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『正義の経済哲学――ロールズとセン』

後藤 玲子 20020629 東洋経済新報社,466p.
[Korean]


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後藤 玲子  20020629 『正義の経済哲学――ロールズとセン』,東洋経済新報社,466p. ISBN-10: 4492313109 ISBN-13: 978-4492313107 \4410 [amazon][kinokuniya] ※


■目次

第1部 構想(Conception)

 1章 多元的民主主義の構想

  1 はじめに
  2 センの二つの自由概念
  3 ロールズの正義の二原理
  4 社会基本財アプローチvs潜在能力アプローチ
  5 自由の優先vs内的連関性
  6 政治的構成主義と社会経済学的方法
  7 ロールズとセンとの理論的補完性
  8 結論:ロールズとセンに基づく規範理論の展望

 2章 自由と必要

  1 はじめに
  2 問題の所在
  3 市民的自由と生存権
  4 個人の責任と必要に応ずる分配
  5 二つの分配準則の基本的性質
  6 財・効用・機能
  7 自由と潜在能力
  8 個人の責任と機会の平等
  9 相対的尺度vs絶対的尺度
 10 結論:必要に応ずる分配の概念的定式化

 3章 必要に応ずる分配準則の定式化

  1 はじめに
  2 基本的モデルと概念
  3 必要と貢献
  4 分配的正義の諸公理
  5 必要原理をみたす分配ルール
  6 J−潜在能力平等化ルール・クラスの公理化
  7 結論

 4章 ロールズ格差原理的分配ルール

  1 はじめに
  2 経済学的定式化を超えて
  3 ロールズ格差原理の基礎的観念
  4 「ルールのルール」としての手続き的性格
  5 α結合分配ルールと格差原理
  6 順序か部分順序か――コーエン、マーフィー対ポッゲの論争
  7 結論

 5章 公正な分配システム

  1 はじめに:分配的正義の規範理論
  2 多元的民主主義とリベラルな平等
  3 ドゥオーキンの「資源の平等」アプローチ
  4 「資源の平等」への経済学的批判
  5 個人の責任の観点に基づく平等主義理論
  6 結びに代えて:ドゥオーキンの医療保険制度の構想

第2部 論理(Logic)
 
 6章 アローとロールズ

  1 はじめに
  2 ロールズの「四つのステージ・シークエンス」
  3 アローの基本的関心
  4 バーグソンとアロー
  5 ハーサニーの社会的選好
  6 アローとロールズ:理論的射程の相違
  7 アローの難問:カントとナイトの狭間で
  8 結びに代えて

 7章 ロールズ格差原理の公理化──社会的選択理論のアプローチから

  1 はじめに
  2 公理的アプローチ
  3 ハモンド=センによる格差原理の公理化
  4 ストラスニックの公理化
  5 結びに代えて:ストラスニックとハモンドの方法論的比較
  
 8章 個人間比較の観点と情報的基礎──「無知のヴェールの掛かった原初状態」再考

  1 はじめに
  2 個人間比較に向けて
  3 形式的な不偏性条件
  4 衡平性に関する諸条件
  5 原初状態の装置の意味
  6 結びに代えて

 9章 情報的基礎と道徳原理──個人間比較をめぐる諸問題

  1 はじめに
  2 情報の抽出と捨象
  3 資源配分システムの情報的基礎
  4 個人的評価の主体的形成の意味:自己抽象化プロセス
  5 個人間利害調整における個人間比較可能性
  6 個人間比較の哲学的基礎:ポジション依存的客観性
  7 二つの問題:還元主義と指標問題
  8 公共的判断の客観性と合意可能性
  9 道徳判断における客観性と整合性
 10 結びに代えて

10章 個人の公共的判断と社会的決定の手続き

  1 はじめに
  2 個人の私的選好と公共的判断
  3 公共的判断の一般的形式
  4 「共感的判断」族
  5 「共同体的判断」族
  6 コルムの根源的選好
  7 道徳的人格の観念に基づく公共的判断
  8 潜在能力概念に基づく公共的判断
  9 公共的判断の集約手続き
 10 政治的参加の自由
 11 集約手続きと個人の公共的判断
 12 結びに代えて

