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『男女摩擦』

鹿嶋 敬 20000920 岩波書店,286p.

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■鹿嶋 敬 20000920 『男女摩擦』,岩波書店,286p. ISBN-10: 4000012916 ISBN-13: 978-4000012911 [amazon][kinokuniya] ※ b s00 f04

■出版社/著者からの内容紹介
転勤裁判,離婚率の急増,女性の「貧困化」-企業,地域,家庭,夫婦・親子関係に,ライフスタイルの多様化や価値観の変化,そして昨今の厳しい経済状況といった波が押し寄せ,様々な「摩擦」を生じている.四半世紀にわたる数多くの取材と,データの裏付け,さらには鋭い分析により,現状と21世紀への展望を描く

内容(「BOOK」データベースより)
この本は男性中心型、あるいは夫が働き、妻が家を守るという性別役割分業をもとに築かれた会社や地域、家庭、夫婦、親子の関係が、ライフスタイルの多様化や価値観の変化といった新しい波が押し寄せてくるなかで、どんなきしみを生じだしたのかを、「男女摩擦」というキーワードに置き換えてレポートするものである。摩擦の原因をたどっていけば、その奥の奥には性別役割分業という名の太い根っこが見え隠れする。本書は四半世紀におよぶ著者の取材体験をベースに、男女摩擦の現状とそれへの対応を考察、展望したものである。

 *この本の紹介の作成:三宅亜紀(立命館大学政策科学部)

■目次

はじめに
第一章 キャリア形成という名の幻想
 1総合職女性は、なぜ職場を去ったのか
 2「ジェンダーフリー」企業
第二章 揺れる女性の経済的自立
1一般OLに試練−戦後最大の危機に直面して
2広がる有期雇用−経済の合理性を追及する企業
3女性が支える周辺労働−パートの場合
4女性が支える周辺労働−派遣社員の場合
5複合就労
6弱い立場に仕掛けられる性の罠
第三章 家庭−この小さな器のなかで
1専業主婦−悩み多き存在
2性をめぐっての摩擦
3結婚、そして離婚
4変わるか、官製家族観
第四章 父親たちは、企業人は
1メンズリブとおやじの会
2企業はどう変わる−経営トップの見方
第五章 「均等」社会での「平等」
1「平等」が「均等」に変わったわけ
2「男女共同参画」は地方から中央へ
3熱気はどこへ
第六章 仕事と家庭生活−両立への道
1転勤・配転裁判が問いかけた共働き時代
2わが家は、仕事と家庭の両立をどう図ったか
3延びる一日の労働時間
4崩れない性別役割分業
5なぜ女性は子どもを産まなくなったのか
6財界版少子化対応に関する提言を読む
終章 男女摩擦−解消の模索
おわりに

■紹介

はじめに

第一章 キャリア形成という名の幻想

1総合職女性は、なぜ職場を去ったのか
 企業が女性社員を育てるノウハウを持ち合わせてこなかった。女性の雇用は社会の
風潮に合わせるためであり、数年で退社することを想定した仕事しか与えない。
転勤や労働時間の問題から仕事と同時に家事・育児を行うには時間的・体力的に無理
がある−モデルケースからの考察
  晩婚化により一度仕事を離れ、戻ってきたころには年齢制限にかかり再就職が難
しくなる

2「ジェンダーフリー」企業
 性差別をしないことを看板に掲げている会社
  ex)日本テキサス・インスツルメンツ…フィーメールプログラム→ダイバーシ
ティプログラム
   業績向上を目指すには、性別にこだわらず人材を発掘する必要性。男性だけで
なく、女性自身の意識改革も当初は困難。トップダウンで少しずつ変革。

