『レイバー・デバイド(中流崩壊)――労働市場の
二極分化がもたらす格差』
高山 与志子 20010209 日本経済新聞社,229p.
■高山 与志子 20010209 『レイバー・デバイド(中流崩壊)――労働市場の二極分化がもたらす格差』,日本経済新聞社,229p.
ISBN-10: 4532148847 ISBN-13: 978-4532148843 1680 [amazon]
■内容(「BOOK」データベースより)
IT時代の情報格差は労働市場にも大きな変化をもたらし、日本の中流層は、いままさに少数の優位者とそれ以外の多数とに二極分化しつつある。この現象の先
進国アメリカで、実際何が起こったかを検証し、明日のビジネスマンの雇用環境を考える。
内容(「MARC」データベースより)
IT時代の情報格差は労働市場にも大きな変化をもたらし、日本の中流層は、今まさに少数の優位者とそれ以外の多数とに二極分化しつつある。この現象の先進
国・アメリカの事例を検証し、明日のビジネスマンの雇用環境を考える。
■著者紹介
高山与志子[タカヤマヨシコ]
東京大学経済学部卒業。同大大学院人文社会系研究科(社会情報学専攻)修士号取得。エール大学経営大学院修了、MBA取得。メリルリンチ証券ニューヨーク
本社投資銀行部門に入社後、ニューヨーク、ロンドン、東京市場でコーポレート・ファイナンス、M&A業務に携わる。現在米系コンサルティング会社で国内外
企業のIR活動のコンサルティングを行う
■目次
序章 「アメリカ的雇用」の神話と現実
1 レイオフは一時帰休?
2 安定雇用を望む人々
3 学歴主義
4 「ハイテク=高収入」の幻想
5 ハイリスク・ローリターン社会
第I部 二極分化したアメリカの労働市場
第1章 労働市場の構造的変化
1 解雇されるホワイトカラー
2 非正社員の増加
第2章 アメリカが抱える二つの問題
1 賃金格差の拡大
2 ジョブ・セキュリティの低下
第II部 情報化は労働市場をどう変えたか
第3章 ITの発展と労働市場の変化
1 情報化が雇用に与える影響
2 IT生産産業における例
3 IT多使用産業における例
第4章 求められるスキルと賃金格差の拡大
1 求められるスキルの変化
2 情報化と賃金格差の拡大
3 情報化による企業組織の変化
4 情報化と日本の雇用
第III部 企業統治の変化と雇用への影響
第5章 コーポレート・ガバナンスと株主資本主義の発展
1 コーポレート・ガバナンスとは何か
2 機関投資家と経営陣の攻防
3 投資家のコーポレート・ガバナンスへの関与
4 経営陣と市場との対話----IR活動の活発化
第6章 市場が企業経営を変えた
1 市場志向型経営への転換
2 ホワイトカラーの給与体系
3 株式市場の反応
第7章 日本における市場圧力の増大と雇用の変化
1 資本の国際化と市場圧力の増大
2 企業経営の変化
3 変わる労働市場
おわりに
主要参考文献
■引用
「情報化が進むにつれ、高いスキルを持つ労働者への需要が高まっていった。高いスキルを持つと推定される高学歴労働者に対する需要の変化とコンピューター
技術の普及との関連を、一九四〇年から九五年にわたって分析した研究によれば、大卒(高スキルを持つ労働者)に対する需要は、四〇−七〇年より七〇−九五
年のほうがはるかに高く、七〇年以後の大卒に対する需要の伸びの三〇−五〇%がコンピューターの普及によって引き起こされたものだという。表4−3のよう
に、大卒の労働者が職場でコンピューターを使用する割合は九三年には七〇%を超えている。この大卒への需要の高まりは、次に述べるように、学歴による賃金
格差につながっていく。」(p.92-93)
「九九年九月に発表された、通産省とアンダーセン・コンサルティング社との共同調査報告は、情報化が今後五年間の雇用に与える影響を予測している(図4−
1)。その予測によると、情報化とその他の経済的要因により、当初四年間は雇用の純減が続き、最後の二〇〇四年に十三万人の純増に転じる。五年間の合計で
