『仕事のなかの曖昧な不安――揺れる若年の現在』
玄田 有史 20011220 中央公論新社,251p. 1900 ※ *
■玄田 有史(げんだ・ゆうじ) 20011220 『仕事のなかの曖昧な不安――揺れる若年の現在』,中央公論新社,251p. 1900 ※ *
・この本の紹介の作成:O(立命館大学政策科学部2回生)
プロローグ
曖昧な不安/見すごされる若年問題/自発?非自発?/不安をリスクに
1 雇用不安の背後で
中高年ホワイトカラーの雇用不安/学歴・年齢別の失業実態/大卒より深刻な高卒の失業/これからの労働市場/「失業」と「非労働力」/失業率は下がっていく?/二人に一人しか働かない国
【データは語る】@
なぜ、日本が二〇五〇年には二人に一人しか働かない国になるのか
2 「パラサイト・シングル」の言い分
深刻化する若年雇用/パラサイト・シングルとは?/若年雇用についての誤解/高齢化がもたらしたもの/雇用慣行と労働市場/強まる中高年雇用の既得権/未来がない
【データは語る】A中高年齢化と採用動向の関係
3 フリーターをめぐる錯誤
政府の悪だくみ?/「七・五・三」転職/労働市場の「世代」効果/岐路に立つ職業指導/フリーターが問題なのか
【データは語る】B「七・五・三」の背景
4 世代対立を避けるために
定年破壊への疑問/定年制の状況/定年制度と採用/定年延長企業の類型化/解雇権の見直しはできるのか?
【データは語る】C定年延長と採用計画
5 所得格差、そして仕事格差
不平等感の高まりと賃金格差/格差は拡大しているのか?/格差意識と成果主義/労働時間でみる仕事格差/転職、パート、二重構造
6 成果主義と働きがい
能力と仕事をどう語るか/成果主義成立の条件/「育成型」成果主義/成果主義と未来性/いまスグできること/「抜擢」が抜擢でなくなる日
【データは語る】E成果主義と働く意欲
7 幸福な転職の条件
中高年の転職が不幸な理由/転職する人、しない人/転職者と定着者の「生活観」/幸せな転職をもたらすもの/職場以外の人間関係/コミュニティと個人のあいだで/身もフタもない結論?
【データは語る】F転職・独立と友人・知人の存在
8 自分で自分のボスになる
フリーターのいきる道/世界の潮流/女性こそボスに/開業の旬/ピンチを乗り切る/「四十にして立つ」
【データは語る】G開業成功のためのキャリア
終章 十七歳に話をする
なぜ仕事がないのか/だからといって…/仕事を「頑張る」な/では、どう「する」のか?/信頼できる友達をもつ/トラブルにあったら/言いたかったこと
エピローグ
謝辞
索引
プロローグ
「働く」ことにハッキリとした不安と曖昧な不安の二つの不安がうずまいている。ハッキリとした不安についての予測や対策は、たくさんあるがここではそれらと違った、もっと深刻な仕事の中の曖昧な不安に目を向けてみたい。(P.9-10)
・ 曖昧な不安
何が原因なのか、いったい何がどうなるのか、よくわからない。それが曖昧な不安である。働くと言うこと自体に不確実性を生み出している。その象徴のひとつとして格差拡大の懸念がある。(P.10-11)
・ 見すごされる若年問題
雇用問題で深刻視されてきたのは中高年の失業問題。その一方で若年者の雇用問題も変化してきている。若年雇用が深刻に考えられない理由として、若年は慢性的に労働力不足であるという観測と、若年の失業は自発的な失業だという点である。中高年に比べ若者の将来にさしたる問題はないように見えるが、一体それは本当なのか。(P11-13)
・ 自発?非自発?