第二章 揺れる女性の経済的自立

1一般OLに試練−戦後最大の危機に直面して
 組織再編に伴って、補助労働の担い手である女性社員や仕事量・質の割に賃金が高
すぎる40代半ば以上の中高年社員のリストラを加速(p55)。「正社員は基幹労働力
だけ」という経営方針を多くの企業が採用。(p56-57)
 女性の正社員比率の減少 男性1990年91.2%から2000年88.3%、一方女性は1990
年61.9%から2000年53.6%→所得や身分が不安定な女性の周辺労働力化(パート・
アルバイト・派遣社員)が進んでいる
 総合職(基幹労働力)が全盛となり補助労働力のOLは企業からきえてゆく。オンラ
イン化が進み事務作業が合理化できるようになるからだ。男女問わず、全員が総合
職。しかし周辺労働力をささえるのは大半が女性。しかもOL(一般職)とは比べ物に
ならないいくらい不安定な有期雇用。(p62-63)

2広がる有期雇用−経済の合理性を追及する企業
経済合理性の追求の末、基幹労働力以外はアウトソーシングに切り替える。
 人件費の削減のため有期雇用化の動きが高まる。Ex)96年各航空会社の契約制客室
乗務員の導入(p66)
バブル期の後を襲った深刻な不況を乗り切るための有期雇用策の犠牲になるのはほと
んどが女性である。

3女性が支える周辺労働−パートの場合
パート1100万人、派遣90万人。前者の7割、後者の8割が女性。パートで働く女性の
年齢は40代が中心、一方派遣社員は2,30代の若い女性が多い。(p69)
安い労働力としてのパート社員は経費削減をもくろんだ企業側の法をかいくぐる雇用
調整により、保険や有給休暇など労働者の権利が保障されていない。(p70-72)

4女性が支える周辺労働−派遣社員の場合
 本来、派遣できる業務を専門性の高い通訳、ソフトウェア開発、秘書など二六業務
に限定した。しかし、依頼する企業は高度で専門的な仕事を派遣社員に任せたくな
い、またそれほど多くの専門的な仕事があるわけではないということで補助的な事務
仕事に派遣社員を就かせるというのが現実だった。労働者派遣法が改正になり、専門
業務の派遣から業務内容が原則自由化された。これにより安価な労働力としての派遣
労働に拍車がかかるだろう。(p85-88)
海外での派遣社員の男女比は…アメリカでは男女比率は半々、ドイツは8割、フラン
スは7割が男性。(1999年、海外労働白書調べ)→日本における女性の派遣社員の多
さは尋常ではない(p89)

5複合就労
 職がない、あっても低賃金で労働条件が悪い。追い詰められた状況から何とか逃れ
たいと、複数の仕事を掛け持ちする人がパートや派遣で働く女性の中に登場している。
 一人で家計を支えなければならない女性だけでなく、夫の収入の補完、生きがいや
働きがい探しのため複合就労を選択する女性も増えている。労働の多様化の裏には、
低収入や不安定就労に悩まされる女性の姿が矛盾として生じている。(p92-97)
6弱い立場に仕掛けられる性の罠
 セクハラが表面化してきたのは、女性の勤続年数が長期化し、さらに人権侵害に対
する感度が研ぎ澄まされる時代になり、女性もそれを黙認したり、泣き寝入りするこ
とがなくなったからだ。(p97)
 セクハラの被害者は立場の弱い人、つまりパートや派遣社員がなりやすい。また社
長・会長といったトップによるセクハラが多い点が日本のセクハラの特徴である。そ
の背景には男女間の不平等が横たわっているからだ。(p100)
 男性が一度お茶汲み、コピー取りなどの単純作業に従事することで、女性の不満を
体験的に理解できるのではないか。(p104)

