『ぎりぎり合格への論文マニュアル』
山内 志朗 20010919 平凡社(平凡社新書),211p.
last update:20120528
■山内 志朗 20010919 『ぎりぎり合格への論文マニュアル』,平凡社(平凡社新書),211p. ISBN-10: 4582851037 ISBN-13: 978-4582851038 \700+税
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■内容
論文に「独創的な考え」や「オリジナリティ」など必要ない。必要なのは、論文という「形式」にしたがって書くことだけ。本書は、
卒論や小論文試験に最小限の努力で合格したいという、そんな「要領のいい人」のための実践指南である。
■著者略歴
1957年山形県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得。新潟大学人文学部教授。専門は中世哲学。専門のスコラ学だけではなく、現代思想、現代社会論、
コミュニケーション論、身体論、修験道、ミイラなどについて研究し、さまざまなメディアで執筆活動をしている
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
■目次
はじめに
第1章 論文は楽しい
第2章 論文の基礎知識
第3章 論文を書く段取り
第4章 論文を書いている間の作業
第5章 論文の仕上げ
第6章 論文執筆あれこれ
参考文献
あとがき
■引用
第6章 論文執筆あれこれ
論文執筆格言集
(a)初心者用
・題目が決まったら、まず書き始めよう
「愚かな人間は考えないで書き始める」という格言があったが、書いているうちに愚かでなくなってくるのだから、書き始めてから考え始めてもよい。
大事なのは、とにかく考える機会を作ることだ。書き始めないと、いろいろ悩むだけでよいことはない。書かないリコウよりも
書いたバカのほうがずっとエライ。
・迷ったら最初に戻れ
最初の問題意識は書いているうちにだんだん忘れるものだ。それはそれでよいことだが、「初心」のうちには、書き始めるための起動力が備わっていたはずだ。
思い出すと書き進める気力につながる。道に迷ったら原点に戻るのが基本の一つだ。
・段落ごとに見出しを付けろ
段落ごとにまとめると、その段落で何を述べようとしているのか、自分で確認することにつながり、何を書くべきか、何が不足しているのかが見えてくる。
よく、段落のないような論文を学生が出してくる。どうも、何を書くべきなのか、何を書いているのか、分からなくなるとこういう文章になりやすい。
自分のために見出しをつけると、自分で何を書いているか見えてくるし、段落もまとまりやすい。
・書きたい気持ちを吐き出せ
書きたいこともないのに文章を書くと、読んでいる方もこれまたつまらないことはない。書いている本人が面白いと思っていないことは、読んでいる方も面白くないし、
書いている方が書きたいことでなければ、読む方も読みたいとも思わない。文章を書くことを、義務・仕事・勉強にしてはならない。
学問をするためには、勉強してはならないのだ。「勉強」ほど、学問の敵になるものはない。
ところで、文章が浮かびやすいのは、私自身の場合、心が七割内側を向き、三割外側を向いているときである。要するに、いくぶんネクラになっているときである。
気分が楽しく、他者への善意や愛情に満ちあふれているときは、分かりやすい文章は書けるがどうしてもユルフンになる。また、十割心が内側を向いていると、
あまりにも凝り固まっていて、しかも飛躍の多い、理解しにくい、文章になる。
要するに、私の場合、文章を書くときは、意識的に、鬱モードに自分を追い込んでから、仕事にかかる。なお、この本は鬱モードに入らないまま書いたものである。
・ムダな文章はどんどん削れ
苦労して考え出した文章だと、惜しくなってどんどん残したくなる。特に、パソコンで書いていると、どんどん文章が溜まっていく。しかし、使えない文章はあくまで
使えない文章である。情け容赦なく捨てていくべきだ。名文を書くためには、良い文章を思いつく能力が必要なのではなくて、ダメな文章を
切り捨てる能力が重要なのだ。文章を見分ける能力が大事なのだし、自分の文章についても、独りよがりや自己陶酔に陥らずに、悪いところを切るべきだ。
一般に、自分の書いた文章が名文だと思えてきたら、「病気」である。少なくとも、文章の上達は止まっている、と考えるべきだ。
・必ず下書きは他人に読んでもらえ
自分ではわかっているつもりでも、他人にはさっぱり分からないということは多い。一人だけの世界で文章を書いてはならないということ
だ。
読まされる方は災難である。しかし、積善の家には必ず余慶あり、というから、他人の論文を読んであげて、功徳は積んでおこう。
・「前書き」は最後に書け
「前」に書くのが前書きだと思っている人がいるが、あれは大間違いである。「前」に置いてあるのが「前書き」なのである、と私は思っている、だいたい、
最初に書いた前書きなんて、たいてい恥ずかしいものだ。最初に書いて、最後に書き直して、論文の最後の時点に書くのが「前書き」である。
そうしないと、「前書き」と「結論」が一貫しないということが生じる。「前書き」と「結論」が首尾一貫呼応しているのは、「結論」に合うように「前書き」を
書き直すからである。ここも基本の「キ」である。
なお、私の場合、後書きや最後のキメの言葉は最初に考えている。それが思いついたら、書き始めるのである。ただし、最初カッコいいと思った言葉も二、三日後に
読み返すと、前日書いたラブレターと同じで、反古にすることも多い。
・書くことがなくなったら引用を増やせ
引用の多い論文を書け、ということではない。書くことがないというのは、たいてい「ガス欠」の状態である。いろいろ調べてノートに取ること
は、ガソリンを補給することだ。場合によっては、論文にも引用として使えるし、頭を整理することにもつながる。頭が動かないときは、大事だと思ったところを、「写経」
の精神で写すのも大いに意味がある。
・段取りをつけよう(書き始める前の段取りがすべてだ)
さっきは、考えないうちに書き始めろと書いた。矛盾しているようにも見えるが、そうではない。私がさっき書いたのは、段取りはつけたが、いつまでもグズグズして、
書き始めない人間が少なくないからだ。
締め切りの二週間前になって、日本国内の図書館には所蔵されていない雑誌の論文が不可欠な論文であることに気づいた例などを見ているからだ。
・オリジナルな論文を書こうとするな
・頭が混乱してきたら、誰かにぶちまけよう
・「しかし」を多用する論文はデキの悪い論文である
・迷ったら声に出して、原稿を読んでみろ
(b)中級者用
・論文は山のようなものだ。頂上を二つ作るな。
・調べたことを全部書くな(書かないことが大事な場合もある)
・必ず要約できるように頭を整理しておこう
・最初にキメのせりふを三つぐらい用意しておこう
・知識をひけらかすな
(c)上級者用
・自信のあるところは気弱そうに書け
・自信のないところは自信満々に書け
・リズムの悪い文章は中身も悪い
・酔っぱらった頭で読み直すとこなれた文章になりやすい
・隠し玉は残しておけ
[2001:194-199]
■書評・紹介
■言及
*作成:北村 健太郎