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『21世紀の末期医療』

厚生省健康政策局総務課監修 20000610 中央法規出版,225p. ISBN:4-8058-4249-0 2100


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■厚生省健康政策局総務課監修 20000610 『21世紀の末期医療』,中央法規出版,225p. ISBN:4-8058-4249-0 2100 [amazon][kinokuniya][kinokuniya][BK1] ※ d01 et

第1部 末期医療に関する意識調査等検討会報告書

第2部 検討会委員寄稿

カシワギ テツオ
柏木 哲夫 20000610 「我が国におけるホスピス――緩和ケアの歴史」
厚生省健康政策局総務課 監修[2000:108-115]

シマ ヤスオ
志真 泰夫 20000610 「ホスピス・緩和ケア:21世紀の医療システム・モデル」
厚生省健康政策局総務課 監修[2000:116-126]

ナセ カタヒト
長谷 方人 20000610 「ターミナルステージのセーフティネットワークが是非必要です」
厚生省健康政策局総務課 監修[2000:127-133]

ホシノ カズマサ
星野 一正 20000610 「末期医療を巡る生命倫理」
厚生省健康政策局総務課 監修[2000:134-141]

マチノ サク
町野 朔 20000610 「家族の肖像」
厚生省健康政策局総務課 監修[2000:142-148]

モリオカ ヤスヒコ
森岡 恭彦 20000610 「末期医療――単なる延命治療中止から安楽死へ、そしてその行方」
厚生省健康政策局総務課 監修[2000:149-159]

第3部 資料


■第1部 末期医療に関する意識調査等検討会報告書

1末期医療に関する意識調査等検討委員会報告書(概要)

2末期医療に関する意識調査等検討委員会報告書
 平成10年6月26日

1 はじめに
2 本検討会における議論の対象
3 末期医療における国民の意識の変化
4 国民と医療従事者との意識を通じてみた末期医療
(1) 末期医療への関心
(2) 告知と説明
(3) 治療方針などの決定 
(4) 痛みを伴う末期状態の患者における医療の在り方等
  @ 痛みを伴う末期状態の患者における医療の在り方等
  A 療養生活の在り方
(5) 治る見込みのない持続的植物状態の患者における医療のあり方
(6) 患者本人と家族、患者本人と医師・看護職員との意識の差
(7) リビング・ウィル(文書による生前の意思表示)
(8) 医療現場における医療従事者の取り組み
5 適切な末期医療の確保に必要な取り組み
6 おわりに

今後の末期医療の在り方について
末期医療に関する意識調査等検討委員会報告書

T はじめに

○ 今日までの医療技術の進歩によって、様々な疾患に対して有効な治療法が発見されてき たものの、進行癌などの難治性疾患にあっては、今日の医療水準では、治療効果の向上が望めない場合がでてきた。
 そのような今日の医療水準で治療効果の期待できない末期状態の患者に対する医療においては、過剰な延命治療に対する批判、医療従事者における緩和ケアの知識不足等の問題が指摘されている。
 このような状況を踏まえ、回復の見込みの無い末期状態にある患者に対しては、苦痛な ど の症状の緩和に重点をおいた治療が求められるようになってきている。

○ また、最近の末期医療を巡る動きをみると、国内外ともに様々な動きを示している。例えば、諸外国の例として、オランダにおいては医師がいわゆる安楽死を実施した場合、明らかな患者の意思によって、一定の条件の下で行われたもので、検察官が違法性阻却事由に相当すると認めたものは告訴されないとした遺体処理法が平成5年11月に改正され、オ−ストラリアの準州においては、平成7年5月に患者の安楽死を権利として制定された法律「末期患者の権利法」が連邦議会により無効とされ、また、アメリカのオレゴン州においては、医師による自殺幇助に関する法律について<0010<連邦地裁で一旦執行停止になったものの、平成9年11月の住民投票により存続が決定された動きなどがある。
 一方、国内の例としては、平成4年3月「末期医療に臨む医師の在り方」(日本医師会)、平成6年5月「死と医療特別委員会報告」(日本学術会議)がまとめられ、また、平成7年3月には東海大学安楽死事件の刑の確定、延命医療の中止の手続きを明確化する病院の動きなどが出てきた。
 このように、末期医療においてはいわゆる安楽死、尊厳死(自然死)等の問題を巡る動きがみられるようになってきている。