11章 個人の評価構造の多層化──規範的意味と条件

  1 はじめに
  2 個人的評価の多層性
  3 公共財概念再考:財の性質に依拠した定義から評価に依拠した定義へ
  4 政治的な公共善とポジション配慮的ルールの構成
  5 高次原理と公共的討議の場
  6 ルールを媒介とする個人の営み
  7 結びに代えて

第3部 解明(Explication)

12章 ハーバーマスとロールズ

  1 正義原理の制定と改訂のダイナミック・プロセス
  2 自由と民主主義のジレンマ
  3 三つの中立性と手続き的正義
  4 民主主義再考

13章 政治的リベラリズムの基本構想──ロールズとセンの方法論的特質

  1 はじめに
  2 問題の所在
  3 原初状態における諸前提
  4 形式的条件と最小限の規範的条件
  5 高次原理とその非決定性(indeterminacy)
  6 異なる理由(reasons)の重みづけ
  7 センのアプローチ:共通部分準順序と道徳判断
  8 非基本的判断と非強制的判断
  9 結びに代えて

14章 公正な協同的システムとしての社会──正義の政治的構想における公共善

  1 個人と制度:ルソーとロールズ
  2 価値と選択:J.S.ミルとロールズ
  3 包括的善の理論
  4 公正な社会的協同としての社会
  5 社会的基本財
  6 市民の政治的徳
  7 秩序ある社会という善
  8 政治的共同体の観念をめぐって:ウオルツアーとロールズ
  9 ウオルツアーの社会契約論
 10 結びに代えて

15章 ローカル・ジャスティスとグローバル・ジャスティス──政治的リベラリズムの観点から

  1 はじめに
  2 私的選好・集合的選好・公共的判断
  3 ローカル・ジャスティスの主題と分析視角
  4 正義の基本原理と組織内原理との関係
  5 ローカル・ジャスティスの基本ルール
  6 公正としての正義とグローバル・ジャスティス
  7 万民の法の制定ステージ
  8 <社会>の統合性と<万民の社会>の安定性
  9 結びに代えて

16章 政治的リベラリズムに基づく立憲的民主主義の構想

  1 はじめに
  2 二つの自由概念
  3 行為の自由と参加の自由との衝突
  4 行為の自由の定式化
  5 参加の自由の定式化
  6 立憲的民主主義の観念
  7 結びに代えて

第4部 展望(Perspective)

17章 福祉国家の分析視座

  1 はじめに
  2 背景理論:ドゥオーキン、ロールズ、ウオルツアー
  3 規範的分析の四つの分析視座
  4 社会保障・福祉制度の規範的性質に関する予備的分析
  5 システムの一般性・普遍性・不偏性:概念的意味(基本的観点2との関連で)
  6 主体的参加と公共性(基本的観点4との関連で)
  7 個人の責任と社会的保障(基本的観点3との関連で)
  8 目的としての個人と社会的目標(基本的観点1との関連で)
  9 結びに代えて

18章 多元的民主主義と重複的合意の形成──正義のパースペクティブ:ロールズとセン

  1 はじめに
  2 正義の基本原理に関する集計ルール
  3 エストルンドの認識的手続き主義
  4 センによるロールズ正義理論の再構築
  5 <社会>か多元的集合体か
  6 複数の集団にまたがる個人の自己統合化
  7 社会契約論の拡張に関する一試論
  8 公共的熟議と必要の発見
  9 <重複的合意>:政治的リベラリズムに基づく公正な手続き
 10 結びに代えて

19章 公共善と重複的合意──政治的リベラリズムに基づく現代民主主義社会の骨格

  1 はじめに
  2 功利主義・平等尊重主義・自由尊重主義・卓越主義
  3 政治的リベラリズム(political liberalism)
  4 「共通の基本ルール」の規定に関して
  5 現実的制度と理念的制度
  6 効率性について
  7 ゲーム理論的社会契約との相違
  8 個人・個人間関係・共同・公共
  9 結びに代えて

補論
あとがき
参考文献
事項索引
人名索引



■概要

主旨

本書の目的
・ロールズの正義理論の再構成
・ロールズ理論と(それとぶつかりあう)他の理論との共通性の把握
・正義理論の担い手の確認:ロールズからセンへ


◆第1部 構想(Conception)

