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『老いの幸福論』

吉本 隆明 20010300 = 20110415 青春出版社(青春新書),221p.

last update:20120411

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吉本 隆明 20010300 『幸福論』,青春出版社 = 20110415 『老いの幸福論』,青春出版社(青春新書),221p.  ISBN-10: 4413043138 ISBN-13: 978-4413043137 \800+税  [amazon][kinokuniya] a06

■内容

老いや死への恐怖、自己への焦り……。誰しもが抱える人生の悩みに対して、“思想界の巨人”が幸せのヒントを示す。

僕が自分で考えて、こういうふうにやってごまかしておこうか、まあこれでいいことにするか、というふうにできるだけ心がけていることがひとつだけあります。 それは、つらいとか苦しいとか、あるいは逆に今日は調子がいいとか、いいことがあったとかいう、禍福といいましょうか、幸・不幸といいましょうか、 それを長い周期で考えないようにすることです。―超・老齢期のただ中にある著者が、「老い」や「死」、「家族」や「教育」の問題について縦横に語り尽くした、 初の幸福論。

■目次

一章 こきざみの幸福に気づく――超・老齢化社会への心構え
老いてから「幸福」を考えるときに
孤独感、わびしさをどうするか
ちいさく刻んで考える
「悩みの専門家」利用のススメ
死の恐怖はあっていい
大きな目標など、たててはいけない
幸・不幸を自分で決める
不幸にさせる人と出会っても
いくつになっても達成感は得られる

二章 知識より叡智が大事――吉本隆明流・老年からの勉強法
「勉強」への期待を捨てよう
人生で役立つ「知」を見極める
知識と叡智、その違いを知れ
「情報」を拒否せず、おどらされず
「永遠なる知」という幻想について
無理して「学問」なんてすることはない
吉本流・連鎖式勉強法
人が一生に読める本の量は平等に少ない
人生を変える「知」との出会いを

三章 家庭内離婚もいいかもしれない――変容しつづける家族を生きる
不倫についての実感的感覚
罪悪感を抱えても幸せになるほうがいい
家庭内別居はありますが……
夫婦ふたりで生き死ぬ、という美
「超・老齢期」からの夫婦生活
死ぬときは一人、という覚悟も

四章 我が子の罪の償い方――親の責任について考える
吉本家の受験対策
親がちゃんと見てると、子は動く
子どもの才能に救われるとき
親のにぶさに子が我慢すると……
「しつけ」」を考えている大人」を疑う
我が子の罪を償うならば
子どもを殺されたら、僕はどうするか
子育ての責任を社会に負わせる愚
親として、究極の責任のとり方
母親の心身の健康を気遣うこと
いくつになっても親の責任

五章 老親問題も育児問題も一緒――制度としての介護、実感としての介護
老いて子どもをあてにするべからず
老人ホーム・託児所にまかせたつもりになるな
家族に看取られて死ぬことの幸福
定年の延長と、余分な年金を
老人は、みな心身症であると心得よ

六章 ガタがきた体とつき合う――老齢期に入ってからの健康法
余分に動く、無駄に動く、その効用
「総意工夫」で病後を楽しむ
「ほどほど運動」のススメ
自分の体の主治医は自分
医者がだめだと言ってもめげなくていい
僕はこうして「栄養の調和」をとる

七章 死を迎える心の準備なんてない――死を語ることの無駄について
肉親を看取るとき、自分を知る
死は自分に起こる事件ではない
これで終わりだ、と思う瞬間はある
彼岸というのはあるのかもしれない
「生死は不定である」という心構えを
この世への執着が断てなくてもいい
人は何を負うことなく生まれ、死んでゆく
先人に学ぶ死後の後始末

あとがき
新書化にあたってのあとがき

■引用


老いてから「幸福」を考えるときに
 人はだれでも年をとる。
 老人が社会の何割かを占める。
 あたりまえのことですが、それを身辺のこととして、どう受け止めていくかというのはなかなか複雑な問題です。  個々によっても時代によっても問題の性質は変わってきます。
 知人の優れた医師と話をしていて、なるほどと思ったことがあります。
 彼が言うにはいまの高齢化社会というのは、単に老人が増えたことを意味するのではないそうです。彼の実感するところでは、八十歳になっても肉体的には二十代、 三十代のように若々しい人と、二十代、三十代の人で、肉体的には内臓も含めて、七十、八十の老人みたいな人もいるという、そのバラつきが多くなったというのが、 老齢化社会の特徴だと、そう言うわけです。
 だから、「平均年齢が上がったから老齢化社会」かというとそうではない。通俗的な意味ではそうだが、医師として専門的見解を示すなら、 そういう一件矛盾したバラつきが多くなったという特徴があるのが老齢化社会だ、と言っていました。高齢化と老齢化とは少>013>し違うというわけです。そう言われると、 何となく実感で、なるほどな、というところはありますね。[……]
 だから確かに、バラつきが多いというのは納得できます。老人すべてが老いているのかというとそれは違うようだ、というのが実感です。 同世代の知人のことを例に考えてみても言えそうです。早く逝ってしまう人もいるし、全然まだ平気で普通どおりやっている人もいる。 どちらかというと、外で、政治的、社会的に活動している人のほうが身体のことによく気をつけているように見えます。(pp.12-13)