○ こうした回復の見込のない末期状態にある患者に対しては、医療上適切に対応する必要があるため、平成5年に「末期医療に関する国民の意識調査等検討会」を設け、末期医療の在り方について議論を行ったが、その後においても、末期医療については国民の関心が引き続き高く、また「国民医療総合政策会議中間報告書(平成8年11月)」においては、末期医療について、「生命倫理の問題があり、広範な議論を行い国民的合意形成が図ることが必要がある」との指摘を受けた。

○ 末期医療の在り方については、日本人の生命観や倫理観等を踏まえて、様々な角度から議論が必要となるため、平成9年8月に「末期医療に関する意識調査等検討会」を設置し、我が国におけるふさわしい末期医療の在り方について、幅広く検討を行い、今般以下のとおり、意見をとりまとめたものである。

U 本検討会における議論の対象

○ 本検討会では、平成5年「末期医療に関する国民の意識調査等検討会」における調査結果と現状の対比を行うため、改めて調査を実施し、末期医療における国民の意識の変化、現状における国民及び医療従事者の意識の格差の把握を行い、我が国にふさわしい末期医療の在り方について検討を<0011<行った。

○ 今回の調査については、平成5年に行った調査を基本とし、当時の調査結果と比較することを目的に20歳以上の国民(5000人)を対照とし、また、新たに診療所、病院、緩和ケア病棟、訪問看護ステ−ションに所属する医療従事者「医師(3,104人)、看護職員(6,059人)」を対象に追加してアンケ−ト形式で実施した。

○その調査項目については
・末期医療に対する関心
・病名や病気の見通しについての告知と説明
・治療方針の決定等
・痛みを伴う末期医療における延命医療の希望及び療養生活の場所
・治る見込のない持続的植物状態における延命医療の希望
・リビング・ウィルに対する意識
・患者と医師との話し合い
・医師、看護職員における末期医療の悩みと疑問
・医師、看護職員における疼痛管理の知識
・末期医療の課題
等を設定した。

○ また本検討会における議論の対象としては、末期状態や持続的植物状態など様々な病態があるが本検討会における議論を深めるため、平成5年「末期医療に関する国民の意識調査等検討会」において議論の対象となった「痛みを伴い、しかも治る見込の無い死期が迫っている場合(以下「痛みを伴う末期状態」)」、持続的植物状態を「持続的植物状態で治る見込が無いと診断された場合(以下「治る見込の無い持続的植物状態」)」に限定した。<0012<
○ なお、本検討会で用いる用語については、平成5年「末期医療に関する国民の意識調査等検討会」において議論のため設けた定義を基本としたが、その後の学問の進歩等を踏まえ、その定義を一部見直している。
・安楽死
 安楽死とは、一般には本人の自発的要請に基づき、医師が医療的方法により死に至らしめることをいう。
・尊厳死
 尊厳死とは、本人の自発的意思で延命医療を中止し、人工呼吸器など医療機器を用いた医療処置によらない自然な状態で、寿命がきたら自分らしく迎えることのできる死(自然死)をいう。
・リビング・ウィル
 ここでいうリビング・ウィルとは、文書による生前の意思表示をいう。
・末期状態の期間
 末期状態の期間としては、6ヶ月程度あるいはそれより短い期間とした。
・持続的植物状態
 持続的植物状態とは、脳幹以外の脳の機能に障害が生じ、通常3〜6ヶ月以上自己及び周囲に対する意識がなく、言語や身振り等による意志の疎通はできないが、呼吸や心臓の動き、その他内臓機能が保たれている状態をいう。
 なお脳死とは、脳全体の機能が失われた状態をいう。
・単なる延命医療
 単なる延命医療とは、生存期間の延長のみを目的になされれる医療をいう。

3 末期医療における国民の意識の変化

○ 国民に対する今回の調査については、基本的に前回の調査(「末期医療に関する国民の意識調査等検討会」において平成5年に実施された調査)と同じ項目とし、その調査結果について、前回の調査との比較を行い、末<0013<期医療における国民の意識の変化を分析した。

