『臨床社会学のすすめ』
大村 英昭・野口 裕二 編 20000920 有斐閣,252p.
■大村 英昭・野口 裕二 編 20000920 『臨床社会学のすすめ』,有斐閣,252p. ISBN:4-641-12102-8 1785 [amazon]/[kinokuniya]/[kinokuniya]/[bk1] ※
□内容説明[bk1]
社会学は医療、福祉、教育などの「臨床」と呼ばれる現場でどう役に立つことができるのか。「臨床」現場で蓄積されてきた理論や実践から何を学びとり、活性化しようとしているのか。社会学への新しい試みとは。〈ソフトカバー〉
□著者紹介[bk1]
〈大村〉1942年生まれ。関西学院大学社会学部教授。著書に「逸脱の社会学」など。
□著者紹介[bk1]
〈野口〉1955年生まれ。東京学芸大学教育学部教授。著書に「アルコホリズムの社会学」など。
大村 英昭 20000920 「臨床社会学とは何か」
大村・野口編[20000920:001-012]
野口 裕二 20000920 「サイコセラピーの臨床社会学」
大村・野口編[20000920:013-035]
奥村 隆 20000920 「「存在証明」の臨床社会学」
大村・野口編[20000920:038-062]
樫村 愛子 20000920 「「自己啓発セミナー」の臨床社会学」
大村・野口編[20000920:065-092]
勝又 正直 20000920 「看護に学ぶ臨床社会学」
大村・野口編[20000920:095-120]
山田 昌弘 20000920 「「問題家族」の臨床社会学」
大村・野口編[20000920:123-147]
稲垣 恭子 20000920 「クラスルームの臨床社会学」
大村・野口編[20000920:149-169]
畠中 宗一 20000920 「保育政策の臨床社会学」
大村・野口編[20000920:172-193]
井上 眞理子 20000920 「政策現場の臨床社会学」
大村・野口編[20000920:196-218]
大村 英昭 20000920 「「死ねない時代」の臨床社会学」
大村・野口編[20000920:221-245]
◆有斐閣のHPより
臨床社会学のすすめ
大村英昭・野口裕二 編
定価(本体1,700円+税)
ISBN(4-641-12102-8)
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常識を越える意外性、視点の移動の鮮やかさと発想の転換の鋭さを魅力とする社会学も、解説が見事の割には処方箋が凡庸と批判されることがあります。社会学固有の魅力を失うことなく、医療、福祉、教育などの「臨床」と呼ばれる現場で、社会学はどう「役に立つ」ことができるのか。あるいは「役に立つ」とはどういうことか。そして、社会学は、「臨床」現場で蓄積されてきた理論や実践から何を学びとり、活性化しようとしているのか。「臨床」にこだわる9人の執筆者がアピールする、社会学の新しい試みです。
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執筆者紹介
(執筆順,*は編者)
*大村英昭 おおむら えいしょう 〔序章,第9章〕
1942年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
現在 関西学院大学社会学部教授
主著 『逸脱の社会学−−烙印の構図とアノミー』(共著)新曜社,1979年,
『新版 非行の社会学』世界思想社,1989年,
『現代社会と宗教−−宗教意識の変容』岩波書店,1966年。
*野口裕二 のぐち ゆうじ 〔第1章〕
1955年生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
現在 東京学芸大学教育学部教授
主著 『アルコホリズムの社会学−−アディクションと近代』日本評論社,1996年,
『ナラティヴ・セラピーの世界』(共編著)日本評論社,1999年。
奥村 隆 おくむら たかし 〔第2章〕
1961年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学
現在 千葉大学文学部助教授
主著 『他者といる技法−−コミュニケーションの社会学』日本評論社,1998年,
『社会学になにができるか』(編著)八千代出版,1997年。
樫村愛子 かしむら あいこ 〔第3章〕
1958年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学
現在 愛知大学文学部専任講師
主著 『ラカン派社会学入門−−現代社会の危機における臨床社会学』世織書房,1997年,
『岩波講座現代社会学 第3巻 他者・関係・コミュニケーション』(共著)岩波書店,1995年。
勝又正直 かつまた まさなお 〔第4章〕
1956年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学
現在 名古屋市立大学看護学部助教授
主著 『はじめての看護理論−−現代社会の危機における臨床社会学』日総研出版,1995年,
