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『筋ジストロフィーのリハビリテーション』


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■石川玲他編 200209 『筋ジストロフィーのリハビリテーション』,医歯薬出版,322p. ISBN-10: 4263212649 ISBN-13: 978-4263212646 9400 [amazon][kinokuniya] ※
 ※大竹進 監修/石川玲 編集代表

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デュシェンヌ型に焦点を当て,疾病の概要,障害像,評価,装具・補助具の処方と適応,PT・OTアプローチ,在宅援助に至るまで,長年「厚生省筋ジス研究班」に所属した著者らが筋ジスのリハビリのノウハウをまとめた.筋ジス以外にも,神経筋疾患を扱う関係者にとっては応用のきく価値の高い技術書.

内容(「BOOK」データベースより)

本書では、筋ジストロフィーのリハビリテーションについてこれまで行ってきた研究や実践をまとめ、国立療養所の内外を問わず誰にでも利用できる形で紹介する。内容については、人数の最も多く、小児期から思春期にかけてさまざまな問題点があるデュシェンヌ型を中心に取り上げたが、他の病型についても必要に応じて触れ、応用ができるように対応した。

内容(「MARC」データベースより)

筋ジストロフィーの現場が国立療養所に限定されなくなる一方、リハビリテーション実施上のノウハウが継承されにくくなっている現状の問題点解消を目的に、これまでの研究や実践を誰にでも利用できる形で紹介する。

■主な目次

推薦のことば
監修者の序
編者の序
第1部 筋ジストロフィーとは
第1章 疾患と治療の概要(大竹 進)
第2章 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの自然歴――尺度分析法による検討(石原傳幸)
第3章 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの障害像(石川 玲)
第2部 理学療法
第1章 評価総論(石川 玲)
第2章 治療総論(植田能茂)
第3章 機能障害と理学療法
第4章 基本的動作能力障害と理学療法
第5章 脊柱変形とその対策(武田純子)
第6章 下肢装具療法(齋藤孝子)
第7章 移動用補装具
第3部 作業療法
第1章 総 論(藤井信好・村上則子)
第2章 ADLと作業療法(風間忠道・佐藤智恵子・村上則子・藤井信好)
第3章 アクティビティー(作業活動)(佐藤智恵子・風間忠道・藤井信好)
第4章 福祉機器の活用(藤井信好)
第5章 スポーツ(山内邦夫)
第4部 在宅支援
第1章 在宅支援サービスの活用(渡邉愼一・藤井 智・池田真美)
第2章 在宅リハビリテーション――歩行期を中心に(近藤隆春)
第3章 学校生活への援助(村上則子)
第4章 在宅人工呼吸療法(三浦利彦)
第5章 自立生活の援助(谷中 誠)
付録

