HOME > BOOK >

『緩和医療のすすめ――がんと共に生きる』

青木 幸昌・中川 恵一 編 19981208 『緩和医療のすすめ―がんと共に生きる』,最新医学社,248p.


このHP経由で購入すると寄付されます

■青木 幸昌・中川 恵一 編 19981208 『緩和医療のすすめ―がんと共に生きる』,最新医学社,248p. ISBN:4914909227 [amazon][kinokuniya] ※t02

■内容

内容(「紀伊国屋書店」データベースより)
抗腫瘍効果だけを目指した従来の「がん医療」に対する反省から生まれてきた「緩和ケア」。 本書は、緩和ケアの方法に従来の治療手段も包括的にとりいれて、症状コントロールを積極的に行っていこうという、新しい考えにたった緩和医療体系を提唱する。
 
■目次

・わが国のがん治療の特殊性
・がんの根治治療の意味
・転移と再発の意味
・がん治療の問題点
がんの告知(青木幸昌)
・がんの告知とインフォームドコンセント
・がんの告知とその内容
末期がんと周辺(中川恵一)
・安楽死と尊厳死
・ホスピスの歴史と現状
・ターミナルケアと宗教
・ターミナルケアと家族

第2章 がん治療における症状緩和治療の実際

進行期・末期がんにおける症状とQOL(岩瀬哲)
根治治療からターミナルケアへの移行(中川恵一)
緩和治療の必要性(青木幸昌)
ホスピスケアと緩和医療(中川恵一)
がんの各種症状とその発生機序・緩和治療の手法(中川恵一)
末期がんの看護(広瀬寛子)
末期がんの心理ケア(広瀬寛子)
末期がんの栄養管理(高野利実)
進行・末期がんの経済的問題(高野利実)
末期がんでのセデーション(青木幸昌)
東大病院における総合腫瘍病棟の挑戦(中川恵一)

座談会 緩和医療とは -どういう医療をしたいか、してほしいか-

付 緩和医療を実践している施設一覧
■引用
 医療は、人間と人間の間に成り立つものです。人間が「生」と「死」を併せ持つものだとすれば、医療の世界で「生」だけが語られ、「死」について語られてこなかったというのは不自然なことです。医学について書かれた本の冒頭で、こうやって「死」について堂々と語られているということに、違和感を覚える方もおられるかもしれまんせんが、これからの時代、医療の世界でも自然に「死」を語る必要があると思います。医学の本来の目的である「生」への探求は今後も推し進めながら、なおかつ、「生」の裏側にある「死」の現実をあるがままに受け止めることが、より輝きのあり「生」へと近づく道である気がするのです。(p8)

 患者さんに共通する基底的世界として、@死の顕在化、Aアイデンティティの喪失、B禁止による欲求の顕在化・肥大と自己コントロールの喪失感、C痛み、D疑いの世界が存在します。それは、@健康人とのかかわり、A他の患者さんとのかかわり、B家族とのかかわりがあります。健康人には医療者も含まれます。医療者と良好な関係を持てればいいのですが、患者さんは医療者の無理解な態度に傷ついている場合が多いのです。また、C健康だった頃のかつての自己とのかかわりでは、病行になる前の自分と現在の自分とを比較し、現在の自分の身体に違和感を感じて頂き、”いま、ここ”を生きられなくなります。(p155)


*(共著者のお一人の)高野利実さんより

「このたび、私と東大医学部放射線科の助教授、講師との共著で、「緩和医療のすすめ」という本を出版いたしました。医学書ではなく、一般向けの本ですので、どなたにでも気軽にお読みいただけると思います。ご一読の上、ご意見・ご批判をお寄せいただければ幸甚です。

青木幸昌、中川恵一、岩瀬哲、広瀬寛子、高野利実 著 
「緩和医療のすすめ -がんと共に生きる-」
   最新医学社
   定価 2,940円 (本体価格 2,800円)」

