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『外国人労働者新時代』

井口 泰 20010320 筑摩書房,206p. 680


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・このファイルの製作者:立命館大学政策科学部 M

『外国人労働者新時代』
著者:井口泰
出版社:筑摩書房
発行年月日:2001年3月20日 第一刷発行
総ページ数:206ページ
定価:680円
図書館蔵書:文庫棚、筑摩書房288番

目次:
序章  外国人労働者新時代の幕開け
第1章 始まった「第二の論争」
1.「第一の論争」は何をもたらしたか
  2.外国人労働者受入れ基本政策の試練
  3.少子化ショックと「第二の論争」
第2章 外国人労働者は今
1. 外国人労働者の増加と多様化
2. 不法入国・不法就労はなぜ減らないのか
3. 南米日系人は定住化するのか
4. 日本に来る専門・技術労働者はなぜ少ないのか
第3章 移民受入れは少子・高齢対策になるのか
1. 人口規模・人口構成の是正は可能か
2. 労働者市場の不均衡是正は可能か
3. 人口減少により市場の縮小は起こるのか
4. 少子化対策と外国人労働者受入れ政策の関係
5. 介護労働者導入をめぐる論議
第4章 移民・外国人労働者の社会的統合
1. 社会統合とは何か
2. 外国人労働者受入れの社会的コスト
3. 雇用・失業情勢と外国人労働者
4. 外国人の法的地位をめぐって
第5章 地域統合と国際的な人の移動
1. 国際法及び経済論理上の地域統合
2. 欧・米・東アジア----域内移動の特徴
3. 地域統合が人の移動に及ぼす影響
第6章 東アジアの人材移動
1. 技術移転としての人材移動
2. 外国人研修・技能実習制度の試練
3. 「中間職種」----人材開発・還流モデル
終章  人材の集まる国に



序章  外国人労働者新時代の幕開け

 本格的な少子高齢化の時代を迎え、外国人労働者、移民受入れをめぐる議論が今、注目を集めている。人口減少下でも現在程度の経済規模ないしプラスの経済成長率を維持できるのか、労働市場での労働の需要と供給を均衡させていけるのか、社会のいろいろな場所で、中心となる人材を確保できるのか、老齢年金、医療・介護を始め社会保障制度を維持できるのか、若年層が激減した地域社会を維持・運営していけるのか。日本の将来をどのように展望するかは、日本という国の将来をデザインすることである。21世紀を迎えた今こそ、新しい時代を開くのにふさわしい外国人労働者政策を構想する必要がある。〔表紙裏、p10、p20〕

第1章 始まった「第二の論争」

 外国人労働者問題をめぐって論争が大きく盛り上がった時期が2度ある。一方は1986年から1994年でそれを「第一の論争」期と呼び、もう一方は1998年から現在にかけてを「第二の論争」期と呼ぶことにする。

 1.「第一の論争」は何をもたらしたか
 「バブル経済」に伴って「労働需要バブル」が起こり、外国人労働者が日本に大量に流入した。マスコミを中心に外国人労働者を受け入れるべきかどうかに関して論争が起きるが、そのような論争をよそに政府は専門的な技能を備えた外国人労働者に限って受け入れる方針を固めた。その結果、専門的な労働者と単純労働者の間に存在するはずの「一般技能労働者」については忘れられて、「専門労働者」と「単純労働者」という二分的な理解が広まり、「一般技能労働者」は「単純労働者」と同列視されることとなった。

 2.外国人労働者受入れ基本政策の試練
 専門的労働者のみを受け入れるという政府の基本方針は、単純労働者に対する日本企業の需要とそれを供給する外国人の存在という現実と乖離しており、すぐにひずみが現れた。

 3.少子化ショックと「第二の論争」
 1997年、合計特殊出生率の低下と、21世紀前半における日本の将来人口の急速な減少を予測された。こうした中、堺屋経済企画庁長官と日経連がイニシアティブを取って積極的に移民受入れ問題と技能実習制度の拡充と改善を提言した。

第2章 外国人労働者は今

(ア) 外国人労働者の増加と多様化
日本にいる外国人を移動の動機別に分類すると次のようになる。
@「経済的な理由による国際移動」をし、日本で就労する外国人のうち最大のグループ。これは不法算就労者であり、1999年には25万人程度と推測され、摘発は5万人程度である。
A「血縁的基礎による国際移動」でありながら「経済的国際移動」の性格を併せ持っているグループ。これは日系人であり、1999年時点で22万人に達している。
B「経済的な理由による国際移動」であるがその技術の特殊性から「技術移転を目的とする国際移動」性格を併せ持つグループ。これは「就労目的」の在留資格を取得した外国人であり、1999年で12万5000人に達している。

(イ) 不法入国・不法就労はなぜ減らないのか
 不法入国が増加する背景には、不熟練労働者への規制や検査が厳しさを増し、不法入国のリスクがますます高まり、トラフィッカー(不法入国と就労を仲介する業者)が、不法入国希望者からますます高い手数料を要求するという悪循環がある。