■■序文 http://www.ishiyaku.co.jp/search/details_1.aspx?cid=2&bookcode=212640

◆推薦のことば

■国立療養所南九州病院院長(厚生労働省精神・神経疾患研究委託費
 「筋ジストロフィー患者のケアシステムに関する総合的研究班」班長)福永秀敏

 筋ジストロフィー患者への熱き想い
 「自分一人で立てない,歩けない」などの運動機能障害をもつ人に対する考え方,いわゆる社会の障害者観のようなものが変わりつつある.従来は「かわいそうで気の毒な人」とか「自分とは関係ない人」という認識が一般的であった.ところが高齢社会となり,身近に障害をもつ人が増えたり,あるいは街角で車いすの人を見る機会もふえ,障害をもつことがそれほど特別なことでなくなってきている.実際に身体障害者と認定されている人の71%が,18歳以降の障害に起因するというデータもある.またマスメディアを通して,障害をもちながらさまざまな分野で活躍する人たちの紹介も珍しくない.
 さて筋ジストロフィーであるが,私のように20年近く筋ジストロフィー患者さんと身近に接してきた者には,マスコミなどでときに風聞する「かわいそうな人たち」とか,「病気と闘う健気な人たち」という常套的評価に,少し戸惑いを感じている.彼らも精神的には,われわれとほとんど変わりない「普通の人たち」といえるからである.
 現在,全国27カ所の国立療養所の筋ジストロフィー病棟に,2,161人の患者さんが入院しており,このうち887人が最重症のデュシェンヌ型である.そしてデュシェンヌ型を含めて1,000人近くが,なんらかの人工呼吸器を装着している(2001年の調査から).また在宅では,この数倍の筋ジストロフィー患者さんが,療養生活を送っていると考えられる.
 歴史的には昭和39年5月に西多賀病院と下志津病院に筋ジス病棟が開設されて以来,実に40年近くが経とうとしている.▼療育(治療)と教育,そして生活の三位一体となった医療は,諸外国にも例をみない画期的なものであった▲.そして昭和43年に始まる筋ジストロフィー研究班は病因や病態の解明とともに,療養と看護,QOLの向上,チーム医療,ケアシステムの構築などの分野で先進的役割を果たしてきた.なかでも筋ジス医療のなかで,リハビリテーションの果たした役割は特筆すべきものがある.われわれ筋ジス病棟に勤務する医師は,まず入院目的の第一にリハビリテーションをあげてきた.病気の原因はわかってもまだ根本治療法のない現状では,療育の基本はリハビリテーションであることに変わりはない.
 しかし,時代の変遷を感じることもある.20年ほど前は,病棟では動揺性歩行や長下肢装具で移動する患児がたくさんいた.また手動の車いすを必死に漕ぎながら食堂に向かう子供たちに,激励の言葉をかけることも多かった.ところが最近,独立歩行が少し困難になると車いすになり,また手動がままならないようになるとすぐ電動車いすへと移行する.そのため独立歩行可能な年齢は,年々低下してきている.訓練も大切であるが,QOLの拡大という方向で,合意が形成されつつある.また理学療法や呼吸管理の進歩などにより,デュシェンヌ型の患者さんの平均死亡年齢も着実に延長している.平成11年から13年までの73人(入院患者さん)の死亡者の平均年齢は27.2歳であり,昭和52年から55年の剖検例53人の18.1歳からすると,約10年近く延長したことになる.延長した期間を少しでも良好な状態で維持するため,呼吸療法や脊柱変形防止のための理学療法,手術などの課題も浮上している.
 さて今回,筋ジスのリハビリテーションに造詣の深い大竹進先生の監修のもと,病棟で日夜患者さんのリハビリテーションに取り組んできた理学療法士,作業療法士が中心になって,一冊の本に纏めあげた.疾患の治療の概要に始まり,自然歴,障害像,理学療法,作業療法,装具療法,福祉機器,呼吸療法,在宅療法と実に幅広い分野まで包含している.一読しながら,筋ジストロフィーのリハビリテーションにかかわる長年の知識と技術の蓄積,それにもまして筋ジス医療への熱意を感じずにはいられない.
 この本は筋ジス病棟で働くスタッフはもちろんのこと,他の病気で障害をもつ人のリハビリテーションにも,大きな示唆を与えるものと確信する.