失業を自発的か非自発的かによって区別することは実際上きわめて困難。若者の転職増加の理由としてやりがいを感じられる仕事、新規採用の抑制による仕事量の増加などがある。また、会社に余裕がなくなって企業内教育訓練(OJT)の機会も減り、ステップアップを望めない。次世代を担う若者がこのような立場に置かれていることは将来取り返しのつかない社会的コストを生むことになる。(P13-17)
・ 不安をリスクに
生活に密接な社会問題は個人的経験だけで考えてしまう恐れがあるので、この本ではデータに基づく客観的な事実から、曖昧な不安の本質を捉えてみたい。仕事のなかの曖昧な「不安」を個人が冷静にファイトできる「リスク」に変えていくサポートをしていく。(P17-19)
1 雇用不安の背後で
・ 中高年ホワイトカラーの雇用不安
現在学歴と失業の関係については人々の関心の中心となりつつある。(P22-24)
・ 学歴・年齢別の失業実態
中高年ホワイトカラーの失業に関心が集まるが、日本の失業者の四人に三人は、いまでも高校卒もしくは中学卒の人々である。(P25-26)
・ 大卒より深刻な高卒の失業
中高年大学卒の雇用状況の悪化はその実像以上に深刻視されている。そうでなければ中高年ホワイトカラーの失業がより本当に顕在化しているのは、高校卒・中学卒の人々なのだろう。(P26-28)
・ これからの労働市場
失業率の上昇に歯止めをかけるために重要なのは大学に進学しなかった人たち、年齢的には若年と六十歳前後にたいする就業機会の確保。中高年に比べ若者に仕事があると言っても、内容は労働条件が著しく厳しい仕事と、熟練技能を要求しない楽な仕事に二分化される。日本の人的資源を劣化させないためにも業務を通じて成長できる仕事が若者に増えないといけない。(P28-29)
・ 「失業」と「非労働力」
職に就くことを希望しながら、自分に合った仕事を見つけ出せない人、就職活動の困難さからあきらめた人、その結果失業者としてはとらえられていない非労働力とみなされる人々が若者を中心に増えている。(P30-35)
・ 失業率は下がっていく?
制度変更や労働市場全体の人口構成の変化から、失業率は長い目で見ると低下していく可能性もある。(P35-37)
・ 二人に一人しか働かない国
失業と非労働力の境界の曖昧さから、完全失業率だけでは雇用の深刻さがとらえきれない。そこで「就業者・十五歳以上人口比率」を用いる。現在のペースからみた単純な予測で二〇五〇年には大人の二人に一人しか働いていないことになる。この状況を変えるために次章では若者を就業から遠ざけているものを考えていく。(P37-40)
【データは語る】@
なぜ、日本が二〇五〇年には二人に一人しか働かない国になるのか
2 「パラサイト・シングル」の言い分
・ 深刻化する若年雇用
若者の失業率や転職率の上昇の原因として、若者の就業意識の低下を嘆くときに決まって登場するのが「パラサイト・シングル」である。(P45-47)
・ パラサイト・シングルとは?
パラサイト・シングルとは学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者。彼らにとって仕事は趣味的作業であり、彼らの出現が若年の雇用問題が深刻な社会問題になっていない背景でもある。(P47-49)
・ 若年雇用についての誤解
若年の就業の急激な悪化の原因は供給側より需要側にある。現在深刻化しつつある若年の雇用機会減少は長期的に継続する構造的現象となりつつあり、その背景には進展する労働市場の中高年齢化と、その中高年が維持する強固な雇用の既得権である。(P49-52)
・ 高齢化がもたらしたもの
従業員の高齢化が進んでいる。中高年がすでに得ている雇用機会を維持する代償として若年の就業機会が奪われている。(P52-55)
・ 雇用慣行と労働市場
中高年雇用の置換効果が生み出される背景には、日本企業の雇用慣行と日本の労働市場の際立った特徴がある。若年雇用が減っている現状は、けっして若者自身のぱらサイト化が原因ではない。(P55-59)
・ 強まる中高年雇用の既得権
雇用のいっそうの維持を保障する既得権の強化が、若者の就業機会をさらに奪っていく。(P.59-64)
・ 未来がない
働く環境を改善し、ひいては生産性の向上を実現するには、中高年の既得権益を打破しなければだめだろう。若者に働く機械を確保することこそ、本当の社会的公正である。(P64-65)
【データは語る】A中高年齢化と採用動向の関係
3 フリーターをめぐる錯誤
・ 政府の悪だくみ?