○ 前回の調査では、国民は末期医療に高い関心をもち、痛みを伴う末期状態、治る見込の無い持続的植物状態については、多くの者が苦痛等の症状の緩和や、自然に死期が迎えられるような末期医療を希望していること、リビング・ウィル(文書による生前の意思表明)に対しては法制化を望む者は少なく、安楽死を容認する者も少ないという内容であった。
 今回の調査の各調査項目に関する調査結果及び回答の傾向は、概ね前回の調査結果と同様であった。
 このように、平成5年から平成10年にかけて末期医療における国民の意識には殆ど変化を来していないことが確認された。

4 国民とと医療従事者の意識を通じてみた末期医療

(1) 末期医療への関心

○ 医師、看護職員の大多数は末期医療について関心をもっている(81%、94%、 96%)。しかし、70歳以上の国民は他の年齢層と比べて関心が低く(70%)、また、 診療所 に勤務する医師、看護職員は、全体としては末期医療に関心をもっているものの、他の施設に比べると関心の程度の度合いが低いことがわかる。

○ 末期状態を来す疾患として癌、脳卒中といった疾患は、個々人にとって他人事ではなく、自分自身や家族がいつ罹患してもおかしくない疾患である。このため、末期医療は身近な問題として捉えられ、高い関心が寄せられるものと考えられる。また、たとえ末期状態にあっても、患者にとって、自分の残された人生をどのように生きていくかと言う考えをもつことは重要なことであるし、患者自身がその考えを実現して、個々人にふさわしい人生が送れるよう、医療の面から支援していく医療従事者側の役割がある。<0014<
 このようなことから、末期医療に関しては関心のある者を増やすとともに、その中から末期医療に従事する良い人材やボランティアが多く出現することが期待されている。

(2) 告知と説明

○ 国民のみならず、医師や看護職員自身においても末期状態を来す疾患にについて70〜80%が病名や病気の見通しについて知りたいと思っており、ほぼ全員が担当医から直接説明を受けたいと思っている。一方、病名や病気の見通しについて、まず誰に説明するかについては、医師では「患者の家族に説明する」(59%)「患者本人に説明する」(3%)、また、看護職員でも「患者本人に説明する」(4%)という回答であった。
 このように、国民のほぼ全員が医師から直接説明を受けたいと望んでいるが、医師が先ず説明する人としては、通常では患者本人ではなく患者の家族に説明しているのが現実である。欧米では、医師は、患者本人のプライバシ−に関わる事項についてはそのプライバシ−を尊重し、通常本人以外に説明することはないが、我が国では、医師は告知により患者が受けるであろう精神的な苦痛にたいして配慮を行うとともに、患者本人と家族の一体的な絆が比較的強いことから、医師は先ず患者の家族に説明するといったように、いずれ患者本人に説明するとしても家族の意向を尊重するといった傾向を示している。このような傾向を示し、医師がまず患者本人に説明できない一つの理由としては、告知に関して患者本人との意思疎通を図る手法に必ずしも医師が習熟していないため、告知を行うことについて医師側に心理的抵抗があるものと推察される。
 一方、患者との意思疎通を図ることを重視している緩和ケア病棟の医師については、先ず「患者の家族に説明する」との回答が40%あるものの、「患者本人の状況を見て患者に説明するかどうか判断する」との回答が48%である。今回調査対象となった緩和ケア病棟に従事している医師数は約50人と少ないものの、緩和ケア病棟における活動は今後の末期医療の取り組み流れを示唆していると考えられ、一般的な医師においても今後こ<0015<のような取り組みの方向へ変化していくことが予想される。

○ 今回の調査において医師から直接説明を受けたいとする国民の希望や緩和ケア病棟の医師の取り組み状況をみれば、病名と病気の見通しについての告知の対象は、原則として患者本人であるべきとの考え方に向かってはいるが、我が国においては、家族が患者本人に一番身近な存在として、患者本人と医療従事者とを繋ぐ重要な役割を担っていることから、多くの医師が先ず告知する対象は家族となっている。

○ 一方、医師が病名や病気の見通しについて患者や家族が納得できる説明ができているかということに関しては、大半の医師や看護職員が肯定的な回答(88%、85%)であったが、4%の医師、27%の看護職員が「できていない」という回答があった。患者や家族に納得のいく説明を行うには、医師にあっては、患者に対する適切な説明の他、患者に対して十分な説明ができる時間や患者のプライバシ−へ配慮された場所の確保などの環境を整備していくことが必要である。