ロールズとセンに共通な視座(ウェイトは異なる)
@平等の要請:個々人の多様な活動の機会を制約する自然的・社会的偶然を制度的にコントロールすること、すなわち個人間で移転可能な外的資源によってそれらを調整すること。
A市民的自由の要請:個々人の多元的な目的や関心に基づく主体的評価―異なる資源の組み合わせをいかに評価するか、自己の置かれた客観的境遇の意味をいかに解釈するか―を尊重すること。
B政治的参加の自由の要請:個々人の公正な分配システムに関する主体的判断、すなわちルールの社会的な決定にあたって個々人が公共的観点から表明する判断を尊重すること。


◇第1章
ロールズの構想(公正としての正義)をセンの理論と比較し解読
 *この作業は、方法論的照合(第3部13章)、正義理論の新構想(第4部18章)へと続く

以降の章:@とAをバランスづけるような<公正な分配システム>の構想
ポイント:個々人の責任主体的な意志を尊重しながら、個々人の境遇を客観的に制約する自然的・社会的諸条件の相違を捉え、それらのみを情報的基礎とする資源分配ルールの設計

 2 センの二つの自由概念
 「たとえ、結果的に個人の福祉が増大したとしても、それが外生的に与えられたものであるならば、彼の福祉的自由が改善されたことにはならない。自己の福祉を実現するための機能(functioning)が向上し、自らの意思的選択によって自己の機能を達成する機会、すなわち、潜在能力(capability)の豊かさが増したとき、初めて、福祉的自由が改善されたことになる。
 例えば、生来、両腕のない人に対する社会的施策として、いま、二つの方法を考えよう。(a)ホームヘルパーを派遣し、食事や排泄など身の回りの世話をする。(b)日常生活を営むに有効な性能のよい義手を支給する。いずれの方法も、栄養の摂取や排泄が滞りなく行われるという帰結に関しては変わらない。ところが、本人自身が「栄養を摂取する」、「排泄をする」という機能を獲得すること、その結果、本人の意思と力によって帰結を実現することを可能にする点において優れているのは、(b)である。二つの方法は、福祉的自由の観点からは異なる効果を有するものと解釈される。」(後藤玲子[2002:6])
 *Sen, Amartyaについてのファイルでも引用


◇2章
「必要に応ずる分配」の再検討(市民的・政治的自由、個々人の多様性の尊重の二点から)


◇3章
「必要に応ずる分配」(並びにそれを具体化する分配ルール)の定式化


◇4章
貢献に応ずる分配と必要に応ずる分配を適切にバランスづけるα結合ルールとして:
ロールズの格差原理の定式化

以上を通じて<公正な分配システム>の構想:選択の自由と機会均等の優先的な保障のもとで、環境や人々の境遇が改善されるようなもの


◇5章
ドゥオーキンの「資源の平等」「仮説的保険市場」の解読
→システムを作っていく市民としての責任と私的目的を追求する個人としての責任を併せ持つ個人に相応しい、公正な社会保険システムの構想が課題


◆第2部 論理(Logic)

主題:公正な分配システムの設計とその社会的決定プロセス
→異なる諸条件(公理)を受容する個人の公共的判断とそれを集計する手続の性質の考察

一定の公正基準のもとで異なる個人間の境遇(改善要求)を重み付ける社会的決定関数の一つとして:
ロールズ格差原理の定式化、その性質の公理的な分析

「無知のヴェール」の原初状態の解釈:
正義の基本原理を制定する個々人の判断を認識的に制約する諸条件を表象する装置

アローの社会的選択理論を拡張するフレームワーク、それを支える情報的・制度的・主体的条件の考察


◇6章
アローの基本的な問題関心と枠組みの検討
→ロールズ正義理論における展開の方向性の探求


◇7章
比較的広いクラスの正義の基本原理を特徴づける一般的・形式的な諸条件(諸公理)の解明
→ロールズ格差原理を特徴づける公理の解明


◇8章
格差原理を特徴付ける公理の特性の検討:他の公理との比較
→格差原理が受容される論理の考察


◇9章
分配ルールの情報的基礎と社会的な決定手続の情報的基礎の区別
(個々人の境遇を表す指標と公共的ルールに関する個々人の評価の区別)
・情報的基礎
・個々人の境遇を捉える有意味な情報的基礎
・より客観的な評価が形成されるための基盤と条件