高齢化の進展に伴い、高所得や能力開発の機会を提供する雇用機会が多くの若者から奪われた代償が、フリーターの増加である。(P72-74)
・ 「七・五・三」転職
「七・五・三」とは新規学卒就職者のうち、三年以内に会社を辞める割合が、中学卒で七割、高校卒で五割、大学卒で三割に達する状況を危ぶむ言葉である。就業意識の変化もあるがそれより若者の就業を左右しているのは、学校から職場への移行を左右する、日本独特な就職市場の構造と学校の就職指導という二つの要因である。(P74-78)
・ 労働市場の「世代」効果
不況時に就職した学生ほど、自分の希望した仕事に就けず、転職する。日本の場合、就業の選択の機会は新卒者に集中する。運良く好況期に卒業した世代は、その後も比較的よい就業機会を得やすい。働く環境が世代によって変わることを労働市場の「世代効果」と呼ぶ。日本で世代効果が強く機能している背景を考えると、新卒採用を基本に、その後は世代ごとに昇進などの処遇を行う独自の雇用管理の姿がある。(P78-84)
・ 岐路に立つ職業指導
学卒後、正社員として定着しない原因としては、学校からの職業指導や助言のあり方も影響している。(P84-86)
・ フリーターが問題なのか
若年就業を考える上で大事なことは「決めつけない」こと。(P87-90)
【データは語る】B「七・五・三」の背景
4 世代対立を避けるために
・ 定年破壊への疑問
定年制度の延長や廃止を求めることがもたらす深刻な懸念とは、それがすでに会社に雇われている人々の雇用機会を確保することにはなっても、新しく採用されようとす る人から就業機会を奪うことである。(P97-100)
・ 定年制の状況
実際に定年を延長したり、廃止するためのポイントは、個別人事管理をいかに管轄に進められるかにある。(P100-104)
・ 定年制度と採用
問題は定年延長が若年採用の抑制につながっているか。企業規模や産業の違いの影響を取り除いても、六十一歳以上の定年制を採用している場合、高卒・大卒の採用内定がない確率は高い。(P104-106)
・ 定年延長企業の類型化
定年を延長している企業には「高齢化対応型」と「雇用拡大型」の二つのタイプがある。(P106-109)
・ 解雇権の見直しはできるのか?
定年を延長したり、廃止することが義務付けられると、企業からは雇用の自然減を生み出す重要な調整の手段が一つ奪われることになる。定年延長による高齢者の一律的な雇用継続より、再雇用制度などによる柔軟な個別対応を進めていくほうが、当面の選択としては望ましい。(P109-112)
【データは語る】C定年延長と採用計画
5 所得格差、そして仕事格差
・ 不平等感の高まりと賃金格差
機会の平等は後からしか分からない。それぞれのおかれた背景が他者からは完全には把握できないという、経済学でいう「情報の不完全性」こそが、社会の本質だとすれば「機会の平等は後からしかわからない」という指摘は説得力をもっている。(P120-124)
・ 格差は拡大しているのか?
格差拡大の是認は、中高年大学卒の男性を念頭においた議論であって、若年や大卒以外の人々、そして女性の置かれている状況を前提としたものではない。(P124-127)
・ 格差意識と成果主義
成果主義による将来的な格差拡大が社会全体での不安の源泉であると結論するのは、性急すぎる。(P127-131)
・ 労働時間でみる仕事格差
仕事格差、もしくは仕事上の状況格差とでも呼べる状況が、賃金格差以上に深刻化している。(P131-138)
・ 転職、パート、二重構造
仕事には二重構造がある。一つは仕事をする過程で学習や訓練の機会が豊富であり、もう一つはその職務からは能力向上や働く意味を見出せない仕事である。仕事が曖昧な不安で覆われている背景にもなる。(P138-140)
6 成果主義と働きがい
・ 能力と仕事をどう語るか
能力とは何か、そしてその違いをどのように受け止めていけばよいのかを、社会全体で真剣に議論するときが訪れている。(P141-144)
・ 成果主義成立の条件
成果主義的な制度が生産性を向上させ、その結果が納得のいくものとなるには、仕事の明確化に取り組まなくてはならない。仕事の内容が曖昧なまま、制度の導入だけが進むならば、前章でみた仕事格差はさらに拡大し、かえって働く意欲が低下することすら考えられるのである。(P144-146)
・ 「育成型」成果主義
育成型成果主義とは本人の努力を大前提としながら、育成自体を会社のコストと考えず、そのリスクを考慮しながらも積極的に能力開発を推し進めていく成果主義である。(P146-150)
・ 成果主義と未来性
自分の働きが具体的な成果として評価されることは、充実感、反響、自己実現、意味と価値といった欲求に答えることができ、その意味で成果主義は働きがい増進へつながる可能性を含んでいる。(P150-151)
