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「同性愛者の人権侵害」

稲場 雅紀 2002 『法学セミナー』47(1):52-53


稲場 雅紀 2002 「同性愛者の人権侵害」『法学セミナー』47(1):52-53



実際にあった電話相談を加工して作った人権侵害の実例

【第一例】ある地方都市の男子高校生Aさんは、自分の性的指向が同性に向いていることを、親友と思っていた同級生に打ち明けた。ところが同級生はそのことを言いふらし、噂が広まって他の生徒から「ホモ」と言い捨てられるようになった。靴を隠されたり、登下校の時に使う自転車をパンクさせられたりといった嫌がらせが続いたが、あるとき、身の危険を感じて担任の教師に相談した。しかし、担任の教師は、同性愛に関わりたくない、と静観を決め込み、結局Aさんは、退学に追い込まれた(「差別」)

【第二例】都市郊外の田園地帯に住む女性のBさん。以前から男性を性的な対象としてとらえられなかったが、それは自分が消極的なタイプだからだと思っていた。三〇代を過ぎ、親の薦めで地元の有力者の子息と結婚したが、結婚後も男性との性行為に違和感がとれず、自分の性的指向は男性ではなく、女性に向いていることを強く意識するようになった。結婚生活に耐えられなくなり、夫に自分がレズビアンであることを告げて離婚を切り出したが、夫は拒否、Bさんに暴力を振るうようになった。親族も「Bにだまされた」と夫を擁護している。Bさんは、レズビアンであることを相談機関に告げることにも恐れを感じ、誰にも相談できない状況が続いている(「虐待」)。

【第三例】ある県の教員採用試験を受けたCさん。「適性検査」にのぞんだCさんの筆の動きがとまった。同性に性的な感情を抱いたことがあるか、という質問があったのだ。Cさんは、同性愛者だったが、周りの人に口に出して言ったことはなかった。知られることで、どんな不利益が生じるかわからなかったからである。「適性検査」で、「ある」と答えたら不採用にならないとも限らない。Cさんは悩みに悩んだ末、「ない」を選択した。Cさんは採用試験に合格したが、教職をめざす人間がうそをついたという良心の呵責に、長期間苦しんでいる(「公権力による人権侵害」)。

【第四例】大学一年生のDさんは、家族と一緒に民間放送のバラエティ番組を見ていた。その番組は、数名の人が「モーホーちゃん」というふれこみで登場、同性愛者のステレオタイプを演じては、タレントたちに徹底的にバカにされるという形で、同性愛をネタにして笑いものにするものだった。家族はテレビを見て笑い転げ、後になって「ホモって嫌」「気持ち悪い」などと口々に話した。Dさんはずっと、自分の性的指向が同性に向いていることで悩んでいた。自分の家族までも、同性愛者をこんな風に思っているのだとしたら……Dさんは、自分がどうすればよいのか分からなくなるとともに、強い孤独感を感じてその日は眠れなかった(「マスメディアによる人権侵害」)

*作成:高橋 慎一
UP: 20080819 REV:
  ◇ゲイ gay/レズビアン lesbian
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