『ナースのための社会学入門』医学書院,1999年。
山田昌弘 やまだ まさひろ 〔第5章〕
1957年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学
現在 東京学芸大学教育学部助教授
主著 『パラサイト・シングルの時代』筑摩書房,1999年,
『家族のリストラクチュアリング』新曜社,1999年。
稲垣恭子 いながき きょうこ 〔第6章〕
1956年生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学
現在 京都大学大学院教育学研究科助教授
主著 ボール,S.J.『フーコーと教育』(共訳)勁草書房,1998年,
『教育現象の社会学』(共著)世界思想社,1995年。
畠中宗一 はたなか むねかず 〔第7章〕
1951年生まれ。筑波大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学
現在 大阪市立大学大学院生活科学研究科教授
主著 『子ども家族支援の社会学』世界思想社,2000年,
『チャイルドマインディング−−もうひとつの子ども家族支援システム』高文堂出版社,1997年。
井上眞理子 いのうえ まりこ 〔第8章〕
1947年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
現在 京都女子大学現代社会学部教授
主著 『ファミリズムの再発見』(共編著)世界思想社,1995年,
『講座社会学 第10巻 逸脱』(共著)東京大学出版会,1999年。
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はしがき
社会学を学んでいて、「なるほど、そういう見方もあったのか」、「目から鱗が落ちた」という経験をした人は少なくないはずです。「当たり前のこと」を「当たり前でないこと」として認識させてくれる意外性、視点の移動と発想の転換の鮮やかさと鋭さ、社会学の魅力の1つは確かにこういう点にあるのだと思います。
しかし一方で、次のような不満もよく耳にします。「それで結局、どうすればいいんだ」、「結局、他人事じゃないのか」といったものです。解説ばかりしていて具体的処方箋がなかなか出てこない、あるいは、解説が見事な割には処方箋が凡庸である、あるいは、解説の仕方が傍観者的で当事者にはどこか冷たく響くなど、要するに「結局、肝心なところで役に立たないのではないか」という不満も聞こえてきます。
それではどうしたらよいのか、社会学の固有の魅力を失うことなく役に立つようにするにはどうしたらよいのか、こうした問題意識から出発するのが臨床社会学です。社会学は役に立つか、役に立つとすればどのように役に立つのか、そもそも役に立つとはどういうことか、これらの問いをつねに問い続けるのが臨床社会学です。
それではなぜ、「臨床」なのでしょうか。ここで、「臨床」には2つの意味がこめられています。1つは、臨床医学や臨床心理学と同様に、社会学の理論や知見を現場に応用するという意味での「臨床」です。応用社会学としての臨床社会学と言ってもいいでしょう。社会学を「机上の空論」ではなしに現場でどう生かすことができるのか、どうしたら現場で役に立つ社会学にできるのかを、さまざまな現場に即して具体的かつ実践的に考えるという方向性です。
もう1つは、「臨床」という現場やそこで行われている実践を研究対象とするという意味です。医療、福祉、教育などの「臨床」と呼ばれる領域は、具体的な誰かの役に立つことを目標にして成り立っている実践領域です。そうした「臨床」現場でこれまでに蓄積されてきた「役立ち方」の理論や実践を具体的かつ批判的に検討することによって、社会学は多くを学ぶことができるはずです。
こうした2つの問題意識に導かれて、臨床社会学は出発します。本書の各章に収められた論考は、それぞれ2つの「臨床」のどちらに比重を置くかに違いはありますが、どれも2つの「臨床」を意識して書かれています。「臨床」という言葉に託す執筆者それぞれの思いを味わってみてください。そこに臨床社会学の豊かな世界が開けてくるはずです。また、臨床社会学との出会いは、社会学とは何か、あるいは、社会学はどうあるべきなのかを考えるうえでも多くのヒントを与えてくれるはずです。
本書の構想は、日本社会学会で1998年と1999年の2年にわたって企画されたテーマセッション「臨床社会学の構想」がもとになっています。本書はそのなかの基礎的な部分に重点を置いて編集されました。臨床現場での具体的実践に焦点をあてた続編(『臨床社会学の実践』有斐閣刊)も追って刊行の予定です。最後になりましたが、臨床社会学という新しい試みにいちはやく理解を示され、数々の助言とともに本書の刊行までお世話いただいた有斐閣編集部の池一氏と松井智恵子氏にこころから感謝いたします。
2000年7月
編 者
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目次
序 章 臨床社会学とは何か (大村英昭)
身につまされるように/サイエンスかアートか/
