『べてるの家の「非」援助論――そのままでいいと思えるための25章』
浦河べてるの家 20020601 医学書院,253p. 2100
製作:植村要*/青木慎太朗/松枝 亜希子
*http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/uk01.htm
■浦河べてるの家 20020601 『べてるの家の「非」援助論――そのままでいいと思えるための25章』,医学書院,253p. ISBN:4260332104 2100 [amazon]/[kinokuniya]/[kinokuniya] ※ m,
■内容説明[bk1]
昇っていく生き方はもうやめた。リハビリなんて諦めた。苦労と出会うために「商売」を。悩みをとり戻すために「経験」を。昆布と病気を元手に稼ぎまくるべ
てるの家の「弱さ」と「語り」をキーワードにした右肩下がりの援助論。
◆白石さんより
書 名:べてるの家の「非」援助論――そのままでいいと思えるための25章
著 者:浦河べてるの家(うらかわべてるのいえ)
仕 様:A5版、タテ組、並製、256ページ
定 価:2000円+税
発行日:2002年6月1日 ISBN4-260-33210-4
「幻覚&妄想大会」「偏見・差別歓迎集会」という珍妙なイベント。「諦めが肝心」「安心してサボれる会社づくり」「精神病でまちおこし」という脱力系
キャッチフレーズ群。それでいて年商1億円、年間見学者1800人でいまや過疎の町を支える一大事場産業になった……
〈べてるの家〉はいま、医療福祉領域を超えて世の中の圧倒的な注目を浴びています。医学系、福祉系はもとより哲学系、宗教系、商売系から癒し系まで、多く
の人がハマってしまうのはなぜなのか。いったい何がそんなにすごいのか。何がそんなに人びとを惹きつけるのか。
昇ることをやめ、毎日の苦労に躓きながらも、「にもかかわらず」笑うかれら自身が描いた本書から、その一端を垣間見ていただければ幸いです。
[編集担当]医学書院看護出版部:白石正明
TEL 03-3817-5785 FAX 03-3815-4145 m-shiraishi@igaku-shoin.co.jp
[購入問合せ]医学書院販売部:TEL 03-3817-5657 FAX 03-3815-7804
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■目次
序にかえて――「浦河で生きる」ということ
T 〈べてるの家〉ってこんなところ
第1章 今日も、明日も、あさっても◎べてるはいつも問題だらけ 18
第2章 べてるの家の歩みから◎坂道を転がり落ちた一〇年がくれた「出会い」 24
コラム べてるの風 30
U 苦労をとりもどす
第3章 地域のためにできること◎「社会復帰」という切り口の貧相 34
第4章 苦労をとりもどす◎だから私たちは商売をする 42
第5章 偏見・差別大歓迎◎けっして糾弾いたしません 47
第6章 利益のないところを大切に◎会社をつくろう 55
第7章 安心してサボれる会社づくり◎「弱さの情報公開」という魔法 59
第8章 人を活かす◎二人の物語
その1 「発作で売ります」──べてる認定一級販売士・早坂潔物語 65
その2 「自分で自分に融資の決済」──べてるどりーむばんく頭取・大崎洋人物語 72
第9章 所得倍増計画《プロジェクトB》◎昆布も売ります。病気も売ります。 77
第10章 過疎も捨てたもんじゃない◎悩み深いところビジネスチャンスあり 86
V 病気を生きる
第11章 三度の飯よりミーティング◎話し合いは支え合い 92
第12章 幻聴から「幻聴さん」へ◎だんだんいい奴≠ノなってくる 98
第13章 自分で付けよう自分の病名◎勝手に治さないという生き方 105
第14章 諦めが肝心◎四六時中、人に見られていた七年間 †110
第15章 言葉を得るということ◎ぼく、寂しいんです 122
第16章 昇る生き方から降りる生き方へ◎病気に助けられる 128
第17章 当事者研究はおもしろい◎「私」を再定義する試み