第七章 「均等」社会での「平等」

1「平等」が「均等」に変わったわけ
 「均等」は労働省の政策的配慮にしかすぎず、「平等」という言葉に含まれる「結
果の平等」(ex:女性の管理職を一定数以上配置など)に対する拒否反応からであ
る。(p119)
 「確かに、女性を無条件に優遇する結果の平等は公平さを欠く。だが「男女平等な
んて、理念だけでは達成できない。横並びに平等を割り振ることも必要だ」という現
実感覚をどこかに秘めている結果の平等という思想を、全面的に排除してしまって本
当に良かったのだろうか。」「女性は家庭維持責任の多くを負っている分、必ずしも
機会の平等を享受できるわけではないことも理解すべきだろう。」(p122)

2「男女共同参画」は地方から中央へ
「男女共同参画−それは、人権尊重の理念を社会に深く根付かせ、真の男女平等の達
成を目指すものである」(p144)

3熱気はどこへ
 以前は男女平等を求め、男女差別を排除する活動が女性を中心として、積極的に行
われてきたが現在は女性の意識の変化が見られる。自分が差別されているという感覚
がないうえ、私だけがしっかりしていればいいという考えのもと、女性運動や女性問
題には特に関心を持たない女性も増えている。しかし、実際に働き始めると、女性は
家事や育児に追われ男性と同じように働くことが物理的にできなくなってしまう。
「時間」という資源の配分が男性と比べ、女性はたいへん不平等だと改めて感じるの
だ。そしてそれこそが「性差別」であると…

第八章 仕事と家庭生活−両立への道

1転勤・配転裁判が問いかけた共働き時代
 いくつかの配転裁判の事例を示し、「配転は甘受すべき」というかつての常識が揺
れ動くまでの流れが記される。

2わが家は、仕事と家庭の両立をどう図ったか
    −体験的共働き論からの考察
  共働きである著者の家庭の家事・育児を分担の様子を、子育ての喜びと苦労、両
方の面から捉えた体験談が書かれている。
  著者は自身の体験から以下を述べている
  1:父性は子どもとの接触により開発される
  2:幼い子どもと父親との関係は常に良好であるわけではない
  3:親の勝手で子どもを他人に預けることの罪悪感−子育ての時間の質で勝負
  4:近隣との関係の維持の大切さ
  5:家事の不手際に双方が文句を言わない

3延びる一日の労働時間
 年間の総実労働時間が短縮する一方、週休2日のしわ寄せで1日あたりの労働時間は
増加している。週に二日休めてもウィークデーが忙しければ、疲れた休日になって意
味がない。そういう考え方は少数派かもしれない。一日の労働時間の短縮は、日々の
暮らしの切実さを知っているものならではの発想、言わば女性型の発想だと言える。
(p184-185)

4崩れない性別役割分業
 家事に参加する男性は若干増えてはいるが、それは周辺家事に限ったものがほとん
どである。時間、労力を費やす基幹家事(炊事・掃除・洗濯)は、いまだに妻の役割で
ある。統計を用いて裏付けている。海外(アメリカ・カナダ・イギリス・フィンラン
ド)と比べても日本の女性の仕事時間と家事時間を合わせた労働時間は極端に長い。

5なぜ女性は子どもを産まなくなったのか
 本書では四つの理由を挙げている。
 1:女性の高学歴化2:就業率の高まり3:晩婚化4:男性が家庭人として自立していない
(p194-195)

6財界版少子化対応に関する提言を読む
 経済団体連合会・日本経営者団体連盟・経済同友会・関西経済連合会など財界版の少
子化への対応策が具体的に明示される。夫婦別姓・事実婚の認知など、大胆な提言も
含まれる。
 少子化の対応には女性が子育てをしながら働ける職場環境を作るという意味で企業
の努力も必要不可欠である。しかし、厳しい経営環境などから、社員の子育て支援を
する余裕がないというのが現状である。男女共同参画の理念が根付くにはまだまだ時
間がかかりそうである。(p199-208)

第九章 家庭−この小さな器のなかで

1専業主婦−悩み多き存在
 専業主婦が成立するためには第一に夫が死なないこと、第二に夫が失業しないこ
と、第三に離婚しないことであるが、不況の時代にはこの三条件の基盤は非常に脆弱
である。
 また専業主婦は社会から切り離されることで生きがいを見つけにくい。自らの存在
価値を見出すためにも職業を持つことが必要とされる。