(ウ) 南米日系人は定住化するのか
1980年代半ばから日系2世、ないし、3世が単独で「デカセギ」に来るという性格を強めていった。そんな中で1990年に入国管理法が改正されて、日系2世3世に「定住者」等の在留資格を与えて彼らが日本に出稼ぎに来やすいように法整備を行ったが、実際には彼らはブラジルに家業を持っていたり、家族がいたりなどしたので、ブラジルを本拠として日本に出稼ぎに来るのが主だった。ところが、日本経済が長期停滞を経験した1990年代に変化が生じ始めた。

(エ) 日本に来る専門・技術労働者はなぜ少ないのか 
 専門・技術労働者の移動は、直接投資の規模、多国籍企業内の技術移転ニーズや国内における経営現地化の要請の強さや、国外へ人材を移動させ就業させるのに必要な労務コストなどの諸要因の影響を強く受ける。ところが、1990年代において年間の対日直接投資額が、対外直接投資額の10分の1前後と少なく大きな不均衡が存在した。

第3章 移民受入れは少子・高齢対策になるのか

 人口変動に及ぼす国際的な人の移動の影響は、国外からの移民の受入れに関して、どのような政策目標を掲げるかによって大きく異なる。第一には人口構造ないし人口水準そのものをコントロールしようという考え方である。第二は、人口構造そのものをコントロールするのではなく、労働市場の需給不均衡の是正を目標とし、特定の労働力ないし特定分野の労働力の補充を図る考え方がある。

(ア) 人口規模・人口構成の是正は可能か
 人口構造ないし人口水準をコントロールするという考え方についてはいくつかの問題点がある。まず入国管理面から見れば、年齢や出生率などの要件のみで入国者をコントロールするのは難しい。また国内の外国人の社会的統合という観点からも多くの外国人の受入れは多くの社会的摩擦をもたらす可能性がある。

(イ) 労働者市場の不均衡是正は可能か
 労働市場の需給の不均衡是正の観点からの労働力の受入れは、個別の労働力の需給関係が明らかでなく、国内労働市場への影響が懸念される場合、その実施は必ずしも容易でなく国内労働者の熟練形勢との関係も考慮しなければならない。

(ウ) 人口減少により市場の縮小は起こるのか
 日本の多くの経済学者たちは少子の影響に対して楽観的である。しかし、1990年代の高齢化と貯蓄率に関する論争における「ライフサイクル仮説」によると、所得が減少した老後においても現役時代の生活水準を維持するために、老後時代の消費性向は高まるはずであったが、実際には1990年代の経済停滞の時期において日本の高齢者の家計貯蓄率は上昇したのであった。

(エ) 少子化対策と外国人労働者受入れ政策の関係
 少子化対策は、雇用システムの改革を中心とし、これに育児インフラ整備や育児サービスの支援システムを組合せ、就業を通じて家計の経済力を高める施策を講じるならば、過度の財政負担を招くことなく少子化対策に一定の効果を期待できるであろう。
 また、少子化対策と外国人労働者政策の現実的な組合せ(ポリシーミックス)の中で現実的なものを考えると、
@少子化対策の効果を高めるため、少子・高齢化荷ともない需要が拡大する医療、介護、あるいは育児支援などの分野に限定し、外国人恵欧同社を受け入れる政策。
A少子化対策の効果を高める一方、技術開発や重要な生産現場の中核を担う人材を積極的に開発し、外国人を受け入れる政策である。

(オ) 介護労働者導入をめぐる論議
 外国からの介護労働力の受入れが盛んに言われているが、労働力送り出し国は合法的に出稼ぎ先を拡大できるならば、講習や試験を行ったり、あるいは、学校を建てるくらいのことはいとわない。これらの国々の政府認定や資格には一人でも多くの労働者を送り出す為の道具となっているものもあるという点を押さえておくべきである。

第4章 移民・外国人労働者の社会的統合

 日本では、多くの外国人労働者は期間を定めて受け入れられており、永住などを目的として受け入れられているわけではない。従って、外国人労働者とその家族を日本社会に「統合」する必要性に関する認識は薄い。

(ア) 社会統合とは何か
 EU委員会(当時)の専門家による「社会的統合政策」の報告書によると、次のように述べられている。

「統合とは外国人の社会的な底辺化を防止あるいは阻止する過程である。統合政策は包括的でなければならない。」「統合政策は長期滞在者はもちろん、滞在期間の制限無しに入国を認められたもの、あるいは滞在期間を制限された新規入国者で長期的に滞在することが合理的に予想される人々も対象とすべきである。」

社会統合の目標とは、外国人労働者の底辺化の防止であり、「『ある程度の期間』滞在する『可能性』がある外国人」は全て対象としなければならない。

(イ) 外国人労働者受入れの社会的コスト
 外国人を受け入れる国は、その結果、様々な社会的コストを負担しなければならないという議論は、一面では真理をついているが、その反面、外国人も社会保険料を負担しているということや、GDPの増加に寄与しているという批判も存在する。
 また社会的コストの議論は、しばしば犯罪解釈にも及ぶ。「来日外国人」の犯罪発生率は日本人を上回る結果となっているが、犯罪統計というのは、犯罪の疑いがあると警察が判断する集団が摘発される為に偏りが生じ、外国人の犯罪率が高いということにはならないという批判もある。

