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『理想の医療を語れますか――患者のための制度改革を』

今井 澄 20020405 東洋経済新報社,275p. ISBN-10: 4492700811


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今井 澄 20020405 『理想の医療を語れますか――患者のための制度改革を』,東洋経済新報社,275p. ISBN-10: 4492700811 ISBN-13: 978-4492700815 [amazon][kinokuniya] ※ a06

【内容(「BOOK」データベースより)】
元東大全共闘防衛隊長が医師として、国会議員として日本医療の再生を願って再び闘争宣言。自らが病気になって感じた医療のあるべき姿を熱いメッセージで語る。

【内容(「MARC」データベースより)】
安心できる医療改革制度をどうつくるか。医者、政治家、また患者としての経験を持つ著者が、自分の体験したエピソードを交えながら、医療問題の本質と改革の方向を判りやすく示す。

【著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)】
今井 澄
参議院議員。1939年中国東北地区(旧満州国)ハルビン生まれ。東京大学医学部卒業。佐久市立国保浅間総合病院勤務を経て、組合立諏訪中央病院に勤務、1980年に同病院院長に就任する。1991年同病院を退職。1992年に参議院議員当選(長野県区)を果たし、現在にいたる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

第1章 こんなにおかしい日本の医療
第2章 病院へのフリーアクセスをやめよう―「顧問医」活用のススメ
第3章 医師の意識をどう変えるか
第4章 老人医療を考える
第5章 医療費は誰が負担するのか
第6章 医療改革をどう実現するか―官僚主導の議論からの脱却
終章 これからの医療改革を考える
補論 私の社会保障改革論

■引用

 「老人医療費無料化は、一九六一年一二月、岩手県の沢内村で始められました。その様子は、岩波新書『自分たちで生命を守った村』に書いてありますので、ぜひお読みください。
 その後、東北地方を中心に全国に広がった無料化は、一九六九年に東京都が、七〇歳以上の老齢福祉年金受給者の自己負担を無料化したことをきっかけに、国の制度となりました。
 老人医療費無料化前の一九七〇年と、無料化後の一九七五年の、年齢別の受療率は、(以下略)
 しかし、先に述べたようにいろいろな問題が生じ、その後遺症で今苦しむことになりました。いわゆる「モラルハザード」、つまり、倫理的に危険な落とし穴ができてしまったのです。医師側にも、患者側にも、負担を考えない無責任な無駄遣いが起こってしまいました。」(今井 2002:114)

 「こうなってしまった原因の一つは、負担できる人と負担できない人の区別をせずに、七〇歳とか六五歳とか、一律の年齢で区切ってしまったことにあります。(中略)
 無料化をきっかけとしておかしくなった原因の二番目は、沢内村の本を読んでもらえばわかりますが、老人医療の無料化にあわせて、住民参加の健康づくり運動を一緒にやらなかったことです。(中略)<115<
 第三の原因は、二番目の原因と関連しますが、お金だけに注目していた政治の貧困さです。(中略)
 第四の原因は、医療保険制度のなかで無料化を考えるのではなく、老人福祉法のなかで無料化したことです。(中略)<116<
 第五の原因をあげれば、専門家である医療関係者が、老人医療のあるべきやり方について真剣に取り組まなかったことです。」(今井 2002:115-117)

 「欧米はどちらかといえば「クール」
 ヨーロッパでは年齢で区切る特別の制度がないにもかかわらず、老人が医療を受けにくい状況が出てきています。イギリスでは六〇歳を超えると、腎不全になっても国民医療サービス(NHS)では新規の透析を受けられないのが実態です。北欧でも介護サービスは十分に受けられますが、医療からは遠ざけられているようです。そのことに対して、ヨーロッパでは見直すべきだという意見も出されているようです。
 二〇〇〇年五月、パリに行ってOECDの医療担当者と話したときも、同年末にストックホルムで医療担当者と話したときも、そういう印象を受けました。
 実は、「寝たきり老人」がなぜ日本に多いのかという議論が二〇年余り前から行われてきましたが、その際に、「日本は、老人に対しても徹底的に医療を行うので、重症のまま生き延びる患者が多いからだ」という意見があります。私は、それは完全に間違っていると思います。日本では、本人も「寝たきり」を好み、病院や家族も「寝かせきり」にしているのが、根本的な原因だと思います。現に、多くの病院が寝たきり老人や、褥瘡をつくってきました。また、リハビリをして歩けるようにして退院させても、家に帰ると寝たきりになる老人も多いのです。病院やケア施設や地域でのリハビリヘの<132<取り組みについて、日本は欧米にはるかに及びません。
 しかし、重症の、いわゆる「植物状態」の患者もあまり欧米では見かけません。欧米では、老人医療やターミナルケアについては、どちらかといえばクールであるように思います。

