『精神病』
笠原 嘉 19981020 岩波書店,232p.
■笠原 嘉 19981020 『精神病』,岩波新書,232p. ISBN-10: 4004305810 ISBN-13: 978-4004305811 \777 [amazon]/[kinokuniya] ※+[広田氏蔵書] m.
■著者略歴(「BOOK著者紹介情報」より)
- 笠原 嘉
- 1928年、神戸に生まれる。1952年、京都大学医学部卒業。専攻、精神医学。現在、名古屋大学名誉教授
■内容
出版社/著者からの内容紹介
精神病の中で分裂病は,今なお原因不明の難病であり,患者数も多い.しかし,近年は治療の成果も大きく上がってきている.症状や経過の特徴,原因の究明,治療法から患者の社会復帰,医療の体制,福祉のあり方にいたるまで,長年分裂病の臨床にたずさわり,それをとりまく問題を考察してきた著者が懇切平易に解説する.
内容(「BOOK」データベースより)
精神病の中で分裂病は、今なお原因不明の難病であり、患者数も多い。しかし、近年は治療法も進み成果も大きく上がっている。症状や経過の特徴、原因の究明、治療法から患者の社会復帰、医療の体制、福祉のあり方にいたるまで、長年分裂病の臨床にたずさわり、それをとりまく問題を考察してきた著者が懇切ていねいに解説する。
■目次
I章 心の不調
II章 分裂病の特徴
III章 分裂病の発病まで
IV章 分裂病の経過
V章 今日の治療
VI章 社会福祉の面から
VII章 分裂病と犯罪をめぐって
VIII章 分裂病の原因について
IX章 分裂病からの贈り物
X章 家人へのアドバイス
注
あとがき
■引用
IV章 分裂病の経過
1 八つの経過パターン
2 波の反復――初期の経過
「生活臨床学派の研究
再発の研究というと、一九六〇年代から始まった
生活臨床
学派(10)とよばれる人々の研究が先行的で、よく引用されます。
彼らは分裂病の人を心理面よりもむしろ、世間のなかで生活する際の困難に焦点をあわせて観察しました。そして、生き方という点で病人を二つのタイプに分けました。「受動」的な生き方を好むタイプと、少々摩擦があっても「能動」的に世間と接触しようとするタイプというニつです。それに加えて、それぞれの病人が「何に重きをおいて生活するか」をみると、それぞれに違った弱点をもっていて、それが引き金になって再発することがわかる、局点としては色、金、名誉、健康の四つがある、と指摘しました。
「金」というのは、たとえば、四月から同僚より給料が百円少なくなったことが長く保たれていた心の安定を乱すに十分といった場合です。いってみれば、すこぶる人間的なことがらなのですが、もともと吝嗇な人だからそうするのではなく、病気をしてから後のその人の生き方が少し機械的というか幾何学的というか、融通のきかない方向へ変化した結果だということを考慮しなければなりません。病気の後の残遺症状(九七ぺージ)の一つです。「色」につついても「名誉」についても「健康」についてもそうなのです。
こういうふうに再発劣が繰り返されると、病人の自分自身に対する自己評価が下がります。そして、困ったことに今度はそれがよりいっそう世間から病人をひきこませます。そこに再発を<0094<めぐる問題の核心を指抽した彼らの主張は、やがて履歴理論(一八三ページ)としてまとめられました(11)。
この理論によれば、分裂病では精神病を経験したという「履歴」こそがその後に深刻な影響を及ぼす。生体を敏感にさせ、再発させやすくする。心理的な記憶が残るというより、脳自体が敏感になることが重要である。その証拠に再発時のときの症状のおこり方はいっも初回のおこり方にとてもよく似ていて、しばしば同じ症状が出る。同じ内容と同じ型式の妄想が再現する。――
この考え方は「素質−ストレス」モデル(一八一べージ)という古くからある考え方を発展させたものです。素質は発病によって敏感さを獲得しストレスを一段と受けやすくなる、と考えました。
最後に、再発をそんなに驚かなくてもよい、という指摘をある心理治療家の言葉から拾っておきます(12)。「回復期の病人は神経症の人より何倍も傷つきやすく、ぶり返しやすい。しかし、ちょっとしたぶり返しがおきても、落胆すべきでない。病人や家族にあらかじめ、回復期にはぶり返しのおこりうること、しかし、それは最初の病勢に比べれば軽いことを説明しておくとよい」<0095<」
(10) 臺弘『分裂病の生活臨床(正・続)』創造出版、一九八三、一九八七。
(11) 臺弘『分裂病の治療覚書』創造出版、一九九一、一1セ〇ぺージ。
(12) アリエティ『精神分裂病の解釈』TU、殿村忠彦ほか訳、みすず書房、一九七四。
◆V章 今日の治療
「日本の精神病院
日本の精神科の病床数は三十六万床で、内科や外科あわせての全病床数である百六十七万床のうちニニ%にあたります。っまり五分の一強が精神科のべッドです。多いとお感じですか、少ないとお感じですか。
それはともかく、日本の特徴は精神科病床をもつ病院約千六百のうち、民間病院が病院数で八ニ%、病床数で八九%を占める点です。官公立の病院は少ない。国立は九十三、県立・市立・町立などの公立は百六十一、その他の公立五十三です。
これは先進諸国の精神科医療が公立中心でおこなわれてきたのと、決定的に違う点です。民活民活というこのごろ、これは必ずしも悪いこととは思われませんが、明治以来政府がこの方面の政策に積極的でなかったことを示す数字です。
ついでに少し精神病院の歴史を述べます。一九五〇年に楕神斎生法という画期的な法律が施行され、それまで公認されていた私宅監置制度(病人を座敷牢に入れておくことを許す制度)が廃止され、精神病のすべての人を医療の下に入れるべし、ということになりました。そのため多数の<0140<精神病院が一挙に必要になりました。一九六〇年の医療金融公庫の発足は国公立のかわりに民間病院の発足は国公立のかわりに民間病院の発足をうながし、図X−1のように精神病院の急増をもたらしました。
残念なことに当時まだ精神科医の数は少なく、精神病院の新規開設者の多くが精神科経験のない人だったことはやむをえませんでした。しかし、さいわい今日精神科医の数は八千人強(学会員数)と増加し、精神病院も年々成熟の度を加えました。
今日の課題
時代が移って「私宅監置から精神病院へ」という時代は完全に去り、今日の日本の精神病は「精神病の人をできるだけ社会のなかで治療する」という課題の前にあります。平たくいえば、次のような声の甲にいます。日本の入院患者は多すぎる。日本の医者は患者をかかえこみすぎる。早い段階から社会復帰をさせる努カをすべきだ。どの文明国も大胆にべッド数を減らしている。この面で先進的な英国は早くも六〇年代から地域ケア<0141<に転換し、今日では居住施設の類型に重症用のウオード・イン・ハウス(家の中の病棟)という新型を加えたというし、米国でもケネディ教書以来、州立精神病院の病床を大幅に減らすとともに退院後の居住施設を整備し、カナダでも同様に総合病院精神科と地域の多彩な居住施設と州立精神病院の三者がきめ細かな連携をしているという。イタリアにいたっては精神病院を少なくとも公式には全廃した、というではないか。」(笠原[1998:140-142])
■書評・紹介
■言及
*作成:山本 晋輔