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『精神障害者の地域生活支援――統合的生活モデルとコミュニティソーシャルワーク』

田中 英樹 20010601 中央法規出版,304p.

last update:20210125

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■田中 英樹 20010601 『精神障害者の地域生活支援――統合的生活モデルとコミュニティソーシャルワーク』,中央法規出版,304p. ISBN-10:4805820810 ISBN-13:978-4805820810 [amazon][kinokuniya] ※ m

■内容

(「BOOK」データベースより)
本書は、1995年以降の精神保健福祉法時代という現在に焦点を合わせている。この時代が「精神障害者の地域生活支援」にとってパラダイム転換期であるという認識からその主要な課題を論考した。
(「MARC」データベースより)
精神障害者の医療のあり方と、社会福祉分野における精神障害者の地域生活支援という新しい地平を切り開くための、視座と課題を明らかにする。病院での実態調査や、各地のモデル的実践を踏まえた実証的な研究。

■目次

推薦の辞

序章 研究の主題と研究方法 (3)

第1部 基本的視座と概念的枠組み
第1章 指導的理念としてのエンパワーメント (39)
第2章 精神医療と社会福祉 (61)
第3章 精神医学ソーシャルワーカーの位置と基本枠組み (82)

第2部 地域生活支援システムの成立要件
第4章 精神病院における「社会的入院患者」の退院促進プログラムの開発――1997年「全国病院家族会会員ニード調査」結果を中心に (105)
第5章 地域ネットワーク (127)
第6章 オルタナティブサービス (147)

第3部 事例研究
第7章 精神障害者のエンパワーメントに関する実証的研究――精神障害者の聞き取り調査を通して (179)
第8章 地域ネットワークの実際――世田谷区烏山地域での精神障害者地域生活支援を中心に 第9章 沖縄県における精神保健福祉の形成と発展 (226)

終章 地域生活支援システムの近未来 (251)

参考文献一覧
あとがき
五十音索引
欧文索引

■言及


■書評・紹介


■引用

p. 13
 「社会復帰」概念には「医学モデル」に基づく直線的な理解、つまり「隔離収容型の長期入院」治療→段階的な訓練→元への回復という結果に対する理解が主流であった。これに対し「社会参加」概念の登場は、精神障害者の主体性を尊重し、たとえ治療や訓練が終了していなくても、生活の自律及び市民的権利の回復、さまざまな社会参加形態を認め、支援するなど治療や訓練と同時に進めることが必要とのプロセスを重視した「生活モデル」を基底においた考え方である。

p. 18
 谷中輝雄(1996)は「やどかりの里」の福祉的な実践を基盤に、地域で生活を支える要素として「@住む場、A働く場、B憩いの場」をあげた。藤井克徳(1999)は、「地域生活を支えていくための4つの基本施策」として「@働く場・活動の場、A生活の場、B所得保障、C人的支援」の4分野をあげた。

p. 19
 ウィリアム・アンソニー(1984)が精神科リハビリテーションの立場から地域生活支援システムの形成について論じ、指導的役割を果たしている。1989年には、『Psychosocial Pehabilitation Journal』誌上にてコミュニティサポートシステムは大々的に特集が組まれている。〔中略〕1990年に設立されたロサンゼルス郡の the Village Integrated Service Agency では、精神障害者本人、家族もスタッフに雇って、チームケア方式(1チーム6人で92〜100人のクライエントを担当、3チーム体制)、いわゆるヴィレッジ方式を開発したが、成果をあげなければ、連邦予算はつかないという現実に直面し、その結果、多くのサービス供給機関がコスト面を意識した効果を中心とした実証研究の傾向を強めてきた。

pp. 34-36
リカバリーは長期の隔離収容、長期の服薬による副作用、離職や離婚、社会的偏見・スティグマ、地域支援の不在、再発と生活破綻による新たな施設収容化、単身化、貧困、孤立、ホームレス化など疾病や障害によって失ったもの(その人らしい人生や希望、誇り)を自らの手に取り戻すことを意味する。その中で精神障害者のセルフヘルプ運動も不安定ながらも各地に拡がっていった。1980年代から90年代にかけて、リカバリーが現実に起こりうることであることを何千ものリカバリーした精神障害当事者による自叙伝的報告が示してきた。(p.34-35) 精神障害者が求めたものは、病気の治療以上に、市民としての当たり前の権利、即ち、住む場や仕事、友人や教育であった。リカバリーの手記の背景にはこのような現実があった。(p.36)

pp. 150-151
 「私を含めた患者グループが本当のオルタナティブと定義づけるのは、基本的なすべての決定権がサービスを提供するその人々の手に握られているところ(Chamberlin 1977: 32)と厳しく限定している。この立場から。「治療共同体」モデルも、「ファウンテンハウス」モデルも批判の的とされている。(p150) チェンバレン自身、今日ではボストン大学リハビリテーションセンターのプロジェクトを担当するユーザーとして、彼女が批判してやまない精神保健システムの一翼に位置しているのである(p151)