終末期医療を考える難しさ
 最近は、医療費の無駄の話題になると、すぐにターミナルケアの問題が出てきます。どうせ死ぬことがわかっているのだから、お金のかかる治療をする必要はないという意見があります。
 厚生労働省が二〇〇一年三月に出した『医療制度改革の課題と視点』では、「終末期医療」、「死亡場所の変化と延命治療に対する考え方」、「終末期における医療費」、「終末期医療の考え方」の四項目をあげ、三ページわたって高齢者の終末期医療について書いてあります。
 死に場所が病院に偏ってきていることについては、社会的入院の節でも書きましたが、本人にとっても好ましいものではありません。在宅医療や在宅介護の体制を強化したり、住宅政策を充実させながら、本人の希望添うかたちで、在宅で看取れるように進めることが必要です。
 しかし、高齢者医療の専門家である横内正利医師が、インタビュー(二〇〇一年二月二五目「朝日新聞」、同年六月一九日「読売新聞」)に答えているように、いくつかの問題があります。
 まず、厚生労働省のパンフレットでは、「単なる延命治療を望まない人も約七割」と書いてありますが、これは正しい表現ではないことです。質問の内容は「痛みを伴い、治る見込みがないだけでな<133<く、死期が追っていると告げられた場合、単なる延命だけのための治療をどう考えますか」というものです。高齢者の場合、痛みが伴わない末期も少なくありませんし、慢性の病気の場合、死期が追っているかどうかの判断も難しいのです。どこからを末期というのかということも問題ですが、はなはだしい研究では、死亡一年前からを末期とみなすようなひどいものもありました。
 また高齢者の場合、慢性疾患でだんだんに弱っていくことが多いのですが、肺炎などの急性期疾患にもかかりやすくなります。そのときに適切な治療をすれば回復しますが、放っておけば確実に死期を早めます。二〇〇一年秋の臨時国会で、高齢者にインフルエンザの予防接種をする法案が成立しました。数年前にインフルエンザが大流行したときに、かなりの数の老人が肺炎を併発して死亡しましたが、そういったことを防ぐことも、この法律改正の目的としてあげられました。予防接種も意味がありますが、そのときの集団死亡例をみると、ある特定の施設に偏っていたことがはっきりしています。つまり、ある特定の施設では、入所者への医療サービスが十分ではなかったのです。おそらくこういった施設では、日常のケアも、入所者の立場に立った温かいものではなかったのではないかと推測できます。
 医療費については、厚生労働省のパンフレットにも書いてあるように、死亡した月の医療費が高いという研究もあれば、医療費全休に占める終末期医療費の割合は少ないので、医療費を削減する効果は少ないという研究もあります。費用面から終末期医療を取り上げるにはデータ不足なのです。
 日本人一人当たりの生涯医療費は平約二三〇〇万円かかり、七〇歳を過ぎてからその半分以上を使<134<っているという計算がありますが、これは終末期医療費ではありませんし、老人医療のおり方の問題に関係することです。

QOLが悪用される危険性
 また、最近では「QOL(生活の質)」が重視されていますが、横内氏は、「高齢者医療に限らずQOLの維持・向上は医療の重要な使命である。『QOLの低い状態で生きていても仕方がない』という考え方が広まりつつあり、QOLという言葉が高齢者切り捨てに悪用されようとしている」と警告を発しています。
 患者や家族の求めることと関係なく、「一分一秒でも命を長引かせたい」とがむしゃらにがんばり、いわゆる「スバゲッッティー症候群」をつくりだし、家族の手も握れず、最後の話もできないままに死にしていくよう々医療行為は問題ですが、だんだん死期が近づいてくる患者が人間としての尊厳を保ち続けられるように、ときどきに起こる肺炎などの急性疾患をきちんと治しながらQOLの低下を防いでいくのが、立派な高齢者医療というものではないでしょうか。
 そして何よりも、横内氏が指摘するように、「高齢者医療について系統だったノウハウは蓄積されていないといっても過言ではない。多くの医科大学に老人科が設置されており、また四〇年の歴史をもつ日本老年医学会という医師の団体もあるが、いずれも高齢者にふさわしい医療のあり方を研究しているとはいいにくい,むしろ地域医療に取り組む医師たちのほうが高齢者医療に詳しいのではない<135<か」というのが実情です。
 医療と介護、さらには健康づくりと連携、そして慢性疾患、急性疾患、終末期の相同的で系統的なプログラムを急いでつくることが先決だと思います。」(今井 2002:136)

 「まず、出来高払いが今どのように医療を歪めてしまっているか、という点から話をはじめます。
 出来高払いの欠点の第一は、診療が過剰になりやすいことです。(中略)<156<
 出来高払いの欠点の二つ目は、過剰診療とはいえないまでも、同じ種類の診療行為であればより点数の高いものを選びがちになるということです。(中略)
 出来高払いの三番目の欠点は、「点数表にあるものはやるが、ないものはやらない」という傾向になることです。」(今井 2002:156-157)

◆今井澄
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E4%BA%95%E6%BE%84

■言及

◆立岩 真也 2008 『…』,筑摩書房 文献表
◆立岩 真也 2011/01/01 「社会派の行き先・3――連載 62」,『現代思想』39-(2011-1): 資料


*作成:北村健太郎 *情報提供:天田城介
UP:20080219 REV:201012111, 14
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