その1 「爆発」の研究 137
その2 「虚しさ」の研究 147
第18章 そのまんまがいいみたい◎看護婦脱力物語 162
第19章 べてるに来れば病気が出る◎放っておいてくれる場所 170
第20章 リハビリテーションからコミュニケーションへ◎うまくいかないから意味がある †◆合成◆‡174
W 関係という力
第21章 弱さを絆に◎「弱さ」は触媒であり稀少金属である 188
第22章 それで「順調!」◎失敗、迷惑、苦労もOK 197
第23章 べてるの家の「無責任体制」◎管理も配慮もありません 202
第24章 「場」の力を信じること◎口先だけでいい、やけくそでいい 206
第25章 公私混同大歓迎◎公私一体のすすめ 210
コラム べてるに染まれば商売繁盛 217
X インタビュー
@ 社会復帰ってなんですか?…向谷地生良 222
A 病気ってなんですか?…川村敏明 231
あとがき 249
■書評・紹介
◆立岩 真也 2002/08/25 「『べてるの家の「非」援助論』・1」(医療と社会ブックガイド・19),『看護教育』2002-08(医学書院)
◆立岩 真也 2002/10/25 「『べてるの家の「非」援助論』・2」(医療と社会ブックガイド・20),『看護教育』2002-10(医学書院)
■「薬の使用」に該当する箇所の抜き書き 松枝 亜希子(立命館大学先端総合学術研究科)
p60
一九歳で精神分裂病と診断され、精神病院で、よだれが出るほど薬を飲まされて、すごく閉鎖的で管理的な扱いを受けた経験を持っています。
p82
ちなみに本田さんは、入院中でありながら福島講演の直前から「薬を飲まないでやってみたい」と希望し、「無脳薬」の状態で初公演に挑んだ。しかし講演終了
後からふたたび幻覚がはじまった。
p101
医療の場では、幻覚妄想は忌まわしいもの、つらいものとして考えられてきた。だから幻聴の中身に立ち入らないことを重視したり、なんとか薬の力で封じ込
めようとしてきた。
しかし、すべての人の幻覚妄想が単純に薬の力で消えるわけではない。嫌々でもつきあっていかなければならない場合も少なくない。
p102
「ぼくはお金もないし、浦河はそんなに遊ぶところもないし、とにかく暇なんです。そんなとき幻聴さんはぼくの遊び友達だし、話し相手でもあるんです。だか
ら、いい薬はつくってもらいたいのですが、ぼくの幻聴さんだけはなくする薬はなるべくつくらないでほしいんですけど……」
p106
薬はリスパダールをのんでます。リスパダールでなかったときは、一人でねむれませんでした。
でもリスパダールをのみはじめてからは1人でねられるようになりました
「リスパダールは1人寝のさみしさ」
前、薬を忘れて講演旅行いったら山手線の中で「ぱぴぷぺぼぅー」になったんだワ。
「具合のわるいときは、薬と人妻の手をかりよう」
p109
薬は、症状の緩和と予防には効果があるが、いかに生きていくかというその人固有の人生課題の解決には当然のごとく無力である。
p115
私は、とにかくつらくて安定剤がほしくて精神科に通っていました。病院でも医師は「調子はどうなの」としか聞いてくれず、もし私が「今日は調子がいいで
す」と言ったものなら薬が減らされるのではないかと心配で、本当のことが言えませんでした。
p136
製薬メーカーさんに会ったときに「幻聴さんを撲滅する薬はつくらないでほしい」と頼んだ。
p168
通院を拒否したり薬をやめたりすることも、病気とともに生きる大切な準備のプロセスとして、「順調だよ」と評価してもらえます。
一方的に「薬を飲まないことはいけないことだ」とプロセスを中断させることは、自律心を阻害し自信を失わせることになります。
p231
医者の立場からすると、幻聴を軽くしてあげなければいけないと思ったら、思いやりをもってクスリを増やすと思うんです、少なくとも二割は。それでも駄目
なら五割は増やしてあげて。それは患者さんにとってはうれしくないことですからね。
p232
そういう段階をいっぱい経たなかで、たとえばクスリがどう役に立つのか先生に聞いてみようとか、お互いにどういうふうにクスリを役立てているかとかを語り