p. 153
 1970年前後の動きは、地域におけるセルフヘルプグループ(ソーシャルクラブ)が、勉強会や機関誌の発行を開始し、ボークマン(1976)の「体験的知識」や、レイスマン(1965)の「ヘルパー・セラピー原則」(援助する人がもっとも援助を受ける)をほぼ自分のものとしてきている。

pp. 153-155
 1975(昭和50)年になると、全国精神障害者社会復帰連絡協議会(第6回の1983年で解散)主催の「全国交流会」が始まるが、これは「やどかりの里」の谷中輝雄を始めとする専門職のリードによるものであった。この年に、保健所社会復帰相談指導事業が始まっている。(p.153) 1983年に「全国精神障害者社会復帰活動連絡協議会」(全精社連)の旗揚げ(富山集会)へと進む。これは「全国交流集会」の再出発として精神障害者自身のリードへスタートを切ったものであり、地域拠点施設の創出がはじまり、患者会の県連組織化の動きも開始される。この時期に「あすなろ会」は小規模作業所を自分たちの手で運営して、オルタナティブサービスの先陣を切っている。また、「すみれ会」も札幌市内に独立事務所を設置している。(p.154)1993年には全国精神障害者団体連合会が結成され、〔中略〕専門職がリードする役割は、精神障害自身のリーダーに一が替わり、対等なパートナーシップが形成されようとしている。(p.155)

p. 156
 日本における精神障害者のセルフヘルプグループが何らかの形で、専門家の全くの関与なしには成立していないという歴史的事実から、チェンバレンの厳密な規定ではなく、専門家も関与したプログラムもオルタナティブサービスの範疇に組み入れて把握した。

p. 157
 1970年9月「すみれ会」は、北海道精神衛生センター「社会復帰学級」卒業生4名で発足している。小規模作業所の設立に向けては、1984年に札幌市に陳述書を提出し、1986年に実現させている。1992年には横式多美子が内閣総理大臣賞を授与している、1994年には、第2共同作業所を開設し、1999年時点で会員数350名、通所登録者120名を超えている。指導者9名全員(非常勤も含めると20名)が精神障害当事者であり、スタッフになるには利用者全員の選出による。

p. 157-159
 北海道帯広・十勝地域の精神障害者地域生活支援活動は、1984年全国で3番目に設置された「音更リハビリテーションセンター」を中心に、道立緑ヶ丘病院、帯広保健所、帯広ケアセンター、十勝精神保健協会などを核とした地域支援体制が地域ネットワークで推進されている。セルフヘルプグループ十勝ソーシャルクラブ連合会(略称:勝連)がオルタナティブサービスとして注目されるのは、「仲間づくり施策」が自治体の補助事業として明確に位置づけられている点である。1991年4月音更たまりば会「レモンクラブ」の昆布の販売に対して、音更町が『精神障害者回復者クラブ事業運営補助金』可決。井口・丸山(1998)によると、実践面では「スタッフが関与しすぎて、メンバー主導になりきれていない」といった報告もなされている。

p. 160, 167
 全国精神障害者団体連合会「ぜんせいれん」の事務所は台東区にあり、1996年からそこでピアカウンセリングを行っている。スタッフは全員精神障害者で8名いる。事務局長の加藤真規子だけが有給職員で、あとのメンバーはユーザーボランティアである。(p.160)他の障害者運動に学んだタイプでは、@「自立生活センター」モデルである。CIL(Center for Independent Living)と呼ばれるこのモデルは、アメリカにおける自立生活運動に呼応して、日本では主に重度の身体障害者分野を中心に実践されているものである。「全精連」の各グループに見られるピアカウンセリングなどは、CILプログラムをモデルとしている。(p.167)

p. 165
 表6−1 精神障害者自身のオルタナティブサービスの現状 (1991年4月1日現在、筆者調べ:◎常勤ユーザースタッフ、〇非常勤)

p. 170, 173
 日本におけるオルタナティブサービスが軌道に乗ってきたところでは、積極的に行政や民間スポンサーにコミットしている。コミットしていないのは、「反差別モデル」とニフティサーブだけである。しかし、「全精連」の苦悩がそうであるように、財政的な裏付けがあるかないかは、このプログラムの将来を左右する。その他、他の障害者との関係や、ボランティアとの関係など広い意味で地域社会との関係についても分析が必要であろう。「ベてるの家」や「麦の郷」の実践はこの点でもヒントを与えてくれる。(p.170)拠点としての活動の場を確保するには、事業費助成など公的支援が欠かせない(p.173)


*作成:箱田 徹・更新:伊東香純
UP:20110107 REV: 20210125, 0204
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