 国立療養所徳島病院名誉院長 松家 豊

 1868年Duchenneによって記載された筋ジストロフィーが,約一世紀を経た1964年になって,国立療養所に専門病棟が整備され,医療の分野に脚光を浴びるようになった.当時PMDのリハビリテーションは未開発で試行錯誤の内に機能訓練,療育がすすめられた.なおこの時期,リハビリテーション医学会,理学療法士,作業療法士なども期を同じくして発足している.以来30数年にわたっての進歩はめざましいものがある.
 当初PMDリハビリの開拓者である山田憲吾,野島元雄両先生に師事したことが私の筋ジストロフィーの出会いとなった.歩けなくなった患児が徳大式ばね付装具(1964年開発)によって歩けるようになった.この画期的ニュースは全国的に関心を集め患児のよろこびとなる.「筋はあくまで筋であり,その機能を保持せしめなければならない」(野島元雄),「治療は望まれないがケアの方法は無限である」(I.Siegel)この理念は今もって筋ジストロフィーのリハビリの根源をなすものである.ジストロフィン遺伝子の発見(1987)は病型の診断を確立したが,根本的治療には長い道のりが必要である.したがって,デュシェンヌ型をはじめ他の病型にもリハビリは唯一の治療手段である.
 さて,当初からリハビリに従事してきた理学療法士,作業療法士は近年になり交代がみられ後輩に引き継がれつつある.この時期においてPT,OTのマニュアルとして本書を企画された意義は大きい.監修の労をとられた大竹進先生に感謝いたします.PMDという特殊性をもった疾病であるだけに,その極意を熟知する必要がある.そのためには長期の体験によって裏付けされた研究成果の集大成が期待され,15年前(1987年)厚生省研究班で理学療法,作業療法のマニュアルが刊行されたが,本書はその改訂,姉妹編ともいえる.その後,在宅療育,重症者の増加が重視されてきたが,まさに本書はその指向にも応じた的を得たものであるといえる.
 今日までのリハビリスタッフの最大の成果は寿命の延長を確実なものとしたことである.40歳にも達している事実はリハビリの普及,効果を物語るものであるが,本書は医学的,社会的リハビリの必然性,その推進に専念したPT,OTの努力の結晶を余すところなく世に問うものである.その豊富な内容はリハビリの三大評価(MMT,ROM,ADL)に始まり,よく吟味された手技をもって標準化をうたっている.その他多くの図表,写真は理解を容易にしている.障害段階に応じた運動機能の解説,バイオメカニクスを取り入れた基本的動作などは貴重な実践にもとづくものである.直面した患者への戦略のため有用といえる.PT,OTに焦点をあてた初期から末期にいたる訓練体系は,患者のニーズに応じた核心をとらえたアプローチであり,ただちにベッドサイドに還元されうる.回復の望めないリハビリであって,特にPT,OTの相互補完は重視される.末期呼吸不全の対応では当然早期からの予防的手段が優先される.しかし,終局としての人工呼吸は1980年からの体外式人工呼吸の開発以来,多様な機器の普及,管理の進歩によって延命のみならず海外旅行をも可能としている.また,パソコンの普及はかつての想像が現実となり詳しく言及されている.その他,アクティビティーとしての新しいスポーツの導入など生きがいづくりの活動も注目される.さらに,在宅支援への住居,社会参加への対応,介護など機器開発を含めたリハビリのサービス,ホームエクササイズ,学校教育の問題など今後への方向付けが示されている.なお,将来の課題として地域での自立生活が論じられている.随所にみられる温故知新,近代的包括リハビリの対策は日常診療に応えられるものであり,PMD研究班の生んだ比類のないPT,OTの座右の書として推薦したい.さらにPMD理解のためにも一般に広く利用をすすめるものである.

