊?
 2 強制入院制度はなぜ許されるのか?
 3 任意入院の「任意」性
 4 入院継続はADA違反か?

第2章 入院患者の権利
 はじめに
 1 新しい人権?:「治療を受ける権利」の光と陰
 2 治療拒否権とインフォームド・コンセント

第3章 家族と精神疾患
 1 家族のなかの精神疾患
 2 精神病離婚
 3 精神障害者に対する不妊処置

第4章 欠格事由としての精神疾患
 はじめに
 1 選挙権
 2 運転免許
 3 専門職免許

第5章 刑事司法と精神疾患
 はじめに
 1 訴訟能力
 2 責任無能力の抗弁
 3 裁判後の処遇
 4 刑罰の執行

第6章 精神障害者の殺傷事件と治療者の責任
 1 Tarasoff事件と「警告義務」
 2 Tarasoff判決とその後


第1章

Addington判決において、「証拠の優越」よりも…
「連邦最高裁は、以上の理由から、中間的な基準である『明白かつ説得力のある証拠』こそ強制入院手続には適切であると結論づけたのである。」36

「実体要件についても、入院手続の問題についても、強制入院制度に関して考慮すべきなのは、精神障害者の『自由』なのかそれとも『福祉(健康)』なのか、という基本的な考え方の違いが、結論を左右するように思われる。前者の考え方の代表格ともいえるLessard判決では、強制入院に伴う自由の損失は刑事手続に匹敵するから、入院に対するハードルは高ければ高いほどよい、される(『自由』を重視)。これに対してAddington判決に代表される後者の立場によれば、高いハードルを設けて治療を必要としている精神障害者を強制入院制度から除外することの不当性が強調される(『福祉』を重視)。」38

※「任意」入院に関して、例えばフロリダ州の「任意入院」の要件
「…(略)『明示の、十分説明を受けたうえでの同意(express and informed consent)』とは、『暴力、虚偽、欺瞞、強迫その他の強制の要素によらずに、情報と意思に基づく決定…をなしうるような十分な説明と情報開示の後に、書面により自発的になされた同意』と定義されている。」41

「任意入院が初めて法律に規定されたのは、1881年のマサチューセッツ州法であった。」42

※しかし…
「たとえば、フロリダ州で長期在院している強制入院患者について裁判所の定期的審査を義務づける法律が制定された後、そのような患者の多くを任意入院の形態に移したことが指摘されている。また、繁雑な業務を避けたいという病院関係者の思惑と、任意入院の場合に判断能力を判定するよう要求していない法律の結果、入院担当者は患者が書類にサインさえできれば誰でも任意入院としている、とも言われている。さらに、ある研究によれば、任意入院者の約40%が警察官によって病院に連れて来られた者であり、また警察官に病院に連れて来られた者のうち約55%が任意入院となっている。ここでは、入院するかしないかの選択ではなく、任意入院を選ぶかそれとも強制入院(あるいは留置場)か、という『究極の選択』が迫られているのである。」43

「たとえば、ニューヨーク州法は任意入院申請者に必要とされる能力として、@彼が入ろうとしている施設が精神病院であると認識できること、A彼が任意入院を申請しているとの認識があること、B退院や強制入院への移行などの規定の意味が理解できること、を求めている。…」43‐44

第2章

※治療を受ける権利についての裁判例
※79−80に、wyatt裁判における、裁判所が提示した治療に関する詳細な基準例がある。
※<個人的アプローチ>、<構造的アプローチ>、<専門的判断尊重アプローチ>

※米の精神医療におけるインフォームド・コンセントについて→92〜
「ICの要素として通常、@判断能力(competency.治療案の目的・内容・起こりうる結果等を認識する能力)、A情報の受領(knowledge.治療の危険性・副作用、治療の利益、他の選択肢、治療が実施されない場合の考えられる結果等について、理解できる言葉で説明されること)、B任意性(voluntariness.強制や不当な説得、誘導を受けないこと)、の3つがあげられる。…」92

「精神疾患は定義上、『精神の健全性』(法的能力の基礎)に疑問を生ぜしめる要素である。事実、19世紀の州法はこのような前提で作られていた。」93

※1960年代?強制医療の受忍義務に関して…
「ニューヨーク州のある判決などは、患者が薬物治療を拒否しているからといってそれをしないのは、『不合理で、専門家らしくなく、支配的な医療水準に反している』と述べて、医師の怠慢を理由に損害賠償を認めているほどである。」93

「ところで、治療拒否権とインフォームド・コンセント原則は全く別物というわけではない。ICには当然望まない治療に対して同意を与えない(拒否する)自由が含まれるから、治療拒否権はICのひとつの側面を語っているということができるのである。しかし、身体医療に関して拒否権という言葉を用いることはあまりない。精神医療の場合にことさら『拒否』権というネガティヴな用語を用いること自体、精神障害者、特に強制入院患者に対してはいちいち同意を得ることなく治療をするのが常態で、患者がそれに異議を唱えることは例外に属する、という事情を背景にしており、これも精神医療の異質性を示すひとつの表現であるといえるかもしれない。」

※100〜、手続的保障について

「それでは、治療を拒否する患者の病状はめっきり悪化したのであろうか。ある研究によれば、24時間以上薬物治療を拒否した患者のうち、本人の意思に反して治療を強制されたのは18%であるものの、54%が平均7日後に自発的に治療を受けている。拒否を続けた残りの患者についても、医学的に不合理ではないと医師によって判断されている。何よりも、病状の深刻な悪化を防ぐために緊急に薬物投与が必要であると診断された患者が、継続して拒否した例は1件もなかったという。すなわち、『権利のうえに朽ち果てた』患者はいなかったわけである。/…(中略)…ほとんどの場合、その後の医師とのやり取りのなかで解決しているのである。…」110

