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『現代日本の都市下層』

小玉徹・中村健吾・都留民子・平川茂(編著) 20030210 法律文化社,p.361
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■青木秀男20001115『現代日本の都市下層――寄せ場と野宿者と外国人労働者』明石書店,p.305,¥5,040(税込),ISBN-10: 4750313475 ISBN-13: 978-4750313474 [amazon][kinokuniya]

■内容(「MARC」データベースより)
 日本の都市下層-寄せ場に繋がる日雇労働者、野宿者、外国人労働者に対象を絞り、都市下層の今日的な変容を分析する。都市下層の存在様式、都市下層の意 味 世界、世界都市と都市底辺の3部で構成。

■目次

序論
第1章 都市下層研究の枠組み
 第1節 日本の都市下層
 第2節 都市下層研究の枠組み

第T部 都市下層の存在様式
第2章 都市下層と釜ヶ崎
 第1節 寄せ場とその変容
 第2節 基底的な日雇労働市場
 第3節 外縁的な日雇労働市場

第3章 都市下層と寿町
 第1節 寿町の形成
 第2節 日雇労働者
 第3節 野宿者
 第4節 外国人労働者
 第5節 変わる寿町

第4章 都市下層と野宿者
 第1節 見える野宿者
 第2節 野宿者の階層
 第3節 野宿者の労働
 第4節 野宿者の概念

第5章 都市下層と外国人労働者
 第1節 都市下層への参入
 第2節 外国人労働者と建設業
 第3節 在日コリアンの労働
 第4節 外国人の階層化
 第5節 雇用と労働の階層化
 第6節 釜ヶ崎・猪飼野・ミナミ

第U部 都市下層の意味世界
第6章 都市下層の研究方法
 第1節 都市下層の研究方法
 第2節 寄せ場と調査
 第3節 生活史法と人間関係
 第4節 生活史法と類型
 第5節 生活史法の可能性

第7章 寄せ場の差別と意味
 第1節 寄せ場労働者の差別
 第2節 寄せ場労働者の意味世界

第8章 越冬闘争の意味世界
 第1節 越冬闘争の舞台
 第2節 労働運動と越冬闘争
 第3節 越冬闘争の展開
 第4節 儀礼としての越冬闘争
 第5節 越冬闘争・その後

第V部 世界都市と都市周辺
補論1 世界都市とアンダークラス
 第1節 世界都市の出現
 第2節 アンダークラスの形成

補論2 マニラの都市貧困層
 第1節 都市貧困層の研究
 第2節 都市貧困層の定義
 第3節 都市貧困層の就労
 第4節 都市貧困者の居住
 第5節 都市貧困層と政治

終論
索引

■補論1 世界都市とアンダークラス

「ところがそのような大方の期待とは裏腹に,1970年代に入り,アメリカ北東部および北中部の大都市圏の産業都市のインナー・シティにおいて,黒人集住 地区の社会的混乱がだれの目にも深刻なものとなっていった。インナー・シティで,最下層の黒人たちの失業,貧困,未就学・中途退学,婚外子出産,薬物依 存,犯罪,福祉依存などの社会問題が増加していった。他方,中流階級や労働者階級の黒人たちは,荒廃するインナー・シティから相次いで転出し,市外住宅地 や郊外に移っていった。それとともに,彼・彼女らを顧客とし,彼・彼女らによって運営されていた学校,教会,病院,店舗などのコミュニティ施設が,機能を 停止していった。こうしてインナー・シティには,そこを脱出する術のない最下層の黒人と,荒んだコミュニティの景観だけが残されていった。アメリカは, 今,最下層の黒人の社会的混乱と,それとともに,黒人と他の人種・民族集団との葛藤と反目という社会的な分裂に苦悩している。この,インナー・シティに あって「もっとも不利な立場に置かれた」最下層の黒人こそ,〈アンダークラス〉(underclass)と呼ばれる人びとである。」(p.254)

「(…)今,アンダークラスの歴史的・社会的形成をめぐって,あれこれの言説がたがいに拮抗して,百花斉放の態にある。そのなかで,アンダークラスの社会 的形成についていち早く明晰かつ大胆な説明を行なったのが,シカゴ大学の(黒人)社会学者ウィルソンであった。1978年,彼は,『人種の意味の後退』 [Wilson, W.J. : 1978]を著した。ウィルソンはその著書で,現代アメリカの黒人問題の認識の変更,すなわち「人種」から「階級」への視座の転換の必要を説いた。次いで 9年後,『本当に不利な立場に置かれた人びと』[Wilson, W.J. : 1987]を著した。ウィルソンはその著書で,インナー・シティに集住し,社会的混乱にあえぐ最下層の黒人をアンダークラスと呼び,社会的混乱の原因を分 析して,採るべき社会政策の戦略を提起した。これが,アンダークラス論争の発端となった。」(p.254)

「ウィルソンの主張をめぐる論争は,2点に収斂する。一つは,アンダークラスの形成の原因は人種(差別)か階級(経済)かというものである。ウィルソン は,アンダークラスの形成の原因を「失業」から説明し,人種の役割の後退を説いた。二つは,アンダークラスの形成の原因は,文化(規範)か経済(環境)か というものである。ウィルソンは,経済の立場に立ち,下層黒人の文化や行動様式は経済の所産であるとみなした。……ところがその後1990年代に入って, ウィルソンは,インナー・シティの住民に対する量的・質的な調査研究を経て,それまでの論調に修正を加えた。すなわち彼は,階級によるアンダークラスの説 明の「一面性」を反省し,黒人の失業は白人雇主の差別によるところも大きいとなした。また経済環境によるアンダークラスの説明の「不十分」を補い,貧困や 婚外子出生は個人の行動規範の側にも責任の一端があるとなした。そしてウィルソンは,階級要因や経済要因と合わせて,人種要因や文化要因をも組み込んだ包 括的な分析枠組みが必要であるとした。このようなウィルソンの修正に,とくに理論的な独創性があるとは思わない。しかし,このような展開はウィルソンの 「転向」ではないかと,ウィルソンは今,リベラル派,保守派の双方から新たな批判の俎上に乗せられつつある。(…)」(p.260-261)

「このような都市下層にアメリカのアンダークラス概念を適用することで,都市下層の現代日本的な特徴を分析し,説明することは可能だろうか。もとより,都 市下層とアンダークラスは,それぞれが置かれた都市底辺の現実が異なる。都市下層では,アンダークラスほどに人種・民族問題としての側面が大きくない。都 市下層では,アンダークラスほどに政府・自治体による福祉政策の所産という側面が大きくない。他方,都市下層もアンダークラスも,脱工業化という同時代の 大都市に進行した産業構造と労働市場の変容のなか,収奪され,差別されて,インナー・シティ空間に凝離された最下層の階級として生まれた。」 (p.262)


UP:200707016
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