■社団法人日本筋ジストロフィー協会理事長 河端 静子

 筋ジストロフィー協会は昭和39年春,たった43名の親たちが発会した「全国進行性筋萎縮症児親の会」から始まりました.
 厚生省はただちに私たちの要望に応え「進行性筋萎縮症対策要項」を定め,発病原因と治療法に着手,専門病院として全国10カ所の国立療養所に10床ずつ100床を新設,筋ジス児の入所が始まりました.
 さらに,文部省は厚生省の「国立療養所における進行性筋萎縮症児の教育について」の依頼を受け,各関連道府県の教育委員会に療養所に隣接して公立養護学校の開校を求め,小・中・高の一環教育が実施され,共通環境のなかで医療と教育は筋ジス児童・生徒の人間形成に大きな関わりを持っていきました.
 そして,同昭和39年12月の昭和40年度予算獲得では,ベッドが300床となり,昭和39年の短い6カ月の間に大きな施策が確立していったことは,今思いおこしても,政と官と先輩協会役員の筋ジス患者の「命」を守るすさまじいまでの信念をもっての積極的な取り組みの成果に驚きさえも感じております.
 昭和40年,日本筋ジストロフィー協会と改称,昭和43年社団法人の認可を受け,同年,特別研究費「進行性筋ジストロフィー症の成因と治療に関する研究」として本格的な厚生省研究費の計上の実現をはかり,冲中先生を班長に,(1)疫学的研究,(2)臨床的研究に重点をおき,協会も研究班員となり,全国的な患者の実態調査,無料検診,筋検査,遺体提供による医学解剖,研究センターの設立をめざし,運動を始めました.
 昭和53年,国立武蔵療養所に神経研究所の開所,昭和61年,国立精神・神経センターの発足等,研究費も年々増額され,筋ジス病床も全国27施設2,500床となり,平成14年度関連予算は306億4,200万円が計上され,協会は研究班の研究に命をかけ“一日も早く”の合言葉でこれら予算の増額獲得に積極的に取り組んでおります.
 患者の「命」は余病の早期発見,治療,人口呼吸器の研究・開発,リハビリテーションの充実,QOLの向上等により,10年の延命が図られ健常者に優るとも劣らぬ人生を歩むことができる現実を心からよろこび,関係各位のご支援ご指導に感謝いたします.
 さてこのたび,昭和49年度より厚生省神経疾患研究委託費「筋ジストロフィーの療養に関する臨床および心理学的研究」にリハビリテーション分科会が設けられてから今日までの研究内容をまとめ,多くの関係者の方々が利用,活用できる形で紹介の必要性を感じられて,本書を出版されたとのことですが,筋ジストロフィー児の親であった私が,この書を手にし,思わず時間を忘れるほど夢中で読ませていただきました.
 写真,イラストも多く取り入れ,文章も読みやすく,リハビリテーションの内容を理解したうえで,実践に移してみよう,という気を起こさせる本といえます.
 昭和32年,次女2歳の時,4〜5カ所の大病院をめぐり,進行性筋萎縮症(今では筋ジストロフィーに統一されている)という難病で治療薬もなく病気は進行し,14〜15歳くらいまでしか生きられない,という悲しい宣告をうけ,私達夫婦の人生は筋ジス児を中心にまわり始め,主人河端二男は,昭和41年から平成元年の亡くなるまで理事長をつとめました.
 小学校三年生で歩けなくなってから,次女の体の変形は進み,肋骨と骨盤がくっつきそうになるほど側彎がひどくなっていき,上田敏先生にコルセットを作ってもらったり,タオルをはさんだり,毎朝,車いすに落ち着くまでの体型づくりは,私と次女との知恵を出し合った実践の積み重ねによってなされ,健康も維持していきました.中学・高校・大学卒業と亡くなるまでの27年間の車いすの子育てが本書を読みながら,まざまざと脳裏に浮かび,忘れることのできない日々が思い出されました.
 それだけに,本書はとても読み応えがあり,療養のすばらしい心身の「糧」となりますので,多くの関係各位にお読みいただきたいと願い,筆をとりました.
 筆者の皆様には,心から敬意を表します.