○ 患者に対して告知するにあったっては、医師は患者の意思に配慮すると共に患者の告知による影響を考えずして一律に告知することは避けるべきであり、また、告知後の患者に対する精神的支援が重要となるため、医師は患者と十分に話し合い、患者の話に耳を傾ける姿勢をもち、日頃より患者の希望や意思を適切に把握し、良き人間関係を予め構築していくことが必要である。医師はそのための意思疎通を図る手法や告知後の患者の精神的支援を図る手法を修得しておくことが必要である。

(3) 治療方針等の決定

○ 患者が治る見込のない病気に罹患した場合その治療方針を決定するに当たり、先ず誰に意見を聞くかと言うことに関しては、医師、看護職員において、「患者本人の意見を聞く」と言う回答率は低く(9%,16%)、「患<0016<者本人の状況を見て誰にするかを判断する」という回答が過半数であった(55%、71%)。
 さらに、医師においては、それに続いて「家族に聞く」(35%)であった。
 一方、緩和ケアの医師においては、「患者本人の意見を聞く」(37%)「患者本人の状況を見て誰にするかを判断する」(46%)という回答であった。
 このように末期状態における治療方針という重要な事項の決定に当たっては、多くの医師は患者の意思を重視しているものの、先ず患者本人の意見を聞く状況に至っておらず、現場において患者の状況をみて悩みながら対応しているのが現状である。

○ 治療方針の決定については、患者本人に適切に告知されているならば、基本的には患者本人の意見を聞くことによってその決定が可能となる。より適切な医療を続けようとするならば、患者の意思や状況に配慮しつつ、何れかの時期に、患者本人に対して病名等の告知を行っておくことが望ましいと考える。

○ 一方、単なる延命医療を続けるべきか中止するべきかについて、患者と医師との十分な話し合いが行われているかということに関しては、国民、医師、看護職員において「不十分と思う」または「行われているとは思わない」という回答が過半数を超えた(53%、76%、67%)。又「行われている」という回答は10%前後であった。
 告知における取り組みと同様に、患者と医師との間で信頼関係を構築し、両者の間の 意思疎通を十分に図っておくことが必要である。

(4) 痛みを伴う末期状態の患者における医療の在り方など

@痛みを伴う末期状態の患者における医療の在り方
○ 痛みを伴う末期状態の患者に対する単なる延命医療については、国民、医師、介護職員の70〜80%が、単なる延命医療の中止について肯定的である。<0017<
 また、その延命医療の中止の方法については、単なる延命医療を中止することに肯定的な者のうち国民、医師、看護職員の10%程度は「積極的な治療は行わないことによって、自然に死期を迎えさせるような方法」を選択しているが、国民、医師、看護職員の70〜90%は、「生命が短縮される可能性があっても、痛みなどの症状を和らげることに重点を置く方法」を選択している。
 このように、国民、医師、看護職員の大多数は、単なる延命医療を中止することが良いと考えており、延命医療の中止後においては、国民全体の47%、医師や看護職員全体の68%は苦痛などの清浄の緩和に重点を置いた治療、また、国民、医師、看護職員の9%は自然に死期を迎えることがよいと考えている。

○ 一方、患者に対して単なる延命医療を中止することに肯定的な者の内、国民の13%、医師、看護職員の1%程度が「痛みにあえぐ患者を安楽にするために、積極的な方法で患者の生命を短縮させるような方法」を選択している。
 このように、国民全体の9%、医師や看護職員全体の1%しか安楽死を容認しておらず、我が国においては、安楽死については一般には容認されていないと考えるのが妥当である。

○ 痛みを伴う末期状態においては、単なる延命治療はやめ、患者の状況や希望に配慮し、患者の苦痛の緩和や自然な死を迎えられるようにし、患者の残された人生が個々人にふさわしい人生になるよう支援していく医療が展開させていくことが望まれる。
 また、余命6ヶ月間程度の末期状態の期間においては、患者に苦痛をはじめとする不快な身体的症状や精神的症状などが現れるだけでなく、家族にとっても精神的な負担等を抱える時期となるため、患者への適切な治療の他、併せてて家族に対しても適切な対応と患者の死後、家族が患者を失ったことによる様々な心理状態を考慮しつつ、家族と<0018<適切な意思疎通を図っていくことが求められる。