臨床アートの衰退/臨床アートとの関係/
異文化としての社会学/臨床社会学の2つのタイプ/
結びにかえて
第1章 サイコセラピーの臨床社会学 (野口裕二)
1 サイコセラピーとは
2 現実の心理学化
心理学の現実化/アダルト・チルドレン現象
3 セラピー的分化
表現的個人主義/セラピー的分化が生み出す社会
4 親密性の変容
アディクションと共依存/「親密な関係性」という道徳
5 セラピーの変貌−−ナラティヴ・セラピー
物語としての自己/脱心理学化
6 臨床社会学のまなざし
第2章 「存在証明」の臨床社会学 (奥村 隆)
1 はじめに−−「存在証明」の渦巻き
「私には価値がある」ことの証明/この章のねらい
2 不安・コミュニケーション・存在証明
「他者」からの承認/無効化とダブルバインド/
第3のコミュニケーション/「望ましい私」を守るために
3 「思いやり」と「かげぐち」をめぐって
もっと平和な日常/「思いやり」とは何か/
「制度」としての思いやり/「思いやり」社会の2つの難問/
「かげぐち」の領域
4 おわりに−−「臨床社会学」と「存在証明」
「存在証明」は「臨床社会学」に抵抗する/「幻滅」を経由すること/
もう1つの「渦巻き」
第3章 「自己啓発セミナー」の臨床社会学 (樫村愛子)
1 『エヴァンゲリオン』のなかの「自己啓発セミナー」
物語の結末は「自己啓発セミナー」/エヴァの物語/
シンジの分析空間としてのエヴァ物語/レイへの同一化/
シンジを受容したカオル/自己変容と他者
2 自己啓発セミナー
自己啓発セミナーの概要/日常と非日常の境界の排除/
自己啓発セミナーの基本的構造/エンカウンター/
エンプティーチェア/「他者の失墜」/
抱擁のセッション/他者の捨象/
自己実現目標の設定/演劇を通じた自己の象徴化および自己開示
3 自己変容についての臨床社会学
臨床社会学の視点から/「精神世界」
第4章 看護に学ぶ臨床社会学 (勝又正直)
1 看護のための社会学
事例:人工肛門をつけられた老婦人/知識=権力の問題/
かつての医療社会学/「看護診断」に導入された社会学/
自己概念/家族看護学と社会学/
2 病いと理解社会学
ヴェーバーの病気体験/理解社会学の成立/理解社会学の落とし穴/
3 病者の意味世界
トラベルビーの看護理論/解釈学的現象学/ベナー理論
4 「臨床の知」の探求
形式的理論から人工知能論へ/エキスパート・システム/
反人工知能論/本当のエキスパートとは何か:技能修得の5段階モデル/
看護のエキスパート(達人)とは/理解社会学の再生へ
第5章 「問題家族」の臨床社会学 (山田昌弘)
1 家族の内実への関心
家族の内実への関心の増大/従来の家族社会学の問題構成/
形態と内実の一致という背後仮説
2 伝統的家族社会学の問題構成のゆらぎ
形態と内実のずれの顕在化/家族社会学の対応1:標準的家族の枠を拡げる/
家族社会学の対応2:「努力説」
3 家族の内実の分析
当事者の視点の理論的組み込み/言語的存在としての人間/
問題家族の臨床社会学に向けて
第6章 クラスルームの臨床社会学 (稲垣恭子)
1 仮構の空間としての学級
閉じられた空間/仮構としての学級
2 物語の変容と学級秩序
理想の物語と学級秩序/物語への懐疑と学校への不信感/
虚構としての学校/虚構への適応と学級秩序/
学校の虚構化・社会の虚構化
3 物語の解体と秩序感覚の変容
おわりに
第7章 保育政策の臨床社会学 (畠中宗一)
1 家族政策としての「子ども・家族」支援
制度疲労/変化する理念/「システム優先社会」から「ライフスタイル優先社会へ」
2 「保育所神話」の形成過程
「保育所神話」とは/「3歳児神話」とは/
「子ども・家族」支援の現実/保育施設の歴史/
民間保育所の認可条件を緩和/「保育所神話」の形成過程
3 なぜ「家庭的保育」は普及してこなかったのか
政策形成主体の問題/全国ベビーシッター協会の設立/
日本チャイルドマインダー協会の設立
4 イギリスの「家庭的保育」が示唆すること
社会的認知の条件/「家庭的保育」の評価
第8章 政策現場の臨床社会学 (井上真理子)
1 臨床社会学は何ができるか
1930年代/1970年代以降
2 臨床社会学的〈介入〉
精神医学的−心理学的危機介入/危機介入への臨床社会学の適用/
介入の5段階
3 政策過程研究における諸アプローチ−−臨床的方法への手がかりを求めて
定義と再定義/政治学における諸アプローチ
4 臨床社会学的介入の〈場〉
地方分権化/中間領域の拡大:ボランティア、NPOの台頭/
住民運動からNPOまで/臨床的介入の場としての中間領域
5 臨床社会学のパースペクティブ
第9章 「死ねない時代」の臨床社会学 (大村英昭)
1 撤退の思想
はじめに:相馬御風と良寛/脱都会派/アノミー社会
2 抵抗としての「隠遁」
隠遁主義と儀礼主義/矜持ある敗北/鎮め役(クーラー)
3 禁欲のエートスと鎮欲のエートス
脅迫的頑張りと出家遁世
4 鎮まらない人々
中間層の悲しさ/中間層と新宗教/サブカルチャー論
5 煽る文化と「家」の論理
文化疲労か/「家」とは違う家族/はかない縁
6 撤退の美学
せめて、こころの「林住期」を……/小説『深い河』から