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『日系ブラジル人の定住化と地域社会――群馬県太田・大泉地区を事例として』

小内 透・酒井 恵真 編 20011025 御茶の水書房,384p.


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■小内 透・酒井 恵真 編 20011025 『日系ブラジル人の定住化と地域社会――群馬県太田・大泉地区を事例として』,御茶の水書房,384p. ISBN-10: 4275018745 ISBN-13: 978-4275018748  \ [amazon] w0111 n09

■内容(「MARC」データベースより)
群馬県太田市を対象に、日系ブラジル人の流入・定住化が地域社会に与える影響を実証的に明らかにしたモノグラフ的研究の成果をまとめる。共生の地域づくりなどの様々な課題を明らかにし、克服するための視点を提起する。

■編者紹介(奥付より)

小内 透(おない・とおる)
 1955年 群馬県生まれ
 1984年 北海道大学大学院教育学研究科博士後期過程単位取得退学
 現在  北海道大学大学院教育学研究科助教授(博士・教育学)

酒井 恵真(さかい・えしん)
 1940年 北海道生まれ
 1968年 北海道大学大学院文学研究科修士課程修了
 現在  札幌学院大学人文学部教授


■目次

はしがき

序章 課題と方法
 第1節 外国人労働者の増加と特定地域への集住
 第2節 外国人労働者研究の主要な流れと新たな動向
 第3節 共生をめぐる従来の捉え方
 第4節 本書の課題と方法

第T部 基礎構造と機構的システム

第1章 工業集積の過程と地域住民の重層構造
 第1節 工業集積の過程と外国人労働者の流入
 第2節 地域住民の重層構造
第2章 企業による外国人雇用の構造と倫理
 第1節 労働力需給と外国人労働者の受け入れ団体
 第2節 企業の階層性と外国人雇用
 第3節 労働力供給システムと業務請負・人材派遣業の展開
第3章 外国人に対する行政の対応
 第1節 自治体の積極的な受け入れ施策
 第2節 外国人政策の共通点と相違点
 第3節 外国人政策をめぐる新たな行政課題

第U部 労働――生活世界の諸相

第4章 外国人労働者の職場生活とエスニック・ビジネス
 第1節 外国人労働者の職場生活
 第2節 外国人労働者の階層性
 第3節 エスニック・ビジネスの形成と展開
第5章 地域生活における外国人とホスト住民
 第1節 問題の所在
 第2節 行政区組織と外国人居住者
 第3節 太田市における行政区活動と外国人居住者
 第4節 大泉町の行政区組織と外国人居住者
 第5節 公営住宅と外国人居住世帯
 第6節 まとめ
第6章 子どもの教育と学校生活
 はじめに
 第1節 日本人の親子から見た外国人との交流
 第2節 外国人の子どもの学校生活と親の意識
 第3節 外国人に対する教師の意識
 第4節 学校教育の矛盾した機能
第7章 外国人の「定住」と日本語ボランティア
 はじめに
 第1節 太田市のボランタリーな国際交流活動
 第2節 日本語ボランティアの形成過程と市民的特性
 第3節 ボランティア活動とその影響
 おわりに

第V部 労働――生活世界の全体像と機構化

第8章 日系ブラジル人の労働・生活と意識
 第1節 問題の所在
 第2節 基本的属性と太田市・大泉町居住までの経緯
 第3節 日本での労働と生活
 第4節 価値志向と将来展望
 第5節 帰国と定住化のはざまで
第9章 日系ブラジル人の地域的活動と組織化
 はじめに
 第1節 日系ブラジル人の集住と経済活動
 第2節 ブラジル人の「自主」組織の発足とその特徴
 第3節 ブラジル人学校の開設
 第4節 日系ブラジル人の地域組織への参加
第10章 外国人に対するホスト住民の意識と対応
 第1節 問題意識と課題
 第2節 外国人との交流体験
 第3節 現在の接点と交流
 第4節 外国人に対する意識
 第5節 外国人受け入れの論理と課題
終章 日系ブラジル人の定住化と地域社会の変化
 第1節 日系ブラジル人の流入と定住化の論理
 第2節 地域社会の変化の論理
 第3節 地域課題と共生の可能性