A療養生活の在り方

○ 医療提供など療養環境の整備
 国民が自分自身の問題として痛みを伴う末期状態となった場合どこで療養生活を送りたいかの質問に対する回答としては「自宅で療養して必要があれば緩和ケア病棟や今まで通った病院に入院したい」(49%)「緩和ケア病棟や今まで通った病院へ入院したい」(33%)「在宅で最後まで療養したい」(9%)「特別養護老人ホ−ムに入所したい」(1%)となっている。
 また、家族が末期状態になった場合の療養生活についても自分自身の場合と概ね同じ回答であった。
 このように、痛みを伴う末期状態に対する療養環境の整備については、入院医療に依存した医療供給体制の整備、特に、緩和ケア病棟の整備が求められている。

○ 一方、国民の多くは病気に罹患しても出来る限り住み慣れた地域・家庭において家族とともに生活できることを希望していることから、このような希望を実現出来る者として在宅医療が重要となる。
 しかしながら、自宅における在宅医療の実現性について質問したところ、国民は「実現困難である」(49%)と回答する一方、医師、看護職員は「実現可能である」(44%)と回答しており、「実現困難である」(36%)を上回っていた。自宅での療養が困難であると言う理由としては、国民においては、「経済的負担が大きい」(43%)と言う回答が最も多く、「訪問看護体制が整っていない」(37%)という回答が続いた。国民の高齢者層や看護職員では「介護してくれる家族がいない」(38%、61%)という回答が最も多かった。また、訪問看護ステ−ションの看護婦については、「往診してくれる医師がいない」(52%)という回答が最も多かった。
 在宅医療を定着させるため、家庭における経済的不安を解消することが重要である。当面、訪問看護体制の充実、在宅医療に従事する医師<0019<の確保、訪問介護事業の充実が求められる。

○ 今後の療養生活の在り方としては、患者の生活の質(Quality of life QOL)の観点から、 患者が自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟等に入院できる体制の量と質の整備を推進していくことが求められており、また、緩和ケア病棟については、在宅支援施設としての機能を担うことも必要となる。

(5) 治る見込みのない持続的植物状態の患者における医療の在り方

○ 治る見込みのない持続的植物状態の患者における単なる延命医療については、国民、医師、 看護職員の70~80%近くが、単なる延命医療の中止について肯定的である。
 またその延命医療の中止方法については、単なる延命医療の中止について肯定的な者のうち、国民、医師、看護職員において「人工呼吸等生命維持のために特別に用いられる治療については中止してよいが、それ以外の治療は続ける」と言う回答が53~82%であった。次に「一切の治療は中止ても良い」という回答が8~26%であった、
 このように、国民、医師、看護職の大多数は、単なる延命治療は中止することがよいと考えており延命治療の中止後においては、国民の40%、医師、看護職員の60%が生命維持のために特別用いられる治療(生命維持処置)は中止してよいがそれ以外の医療は続けるとしている。

○ その延命医療の中止時期については、国民では「生命の助かる見込がなく、死期が迫っていると診断されたとき」(37%)「意識不明から回復しないと診断されたとき」(36%)の順に多かった。一方、医師、看護職員については「生命の助かる見込がなく、死期が迫っていると診断されたとき 」(45%、49%)「生命の助かる見込がないと診断されたとき」(24%、24%)の順に多かった。即ち、患者の延命医療の中止時期については、死の蓋然性が高く、その状況が非可逆的であることをもって判断することが適切であると考えている者が比較的多いことを示している。

○ 延命医療中止後に行う生命維持処置以外の医療については、施設に所属する医師の過半数からの回答を得たものは、「点滴」「床ずれの手当て」「全身清拭」「留置カテ−テル」「眼乾燥防止」であった。また、延命医療中止後の医療については、「末期医療に臨む医師の在り方についてのの報告」(日本医師会)において、「栄養の補給、感染防止、辱層の予防・治療など生命を維持する必要にして最小限の基本的療法」とされ、一方「死と医療特別委員会報告」(日本学術会議)においては、「苦痛の緩和につとめ除痰、排尿排便への配慮、身体衛生の保持といった基本看護の義務がある」とされている。これらによれば、過半数の回答を得た行為は延命医療中止後の基本的医療と考えられる。
 なお、径管栄養や高カロリ−輸液を続ける必要があるとしたものは、どの施設においても 50%を下回っている。

