■Lomborg, Bjorn 2001 The Skeptical Environmentalist: Measuring the Real State of the World, Cambridge University Press.
= 20030610 山形 浩生訳 『環境危機をあおってはいけない――地球環境のホントの実態』, 文藝春秋, 671p. ISBN-10: 4163650806 ISBN-13: 978-4163650807 /4725円 [amazon]
■書評・言及
◆ 「脱・恫喝型エコロジストのすすめ:これぞ真の「地球白書」なり」(雑誌『CUT』書評、評者:山形 浩生)
◆The Skeptical Environmentalist: Measuring the Real State of the World 査読評価書
◆誇大宣伝に異議唱える
人類は地球環境を破壊し続けており、未来は今よりずっと悲惨なものになるだろう、という定番話を、私たちはずっと信じ込まされてきた。たとえば、世界の森林は驚くべき速さで消失しており、毎年4万種の生物種が絶滅している。あるいは、エネルギーは近い将来枯渇し、水は足りなくなって、水をめぐる紛争が激しくなる。酸性雨で森は死に、環境中に放出される化学物質はガンの発生率を増大させるだろう。
最大の定番話は、二酸化炭素の人為的増大による地球温暖化で、二酸化炭素の削減努力を今すぐに始めなければ、異常気象が頻発し、海面が上昇し、農業生産性はすさまじく低下して大規模な飢饉(ききん)になるだろう、と私たちは耳にたこができるほど聞かされてきた。
本書はそういった定番話の多くが、実はデータを恣意(しい)的に操作して作られた誇大宣伝であることを明らかにした労作である。著者はデンマークの統計学者で、昔はグリーンピースの支持者だったという。我々の環境に対する理解は先入観とダメな統計に基づいている、とのアメリカの経済学者サイモンの説を論駁(ろんばく)しようと思って、環境関係の統計を徹底的に調べた結果、むしろサイモンの主張の方が正しいことを知ってびっくりしたと告白している。
大部な本で読み通すのは大変だけれども、多くの章の終わりに結論が書いてあるので、そこだけでも読んでほしい。著者はもちろん、環境問題が存在しないと言っているわけでも、何もしないでよいと主張しているわけでもない。環境みたいな大事な問題の議論が、真実じゃなくて神話に基づいてなされるのはバカげていると主張しているだけだ。世界には解決すべき課題が沢山あり、コストと便益のバランスを考えない環境政策は愚かである。二酸化炭素の削減に膨大な金を使うより、同じ資金を第三世界に向けた方が有効だ、との主張には説得力がある。(読売新聞書評 2003.08.24、評者:池田清彦(山梨大学教授))