はじめることから大事なつながりも生まれてきて、病気ということの重さから多少とも解放されていくんですね。
p238
あるとき、怒鳴りまくったりする状態が目立ったものだからクスリを変えてあげようとしたんですね。クスリを変えたから幻聴が治るとは思っていませんでし
たが、大崎さんを応援しているんだよという、なんらかの合図を送ろうとしたんですね。「大崎さん、クスリを変えるからね、いい?」と聞くと、大崎さんは
「いいですよ」とすぐに返事をしてくれたんです。
ところがたぶん次の日だったと思うけど、怒ってきました。「先生、勝手にクスリを変えたら困る!」と。
◆「精神障害者がグループを形成する時の困難な点」に該当する箇所の引用
p18
「潔くんが落ち着かなくて、テーブルひっくり返したりして大変なんですよね」
潔さんの落ち着きのなさに同居人の石井健さんも興奮し、「いいかげんにせえよ!」と詰め寄ってくる。興奮する石井さんを佐々木さんが「病気なんだから、
心配しないでもう寝て」と落ち着かせようとするが、寝る気配がない。
p21
隠しカメラが設置されていると言っては警察に捜査を依頼したり、深夜お腹がすいたと夕食のカレーライスの残りに火をかけたのを忘れてしまい、焦げたにお
いをかぎ「オウム真理教に放火された」と一一九番通報したり……(そのときは実際に消防車が駆けつけた)。
全国各地の作業所や共同住居のなかでも、べてるの家ほどパトカーや消防車が駆けつけた場所もないのではないかと思う。それだけ地域には、具体的に迷惑や
心配をかけてきた。
p48
盗聴器が仕掛けられていると言って一一〇番する人がいたり、取っ組み合いの喧嘩をして怪我をしたと言っては救急車を呼んだり、騒ぎには事欠かないところと
なっていった。
p62
キレはじめたぼくのために、メンバーのなかから助手がつくことになりました。しかし今度は、その助手との人間関係に疲れて、またキレてしまうという悪循環
がはじまりました。文字どおり「重荷」を背負う量が多くなってきました。そして、とうとうエンストを起こすことが多くなりました。
p183
お金の貸し借りにしても病棟規則として禁止するのではなく、大人として任せることも必要になってくる。当然のようにお金の貸し借りによるトラブルが生じる
だろう。
p200
廊下には血のあとが転々とつづき、奥の部屋では手に怪我をしてボコボコに顔を腫らした山崎さんが休んでいた。窓ガラスは割れ、家具は倒されていた。
「どうしたの……」
「彼氏とここで喧嘩になって……そして……店も……」
そう言われて一階の店舗に降りていくと、眼前には信じられない光景が飛び込んできた。新装オープンしたばかりの店の玄関や側面のガラスが破壊され、フラ
ワーボックスはなぎ倒され、土が散乱していた。店のなかにもガラス片が飛び散り、ちぎれた植物の花びらが哀れな姿をさらけ出している。
p202
夕方、べてるの家で借りている隣接する教会のガレージ内でボヤが発生し、消防車が出動したのである。不審火であった。地域の自治会や隣近所から「火事だけ
は気をつけてね」と事あるごとに言われている立場としては、最悪の出来事だった。
p206
フラワーハイツという共同住居の例をあげよう。
一人の女性が「食べるな」という幻聴に耐えかね、思わず「うるさい!」と叫んだ。すると隣に住んでいる女性メンバーが「私が悪口を言ったのがバレたのか
な?」と心配になり、廊下にある公衆電話で母親に「誰かが告げ口をして困る」と訴える。すると壁越しに内容を聞いていた別のメンバーが「自分が疑われてい
る」と思い込み眠れなくなる――こんなぐあいに、ドミノ倒しのように心配や不安が連鎖していくのである。
p226
病気を体験したどうしなのに、「あんな奴に来てもらったら困る」とか「あいつはオレより仕事をしないのに給料が同じなのはおかしいじゃないか」とかいう
文句が出てくるんですよ。じゃあ、あいつのクビを切ってもっとましな奴を採用しようとかなったときに、ハッと気がつくわけです。自分がいままで会社でされ
てきたことをしようとしている、と。