 それで、不思議に思って、聞いてみたことがありました。[……]妻のほうの親戚に、人形河岸の証券会社の社長がいるんです。[……] あなたみたいな実業家というのはなぜいつまでも元気なんだ、と聞いたことがあったんです。そうしたら、こっちが思い込んでいるような理由じゃなくて、 簡単に言ってました。
 要するに、丈夫な奴だけが残るんだという答えでした。つまり、学校を出たてのときは、 東大在学中に国家公務員I種試験みたいなのにちゃんと合格してしまうような秀才で、こいつは将来のエリートだと思われていた人たちが大蔵省に入ったり、官庁に入る。 ところ>015>が、そういう人は早く死んじゃうんですよ。
 頭脳は良くても身体が弱かったりして、たいてい中途の年齢で死んでしまうから、ひとりでにいなくなっていく。その一方で、あんまり頭のほうは大したことないけども、 丈夫だというか、健康に気をつけているような者は残る。それだけのことで、別に不思議はないんだ、と彼は確言していました。
 確かに、残っていれば目立ちます。
 だから、逆に大学を卒業したときに、こいつは将来すごいだろうという優秀な人は、たいてい早死にしちゃって、かえって駄目ですよ、なんて言ってました。 なるほどなと思いましたね。超老齢期のまっただ中を生きる僕にとって、あたり前のようでいて新鮮な視点でした。
 老年期の幸福について考えるとき、身体の状態をぬきにしては語れないという根本的な事実につきあたった瞬間でした。(pp.14-15)


死は自分に起こる事件ではない
 それからもう一つ、人が誤解していると僕が思っていることがあります。
 重体になってくるころには、 酸素マスクをどうしたとか、管をたくさんくっつけられて、見ているとときどき顔をしかめて苦しそうにしている。 自分もそうなるんだったら、死ぬっていうのが分かった時点で、安楽死のほうがいいんだとか言うでしょう。 それも、安楽死になりそうになった人がそう言っているならいいのですが、そうじゃない人々が、普段そう言うじゃないですか。だけど、 それは大嘘で、危篤になって管をいっぱいつけられて、呼吸はしているというときに、顔をしかめたりしても、それは苦しいからしかめるんじゃないんですよ。 それはもうただ顔をしかめてるだけで、苦しいも何もわからないんです。
 例えば、尊厳死協会というのがあります。僕の妹はそれに入っているんだと言うんですが、そんなのはよせと言うこともないから、 黙って聞いていました。もちろんそういうのは>194>ばかばかしいと僕は思っているわけで、尊厳死もヘチマもないんです。
 それに加えて、死ぬっていうのは自分のものだと思うのも間違いだ、と思っているわけです。だから、僕は重体になってからのことはぜんぜん考えない。 どうしようと勝手にしてくれ、というだけです。苦しい、苦しくないというのは、僕の人間の身体とか生命とかの理解のしかたからすれば、 重体あるいは危篤状態で管をいっぱいつけられてるのは嫌じゃないですかと言うけど、そんなことは自分でわからないんだから、いいじゃないか。 できるだけ長く生かすというのが医者の考えだし、長く生きてもらいたいというのが普通の近親の願いだというだけであって、それが苦しいからとかどうとか、 それははたから見ているからそうで、ご当人が苦しいかどうかぜんぜんわかりません。
 だいたい、死の直前に苦しみなんてないと死にかけた僕が実感上、そう思います。そのときには半分意識がないっていうか、痛くもないし、苦しくもない。ただ、 顔は習慣上というか、それまで顔をしかめてきたわけですから、そういうことはするだろうけど、それは苦しいからしてるじゃないよ、と僕は思っています。
 だから、「苦しいだけなら、無理に延命治療などする必要などない」などという理屈は尊厳死協会に入る理屈にはならないっていうのが僕の考えです。(pp.193-194)

■書評・紹介

■言及



*作成:北村 健太郎
UP: 20120411 REV:
老い  ◇スパゲッティ症候群/スパゲティ症候群  ◇安楽死・尊厳死  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
 
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