■監修者の序

 筋ジストロフィーの原因遺伝子としてジストロフィンが発見され,その後も新たな遺伝子発見の報告が続き,分子生物学の進歩は目を見張るものがあります.次は,遺伝子治療の成功を含めた根本的な治療法が1日も早く確立されることが期待されています.一方,リハビリテーションの現場も国立療養所の筋ジストロフィー病棟を中心とした施設での療養から,在宅,地域での自立生活の試みまで,大きな変化が始まっています.
 このような時期に,筋ジストロフィーのリハビリテーションに関する書籍をまとめる作業に参加できたことをとても光栄に思います.現場の実務にあたっている理学療法士,作業療法士の方々をはじめ,自立生活を始めたみなさんにも参加していただき,多くの方々の協力で本書はできあがりました.できあがるまでに,いくつもの激論がありました.それぞれの立場での筋ジストロフィーにかける情熱はとても熱いものがあり,意見が対立したときもありましたが,それをエネルギーに本書は誕生しました.筋ジストロフィーという疾患は仕事を変える,人を変えると感じてきましたが,筋ジストロフィーに元気をもらった人たちが本作りに集まっていました.本書ができあがり,明日からは,このエネルギーが再びリハビリテーションの現場で生かされることを熱望するとともに,本書が筋ジストロフィーのリハビリテーション現場にいるすべての皆さんに役立つことを期待しています.
 情報が一瞬の間に世界中を駆け巡る時代には,紙の情報はすぐ古くなってしまいがちです.しかし,本書では時代が変わっても,変わらない情報もたくさん整理できたと思います.これを出発点に,現場に張り付いているみなさんが創意工夫をこらし,筋ジストロフィーのリハビリテーションが発展し,患者の皆さんの夢が一つ一つ実現することを願っています.
 最後に本書を出版するにあたり,終始ご助力いただいた医歯薬出版編集部および関係者の皆様に深く感謝します.
 2002年8月
 大竹 進

■編者の序文

 わが国では,昭和40年頃から国立療養所を中心に,筋ジストロフィー(以下筋ジス)に対する本格的な取り組みが始まった.以来,国立療養所の筋ジス病棟では,多職種によって医療,教育,療育といった包括的なケアが行われてきた.なかでも,リハビリテーションサービスは,筋ジス病棟開設時の厚生省「筋萎縮症対策要綱」のなかですでにその推進が強調されている.昭和40年に「理学療法士及び作業療法士法」によって法制化された理学療法士(PT),作業療法士(OT)が,各施設で徐々に筋ジスのリハビリテーションにかかわるようになり,今日では国立療養所26施設と国立精神神経センターで約90名のPT,約25名のOTがその仕事を担っている.
 厚生省による筋ジス研究は,昭和43年の厚生省特別研究に採択された「筋ジストロフィーの成因と治療」に関する研究に始まったが,その後の発展により研究対象が拡大し,幅広い分野における研究成果が蓄積されてきた.現在,筋ジス研究は,厚生労働省精神・神経疾患研究委託費による5班から構成される研究班によって行われている.このうち,通称第4班は医師,看護師,PT,OT,児童指導員,保育士,栄養士などによる総合的研究班で,3年継続のテーマに対する研究班として活動している.第4班の昭和56年以降の正式名称を表に示す.本書では,これらを「厚生省筋ジス研究第4班」と名称を統一して表記する.

