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『引き裂かれる世界』(日本語表記)

Huntington, Samuel P. The Big Picture: Collected Thoughts on the Events of 9/11 and the Changing World Order.
=20021018 山本 暎子,ダイアモンド社,236p.


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■Huntington, Samuel P. The Big Picture: Collected Thoughts on the Events of 9/11 and the Changing World Order. =20021018 山本 暎子 訳,『引き裂かれる世界』,ダイアモンド社,236p. ISBN-10: 4478180342 ISBN-13: 978-4478180341 \1800 [amazon][kinokuniya]

■内容

「民主主義、ファシズム、社会主義、共産主義といったイデオロギーは、もはや世界を分かつ存在ではない」。代わって世界は「西欧、ヒンドゥ、儒教、日本、ラテン・アメリカ、東方正教会、イスラム」の8つの文明に分かれ、それぞれにアイデンティティーを求めて衝突していく。ハンチントンが「文明の衝突」でこう予測したとおり、イスラム文明と西欧(すなわちキリスト教文明)の衝突は、まさに「9.11」で先鋭的に出現した。この大規模衝突以後の世界を「一極・多極」として俯瞰(ふかん)したのが本書である。 一極は超大国アメリカ、多極は主要地域大国(欧州のドイツ・フランス、ユーラシアのロシア、東アジアの中国、西アジアのイラン、南アジアのインド、中東のイスラエル)、No.2地域大国(イギリス、ウクライナ、日本、パキスタン、サウジアラビア、エジプト)、その他の国々、という構図である。中心の超大国は主要地域大国から、主要地域大国は No.2地域大国から、No.2地域大国はその他の周辺諸国から、それぞれが絶えず圧迫を受けている。この下位からの圧迫をかわすために、アメリカはイギリス、日本などの地域大国と、主要地域大国は最下部の諸国との友好関係を図ろうとする。ハンチントンは、従来の「同盟」では説明できない複雑な国家関係の現実を、このような図式でとらえるのである。もちろん、友好関係の土台になるのは共通の文明・文化である。
確かに「9.11」は複雑な国家関係をイスラム過激派対「反テロ」同盟にすっきり二分する効果をもたらした。ハンチントンはこれを「初めての世界大戦」という言葉で説明する。しかし、アフガニスタンで成功したアメリカは次第に「同盟国などあってもなくてもいい」という思い込みを強めはじめている。そこに反テロ同盟のタガをはじけさせる危険性が潜んでいる。そういいながらハンチントンは、日本が自国の安全保障を確保するには、アメリカとの同盟関係を選択するべきだと暗に勧めるのである。
最後のところで、著者自ら「私はさしずめ『俯瞰図の男』と言えるだろう」と評しているが、「俯瞰」には文明の重層部を透視できないうらみがある。8つの文明のひとつを「日本」としているように、ハンチントンも「日本」には若干てこずっているかにみえる。ヨーロッパの文明を「罪の文化」、日本の文明を「恥の文化」というのは、明らかに「ルース・ベネディクト」的に古風であり、このあたりの皮相さが本書の弱点といえるのではないか。(伊藤延司)

出版社/著者からの内容紹介
ついに起こった「文明の衝突」。このあと世界はどう動くのか。キリスト教圏vsイスラム、アメリカvs中国、そして日本は? 「9.11」テロ、そして「フセイン政権打倒」を叫ぶアメリカ。西欧文明とイスラム文明の衝突は、さらに続くのだろうか??。 ハーバード大学のハンチントン教授は、前著『文明の衝突』(1996年)の中で、「アメリカというスーパーパワーに他文明が異義を唱え、衝突が起こる」と予見していた。当時は悲観的すぎるなどと批判もされたが、「9.11」によってその見方の正しさは証明されたといえるだろう。 そのハンチントン氏の待望の新著が本作。ここでは、テロ後のアメリカ社会、パレスチナ紛争、グローバリゼーションなどに焦点を当て、また微妙な米・中関係の間で揺れる日本の「選択」についても衝撃的な予測を述べている。「現代最高の知性」による国際情勢分析は、必読。

内容(「MARC」データベースより)
2001年、NYでテロ事件が発生。ついに起こった「文明の衝突」。このあと、世界はどう動くのか。キリスト教圏vsイスラム、アメリカvs中国、そして日本の行方は? それに対するひとつの答えがここにある。

出版社からのコメント
98年にハンチントンが世に発表した『The Clash of Civilizations and The Remaking of World Order』は、世界25カ国語で翻訳出版され、大きな話題となりました。日本でも『文明の衝突』(集英社・刊)として発売され、550ページを超える大著でありながら7万部というベストセラーになっています。ヘンリー・キッシンジャー(元米国務長官)は、「冷戦の終結後に書かれた最も重要な本」と論評しました。また中西輝政京大教授は、ハンチントンこそ「現代最高の知性」だと呼びます。  『文明の衝突』の中でハンチントンは、「世界は武力衝突から文明・文化の衝突という新しい課題に直面するだろう」「スーパーパワーとしてのアメリカに、イスラム教圏を含めたいくつかの異文明が異義を唱えるだろう」と予測しており、あの「9.11」テロ後、世界はまさにそれが現実に起こったのだと知りました。  そのハンチントンが、「9.11」後に初めて、著作を発表します。それが、本書『引き裂かれる世界』であり、この中ではテロ後のアメリカ社会、アフガン戦争の意味、多極化する世界、中国の覇権主義などを解説しながら、国際政治でいま起きていること、これから起こるであろうことを鋭く指摘、「ひび」が入るようにいくつかの「パワー」に分割されていく地球の姿を論じています。さらに、中国という新たなパワーの台頭を前にして、米中関係のなかで揺れる日本の選択についても述べられており、衝撃の内容となっています。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ハンチントン,サミュエル
1927年生まれ。ハーバード大学政治学教授。1977〜78年には、国家安全保障会議のコーディネーターを務めた。国際関係論において、アメリカを代表する学者の一人である。冷戦後の世界の枠組みについて新たな視点を提示した『文明の衝突』(The Clash of Civilizations and The Remaking of World Order)は、世界的ベストセラーとなった