《執筆分担》
序章……小内透
第1章……小内透
第2章第1節……酒井恵真・湯本誠
   第2節・第3節……湯本誠
第3章第1節……酒井恵真
   第2節・第3節……小内透
第4章第1節・第2節……湯本誠
   第3節……北沢梅英
第5章……小内純子
第6章はじめに・第1節……小内透
   第2節……小野寺理佳
   第3節……古久保さくら
   第4節……小内透
第7章……酒井恵真
第8章……小内純子
第9章……酒井恵真
第10章……佐藤政司・小内透
終章……小内透


■引用

はしがき

「 従来、わが国における外国人研究はどちらかというと、外国人自身や外国人の受け入れ施策に焦点を合わせたものが多かった。太田・大泉地区を対象としてすでに多くの調査研究がなされているが、そのほとんどが、同様な特>i>徴を持っている。しかし、外国人や彼らの受け入れ施策に視点を合わせただけでは、地域社会の変化や現状、そして「共生の地域づくり」の課題は明らかにしえない。地域社会はホスト社会、ホスト住民によっても成り立っているからであり、彼らが「共生の地域づくり」のもう一方の担い手であるからである。本研究は、こうした研究上の問題意識をもとに始められた。」(pp.i-A)

序章

「 新入管法は、一方で、外国人の単純労働への就労を改めて明確に禁止し、これに違反した場合、外国人本人だけでなく雇用した側にも罰則を科すことを明記した。他方で、外国人の受け入れ範囲の拡大とその円滑化をねらいとして、外国人の在留資格を従来の17種類から27種類に増やした。このような政策は、無制限な外国人労働者の流入を防ぎながら、不足している労働力を確保する役割を果たすものであった。とくに、日系人の場合、日本国籍をもつ1世だけでなく、2世・3世やその配偶者まで在留資格を得ることができ、単純労働に従事することも認められることになった。かつて、外貨獲得と過剰人口の解消のため、国策として送り出した移民とその子孫を、今度は労働力不足の解消のために、活用することにしたのである。
 その結果、不法滞在の外国人労働者は減少するとともに、不法滞在がより不透明な形をとるようになった。そして、それと反比例する形で、母国の経済危機に直面する日系のブラジル人、ペルー人等が急増するようになった。とくに、ブラジル人の増加は著しく、1987(昭和62)年に2,250人しかいなかったブラジル国籍の外国人登録者は1999(平成11)年には224,229人へと100倍近く増加した。外国人登録者総数に占める割合も、0.3%から14.4%に上昇し、韓国・朝鮮籍(40.9%)、中国籍(18.9%)に次ぐ位置を占めるまでになっている。」(p.5)