(ウ) 雇用・失業情勢と外国人労働者
  労働省が毎年実施している「外国人雇用状況報告」によると、派遣・業務の請負の比率が年々上昇し、2000年には4割台に達したことが報告されている。不況の深刻化はブローカーの依存度を高める方向に作用しているのである。

(エ) 外国人の法的地位をめぐって
 外国人の社会統合に関して日本の法律の問題点を挙げる。
@ 日本の入管法、労働法令および社会保障法令は、外国人労働者の社会的統合の観点からは相互の連携が不十分である。
A 社会保障制度を管轄してきた厚生省は社会保障制度が外国人労働者を本来の主旨に従って加入させることが現実には困難であることを知りながら、現行制度の建前に固執し、制度を抜本的に改める考えはなかった。
B 雇用、賃金、労働条件を管轄してきた労働省は、雇用・労働関係法令の適用が外国人労働者に分かりにくく、外国人労働者に対する差別防止の法制度が不十分であると言う認識に乏しかった。

第5章 地域統合と国際的な人の移動

 現在世界的に地域統合あるいは地域経済の統合が進んでいる。ヨーロッパではEU、アジアではASEAN、北米ではNAFTAなどである。地域統合は人の移動に大きな影響を与えることになる。

(ア) 国際法及び経済論理上の地域統合
 現在、地域の経済統合の根拠となる国際法は、「貿易と関税に関する一般協定(GATT)」である。GATTの24条において「関税同盟や自由貿易地域」を経済統合と規定し、@実質的に全ての産品を網羅し、A完成までの期間が一定期間内であり、B域外貿易に関する関税や規則が実施以前よりも限定的でない、という条件を定めている。そして、最近では経済統合の概念がモノの貿易のみならず、サービスの貿易も含むものであるので、人の移動の自由化を認めることも条件の一部となってきている。

(イ) 欧・米・東アジア----域内移動の特徴
 東アジアにおいては、制度的な経済統合が遅れているものの、日本やNIES系企業の直接投資や技術移転による「事実上」の経済統合が進み、域内貿易率は4割に達している。

(ウ) 地域統合が人の移動に及ぼす影響
 東アジアにおける貿易の自由化によって、保護されていたためにそれまで明らかでなかった比較優位が急に顕在化して大規模な産業の再編成を生じさせている可能性が高い。その結果、今後10年ないし15年に渡って、域内産業の再編に伴う過剰労働者の発生が予想される。

第6章 東アジアの人材移動

 高度な人材の移動は、技術、知識及びノウハウの移転を担っている。この国際移動は、全く反対の国際移動である留学生や外国人研修生の移動と保管しあう関係にあり、両方向で、「技術移転のための国際移動」を形成している。

(ア) 技術移転としての人材移動
 だが、高度な人材の移動については、各国の出入国管理制度において、様々な制約が存在している。それは、外資系企業に対する経営現地化への要請や、労働市場における人材調達の可能性を考慮することが必要だからである。

(イ) 外国人研修・技能実習制度の試練
 高度な人材移動が実現するひとつの前提は、国際的に通用する人材を育成することである。日本の外国人研修生の受入れ状況を見ると、ドイツやイギリス、アメリカに比べて非常に多くの研修生及び技能実習生を受け入れている。この背景には、研修を生産的な活動であると考え、研修を就労とみなす「大陸欧州型」の研修制度を取り入れているからである。

(ウ) 「中間職種」----人材開発・還流モデル
 このように、日本は多くの研修生を受け入れているわけであるが、今後一層少子高齢化が進む中で日本は東アジアと日本国内の生産拠点における人材交流はますます深まっていくと考えられる。その中で注意すべき点は、日本と東アジアの交流は現在のように高等教育修了者に限定すべきではないということである。

終章  人材の集まる国に

 21世紀において日本が英知と活力に満ちた国となるためには、東アジアにおいて、イニシアティブを発揮していくべきである。そのために、少子高齢化に備えて長期的な視野に立って政策を打ち立てていかなければならない。ただ外国人労働者を受け入れていけばよいというのではなく、日本のあらゆる組織や期間で、アジアの人材を開発し、、その一部を還流してもらうという姿勢が必要である。


(コメント)
 今日本は世界でも有数の経済大国であり、最も豊かな国であると言えよう。しかし、今私たちは少子高齢化社会を迎えて、私たちの国の将来をしっかりと考えなければならない。「外国人労働者受入れ」という言葉を聞くと、条件反射のように「受入れ反対」と考えてしまう人もいるかもしれない。しかしながら、時代の流れも、日本の制度も、外国人労働者を受けれいれていく方向へ動いており、これからの日本を考えていく上で、外国人労働者の問題を避けていくことは出来ない。今後は実際に、数多く外国人労働者受入れ問題という言葉を耳にするようになっていくであろうと考えられる。
この本は、外国人労働者問題を実例と理論を交えながら、全体的に概観しているという点で一読しておいてよいと思う。


UP:20040126
労働  ◇2003年度受講者宛eMAILs  ◇BOOK
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