本書では、現在の日本のがん治療のあり方に疑問を呈し、新しいがん治療のあり方を提言しています。現在、日本では、がんに対し、外科中心の積極的治療が行われ、手術適応がないとされる一部の患者さんに対して、化学療法(抗癌剤治療)や放射線治療が行われます。縦割りの医療が根づいている日本では、これらの治療がばらばらに行われていて、総合的な見地から個々の患者さんにとって最適の医療が何なのか、という判断はなされません。つまり、最初に外科にかかったら最後、徹底的に体を刻まれることになってしまうのです。
手術、化学療法、放射線治療、というのは、がんの根治治療の三本柱ですが、これらのどれを選ぶか、どれとどれを組み合わせるのか、ということは、患者さんの利益が考慮されるよりも、外科、内科、放射線科の政治力によって決定されるのが現実なのです。さらには、これら根治治療とは別に、われわれがテーマとして掲げる「緩和医療」があるわけですが、緩和医療は根治治療を行う医者たちからは蚊帳の外に追いやられています。根治治療をやれるところまでやって、限界にまで至って、もうどうしようもなくなったところで、じゃあ、根治治療はここまで、と言うことで、「緩和医療」が初めて考慮されるのです。しかも、悲しいことに、根治治療を専門とする医者たちには「緩和医療」は関心外のことであることが多く、病院内で見放されている場合が多いようです。
一部の恵まれた人がホスピスのような「緩和医療」を専門に行う場所に送られるわけです。このような現実に対し、われわれの提言する新しいがん治療とは、次のようなものです。まず、手術、化学療法、放射線治療といった治療が、縦割りの各科の思惑で決定されるという現状を改め、早期がんの段階から総合的、集学的な視点での医療を行い、患者さんの利益となり、かつ、患者さん自身が最も望むような治療法を選択すること。そして、根治治療が限界に達したところで根治治療から緩和医療への切り替えを行う、という概念を改め、早期がんに対する治療を開始するときから緩和医療の精神をもった治療を行っていくこと。緩和医療中心となったあとでも、場合によっては積極的治療を行う可能性を残しておくこと。つまり、これまでばらばらだった手術、化学療法、放射線治療、緩和医療を総合的に行っていこう、というのがわれわれの主張です。著者ごとに微妙に主張が異なっていたりもしますが、おおもとではだいたいこのような主張で統一されています。私自身が目指しているのも、総合的ながん治療をする医者、general oncologistです。本書で私が担当しているのは、主に「死」についての抽象的な部分ですが、私が医者としてスタートするにあたっての意思表明として読んでいただければ光栄です。
私は、現在、東京大学医学部附属病院分院で内科の研修医をしています。今、日本の医療界はEBM(Evidence Based Medicine: 統計学的に証明された「事実」をよりどころにして医療を行っていこうとすること)への道をまっしぐらに進んでいますが、この思想は目の前の患者さんの顔を無視しているようで、僕はあまり好きではなく、それに代わるものとして、私は"Human Based Medicine"という概念を理念として掲げています。Evidenceが重要であるというのは非常によくわかるのですが、それだけをよりどころにして医療を行ってしまうのはとても危険な気がします。今後、evidenceを学んでいきながらも、EBMの信者に対しては、HBMの重要性を訴えていきたいと思っています。
まあ、若造の戯れ言と言ってしまえばそれまでなのですが、医者のsocietyに染まってしまう前のこういう気持ちを大事にしたいとは思っています。皆様はいかがお考えでしょうか。

新年早々長いメールで失礼いたしました。
皆様にとって幸多い一年でありますように。

高野利実
東京大学医学部付属病院分院内科研修医
E-mail:khb03240@nifty.ne.jp(@→@)


*作成: 更新者:櫻井 浩子 
UP:199901 REV:20040917,20080903 
生命倫理[学] (bioethics)ターミナルケア  ◇身体×世界:関連書籍 1990'  ◇BOOK
TOP HOME(http://www.arsvi.com)