の雇用創出は三六七万人、雇用削減は三五四万人である。そのうち、新規事業などの情報化による雇用創出が二四九万人、社内業務効率化や職務内容の変化など
の情報化による雇用削減が一六三万人となっている。
情報化要因のみに限定すれば、五年間トータルで八六万人の雇用拡大である。もちろん、この数字は、情報化による経営改革の進展度合いと、新しい産業の進
捗状況に大きく左右されることになる。
この調査では、今後数年間、アメリカのジョブレス・リカバリーをなぞるような状況が想定されている。おそらく、多くの企業にとって、このような雇用削減
を行うには、かなりの組織的抵抗があるだろう。しかし、すでに進展している情報化と市場の競争激化に加え、現在、アメリカと同じように株式市場と投資家か
らの圧力が急速に高まりつつある。ドラスティックな変革は避けられないだろう。」(p.112-114)
「経済同友会が一九九九年二月に発表した『第一四回企業白書』では、資本効率を重視した戦略的経営への転換と、成果・業績主義に基づく経営者評価、ホワイ
トカラーの活性化による競争力強化が打ち出されている。
この白書には、経営者が今後重視すべき業績評価に関するアンケート調査の結果が記されているが、一二〇〇社からの回答の集計として、指標の上位五位に、
(1)経常利益、(2)ROE、(3)コスト削減、(4)純利益、(5)営業利益、があげられている。これは、一見、利益の絶対値を追う従来からの経営方
針と比べてあまり変化がないように見える。しかし、今後重視すべき指標と現在採用している指標とのポイント差を比較すると、表7−1に明らかなように、
ROE、キャッシュフロー、ROA、EVA、EPSが上昇し、逆に、売上高、経常利益、マーケットシェアが減少している。つまり、株式資本と資産を効率的
に使う経営に大きく転換したことが示されているのである。
経営上重視すべきステークホルダーについても、変化が見られる。表7−2に見られているように、株主は〇.五ポイント上昇し、従業員は逆に〇.三ポイン
ト減少している。」(p.192-193)
「また、前述の経済同友会の調査によると、経営陣が今後重視すべき人事戦略として、(1)経営戦略と人事戦略のリンケージ、(2)人員のスリム化、(3)
成果主義・業績主義を、上位項目にあげている。雇用の安定は、一六ある項目のうち下から三番目であった。従来の雇用保証を重視する経営からの転換がうかが
える。
今後日本においては、企業の内部労働市場を外部から遮断して、自社内のルールだけで従業員の給与を決めることは、ますます困難になっていくだろう。各従
業員の給与は、二つの外部市場、すなわち、外部労働市場と株式市場の影響を受けざるを得なくなる。企業全体では、常に投下する資本以上のリターンを上げる
よう株主から期待されている一方、従業員一人ひとりは、その給与にふさわしい業績を上げることを要求されるのである。」(p.198)
「日本の銀行業界は、さまざまな規制によって長い間保護されていたため、つい最近まで独自の雇用システムを維持しつづけることができた。行員全体の給与が
高水準に維持され、行員間の給与格差もアメリカと比べてはるかに小さいものであった。そして業務内容にかかわらず一律に高学歴な人材を採用し配置してき
た。前述の「日本経済の効率性と回復策に関する研究会」の報告書では、「日本の銀行員の多くは、業務に比して過剰品質の労働力である」という指摘がなされ
ている。
現在、成果主義に基づく給与体系を導入し、銀行の核になるような優れた人材に対しては、高待遇を与えることによって引き止めようとする動きが見られる。
しかし、そのような優れた人材の数は多くない。数万人の行員をかかえる都銀レベルの銀行の場合、そのような高待遇を期待できる行員の数はせいぜい一〇〇人
から二〇〇人程度、つまり全体の一%足らずであると推測されている。全体としての人件費は減少傾向にあるため、ほとんどの行員が大幅な賃金低下を余儀なく
されることになるだろう。」(p.208)
作成:橋口 昌治(立命館大学大学院先端総合
学術研究科)