(6) 患者本人と家族、患者本人と医師・看護職員との意識の差

○ 痛みを伴う末期状態における単なる延命医療については、国民、医師、看護職員において、「単なる延命医療であっても続けるべきである」との回答率が自分自身の時(16%、9%、7%)と比べると、家族または受け持ち患者が痛みを伴う末期状態になった場合が高かった。(24%、13%、9%)。

○ 延命医療の中止の方法については、国民、医師、看護職員において、「生命が短縮する可能性があっても痛み等を和らげることに重点を置く」との回答率が、自分自身の時(69%、88%、85%)と比べると、家族または受け持ち患者に同数ないしやや高かった。(74%、88%、87%)。<0021<

○ 一方、持続的植物状態における延命医療については、国民、医師、看護職員において、「単なる延命医療であっても続けられるべきである」の回答率が自分自身の時(9%、7%、4%)と比べると、家族または受け持ち患者が持続的植物状態となった場合が高かった。(19%、13%、9%)。

○ 延命医療の中止方法については、国民、医師、看護職員において、人工呼吸器など生命維持に特別に用いられる治療は中止するが、それ以外の治療は続ける」との回答率が自分自身のとき(53%、64%、68%)と比べると、家族または受け持ち患者の場合に高かった(63%、77%、82%)。

○ 以上の調査結果を見ると、国民、医師、看護職員において自分に対する判断基準と他人に対する判断基準とが異なっている状態を示し、自分より他人が一日でも生き長らえてもらいたい、また、苦しみは和らげてあげたいと臨んでいる一定の傾向が窺える。
 このようなことを考慮すれば、事前に患者本人の意思が確認できず、家族や後見人が、患者本人の意思の代わりとして、治療方針などを決定する場合には、意思は家族や後見人の意思の取り扱いについて、十分吟味し対応する必要がある。

(7) リビング・ウィル(文書による生前の意志表示)

○ リビング・ウィル(文書による生前の意志表示)については、国民において「賛成する」は半数に至らなかった(48%)。一方、意思、看護職員においては、「賛成する」が大半を占めた(70%,68%)。
 「賛成する」とした者の内、国民については「法律を制定すべき」は、半数<0022<に至たらっなかった(49%)。また、医師、看護職員については、「法律で制定すべき」の回答がは半数を占めた(55%,52%)。また、緩和ケア病棟の医師については「法律を制定すべき」という回答は他の医療機関に比べて少なく(22%)、「医師が希望を尊重して治療方針を決定すればよい」と言う回答は逆に多かった(73%)。また、看護職員については、「法律を制定すべき」と「医師が希望を尊重して治療方針を決定すればよい」という回答はほぼ同率であった(46%)。

○ このように、国民においては「法律を制定すべき」とする者は全体の23%であり、医師においては全体の38%でありまた、緩和ケア病棟に従事する医師においては、全体の58%が「医師が希望を尊重して治療方針を決定すればよい」としている。この点を考慮すれば、現時点でのリビング・ウィル(文書による生前の意思表明)そのものの法制化は馴染まず、むしろ患者と医師との信頼関係を構築し、医師が患者の意思を尊重して治療方針の決定に当たることが望ましいものと考える。

○ しかしながら、医師が患者の書面の内容を尊重することについては、医師において「尊重する」または「尊重せざるを得ない」の回答が78%であるものの、国民においては「その時の状況による」(42%)が最多で「そう思う」または「そうせざるを得ないと思う」(33%)という回答を上回った。
 これは、医師は患者の意思を尊重しようとするものの、必ずしも医師側のそのような 意思が患者に伝わっていない状況であることを示していることから、患者と医師の関係において、痛みを伴う末期状態または持続的な植物状態になる以前から、日頃から意志の疎通を十分に図っておくことが必要であることがわかる。