第5章

※訴訟能力、責任無能力の抗弁、裁判後の処遇、受刑能力

「日本の刑事訴訟法は、『被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない』(341条1項)と定める。ここにいう『心神喪失の状態』について、最高裁判所は、文字が読めず手話も解さない聴覚言語障害者の窃盗事件に関する決定のなかで、『訴訟能力、すなわち、被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることのできる能力を欠く状態』と定義している。現行法は、被告人が起訴後に一時的に心神喪失状態に陥るといった事態を想定しており、訴訟能力の回復の見込みがない場合の処理については沈黙しているといえよう。」170−171
→しかし日本の場合は起訴前に検察官の裁量で処理。これまでは、不起訴処分→措置入院。今後は観察法の手続?

※ニューヨーク州のある裁判所における訴訟能力の指標
@時間および場所見当識がある
A知覚し、思いだし、語ることができる
B公判手続と裁判官の役割を理解できる
C弁護人との協働関係を確立できる
D弁護人の助言をきき、それに基づいて、ある行動が他の行動よりも彼にとって有益であることを認識しうる知性と判断力をもつ
E公判のストレスに耐えて、重大な長期的あるいは永続的衰弱(breakdown)に陥ることのない安定性を備えている。172

※ヒンクリー事件について184〜

※「マクノートンルール」
「アメリカにおいて、(中略)長年、強い影響力をもっていたのが、イギリスのマクノートン判決(1843年)に由来する『マクノートン・ルール』であった。これは『精神異常(insanity)の理由による抗弁を成立させるためには、その行為を行った時に、被告人が、精神の疾患のために、自分のしている行為の性質(nature and quality)を知らなかったほど、またはそれを知っていたとしても、自分は邪悪な(wrong)ことをしているということを知らなかったほど、理性の欠けた状態にあったことが明確に証明されなければならない』というものである。日本と同様、混合的方法ではあるものの、正邪の弁別能力という知的要素にのみ着目し、情意の要素である制御能力を考慮していない。」189→「正邪テスト(right and wrong test)」

※「抵抗不能の衝動テスト」(Smith v. United States 1929年)
コロンビア特別区控訴裁判所判決より
「…医学の偉大なる発達に適合する今日的なルールにおいて責任能力があるというためには、正邪を区別することができるだけでなく、抵抗不能の衝動によって当該犯罪行為をなすよう強いられることのない能力をも備えていなければならない。すなわち、それが悪いことであると知ってはいても、意思力(will power)が疾患によって奪われた結果、犯罪行為をなそうとする衝動に抵抗することが不可能になっている場合には、刑事責任を問うことはできないのである。」191

※「ダラムルール」(Durham v. United States 1954年)
コロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判決より
「…/より幅の広いテストが採用されるべきである。『被告人の違法行為が精神の疾患または精神の欠陥の所産(product of mental disease or mental defect)であった場合には刑事責任を負わない』。疾患とは、回復または悪化がありうる状態、欠陥とは、回復または悪化がありえないものであって、遺伝的なものあるいは身体・精神の疾患の後遺症である状態を意味する。…」
「以上のように、ダラム・ルールは、『精神の疾患』『精神の欠陥』『所産』の認定を陪審に求めており、生物学的基礎のみに着目する『生物学的方法』を純化したものといえる。」194

※「模範刑法典ルール」(United States v. Brawner 1972年)
「ダラム・ルールは生物学的方法であったが、このルールは、マクノートン・ルールと同様、混合的方法をとっている。ただ、後者が『正邪の認識』のみを求めたのに対して、『自己の行為を法の要求に従わせる』という制御能力をも規定している点が大きく異なっている。…(中略)…既存のルールを総合した形になっているともいえる。」196

※「制御能力基準をはずした新たな基準」(united States v. Lyons 1984年)
ルイジアナ州第5巡回区連邦控訴裁判所判決より
「…したがって、新しい基準の下で責任無能力とされるのは、『犯罪行為の時に、精神の疾患または欠陥の結果、当該行為の不法性を弁別することができない』場合に限られる。」200
→理由もある

※「メンズ・レア」(States v. Korell 1984年)
「…このように、弁別能力や制御能力の欠如を抗弁とせず、犯罪の要素である精神状態(犯意(mens rea))の証明に関してのみ精神的障害を考慮する方法を『メンズ・レアアプローチ』と呼ぶ。」202

※責任無能力無罪者の収容制度について212〜
主な論点
@収容期間→「刑期」よりも長くなる場合は?
A手続→通常の刑事手続よりも簡略で良いのか?

第6章

※Tarasoff判決に関連して→病院・医師が「第三者」に対する「警告」を行う義務はあるか?
※仮にあったとした場合、当該本人のどのような行為がその根拠となるか?

「カルフォルニア州議会はTarasoff判決を受けて、第三者保護義務の存在を前提にしたうえで、義務履行の条件を明確化する法律制定を幾度か試み、その努力は1986年1月に施行された法律に結実した。それによれば、保護義務が発生するのは、患者が『合理的に特定しうる被害者(reasonably identifiable victim)に対して身体的暴力を振るうという真剣な威嚇』を伝えた場合のみとされる。」259


UP:20060831 REV:20081102
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