HOME > BOOK > 患者の権利 >

『アメリカ医療の光と影――医療過誤防止からマネジドケアまで』

李 啓充 20001015 医学書院,262p.

Tweet
last update:20160926

このHP経由で購入すると寄付されます


李 啓充(Lee, Kaechoong) 20001015 『アメリカ医療の光と影――医療過誤防止からマネジドケアまで』,医学書院,262p.  ISBN-10: 4260138707 ISBN-13: 978-4260138703 2000+税  [amazon][kinokuniya]

■内容

なぜ医療過誤は起こるのか。どうしてマネジドケアは失敗したのか。医療を市場原理に委ねた時、何が起こるのか。 苦闘する米国医療の現況から現代医療の根本問題に迫り、21世紀医療の原則を示す。

■著者略歴

1980年京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院でジュニアレジデントとして臨床研修を終えた後、京都大学大学院医学研究科で癌研究に従事。 1990年よりマサチューセッツ総合病院(ハーバード大学医学部)で骨代謝研究に従事し、現在ハーバード大学医学部助教授。 1996年より米国医療に関する執筆活動を開始、そのテーマは歴史物から最新の医療事情を紹介するものまで幅広い。 特に“医療過誤防止”“マネジドケア”等を取り上げた著作では、現代医療の根本問題に鋭く迫り、日本の読者に警鐘を鳴らし続けている。 本書以外の著書に「市場原理に揺れるアメリカの医療」、訳書に「インフォームド・コンセント」。趣味は大リーグ、特にレッドソックスの歴史の研究。

■目次

I 医療過誤防止事始メ
プロローグ
医療過誤の歴史
〈症例〉ベン・コルブ、七歳、男性
〈症例〉ホセ・マルティネス、二か月、男性
根本原因と再発防止策
医療事故頻度についてのリーブらの研究
〈症例〉ロランド・サンチェス、五一歳、外科医
部位取り違え手術の防止
JCAHOの警護的事例制度
医療過誤防止の国家的な対策
医療過誤防止の歴史を拓いたアーチスト・コドマン
エピローグ
〈挿話〉大統領の建築家――ブルフィンチ棟とエーテル・ドーム

II DRG/PPS導入が米国医療に与えたインパクト
DRG/PPS導入――止めどない医療インフレを抑制するために
医療警察PRO
「非医療地帯」の出現
DRG/PPS導入がもたらしたもの
〈挿話〉大統領の病状秘匿

III マネジドケアの失敗
マネジドケアへの失望
市場原理の躓き
マネジドケアと無保険者問題
追及されるマネジドケアの違法性
マネジドケアとEBM
医療反革命
〈挿話〉第四三代大統領ブッシュの恩人

IV マネジドケアと米国薬剤マーケット
支払い側による薬剤費削減努力
加熱する処方薬広告合戦
医師たちの新たな難題
電脳薬局
薬剤費負担増に喘ぐ消費者
栄養補助品と代替医療
高齢者の薬剤費負担をめぐる攻防
〈挿話〉大統領夫人の選択

V 米国医療周辺事情
市場原理に揺れ動く米国産科医療
マーク・マグワイアとプラセボー効果
〈挿話〉大統領が受けた最新医療

VI 患者アドボケイト
患者アドボカシー室
忘れられなかったもの
月二〇〇件の苦情に対応

なぜ、患者アドボケイトなのか
患者代理人制度
患者アドボケイトが大流行
「誰が患者を攻撃しているんだ?」

権力濫用を防ぐシステム
患者と政策決定
学習する患者たち

あとがき

■引用

患者アドボカシー室

忘れられなかったもの
 日本の読者には「アドボカシー(advocacy)」という言葉は聞き慣れない言葉だろうが、「ある人の味方となってその権利や利益を守るために闘うこと」という意味である。 一方、「アドボケイト(advocate)」という言葉は、味方となって闘う「人」を指す。 用法例を挙げるならば、「医師・看護師は患者のアドボケイトたる責務を一時たりとも忘れてはならない」などと使われるわけである。(p.230)

月二〇〇件の苦情に対応
 MGH〔マサチューセッツ総合病院――引用者注〕の患者アドボカシー室では室長サリー・ミラー女史の下で三人の専従スタッフが患者の苦情処理に当たっている。 MGHでは正式の部署として病院の管理機構に組み込まれているが、 他の病院では「患者代理人(patient representative)」という役名で、看護部のスタッフが本来の業務の傍らに兼務することが多いという。(p.231)
TOP

なぜ、患者アドボケイトなのか

患者代理人制度
 アメリカ病院協会(AHA)から「患者のために―医療における消費者アドボカシー」という本が出ているが、これによれば、患者代理人制度が誕生したのは、 一九六六年、ニューヨークのマウント・サイナイ病院であったという。 公民権運動に象徴されるように、六〇年代に入ってからの「人権」意識の高まりがその背景にあった。 その後、患者代理人制度を置く病院の割合は増え続け、AHAの下部組織として全米消費者担当者・患者代理人協会が創立されたのは一九七二年のことである。 患者代理人制度を採用している病院の割合は一九七二年には約一〇%であったが、現在では五〇%以上の病院でこの制度が取り入れられている。
 また、「医療施設評価合同委員会(JCAHO)」は、政府管掌老人医療保険メディケアの指定医療施設を審査・格付けする機関であるが、 「医療施設が患者の権利を保証する体制を整えているか」ということが審査の重要項目の一つとなっている。 病院収入の三〇−四〇%を占めるメディケア指>234>定を取り消されたら病院にとっては死活問題であり、患者代理人制度を設けていればJCAHOの審査にも通りやすいのである。
 病院側にとって患者代理人制度を設ける大義名分は、患者の人権を守り、患者からのフィードバックを臨床サービスの改善に役立てるということだが、 実際には医療訴訟の防止効果も期待されている。患者の不満・苦情に対して早い段階でその対処に努めれば、 問題がこじれて医療訴訟まで発展することを防ぐことができるというわけである。MGH患者アドボカシー室長のサリー・ミラー女史も、 「データがあるわけではないが、アドボカシー室がなければ、MGHを訴える医療訴訟の数はもっと多かっただろう」と認める。(pp.233-234)

患者アドボケイトが大流行
 本音で言っているのか建て前だけで言っているのかはともかく、米国では医療関係者が「患者アドボケイト」という言葉を使うことが大流行りである。 マネジドケアが隆盛をふるい、保険会社が支払い者として医師の裁量権に干渉する米国の医療においては、 「患者アドボケイト」という言葉は、医療サービス供給側にとって保険会社に対抗するための錦の御旗として使われている傾向がある。(p.234)
TOP

■関連書籍

■書評・紹介

■言及



*作成:竹川 慎吾 *増補:北村 健太郎
UP:20110628 REV:20160926
患者の権利  ◇医療経済学  ◇生命倫理  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)