「 1980年代以降、ニューカマーとしての外国人労働者の増加に伴って、研究テーマとしても、外国人労働者の問題が様々な分野の研究者によって取り上げられるようになった。これらの研究を概観すると、大きくいって4つの主要な流れが存在する。>6>
 第1に、国際的な視点、ないしグローバルな視点から、わが国の外国人労働者問題の特質を浮き彫りにしようとする研究がある。経済学における国際労働力移動の研究や国際社会学の確立をめざす社会学研究がこれにあたる。前者は、日本における外国人労働者の急増を国際労働力移動の構造変化の中に位置づけ、その特徴を明らかにしようとし、後者は、外国人労働者の受け入れとそれに伴う社会的政治的諸問題への対応に関する欧米諸国の経験や現実と比較しながら、わが国における外国人労働者への対応のあり方を検討している。これらの研究は、これまで日本が経験してこなかった現実を幅広い視点から位置づけ、議論している点で重要な意義を持っている。
 第2に、外国人労働者自身を対象にした調査結果にもとづいて、急増する外国人労働者の特性を明らかにしようとする研究がある。これらの研究には、本国での職業、学歴、生活水準、来日理由、来日後の生活や意識の変化、将来展望など、外国人労働者の全般的な特徴を把握しようとするもの、外国人労働者が形成するエスニック・ネットワークやエスニック・コミュニティの実態を捉えようとするもの、さらに日系人のエスニック・アイデンティティのあり方を検討しようとするものなどがある。これらの研究は特定の地域社会における外国人労働者を対象にし、彼らの属性、生活、意識、社会関係など、一般には知られていない数多くの事実を明らかにしており、この点に最大の意義がある。
 第3に、外国人に対する諸制度や自治体の外国人政策に関する研究が存在する。その主流をなしているのは、経済の論理によって急増した外国人労働者の生活面に関わる制度や政策に関する研究である。それらは、外国人労働者を単なる労働力として見るだけではなく、地域社会で生活を営む生きた人間として捉える視点から、取り組まれている研究である。そのため、その内容も、医療・福祉・住宅・教育・政治参加といった多方面にわたる制度・政策の実態や課題を検討するものとなっている。外国人労働者を生活者として捉える視点は、これからますます重要になることはいうまでもない。そのため、この点に、これらの研究の意義があるといえる。>7>  第4に、外国人労働者とその子どもに対する教育のあり方に焦点をすえた研究も急速に増加している。それは、外国人労働者本人や彼らの子どもに対する日本語教育のあり方を議論するものと、子どもの学校教育全般の問題を多文化教育との関わりで検討するものに大別される。前者は、現実に学校、社会教育、またボランティア活動の場で日本語指導を行っている人たちの要求を背景にして展開されている。これに対し、後者は学校で学ぶ外国人の子どもの増加を、多文化教育を考える絶好の機会として位置づけ、日本の学校教育を見直し、国際化時代の学校教育のあり方を諸外国の経験を検討する中で模索しようという問題意識にもとづいている。
 以上のように、外国人労働者の急増に伴って、外国人労働者に関する研究が数多く取り組まれてきた。しかし、多くの場合、それらの研究は、外国人労働者自身や彼らが構成する「社会」の特徴、また彼らの受け入れ体制に焦点をあてることが多く、外国人労働者の急増に伴う地域社会の変化や従来から居住している地域住民=ホスト住民に与える影響といった側面に関しては必ずしも十分に検討されてこなかった。外国人労働者と従来から居住している地域住民との関わり合いが、問題とされなかったといいかえてもよい。
 その場合、こうした研究動向の背景には、急増する外国人労働者を一時的に日本に滞在する「出稼ぎ」者であると考える研究者の認識が存在した。たしかに、外国人労働者自身、来日後10年近くたっても、定住の意志を持たないことが少なくない。一定期間の「出稼ぎ」の後に母国へ帰ったり、何度も「出稼ぎ」を繰り返したりする「反復出稼ぎ」者も存在する。彼らの意識自体に移動を繰り返す「出稼ぎ」者としての意識が存在していることも間違いない。しかも、「自由」に移動する外国人労働者の主体性を重視する研究者の志向性が、これに拍車をかけてきたという傾向も見られる。その結果、国家の枠を超えて移動を繰り返す外国人労働者の属性の解明を中心に、それを受け入れる制度・政策、さらに教育のあり方に議論が集中してきたといえる。
 しかし、外国人労働者、とりわけ少なからぬ日系ブラジル人の場合、本人たちが強い「出稼ぎ」意識をもっているにもかかわらず、客観的には確実に長>8>期滞在化ないし定住化が進んでいるのが実状である。そこには、帰国しようと思っても、本国の経済事情、治安の悪化、子どもの教育の問題等によって帰国しにくい現実が横たわっている。」(pp.6-9)


■書評


■言及


*作成:石田 智恵
UP:20080804 REV:
外国人労働者/移民  ◇「日系人」/日系人労働者  ◇BOOK  ◇身体×世界:関連書籍
 
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