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『脳死と臓器移植の医療人類学』

Lock,Margaret〔ロック,マーガレット〕2001 Twice Dead: Organ Transplants and the Reinvention of Death,Univerity of California Press.
=20040615 坂川 雅子 訳,みすず書房,332+vi+53p.


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■Lock,Margaret〔ロック,マーガレット〕2001 Twice Dead: Organ Transplants and the Reinvention of Death,Univerity of California Press.=20040615 坂川 雅子 訳,『脳死と臓器移植の医療人類学』みすず書房,332+vi+53p. ISBN-10:4622070839 \5000 [amazon][kinokuniya]※ ma ot-bg

■内容

出版社からの紹介(本書背表紙より)
「『Twice Dead(本書原題)』はTwice Read(再読)されるべき本である。ロックは、日本と北米における死生観や人体に関する考え方を文化人類学的観点から考察する。説得力に満ちた筆致による本書は、科学・工学・医学の研究者、人類学者、そして「人の死とは何か」ということを考えるすべての人にとって、なくてなならない本になるだろう。読者は、多くの話に胸を打たれると同時に、解決のつかないジレンマを突きつけられる。そして、死が生と同様に一様なものではなく、状況によって左右されるものだということを心に刻みつけられるのである。」(ダナ・ハラウェイ)
脳死を人間の死とすることには、様々な医療・倫理上の問題が存在する。これは、死の定義、すなわち人間の生の定義の根幹に関わることといえよう。本書は医療人類学の手法で、死の意味、死の位置づけに多様な考察を試みた力作である。著者は、日本と北米の風習や死生観を比較考察しつつ、脳死・臓器移植を重層的に論じている。また各章末には、著者自身が取材した体験者(家族)や関係者の生々しい心情の吐露、祈りのような声が記録されており、リアルな問題的となっている」

■目次
はじめに
序章 事故死
外傷   臓器摘出   贈り物   死の影
第一章 不鮮明な境界と不確実なモラル
    蘇生
  第二章 最先端技術
    すんでのところで
第三章 人はいつ死ぬのか
    はやとちり
第四章 統一化への努力
    悲劇
第五章 日本と脳死問題
    強引な臓器刈り
第六章 他者としての科学技術――日本の近代性と科学技術
    脳死した母親からの誕生
第七章 行き詰まりの打開――脳死論争の暫定的解決
    日本のドナーカード
第八章 社会的な死と葬送儀礼
    心を不安にする身体反応 一年経って
第九章 「人格」の死後も肉体が行き続ける場合
    移植医の意見
第十章 人格が留まっている場合
    音楽による克服
第十一章 超越する肉体――キリスト教の伝統と臓器移植
     裁判
第十二章 人間臓器の社会的生命
     頼れる奴   知的障害者の移植
第十三章 臓器部族と新しいドナー候補
     疑わしい死の定義
終わりに
訳者あとがき
参考文献
索引

■書評・紹介
向井承子・ノンフィクション作家(京都新聞 20040829 朝刊)  十数年もの長い論争を経て、臓器移植法が成立したのは1997年。それ以後、同法に基づく脳死者からの臓器提供は今年7月の時点で30例に過ぎない。
 脳死移植は、早くから受容した米国ではすでに日常医療である。日本人のためらいは単なる「遅れ」だと、関係者からは指摘されてきた。だが、日本の医学水準は低いものではない。教育医水準、先端技術の日常的な受容…。どれひとつとっても、欧米先進国と遜色はない。
 ではなぜ、日本人は脳死移植をためらい続けるのか。文化人類学者として日本と北米の比較文化研究に取り組んできた著者は、10年ほど前の日本滞在中に、広範囲の国民を巻き込む激しい脳死論争に遭遇。死生観の異なる両地域での、「新しい死」への向き合い方の違いに強い関心を抱く。
 欧米では、脳死を人の死とみなすことが「このように注目されたこと」はなかった。メディアは臓器不足のみを問題視。脳死議論も「ごくわずかな法律家や知識人だけ」で論じられた。そして「命の贈り物」のような「魅惑的な言葉」が生み出され、「臓器移植はどこから得られるのか」という現実に人びとは「目を向けないようにしてきた」。
 米国人は日本人の葛藤を「文化的特殊性」と捉えがちである。だが著者は、それが「偏見」だったと悟る。日本人の論争は、死生観の相違よりも、「新しい死」がつきつける多様な社会的・倫理的課題の表れだったのである。
 本書は、文化人類学の手法で日米両国の比較考察を試みる。10年余をかけて採集された膨大な日本人の言葉の記録が、編さん方法も含めて興味深い。かつての論争の熱気が風化しつつあるいま、本書は日本社会にとって貴重な記録といえよう。
 ただ、日本人の死生観の根底にすむ古来からの自然観を国粋主義と関連づけた点など、違和感を覚えるところもある。このテーマで小松美彦、森岡正博らが書いた近著との併読も勧めたい。

*作成:近藤 宏 更新: 一宮 茂子
UP:20080830  REV: 20081010
医療人類学  ◇臓器移植/脳死・関連文献  ◇身体×世界:関連書籍 2000-2004  ◇BOOK
 
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