山本 暎子 翻訳家。成蹊大学文学部英米文学科卒業。NEC海外販売職を経て、出版社数社で英文書籍や翻訳書の編集に携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次
日本の読者へ
1 文明の衝突
 冷戦の終わりと四つの世界像
 悲観的で危険な雑音?
 回避された核戦争
 『文明の衝突』の核心
 核なき文明イスラム
 血なまぐさく終わりのない断層線戦争
 スーダン内戦で何が起こったか
 引き裂かれた国トルコ
 非難と侮辱
 EU加盟国はなぜ拒否されたか
 文明間の対話
2 無防備なアメリカ
 「9・11」に起こったこと
 蹂躙される感覚
 テロリストの攻撃パターン
 本土防衛
 警察国家への道なのか
 「アメリカ人」の愛国心
 一体感の復活と異端弾圧
 「普段通りの生活を」‐大統領の呼びかけ
 国際政治と宗教
 アメリカ人に突きつけられた「なぜ?」
3 戦いの世紀
 超大国とテロ
 テロリストか、自由の戦士か
 一極・多極世界
 干渉、搾取、偽善、二枚舌
 危うい米・欧の「同盟」
 崩れていくバランス
 超大国への同情
 「武器を取れ」
 「反テロ」戦争と各国の反応
 パキスタンという難問
 長くは続かない反テロ同盟
4 時限爆弾
 なぜイスラム問題は複雑なのか
 「候補」の六カ国
 イスラムにおける「宗教」と「世俗」
 イスラム復興運動
 西欧への巻き返し
 石油の富は何をもたらしたのか
 ワッハーブ派イスラム
 タリバンとビン・ラディン
 「人口激増」の時限爆弾
 世界人口の三〇パーセントへ
 サウジアラビアで何が起きているか
 偉大な課題
 15‐24歳人口のパワー
 非イスラム国との軋轢
5 綱渡りの超大国
 アフガンでの米ソ代理戦争
 アメリカが自ら招いた皮肉
 アフガニスタンの政治的空白
 新政府の押し付けはうまくいかない
 ロヤ・ジルガと国王比較
 平和維持は難問
 綱渡りを強いられる超大国
6 「同盟」のひび
 「われわれにつくか、テロリストにつくか」
 アメリカが頼れるのは自分だけ?
 韓国、中国の反応
 サダム・フセイン排除への動き
 ぐらつき第二段階
 近隣国の不安
 フル操縦の「自爆工場」
 エスカレートする暴力と流血
 戦争は「戦争」になるのか
 見えにくい解決法
7 グローバリゼーションと文化
 「9・11」を可能にしたものとは?
 テロリストに対抗する三つの戦略
 目的は征服ではなく「破壊」
 近代化と西欧化
 アメリカのシンボルはコカ・コーラか
 文化の弾力性と不変性
 個人主義の欧米と集団主義の日本
 イスラム世界における近代化とは
 女性の労働を禁じるサウジアラビア
 グローバルな繁栄、グローバルな平和
8 アイデンティティの危機
 年に1000万人の移民流入
 混じり合う文化
 「&」付きのアメリカ人
 アイデンティティの確立
 建国の父たち
 移民を引き付けた文化と社会
 同化すべきイメージの不在
 「メキシコ人」という問題
 生徒の三分の二がスペイン語を話す学校
 移民の波は止まらない
 アメリカ行きの切符は1万ドル
 しのびよる二ヵ国語体制
 ウィレンスキー事件
 イスラム教徒にとっての「アメリカ」
9 腰の引けた大国「日本」の選択
 自衛隊の海外覇権
 罪と恥
 批判され続ける構造
 さじを投げられた日本経済
 ボツワナ並みの日本経済
 シンガポールの奇跡
 外圧か、リーダーシップか
 必要なのは中国との戦争?
 家族のいない国=日本の立場とは
 現実を受け入れよ
10 中国の影
 東アジアにおけるパワーバランス
 中国陸軍は世界最強
 日本は中国の言うことを聞くべきなのか?
 米・中の板ばさみになる日本
 経済連合体構想
 日本の三つの選択肢
 大量破壊兵器の輸出
 「反アメリカ」へと動く中国
 米中戦争――その可能性は?
 欲望の解放
 ソビエトの失敗という教訓
 経済成長後の中国はどうなる
あとがきに代えて
訳者あとがき

■引用

■書評・紹介

■言及



*作成:樋口 也寸志
UP: 20090805 REV:
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