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『ブラジル人と国際化する地域社会――居住・教育・医療』

池上 重弘 編 20010825 明石書店,329p.


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■池上 重弘 編 20010825 『ブラジル人と国際化する地域社会――居住・教育・医療』,明石書店,329p. ISBN-10: 4750314544  ISBN-13: 978-4750314549  \5040 [amazon]

■内容(「BOOK」データベースより)
本書は、1990年代に急増した「ブラジル人」に焦点を合わせ、浜松市を中心とした静岡県西部地域における事例を取り上げながら、「ブラジル人」と日本社会との生活上の接点で生じる諸問題について考察したものである。

■内容(「MARC」データベースより)
1990年代に急増した「ブラジル人」に焦点を合わせ、浜松市を中心とした静岡県西部地域における事例を取り上げながら、「ブラジル人」と日本人社会との生活上の接点で生じる、居住、教育、医療などの問題について考察する。

■編著者紹介(奥付より)

池上 重弘(いけがみ・しげひろ)
静岡文化芸術大学 文化政策学部 国際文化学科/文化人類学

■執筆者紹介(奥付より)

竹内 比呂也(たけうち・ひろや)
静岡文化芸術大学 文化政策学部 文化政策学科/図書館・情報学

久保田 君枝(くぼた・きみえ)
静岡県立大学短期大学部 看護学科/母性看護学

酒井 昌子(さかい・まさこ)
聖路加看護大学 看護学部 看護学科/地域看護学


■目次

はじめに

T 居住をめぐる問題

第1章 ブラジル人増加の要因と増加の様相(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 ブラジル人増加の諸要因
 第3節 ブラジル人増加の様相
 第4節 ブラジル人の生活形態
 第5節 ブラジル人の「エスニック・コミュニティ」
第2章 浜松市における国際化施策の展開――外国人市民増加への総合的対応――(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 浜松市の国際化事業
 第3節 外国人対応職員の配置
 第4節 外国人市民向けの情報提供環境の整備
 第5節 ポルトガル語版広報の発行
 第6節 最近の動向
 第7節 おわりに
第3章 浜松市内の公営住宅における外国人居住者増加の様相と背景(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 浜松市におけるブラジル人の居住形態
 第3節 公的賃貸住宅の入居条件と外国人
 第4節 浜松市の公営住宅における外国人の入居条件
 第5節 浜松市の公営住宅における外国人世帯の入居状況
 第6節 最近の動向――県営住宅・市営住宅の最新の統計にみられる特徴――
 第7節 おわりに
 補足  浜松市に住むベトナム人の特徴
第4章 浜松市の公営住宅におけるブラジル人と日本人の接点(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 県営住宅S団地とS県営住宅自治会
 第3節 市営住宅T団地とT町自治会
 第4節 最近の動向
 第5節 おわりに
 資料1 公営住宅のブラジル人居住者に対する聞き取り調査資料

U 教育をめぐる問題

第5章 外国人児童生徒の増加に対する国と静岡県の施策展開(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 日本における外国人児童生徒教育の概要
 第3節 静岡県における外国人児童生徒在籍状況
 第4節 静岡県教育委員会の対応
 第5節 県教委中部教育事務所の対応
 第6節 最近の動向
第6章 静岡県小笠郡の中学校におけるブラジル人生徒教育の現況と課題――日本語、母語、教科学習、そして進路――(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 小笠郡X町およびX町における外国人児童生徒教育の概要
 第3節 D中における外国人生徒教育
 第4節 考察
 第5節 おわりに
第7章 ブラジル人の情報ニーズと図書館サービス――浜松市の事例――(竹内比呂也)
 第1節 はじめに
 第2節 多文化サービスに対するわが国の対応
 第3節 ブラジル人の情報ニーズ
 第4節 浜松市立図書館におけるブラジル人向け図書館サービスの展開
 第5節 浜松市における今後の課題と展望
 第6節 最近の動向
第8章 公共図書館および小中学校における多文化サービスの展開――静岡県の現状と課題――(竹内比呂也)
 第1節 はじめに
 第2節 静岡県内の公共図書館におけるブラジル人向けサービス
 第3節 ブラジル人向けサービスの現状調査
 第4節 公共図書館における課題と展望
 第5節 小中学校におけるポルトガル語資料の提供
 第6節 小中学校におけるポルトガル語資料の提供をめぐる課題と展望
 第7節 おわりに
 補記
第9章 公民館活動にみる日本人社会とブラジル人社会の接点――浜松市の事例についての考察――(竹内比呂也)
 第1節 はじめに
 第2節 浜松市における新来外国人に対する日本語教育への取り組み
 第3節 H公民館における事業の展開
 第4節 Y公民館における自主サークルの活動
 第5節 日本語ボランティアの役割についての考察
 第6節 おわりに
 補記