○ 国民、医師、看護職員においては、事前に患者本人の意思が確認できな<0023<かった場合、家族や後見人が、それを患者本人の意思の代わりとして治療方針などを決定するという考えについては過半数が肯定的であった(57%、61%、51%)。
 なお現実として、家族は患者本人と医療従事者とを繋ぐ重要な役割を担っているといえ、家族などの意見の取り扱いについては、患者本人の意思の代行とは必ずしも認められず患者本人の意思の推定に当たるのではないかと考えられ慎重な判断が必要となる。

(8) 医療現場における医療従事者の取り組み

○ 末期医療の治療方針について医師や看護職員等の間に意見の相違が起こった経験の有無については、医師では40%、特に緩和ケア施設の医師では89%近くが経験を持ち、一方、看護職員では60%、緩和ケア施設では85%が経験を持っている。
 その場合の意見調整の方法としては、多くは「患者本人または家族との意見」に基づき調整を行っている。
 また、医師や看護職員の悩みや疑問についてみれば、緩和ケア病棟において「医療チ−ムで意見が分かれること」という回答(34%、26%)が他の医療施設に比べて多かった。また、緩和ケア病棟以外の他の施設において、「患者へ病名、病状の説明をすること」を悩みとする回答が多かった(70%前後、57%前後)。

○ このように、緩和ケア病棟では、医療従事者間または患者と医療従事者での意思疎通の取り組みが他の施設に比べて日常的かつ積極的になされている結果の現われではないかと考えられる。
 従って、末期医療の治療方針の選択に当たっては「患者自身がどうありたいか、どうあるべきか」という価値観も入ってくるため、患者本人の意見に基づいて、医療従事者間で十分な意思疎通が図られるよう意見交換が重要となる。<0024<

○ 一方、医療現場における医師や看護職員の取り組み状態をみると、その90%程度は悩みや疑問を感じている。その悩みや疑問として医師について、どの施設においても回答が過半数以上であったものは「在宅医療体制が十分でないこと」(約55%)、病院では「患者へ病名や病状を説明すること」(72%)、緩和施設では「痛みをはじめとした症状を緩和すること」(54%)である。看護職員において、どの施設においても回答が過半数以上であったものは「痛みをはじめとした症状を緩和すること」(約70%)、「患者へ病名や病状を説明すること」(葯55%)であった。適切な末期医療を患者・家族に提供していくためにも、職場の職員や管理者自身が、これら医療現場における悩みや疑問を一つ一つ解決していくことが求められる。

5 適切な末期医療の確保に必要な取り組み

○ 末期医療の内容で今後重点的に取り組むことに関しては、医師、看護職員ともに「痛みなどの症状の緩和方法の徹底と普及(87%、86%)、「医療・ケアの方針に関する患者と家族との十分な話し合い」(82%、84%)の回答率が高かった。

○ また、末期医療の普及に関して充実すべきことについては、どの施設においても過半数の回答があったものとしては「末期医療に従事する医療従事者の確保」、「在宅医療の推進」、「緩和ケア病棟の増設」の他、医師においては、「卒前・卒後の教育や生涯研修の推進」、看護職員においては「患者への相談体制の充実」であった。とりわけ、世界保健機関方式癌疼痛治療法については、医師においては比較的よく知られているが、診療所では他の医療機関に比べて知らない者の割合が高かった。

○ 適切な末期医療を確保するには、以上の点に対応することが必要であり、以上の点に対応することは、医療現場各施設に共通している大方の<0025<悩みや疑問の解消につながるものと考える。
 このため、以上の点に対応するための方策として、関係者において次の主な取り組みが求められる。

○ 人材の養成
 末期医療における人材養成面においては、特に、疼痛などの緩和方法に係わる医療技術、知識、患者に対する相談の仕方を含め、患者・家族との意思疎通のは図り方、医療従事者間における適切な意見の交換とその調整方法などチ−ム医療の運営手法、在宅末期医療に係わる医療技術や知識・習得が重要となる。
 またこれらを可能にするためには、これらを適切に修得する教育体制の整備が必要であり、これらの事項を卒前・卒後の教育内容に組み入れ、大学病院、臨床研究指定病院や看護婦学校養成所で緩和ケア病棟や在宅医療の実施医療機関と連携をとり、その教育内容の充実を図ることが重要である。併せて、生涯教育の充実を図ることが重要である。このように、末期医療に係わる医療従事者の養成の他、ボランティアの育成にも取り組む必要がある。ボランティアの育成に当たっては国民の生涯教育の一環としてとらえる視点も必要でる。
 現状では末期医療についてはその知識・技術体系が、必ずしも十分図られておらず、 より適切な末期医療を展開するためにも、いわゆる「末期医療学」の確立を期待したい。

