『OLの創造――意味世界としてのジェンダー』
金野 美奈子 200002 勁草書房,251p.
■金野 美奈子 200002 『OLの創造――意味世界としてのジェンダー』,勁草書房,251p. ISBN-10: 4326652292 ISBN-13: 978-4326652297 \2520 [amazon]/[kinokuniya] p0206
■内容(「MARC」データベースより)
明治後期から高度成長期に至る、女性事務職の「意味」の変遷。職場に「男女の差異」を見い出す視点の生成を具体的に追求する。
内容(「MARC」データベースより)
職場を男性・女性という異なったカテゴリーでとらえるという見方自体がどのように生まれ、その後どのような具体的な意味を担うことになったのか。明治後期から高度成長期に至る、女性事務職の意味の変遷を辿る。
一般にOLは、「単純で定型的な業務」を担う「結婚や出産までの短期勤続」などと結びつけてとらえられている。そうした考え方は現代の職場で自然なものか、または古い女性差別の名残と見られることが多い。しかし本当にそうだろうか。本書は明治後期からOLの原型が出来上がった戦後高度成長期の終わりまでの80年間を対象とする。職場を「男性」と「女性」という異なった枠組みでとらえる見方はどのように生まれ、どのような意味を担うことになったのかを探り、OLは実は「構築された概念」であることを歴史的に明らかにしている。
■目次
序章 意味世界としてのジェンダー―労働研究への位置づけ
第1章 女性事務職の「発見」
第2章 「女事務員」の世界
第3章 戦時下の事務職
第4章 差異の構築
終章 労働におけるジェンダーの歴史化に向けて
■引用
「明治後期、良妻賢母思想という新しいジェンダーのもと事務の職場で女性が「発見」されたことは、「職場は男性のもの(であり女性のものではありえない)」というジェンダーが、そのままのかたちでは、職場世界の解釈する枠組みとはなりえないことを示していた。一方、同時に見出された男性たちの状況はこのように多様なものであり、「男性」と「女性」の間に境界を設けることを困難にしていた。組織の拡大に伴い学卒者を含めた事務職にそれまでとは異なった資質が求められるようになっていたこと、それらを基準とした場合、「男性」に対するかならずしも好意的とは言えない評価、さらに、「女性」に対する積極的な評価の存在によって、明治三〇年代の事務職の職場は、ジェンダーによっては解釈の困難な要素を数多く抱えるものだった。そこでは実際、「男性」と「女性」というカテゴリーは、人々の視点のなかで、相互に交換可能だととらえられるものだったのである。」(p.36)
「明治三〇年代のジェンダーが、職場における女性の存在という「問題」を見出したとすれば、戦間期のジェンダーは、職場の女性の「男性化」という「問題」を「発見」した。第一時大戦後、「職業婦人」の表象に使われるようになった言葉に、「堅い職業婦人タイプ」、「オールド・ミス」、「オールド・メイド」といった言葉がある。これらが示唆するように、特に問題とされたのは、女性たちの結婚と出産との関わりであった。「職業婦人の結婚難の問題」が、戦間期を通して話題になる。「現代の若い女性は『子どもなんか一生欲しくない』と朗らかに公言する。[われわれは]……女性は……自己本位であると非難する前に、何が彼女らにさうさせるのかといふ社会的原因(=職業経験:引用者注)を考えてみなければならぬ」。」(p.83-84)
「一九三七年、奥むめお主催の「働く婦人の家」が行った結婚相談には、担当者の予想を大きく上回る数の男性から「求妻申込み」が殺到し、その八割は、月収五〇円から五五円の三〇歳前後の「サラリーマン」からだった。これに対して「職業婦人」たちからは「せめて六〇円以上の収入がなければ」という理由で、応じるものがなかったという。物価の高騰や生活水準期待の上昇という状況のなか、多くの男性俸給生活者の収入は、家族を養い、かつ「中流」の生活を維持するのに十分な水準にはないとみられていた。」(p.85)
「若年定年制については、女性は結婚時に退職することが多いという傾向を追認したものだという見方がある。このような見方は同時代にも存在した。しかし、ここでの検討が示唆するのはむしろ逆に、このような制度の導入は、女性の勤続年数の長期化傾向に対する、企業側の積極的な対応策としてとらえれるということである。女性たちが、企業が想定する時期にスムーズに退職しているのであれば、わざわざ若年定年を制度化する必要はないはずである。若年定年制は、戦後高度成長期に女性雇用管理の一大トピックとしてとりあげられることになるが、ここで見たような事例から、その発想は戦前期にすでに見られたことがわかる。逆に言えば、戦前期の女性たちは、職場から若年定年制という発想を引きださせるほどの存在になりえていたのである。」(p.102)
■紹介・言及
◇熊沢 誠 20001020 『女性労働と企業社会』,岩波新書,229p. ISBN-10: 4004306949 ISBN-13: 978-4004306948 \777 [amazon]/[kinokuniya] ※
◇橋口 昌治 200908 「格差・貧困に関する本の紹介」, 立岩 真也編『税を直す――付:税率変更歳入試算+格差貧困文献解説』,青土社