 厚生省(現厚生労働省)筋ジス研究第4班班名一覧
 年 度 班 名
 昭和56年〜昭和58年 厚生省神経疾患研究委託費
  筋ジストロフィー症の療護に関する総合的研究班
 昭和59年〜昭和61年 厚生省神経疾患研究委託費
  筋ジストロフィー症の療護に関する臨床および心理学的研究班
 昭和62年〜平成元年 厚生省神経疾患研究委託費
筋ジストロフィー症の療養と看護に関する臨床的,心理学的研究班
 平成2年〜平成4年 厚生省神経疾患研究委託費
筋ジストロフィーの療養と看護に関する総合的研究班
 平成5年〜平成7年 厚生省神経疾患研究委託費
筋ジストロフィーの療養と看護に関する臨床的,社会学的研究班
 平成8年〜平成10年 厚生省精神神経疾患研究委託費
筋ジストロフィー患者のQOLの向上に関する総合的研究班
 平成11年〜平成13年 厚生省(平成13年度より厚生労働省)精神・神経疾患研究委託費
筋ジストロフィー患者のケアシステムに関する総合的研究班
 昭和59年度に,厚生省筋ジス研究第4班にリハビリテーション分科会が設けられ,PT,OTによる実践研究が一層活発になった.昭和62年には,この分科会によって実践マニュアルである「筋ジストロフィー症のリハビリテーション―理学療法・作業療法―」がまとめられ,筋ジス病棟をもつ全国の国立療養所へ配布された.その後,新薬開発研究の一環として,運動機能を薬効判定の指標とする臨床試験に全国のPT,OTが参加する機会を得た.この臨床試験参加を機に,平成3年「厚生省筋ジス研究第4班PT・OT共同研究連絡会」が組織され,全国レベルでの共同研究が開始された.この会で取り組んだ最初の共同研究「筋ジストロフィーの運動機能評価法に関する共同研究」では,筋ジスの運動機能評価における問題点とその対策を研究し,全国共通の基準で評価ができるようにした.その結果は本書にも紹介してある.以後,今日までいくつかのテーマで共同研究が続けられてきた.
 以上のように,これまで筋ジス医療にかかわるPT,OTは長年リハビリテーションに関する実践研究を積み重ねてきたが,その活動は国立療養所のなかに限定される傾向があった.しかし,社会情勢の変化により在宅療養を選択する傾向が増加し,筋ジス医療の現場は国立療養所に限定されなくなってきた.一方,国立療養所では近年,人事異動などにより長年筋ジス医療にかかわってきたPT,OTが次々現場を離れ,リハビリテーション実施上のノウハウが継承されにくくなっている.
 このような現状から,われわれがこれまで行ってきた研究や実践をまとめ,国立療養所の内外を問わず誰にでも利用できる形で紹介することの必要性を感じ本書の出版を計画した.内容については,人数の最も多く,小児期から思春期にかけてさまざまな問題点があるデュシェンヌ型を中心に取り上げたが,他の病型についても必要に応じて触れ,応用ができるように対応したつもりである.
 本書の執筆は,PT・OT共同研究連絡会の現および旧メンバーのうち,それぞれの分野で実績のある者が担当した.また,共同研究連絡会以外からは,渡邉愼一氏のグループと谷中誠氏を執筆者に加えた.大竹進先生,石原傳幸先生には,疾患の概要と自然経過について詳しい解説をお願いした.大竹先生には,監修者としてもご指導,ご助言をいただき大変お世話になった.
 執筆者達は皆,現場で患者に触れながら実務に当たってきた者ばかりである.そのため,本書にはリハビリテーションの幅広い分野に関して,これまでにない具体的で実際的な内容が盛り込めたと自負している.しかし一方で,経験的で効果に対する検証の不十分なところも多く,筋ジスに対するリハビリテーションの決定版とはいえないことをお断りしておかなくてはならない.今後,病気の発症メカニズムが明らかになれば,より効果的な方法が見つかる可能性は十分にある.本書を出発点として筋ジスに対するリハビリテーションがさらに充実し,この厳しい病気とともに生きる患者,家族の皆様に,より確実な支援ができるようになることを期待してやまない.
 本書が出版できたのは,執筆を担当した者だけの力によるのではない.筋ジス担当PTの草分けとしてその体制づくりに苦労され,今回の執筆にも助言をいただいた五十嵐俊光氏,いくつもの堅実な研究によりわれわれの理論的バックボーンであった故浅野賢氏をはじめ,PT・OT共同研究連絡会で意見を交換し,研究をともにしてきた仲間の力が結実したものである.また,これまでかかわった患者の皆様の生き様が,われわれを支える大きな力となったことはいうまでもない.
 最後に,わが国における筋ジスのリハビリテーションの先駆者である野島元雄先生,リハビリテーション分科会長として10年以上われわれの仕事を支えて下さった松家豊先生,臨床試験を通し重要な薬効判定へのわれわれの参加を積極的に支援して下さった杉田秀夫先生,今回の出版を応援して下さった現4班班長福永秀敏先生,リハビリテーション分科会長齋藤博先生をはじめ,これまでわれわれを励まし導いて下さった多くの先生方ならびに筋ジス研究の体制作りに長年尽力いただき,現在も研究活動に積極的に協力いただいている日本筋ジストロフィー協会に対して,心より感謝申し上げる.
 2002年8月
 編者一同

■言及

◆立岩 真也 2018 『病者障害者の戦後――生政治史点描』,青土社


UP:20160625 REV:20181105
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