◇10章
個人の公共的判断(ルールの社会的決定のベースとなる)とその集計手続の特徴
・公共的判断が備えるべき共通の性質:公共的判断の五つのタイプの例示
・集計手続きが多元的民主主義において満たすべき条件


◇11章
個人的評価の二層構造(私的選好/公共判断)の規範的意味
・経済学的公共財概念を超えて「公共善」を捉える可能性
・個別的情報の多様性→普遍的意味の抽出→一般的ルール形成の可能性
・個人の自我の緊張関係→そのバランスのための制度的・主体的条件


◆第3部 解明(Explication)

ロールズの実践的関心:道徳的・宗教的・哲学的な領域に関する互いの見解の相違を保持したまま、相互に調整する必要のある最小限の問題に関して共通の基本ルールの形成
→「政治的リベラリズム」概念:価値の多元性と意思決定の自律性を前提とした社会的協同の公正なシステムとその決定手続きの輪郭のより具体的制度的文脈での検討


◇12章
政治的リベラリズムの課題(ハーバーマスvsロールズ論争を通して):
・よき制度を作り上げようとする個々人の主体性・自律性を持続させる
・公共的意思決定が適理性をもつための仕組みを内包するような正義原理とは何か


◇13章
ロールズ正義理論の手続き的正義の検討:センの理論との比較
 *両者の共通性は、正義理論の新構想の理論的根拠として、18章で展開される

14章
政治的リベラリズムの解釈
・「あろうとしている個人によってあるべき制度を作っていく」という構想
・個々人の公共的判断による承認を前提とする「善に対する正の優先性」
・政治的観念としての善の構想
 *他の善の構想 ミル:個人の主体性、ウオルツアー:共同体への参加


◇15章
各集合体あるいは各社会の自律的意思決定を尊重しつつ、最小限の基本ルールを定める論理と方法の解明

「リベラルな正義の政治的構想」による検討
・ローカルな正義(集合体間の関係性に関する正義)の問題
・グローバルな正義(社会間の関係性に関する正義)の問題

ロールズの正義原理:個人を直接単位とする<社会>に適用
〜社会内集合体のあり方や集合体間の関係性を明示的には規定しない

「万民の法」:既存の<社会>間の関係性を規定
〜コスモポリタン的社会には適用されない

◇16章
政治的リベラリズムに基づく立憲的民主主義の構想
→ルールに関する個々人の公共的判断およびその集計手続を規範的に制約する仕組みの定式化
 *3、4、10、16章を通してロールズの正義理論の定式化


◆第4部 展望(Perspective)
価値の多元性を特質とする現代社会で人々が理性的・公共的に受容しうる福祉国家システムの体系と民主主義システムのあり方の構想

◇17章
・四つの分析視座の提出(参照:ロールズ、セン、ドゥオーキン、ウオルツアー)
→社会保障・福祉制度の機能的特質と意味、互いの関係性の解明
・各国の社会保障改革の動向を適理的に評価し、異なる社会保障・社会福祉制度を体系的に裏付ける論理の探求
・今後の福祉国家のあり方を展望する際の留意点


◇18章
一定の形式的性質をみたしながらも、異なる内容をもった個々人の公共的判断の合意のあり方の検討
・ロールズの<重複的合意>の確認
→センの社会的選択のアプローチによる発展
・異なる複数の組織に所属する個々人が、当事者の視点と影響者の視点と公正な判断者の視点をもって異なる複数の組織内原理を構造化する営み
→各人の判断をもとに共通部分準順序の形成
・ロールズの相互性(reciprocity)や反照的均衡(reflective equilibrium)の再検討
→<重複的合意>の解釈


◇19章
本書のまとめ:多元的な民主主義社会において、異なる主体間の権利・義務関係の公正さを主題とする正義理論―とりわけ政治的リベラリズム―の射程の確認
→<社会>のより具体的な制度の骨組みを構想するための方法の考案



*作成:20030414 小林 勇人 
UP:20090624(後藤 玲子ファイルにあったものを分割してUP) REV:
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