・ いまスグできること
大切なのは常に明確なかたちで仕事が一人一人に位置づけられていること。仕事にまつわる曖昧な表現をできるだけ取り除き、自分たちの仕事を自分たちの言葉で語ってみる。そんな試みが仕事の中の曖昧な不安を払拭する。(P151-154)
・ 「抜擢」が抜擢でなくなる日
能力と同時に強運と愛嬌のある人物が育つ環境こそ「抜擢」が抜擢でなくなる、本当の意味での成果主義によって、人が活かされ、働きがいを生んでいく。(P154-159)
【データは語る】E成果主義と働く意欲
7 幸福な転職の条件
・ 中高年の転職が不幸な理由
転職であれ会社の中であれ、自分のしてきた仕事をささやかな自負心と誇りをもって一人一人が自分の言葉で語れることが求められている。(P164-167)
・ 転職する人、しない人
特徴的なのは年齢構成と就業先の企業規模。意識的には転職者は仕事志向が強くてそれだけ不満もあるが、本当に希望する仕事をやりたい、自分の能力を長期にわたって発揮したいと考えている人が多い。(P167-171)
・ 転職者と定着者の「生活観」
転職者は将来の自分の仕事や働き方に強い意識や計画性を持っている。(P171-178)
・ 幸せな転職をもたらすもの
人々の持つ独立志向の源泉には、あふれる才能やチャレンジ精神をいった個人の属性だけでなく、相談相手となる友人・知人の存在があるのだ。(P178-182)
・ 職場以外の人間関係
転職に伴う不確実性を、転職のリスクに変えてくれるのが、会社の外にいてたまに会う、信頼できる友人・知人なのである。(P182-184)
・ コミュニティと個人のあいだで
転職によって仕事の曖昧な不安から解放されるためには、自分自身が人間関係のなかでのローカルな存在であることを自覚し、そこから飛び出していくことも考えなければならない。(P184-187)
・ 身もフタもない結論?
政策的に職業紹介機能を充実させて転職情報の選択肢が増えても、転職によって収入や満足度が高まるとは限らない。数限りなくある情報の中から判断力を身につけることが大事であり、そのために信頼できる友人・知人をもたなくては。(P187-189)
【データは語る】F転職・独立と友人・知人の存在
8 自分で自分のボスになる
・ フリーターのいきる道
「自分で自分のボスになる」という意志をもつことで、結果的に独立がもっと増えていく。(P195-200)
・ 世界の潮流
日本では雇用創造の原動力を自営業を含む中小企業の輩出が果たしてきた。しかし、そのポンプ役としての力が九〇年代後半になって急速に弱まってきている。(P200-203)
・ 女性こそボスに
社会全体でみても女性が自立・独立することをもっと本気で、積極的に評価する雰囲気をつくっていくことが大切。(P203-206)
・ 開業の旬
開業が利益を生むのは大企業での就業経験でも、学歴でも、場合によっては親の職業でもない。むしろ学卒後に四十歳頃の独立を具体的な目標として視野に入れながら、中小企業などで関連した仕事を二〇年近くしっかり見につけることである。(P206-210)
・ ピンチを乗り切る
収益を生み出す潜在力をもつ四十歳の開業が実際に多くの利益を生みだすためには、最初の数年間を持ちこたえ、その後大きくバケルのをサポートすることが必要になる。(P210-214)
・ 「四十にして立つ」
四十歳前後の開業支援を明確な社会目標にすること。若年雇用問題の将来は、若者が「自分で自分のボスになりたい」と思うかどうかにかかっている。(P214-217)
【データは語る】G開業成功のためのキャリア
終章 十七歳に話をする
・ なぜ仕事がないのか
みなさんに仕事がないのは大人のせいなのです。(P223-226)
・ だからといって…
フリーターもやり方次第。自分で自分の身を守るすべを知っておくにこしたことはありません。(P226-227)
・ 仕事を「頑張る」な
冷静にファイトしたり、励ましたりする自分なりの表現を見つけることが大切。(P227-230)
・ では、どう「する」のか?
どうゆう状況でも「自分が自分のボスだ」と言う気持ち守り続けることが自分の身を守る。それこそが本当の意味で夢を実現するパワーを持ち続けることにつながっていくと思います。(P231-234)
・ 信頼できる友達をもつ
孤独な状況の中でも、正しい判断をするために必要なのは、信頼できる相棒をもつこと。(P224-236)
・ トラブルにあったら
労働基準監督署に行ってください。(P236-237)
・ 言いたかったこと
ハッキリと自分だけの、自分のためだけの「戦略」を持とうとしてほしい。(P238)
コメント
[本人の希望により省略]