V 医療をめぐる問題

第10章 外国籍定住者と医療保障――グルッポ・ジェスチサ・エ・パスの陳情が問いかけたもの――(池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 陳情の背景――外国籍定住者の医療保障問題――
 第3節 外国籍定住者の医療保障を求めるグルッポの陳情
 第4節 陳情に対する静岡県・県議会の対応
 第5節 陳情に対する浜松市・市議会の対応
 第6節 陳情が問いかけたもの
 第7節 最近の動向
 資料  1997年5月16日浜松市議会厚生保健委員会会議録に記載されたY市議発言
第11章 浜松市における外国人医療の取り組み――ブラジル人への対応を中心に――(酒井昌子・池上重弘)
 第1節 はじめに
 第2節 浜松市の取り組み
 第3節 民間の外国人医療の取り組み
 第4節 外国人無料検診会
 第5節 最近の動向
第12章 ブラジル人が日本で出産するとき――周産期看護における異文化対応に向けて――(久保田君枝・酒井昌子)
 第1節 はじめに
 第2節 日本の周産期看護
 第3節 ブラジルの周産期看護
 第4節 日本の病院でのブラジル人妊産褥婦への対応
 第5節 考察
 第6節 むすびにかえて
 第7節 最近の動向――浜松市保健所の子育て教室――
第13章 周産期にあるブラジル人が持つ周産期看護への期待と不満(久保田君枝・酒井昌子)
 第1節 はじめに
 第2節 調査方法
 第3節 調査結果
 第4節 考察
 第5節 おわりに
 第6節 最近の動向

付録A 東海地方に「外国人暴行魔」出没?――流言の構造と受容の背景――
 第1節 はじめに
 第2節 三重県伊賀地方の流言
 第3節 私自身が耳にした流言
 第4節 学生アンケートにみる流言
 第5節 1990年代初頭の関東地方における流言
 第6節 流言受容の背景
 第7節 おわりに

付録B 地元の視点から「浜松人種差別訴訟」を考える
 第1節 はじめに
 第2節 浜松人種差別訴訟――事の起こりと裁判の経過、そして判決――
 第3節 ブラジル人側の反応と日本人側の反応
 第4節 運動のその後の展開

あとがき
引用文献
索引


■引用

はじめに(池上重弘)

「 本書は、1990年代に急増した「ブラジル人」に焦点を合わせ、浜松市を中心とした静岡県西部地域における事例を取り上げながら、「ブラジル人」と日本人社会との生活上の接点で生じる諸問題について考察したものである。
 まず「ブラジル人」ということばを本書でどのような意味合いで用いるかについて述べたい。次章で詳述するように、ブラジルから来日して日本で暮らす人びとのなかでは日系2世、3世が大半を占めるが、戦後移民の1世が帰国した場合や、日系人の配偶者である非日系人が在留している場合もある。そのため、日本で就労・生活する人びとを包含する名称は定まっておらず、一般に用いられる「日系ブラジル人」の他に、「在日ブラジル人」「日系人」「ブラジル出身者」などの名称が用いられることもある。しかし「日系」という語句から連想される日本社会・日本文化との同質性や親和性よりも、ブラジルの文化的背景を有することに起因する異質性に着目して地域社会の対応を明らかにするのが本書の基本的視角であるため、本書では、日系であれ、非日系であれ、ブラジルの文化的背景を持つ人びとを指すことばとして「ブラジル人」という名称を用いることにする。」(p.3)


第1章 ブラジル人増加の要因と増加の様相(池上重弘)

「 1980年代の好景気が爛熟期を迎えた1980年代後半、日本では製造業を中心に単純労働力の不足が深刻化し、ニューカマーと称される新来外国人の流入がみられるようになった。それは、1985年9月のプラザ合意に基づく先進5カ国の協調介入によって円高・ドル安が進み、外国人労働者にとって日本での就労が経済的に魅力あるものと映るようになったからでもあった。しかし、単純労働従事を目的とした外国人労働者の受け入れを認めない日本政府の方針の下では、主として東南アジア、南アジア、中東の諸国から単身で来日して働くこ>18>うした男性労働者の多くは、「不法就労者」として不安定な就労を余儀なくされていた。ところが、1990年6月に施行された新しい出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)が、日本に在留する外国人の絶対数と国籍比率に大きな変化をもたらすことになった。この改定入管法(注1)は、「単純労働者」の入国および定住は認めないとする従前からの原則を維持しつつ、「不法就労者」を雇用した日本人雇用主に対する罰則規定も盛り込んだものであったため、「不法就労者」の排除を強化することになった。その一方、日系2世、3世やその家族の就労が合法化されたため、合法的な外国人労働者を雇用しようとする雇用主側の需要が高まり、ブラジルなど南米諸国から来日する労働者が急増したのである(注2)。改定入管法施行から10余年が経過したこんにち、ブラジルをはじめとする南米諸国からの労働者は、日本の製造業を末端部分で支える無視できない一群となっているし、日本への出稼ぎを指し示す「デカセギ(dekasseduiないしdecassegui)」ということばはポルトガル語のなかでも定着している。
 ここで入管法の改定点のうち、ブラジル人増加に関連する部分を重点的に取り上げて確認したい。改定入管法では、日系2世(南米などに移民した日本人の子として外国で出生した者で日本国籍を保有しない者)には「日本人の配偶者等」という在留資格が与えられ、その配偶者や子(3世)など、日系2世の者の家族には「定住者」という在留資格が与えられるようになった。すなわち、非日系の外国人であっても、配偶者が日系人であれば「定住者」としての在留資格が付与されるのである。「日本人の配偶者等」ないし「定住者」の在留資格を持つ者は、「永住者」と「永住者の配偶者等」同様、単純労働も含めてあらゆる職種に合法就労することが可能とされた[山田・黒木 1994]。こうして日系人(およびその配偶者と子)の単純労働就労への道が開かれたのである。」(pp.18-19)

