『知覚は終わらない――アフォーダンスへの招待』
佐々木 正人 20011016,青土社,285p
■佐々木 正人 20011016 『知覚はおわらない――アフォーダンスへの招待』,青土社,285p. ISBN-10:4791758471 \2520 [amazon]/[kinokuniya] r02 c0201
■目次
1 アフォーダンス入門
1リアリズムのお稽古
2アフォーダンスの心理学
3スポーツの究極にある緩慢さについて 澤野雅樹との対話
4想起の「自然」についての覚書
2 表現
1表現の同時性 寺山佑策と武蔵野美術大学視覚デザイン室の学生たちの対話
2光に触れる意識 ジェームズ・タレルに聞く
3マイクロスリップと演技 平田オリザとの対話
3 運動
1知覚は終わらない
2義足の生――歩行という意識 義肢装具士・井ノ瀬秀行に聞く
3いちど起こること
あとがき
■引用
「物の表面をなぜるようにしてその性質を知ることと、物を持って振って知ることはどうやら異なる神経機構によっている。脳卒中など片手がマヒし、物に強く触れても、そこにものがあるのか否かの判断すらつかないものが、同じマヒした手で物の一部を持ち振ると、物の長さや形状を知覚できる場面に筆者も立ち会ったことがある。」「知覚はおわらない」p177
「義足の生――歩行という意識:義肢装具士・井ノ瀬秀行に聞く」,より
井ノ瀬:最近はわれわれもコンピュータの膝を使うようになって来ています。インテリジェントといっています。コンピュータになってくると難しいんですけどね。
佐々木:何を計算しているんですか
井ノ瀬:当人が歩く力量を計算して、膝の空圧のユニットが応えてくれるんです。
佐々木:何年くらい前ですか
井ノ瀬:生理的に人間の足に近くなったのは最近ですが、何号機、何号機と改良を加えて作り始めたのは数年前だと思います。
佐々木:かかる力を計算するんですか
井ノ瀬:振り出しの筋力のほうです。膝が曲がったときに、カバーに内蔵されている振り出し機のセンサーが筋力を読み取って、ポンプ状態のニードルベンというのが空気の圧力を調整するんです。相することによって振り出しの膝の圧力を変えますから、早くけったりゆっくり歩こうとしたりするとすっと出てくれるんです。オートマチック・ミッションみたいなものです。例えばドライブに入れておくと、4速のギアですとアクセルを踏むと自然にアップして行きますね。そういう感覚です。
佐々木:つまり筋の動きからこれからの動きを予測して少し押してくれるような感じですね。>241>
井ノ瀬:そうです。例えば買い物に言っていろいろと見ているときはゆっくり歩いていて、さあ帰ろうかというと普通歩きになって、「あ、信号が赤になるから急ごう」と思ったらそれに応えてくれるわけです。油圧でも空圧でもバネ式でも、従来の種類の膝だと一つの抵抗しかないんです。後は、自分の足で早く歩くかゆっくりあることするかによってコントロールするんです。そういうコンピュータの膝を使う前は、われわれ義肢装具士はその人に一番適した普通に歩けるレヴェルで膝の調整をしたんですが、早く歩こうとすると膝が遅い、ゆっくり歩こうとすると膝が強いという抵抗感があったんです。それがコンピュータになると、5段階から10段階あるんですが、歩く速度がオートマチック・ミッションみたいにハイスピードからロースピードにガクンガクンというのではなく、自然にすーっと変わっていくわけです。ですから義足をつける人に普通歩きをしえもらい、早歩きをしてもらうと、その間にコンピュータが一つ一つ自然に入る。そうするとその人のレヴェルで、最低でも5段階あれば日常生活に十分対応できるんです。そういう膝を使う人が最近は増えてきています。 p240−241
井ノ瀬:スポーツをすることに関しての欲求度は非常に進んできました。20年前ぐらいの義足の足部とは全く違ってきていますし、部品もたくさん出てきています。膝縦手も、よりリアルなものがどんどん出てき始めています。膝を伸ばして歩く時に、生理的に膝をロッキングして歩く人は少なくなるでしょう。ヒールコンタクトして歩くときに、よりリアルに膝がフレクションしてくれるような部品が最近出てきました。リアクションが出てきて、すっと足が出て行くような膝です。p243
佐々木:普通に言って歩きのポイントと言うのはどこですか。
井ノ瀬:体力的にいいますと、やはり腹筋や背筋そして断端の筋力が伴っていかないと義足ははきこなしづらいです。
佐々木:筋力と言うのはどの辺の動きで見えるのでしょうか。
井ノ瀬:見える筋力ですか。
佐々木:動きの中で、見るポイントと言うのはありますか。肩や頭のブレを見るとか、腕を見るとか。
井ノ瀬:腰ですね。スポーツでも何でも、皆、腰が中心軸だと思うんです。例えば義足側に加重したときに、恐がったり力が無かったりすると義足側にかしいでいくんです。臀筋が鍛えられていくとかしぐことがなくなり、きちんとした姿勢が保たれるようになる。人間は恐いという意識があると腰が引けると言いますが、それと同じです。訓練している患者さんに義足をはかせるとどうしても、腰がずれて、出っ尻になります。そうするとどうしても膝が折れてしまって、腰が引けた歩き方、あるいは逆に腰を突き出したような歩き方になる。人が歩くには股関節を屈折させて足を前に出すように>246>しますから、断端部が残っていて股関節がある人には、私はいつもこ、股関節を曲げて振り出す動作を必ずしなさいというんですが、ポイントはやはり腰なんです。 p245−246
井ノ瀬:女性の方ですが、コンピュータの膝を一時使ったんです。そしたら勝手に動いてしまうからいやだと言うんです。「自分が動こうとすると応えすぎちゃっていやだ。勝手に動くのではなくてもっとシンプルなのがいい」というんです。本当にシンプルな単軸の、簡単にぽーん、ぽーんとけるやつの方がいいと言う人もいますし。皆がいいというのをまるのみにして、いいものだからといってつけても歩きこなせなかったりとか、見た目もすごくきれいに歩けていいんじゃないのと言っても、「やはりちょっと抵抗があるから普通のシンプルな安い部分にして」と言う人もいます。
佐々木:単純なシステムでもゴルフ場とかにある微妙な地面の傾きみたいなものに十分対応しているわけですね。
井ノ瀬:対応しているし、そういう人たちは本人でも感じれいます。例えば、足部を微妙に修理して>250>古いものから新しいものにすると反発が多少強くなった感じは当然受けます。そうすると高さをもう少し低くしてくれとか、もう1ミリ、2ミリの感覚です。例えば皆さんがはく靴を、黙った片方だけ1,2ミリ削っても無頓着な人はそう変らないと思うんです。ところがそういう方は、本当に1ミリ、2ミリ落としただけで「ああ、よくなた」と言うんです。 p249-250
*作成:近藤 宏