○ 療養環境の整備
 今後の療養生活の在り方としては、患者のQOLの観点から、患者が自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟に入院出来る体制の整備を推進していくことが求められている。具体的には、病状が安定している場合は患者はかかりつけ医にかかり自宅で療養し、疾病の治療や緊急の対応が必要な場合は病院に入院し、苦痛などの緩和を主とした入院医療が必要な場合には緩和ケア病棟に入院するといった、これら医療機関との連携体制の整備<0026<の推進が必要である。
 また、個々の患者にふさわしいサ−ビスが出来るよう、これらのサ−ビスの調整・連絡を担える医療従事者の存在が大切となる。
 さらに、入院医療の充実・強化のためには、とりわけ緩和ケア病棟の整備が急務となる。
 一方、在宅末期医療の充実・強化のためには、疼痛など症状の緩和、緊急時の対応及び生活面を重視した在宅医療が大切であり、患者に身近なかかりつけ医等と訪問看護ステ−ションとの連携、かかりつけ医を支援する病院が必要となる。併せて訪問看護ステ−ションの充実が求められる。
 しかしながら、診療所の医師、看護職員については、他の医療機関に比べ末期医療に対する関心や過去の経験が少ないため、今後在宅末期医療を定着させるためには、患者の身近な存在である診療所自身が、在宅末期医療の関心をもち疼痛等の緩和方法等を修得するなど、より一層積極的に取り組んでいくことが求められる。

○ このような療養生活が可能となるよう、診療報酬上の評価をはじめとした必要な措置を講じること必要である。

6 おわりに

○ 今後の末期医療の在り方について、アンケ−ト調査を通じ、国民及び医療従事者の声の把握に努め、提言をおこなった。

○ 末期医療においては、単なる延命医療は止め、患者の状況や希望を踏まえ、患者の残された人生が個々に相応しい人生となるように支援していく医療を国民のみならず医療従事者の大多数が望んでいることが確認された。
 そのため、国民各自は残された人生をどのようによりよく送るのかという自分自身の問題として、末期医療について考えるとともに、痛みを伴う<0027<末期状態又は植物状態になる前から家族やかかりつけ医などと予め話し合っておくことが望まれる。
 今回の調査結果や提言がそのための一助になれば幸いである。

○また、本報告書に盛り込まれた提言などが、行政をはじめ医療関係者及び国民各層において、末期医療の在り方についての認識を深め、さらに共通の問題意識を高め、末期医療の充実と向上に資することを期待するものである。

○一方、平成5年から平成10年にかけて末期医療における国民の意識は殆ど変化をきたしていないことを踏まえれば、末期医療という問題は生命感や倫理観に基づくものであり、長期的な視点でこの問題をとらえていくことが必要であると考える。
 今後とも、末期医療については、長期的な視点も加味しこの問題の動きをとらえ、望ましい末期医療の実現に努められることを併せて期待するものである。

 
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◇「あなた自身(あなたの担当する患者)が痛みを伴い、しかも治る見込みがなく死期が迫っている(6ケ月程度あるいはそれより短い期間を想定)と告げられた場合、 単なる延命だけのための医療についてどうお考えになりますか。」(厚生省健康政策局総務課監修[2000:47])


答 今回調査

単なる延命医療であっても続けられるべきである 16.0%
単なる延命医療はやめたほうがよい 51.7%
単なる延命医療はやめるべきではない 15.9%
わからない 11.7%
無回答 4.7%

前回調査

単なる延命医療であっても続けられるべきである 13.5%
単なる延命医療はやめたほうがよい 57.1%
単なる延命医療はやめるべきではない 18.0%
わからない 9.9%
無回答 1.6%

 2003年の(3回めの)調査結果→

■言及

◆立岩 真也 2008 『…』,筑摩書房 文献表


UP:20040908 REV:20080325
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