2性をめぐっての摩擦
 1995年から1996年にかけて大ヒットした「失楽園」とそれ以前にヒットした「マ
ディソン郡の橋」を例にとって男性、女性の立場から見た不倫の社会現象を斬る。
日本では、結婚という制度に対する思い入れや寄りかかりが女性の間では弱くなりつ
つあるのに、男性は強いという“片重い”の状況が進行しているという。

3結婚、そして離婚
 75年以前は片働き・専業主婦型家族が特徴的だった。当時は結婚したら離婚しない
という意識が強い永久就職型結婚の時代だった。また結婚規範や一定年齢に達したら
結婚しなければならないという年齢規範が強かった。現代の不況による男性の失業や
給料カットなどの不安も成長期の日本には無縁のものであった。
 90年代に入ると理想の相手が見つかるまでは結婚しないと考える女性が増加し、そ
れにともなう親への寄生化も顕著になっている。
 「共働き家族には新たなパートナーシップの創造が必要だが、現状では確立されて
いるとは言いがたい。」「男性にも家事・育児参加を求め始めた女性たちが、今のま
までは結婚しても利益なしと考えるようになったというのが、結婚をめぐる男女間の
闘いの実相なのだろう。」(p236)
 離婚問題に関して言えば、夫の浮気による離婚、宗教問題が絡む離婚も増加してい
る。子どもにまつわる教育問題から派生する離婚も無視はできない。離婚を経験した
女性には住居問題、就業問題と問題は尽きないがそれでも不幸な結婚よりは心の開放
感を、多少のリスクを負ってでも求めようとしている。(p238-240)

4変わるか、官製家族観
 家庭科の教科書を例に取り、教育の重点が家庭生活の管理から個人としての生活の
管理に移行していく様子をつづる。

第十章 父親たちは、企業人は

1メンズリブとおやじの会
 男性自身が、会社中心の生き方に疑問をもつようになり、どんな生き方をすればい
いのかを模索する活動が各地に広がっている。

2企業はどう変わる−経営トップの見方
 仕事と家事・育児の両立が可能な職場への変身が今ほど求められている時代はな
い。(p264)それは本当に可能なのか。
 企業がこれまで担ってきた企業内保育所機能とか医療や文化・教養などの機能は、
コミュニティにバトンタッチする傾向が今後強まるのではないか。高度経済成長の時
代には、男性の力だけで経営がうまくいったため男女差別問題が発生しやすかった。
だが企業がグローバルな競争に巻き込まれる時代になると、優秀な人材は男女を問わ
ず起用するというように風向きが変わってくる。(p266)

終章 男女摩擦−解消の模索

おわりに

……以上

 ●『男と女 変わる力学 −家庭・企業・社会−』(岩波新書)
   鹿嶋 敬 著 2000.10.25 第26 刷 発行
         (1989.04.20 第 1 刷 発行)
   ◇著者紹介
    1945年 茨城県に生まれる
    1969年 千葉大学文理学部卒業、同年日本経済新聞社入社。
        94年より編集局生活家庭部長、97年より編集局次長
        兼文化部長、99年より生活家庭部編集委員
    現在 − 日本経済新聞社編集委員兼論説委員
    著書 − 「男女摩擦」(岩波新書)
        「男の座標軸 −企業から家庭・社会」(岩波新書)」
        「明日の家族」(編著、中央法規出版)
        「変容する男性社会」(共著、新曜社)
        「ウーマン・フロンティア」(共著、日本経済新聞社)
        「雇用均等時代の経営と労働」(共著、東洋経済新報社)


UP:20020731 REV:
家族  ◇女性の労働・家事労働・性別分業  ◇(gender/sex)  ◇フェミニズム2002年度講義関連  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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