「注1)通常は「改正入管法」と称されることが多いが、「この法が未登録労働者を排除しようとする姿勢をもち、そのために雇用者処罰制度などを新設するなど「改正」とはいいにくい側面をもっている」とする駒井[1993:16]の指摘に賛同し、本書では「改定入管法」という語を用いることにする。
注2)改定入管法において日系人の就労を合法化したのは、深刻な労働力不足を打開するためであると説明されることが多い(たとえば渡辺[1995b:20])。しかし法改定に携わった法務省の政策担当者に対して聞き取り調査を実施した梶田によれば、法改定の時点で日系人を新たな「外国人労働者」として位置づけようとする意図があったと確認することはできないという。あくまでも事後の結果として、日系人が予想を超える規模で来日・就労するようになったというのである[梶田 1999b:6-10]」(p.35)


第2章 浜松市における国際化施策の展開――外国人市民増加への総合的対応――(池上重弘)

「 1990年6月の改定入管法施行は、日本におけるブラジル人の急増をおたらした。しかし1990年代の10年間を振り返ると、ブラジル人が量的に増加しただけでなく、日本で暮らすブラジル人たちに質的な変化が見られたことに注意を払う必要がある。日本語能力の低い2世や3世、日系人の配偶者である非日系人、医師・弁護士・エンジニアを含む高学歴のホワイトカラー層、そして学齢期の子どもたち――。ブラジルからやってくる人びとの属性が多様化し、滞在の長期化や家族滞在の増加が進んだ。こうした状況のなか、日本で暮らすブラジル人たちは、貯蓄を至上の目的とする「出稼ぎ者」としてだけでなく、地域社会での「生活者」としての性格も強めていると述べてよいだろう。」(p.38)

「 池[1995:41-51]は、ブラジル人(池の表現では日系人)の雇用動向について、次の三つの時期区分を設定している。すなわち、出稼ぎ現象初期から改定入管法までのT期(1985〜1990年5月)、改定入管法施行から日本の好況の終焉までのU期(1990年6月〜1991年末)、そして、日本の景気後退の影響を受けた雇用調整期のV期(1992年〜)である。T期に「出稼ぎ」に来ていたのは日本国籍を持つ1世や二重国籍者が多かったため、言葉の面でも日本社会への適応性が高く、公共機関が取り立てて外国人向けのサービスを展開する必要はほとんどなかったと言ってよい。外国人が急増し、外国人をめぐる問題が表出してきたのは、U期からV期のはじめにかけてである。渡辺グループが詳細な調査に基づいて描き出しているのは、この時期における日本人社会側の火急の対応である。」(p.39)

引用文献
◇池聡子 1995 「日系ブラジル人の雇用実態とその変遷――日本経済の動向を軸に――」,渡辺雅子編『共同研究 デカセギ日系ブラジル人(上)論文編』,明石書店,pp.39-68
◇梶田孝道 1999b 「『日系人問題』の端緒とその展開――1990年新入管法との関連を中心に――」,梶田孝道 『トランスナショナルな環境下での新たな移住プロセス――デカセギ10年を経た日系人の社会学的調査報告』,一橋大学社会学部,pp.1-17
◇駒井洋 1993 『外国人労働者定住への道』,明石書店
◇山田鐐一・黒木忠正 1994 『わかりやすい入管法』,有斐閣
◇渡辺雅子 1995b 「出入国管理法改正とブラジル人出入国の推移」,渡辺雅子編 『共同研究 デカセギ日系ブラジル人(上)論文編』,明石書店,19-37


■書評


■言及


*作成:石田 智恵
UP:20080826 REV:
外国人労働者/移民  ◇「日系人」/日系人労働者  ◇BOOK  ◇身体×世界:関連書籍
 
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