『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』
内藤 朝雄 20010715 柏書房,302p.
last update:20100706
■内藤 朝雄 20010715 『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』,柏書房,302p. ISBN-10: 4760120882 ISBN-13: 978-4760120888 \2415 [amazon]/[kinokuniya] ※ c08 l03 l04 s01 v04
■内容
・「BOOK」データベースより
“世界のとらえどころ無き欠如”に始まる“全能感のもて遊び”と“集団の祝祭”の追求,“倒錯するタフネス”の変容の果てに具現するいじめ秩序を,心理的構造モデルと社会秩序の循環においてダイナミックに掌握.学校共同体主義の危険を指摘し,いじめ秩序を無化する自由な学校−社会を原理と政策において探求する.
・「MARC」データベースより
いじめと学校トラウマから自分を解放する初めてのいじめ学誕生.「世界のとらえどころなき欠如」「全能感希求」「集団の祝祭秩序」によるいじめの生態学的秩序生成を示す.
■目次
まえがき 1
I部 いじめの社会関係とそのマクロ環境
第一章 イントロダクション――中間集団全体主義といじめ研究の射程 13
第二章 いじめの社会関係論 39
第三章 制度・政策的に枠づけられた学校の生活環境と,その枠を変更することによっていじめ問題を解決する処方箋(即効的政策提言) 105
II部 心理と社会の接合領域――心理社会学の構想
第四章 心理と社会をつなぐ理論枠組と集団論――デュルケムの物性論的側面を手がかりに 151
第五章 精神分析学の形式を埋め込んだ社会理論 175
III部 権力・全能・制度
第六章 利害−全能接合モデルと権力論そして政策構想へ 207
第七章 利害と全能を機能的に連結する技能――市井のバタラーに取り組むための分析枠組 227
IV部 自由な社会の構想と社会変革
第八章 自由な社会の構想 253
第九章 新たな教育制度(中長期的改革案)275
引用文献一覧 291
あとがき 301
■引用
・「中間集団全体主義」――人びとの自由ときずなを最大限に蝕む病理――とは?
全体主義概念は,個に対する全体の圧倒的な優位,および個の人間存在が包括的に全体に埋め込まれることを強制する社会体制というコア以外は,状況の要請に応じて輪郭や用法を変えてきた実践的な概念である(19).
戦後日本社会は,先進国水準の民主的統治機構を完備している.しかし現代の日本社会では,多くの人々が(機能集団ではなく)共同体への人格的献身として学校や会社への参加を強いられ,人格的自由あるいはトータルな人間存在を収奪され,きわめて酷いしかたで隷属させられるといった事態が生じた.このような事態はあきらかに全体主義のコアにあてはまっているが,国家に焦点を当てた従来の全体主義概念では理解不能である.国家全体主義は,全体主義の「全体」に国家を代入したものだが,戦後日本に行き渡った全体主義はこの「全体」に〔中略〕共同体を代入したものだと考えることができる.つまり戦後日本社会では〔中略〕中間集団共同体に全体主義の座が移動したのである(20-1;下線作成者加筆).
各人の人間存在が共同体を強いる集団や組織に全的に埋め込まれざるをえない強制傾向が,ある制度・政策的環境条件のもとで構造的に社会に繁茂している場合に,その社会を中間集団全体主義社会という(21).
国家は〔中略〕中間集団内部の共同体的専制から個人を保護するために介入する仕事をしようとはしなかった.日本の統治原理上意図的に,中間集団共同体から個人を保護する目的では,法が動かないようにされた.その結果,中間集団共同体は〔中略〕集団内部の個人に対して非法的な制裁を実効的に加えることができ,内部秩序維持に関してはきわめて強い自律性を有することになった.中間集団共同体は〔中略〕人格変造的な「教育」「しつけ」を好き放題に行うことができ〔中略〕(22).
・中間集団全体主義から人々を守るための「自由な社会の構想」
Aさん,Bさん,Cさん,Dさん,Eさん……が,共通の望ましい生き方(共通善)を無理強いされることなく,それぞれにとっての望ましい生のスタイルときずなを生きることができる社会状態が,望まれる社会状態である.
このような社会状態は,放っておけばおのずからできあがる,というものではない.一人一人が自由に生き,さまざまな善い生のスタイルときずなが殲滅し合うことなく発展を遂げるためには,しっかりした社会的インフラストラクチャーが必要である.このインフラの役割は,ほかのスタイルを生きる人に対する攻撃を禁止し〔中略〕.
リベラリズムによる政策は,構造的な力関係によって人格的な隷属を引き起こしやすい社会領域(学校・会社・家族・地域社会・宗教団体・軍隊……)に対して,個の自由と尊厳を確保しやすくするための制度的な介入のしくみをはりめぐらせる〔中略〕.
もちろん,この自由のインフラは,好みのコスモロジーが人間界を覆いつくしていて欲しいという欲望によって他人を強制的にコントロールすることでアイデンティティを保っている者にも強制する.リベラリズムは他人の自由を侵害する自由をみとめず,それを徹底的に阻止する.
その意味で自由な社会は,次のようなタイプの人には都合の悪い社会である.例えば,自分を中心とした勢力の場に他人を巻き込んだりコントロールしたりして,強大なパワーを感じたい人がいる.こういう権勢欲の人たちは,自分が苦労して牛耳った集団のノリの中で浮き上がった堂々としている個人をみると攻撃せずにはいられない.あるいは,人間はかくあるべきという共通善に関する思い込みをもっていて,その信念に反する人々が存在するのを目にすること自体が耐え難いと言う人がいる.こういう人は,若い人がチャパツで学校や街を歩いていたり,電車の中でキスしているのを見かけるだけで,被害感と憎悪でいっぱいになる.こういう人たちには不快な思いをしてもらうことになる(262-4;下線作成者加筆).
■書評・紹介
◇久保 貴 20021026 「『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』」(*書評)『犯罪社会学研究』27: 136-7.(CiNiiで全文閲覧可.PDFファイル)
◇瀬戸 知也 20021031 「内藤朝雄(著) 『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』」『教育社会学研究』71: 191-3.(CiNiiで全文閲覧可.PDFファイル)
◇竹川 郁雄 200303 「書評 内藤朝雄著『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』」『現代の社会病理』18: 103-6.
◇工藤 宏司 20031231 「内藤朝雄著『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』」『社会学評論』54(3): 310-1.(Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)
(CiNiiで全文閲覧可.PDFファイル)
◇秦 政春 20041030,「書評 内藤朝雄著『いじめの社会理論――その生態学的秩序の生成と解体』『ソシオロジ』49(2): 121-8.
■言及
◇内藤 朝雄 20020731 「ドメスティック・バイオレンスと家族の病理」(*書評),『家族社会学研究』14(1): 49-51.(Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)
◇崎山 治男 20070331 「分野別研究動向 (社会病理)――社会病理の診断と実践的介入のはざまで」『社会学評論』57(4): 804-20.(Journal@rchiveで全文閲覧可.PDFファイル)
*作成::藤原 信行