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『日本の経済格差――所得と資産から考える』

橘木 俊詔 19981120 岩波新書,212p.


Last Update:20100831
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橘木 俊詔 19981120 『日本の経済格差――所得と資産から考える』,岩波新書,212p. ISBN-10: 400430590X ISBN-13: 978-4004305903 [amazon][kinokuniya] ※ e03. e05. t07.

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出版社/著者からの内容紹介
バブル期に土地・株式が急騰したこと,低成長に入って所得が上昇しないこと,などから「1億総中流」に象徴される社会の平等・安定意識は揺らいでいる.時代の推移のなかで,そして国際比較の上で,格差の拡大を統計データによって詳細に検証し,その経済的メカニズムを明らかにしながら,税制や,教育・企業システムなどの課題を示す.

内容(「BOOK」データベースより)
バブル期に土地・株式が急騰したこと、低成長に入って所得が上昇しないこと、などから「一億総中流」に象徴される社会の平等・安定意識は揺らいでいる。時代の推移のなかで、そして国際比較の上で、格差の拡大を統計データによって詳細に検証し、その経済的メカニズムを明らかにしながら、税制や、教育・企業システムなどの課題を示す。

■目次

はしがき

第1章 平等神話は続いているか
 1 「一億総中流」意識の虚実―国際比較のなかの日本
 2 バブル経済は何をもたらしたか
 3 低成長期をむかえて
 4 アメリカ経済の復活と不安
 5 福祉国家への道か

第2章 戦後の日本経済社会の軌跡―分配問題を通して
 1 戦前の不平等と戦後の諸改革の効果
 2 高度成長期からバブル期へ
 3 経済発展と所得分配の不平等
 4 所得分配の国際比較‐過去と現在

第3章 不平等化の要因を所得の構成要素からみる
 1 統計データと実感の差
 2 所得の構成要素から何がいえるか
 3 賃金所得の変化
 4 家族構成の変化
 5 租税と社会保障制度の役割

第4章 資産分配の不平等化と遺産
 1 二つの資産―実物資産と金融資産
 2 持ち家志向、安全金融資産志向と貯蓄率の意味
 3 バブル経済とは何だったのか
 4 遺産の役割をどうみるか

第5章 不平等は拡大していくのか―制度改革
 1 階層(職業)、教育(学歴)、結婚
 2 浸透する実力主義と意識の変化
 3 機会の平等保障と結果の不平等是正
 4 効率性と公平性(平等性)
 5 税制と社会保障制度の改革
 6 教育制度と企業内における改革
 7 まとめ

あとがき
参考文献

■引用

第5章 不平等は拡大していくのか―制度改革
 4効率性と公平性(平等性)
  税と社会保障の効果
 「高い税率や充実した社会保障制度は人の勤労意欲や貯蓄意欲にマイナスの効果が本当にあるのか、という疑問を呈する経済学者もいる。逆に、データを用いて実証した結果、マイナス効果を支持する経済学者もいる。福祉国家は経済効率の達成に阻害要因となっていないと主張する経済学者もいれば、逆に阻害要因になっていると主張する経済学者もいるのである。
 私自身は、少なくともわが国に関して、税や社会保障が日本人の労働意欲や貯蓄意欲にマイナス効果があると主張する根拠は乏しい、と判断している。高い税率や社会保険料が、日本人の勤労意欲や貯蓄行動を阻害したことを証明する研究例はほとんどない、といっても過言ではない。このような阻害効果を、キャンペーンやプロバガンダとして主張する例は多いが、科学的根拠に欠けているのである。加えれば、第1章で示したように、日本人は政府から多額の税を徴収されておらず、アメリカとともに先進諸国の中で最低の租税負担率である。
 さらに福祉国家と経済効率の関連については、両者は関係がないと考えている。すなわち、福祉国家であっても経済効率の良い国もあれば、福祉国家でなくとも経済効率の悪い国はある。経済効率をけっていずる要因として、福祉国家かどうかはそれほど大きな意味を持たない。経済効率の悪さは他の要因が原因となるケースが多い。むしろ福祉国家が悪者扱いされる可能性を指摘したい。
 福祉国家でないわが国が、勤労意欲や貯蓄への効果を恐れること自体が、むしろ本末転倒で開く。不可思議な議論が横行しているともいえる。日本経済の場合、効率性と公平性のトレード・オフ関係は小さいと理解しているので、たとえ現在よりも税や社会保障の負担射が増加しても、さほど効率性を心配する必要がないというのが私の判断である。
 こう理解する根拠を積極的に示すためには、賃金の変化によって労働供給がどれほど変化するかといった労働供給の賃金弾力性や、利子率の変化多が貯蓄にに与える効果といった貯蓄の利子弾力性の議論を紹介する必要がある。わが国では、両弾力性の値はそれほど大きくない。既婚女子や高齢者の一部にやや高い労働供給弾力性が計測されているが、おおむね諸先進国によりはるかに低い値である。これらの意味するところは、たとえ税率の変更があっても、日本人は労働供給や貯蓄を変更させない、ということである。
 これらはやや専門的な議論なので、ここでは象徴的な例や具体的な事実を示すことによって理解の根拠に代えたい。第一に、プロ野球・オリックスのイチロー選手のような高所得者が、税金が高いからといって野球への取り組み姿勢を変えることはない。多くの日本人が税や社会保障負担によって労働供給を変更することはないのである。第二に、労働時間を決めるのは労働者ではなく主として企業である。むしろ法人税や企業の社会保障負担が企業行動に与える効果に注目した方がよい。第三に、わが国の家計貯蓄率の高いことは、税制と無関係のところで決まっているので、税制の変更がたとえあったとしても貯蓄率におよぼす影響は小さい。
 もう一つ忘れてならないことは、税や社会保障拠出の公的負担がもし削減されれば、民間負担の額が増加せざるをえないということである。」(橘木[1998:184-186])


UP:20081115 REV:20090731,20100831
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