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『稲盛和夫の実学――経営と会計』

稲盛 和夫 19981005 日本経済新聞社,206p.

last update:20140109

稲盛 和夫 19981005 『稲盛和夫の実学――経営と会計』,日本経済新聞社,206p. ISBN-10:4532147050  ISBN-13:978-4532147051 \1200+税 [amazon][kinokuniya]  ※


■内容

商品説明
本の帯に「会計がわからんで経営ができるか!」と印刷されている。
会計というとつい「勘定が合えばそれで良い」「会計は専門に勉強した特定の者にしか理解できない」という感覚にとらわれてしまう。特に経営者は「利益追求=売上追求」と考えてしまい、会計をおざなりにしてしまいがちなのではないだろうか。そこを著者は自身の経験からなる「経営学」と「会計学」を結びつけてわかりやすく説明している。
経営に役立つ会計とはどうあるべきか。事業を安定軌道に乗せようと思うのなら、数字に明るく、しかも「安定性」を持続する会計でなくてはならない。安定は、「儲け」のなかから出てくるということも覚えておく必要がある。「儲け」るためにはどうすればいいのか。

その答えを導き出した著者が「なぜ」という言葉に徹底的にこだわり、追求する人だということが、この本を読み進めていくうちによくわかってくる。「簿外処理は一切許さない」「ディスクロージャーを徹底する」という一見当たり前の議論ながら、そこはさすがカリスマ性に富んだ著者。具体例を交えての論述には説得力がある。

「経営のための経理である」という「実学」は、経理を専門に勉強してきた人にとっては「目から鱗」の思いをするだろう。会計学とは経営哲学と完全に合致する理原則であることをあらためて認識させられる。(大高真子)

内容(「BOOK」データベースより)
「虚業と虚学」がもてはやされたバブル時代のしっぺ返しを受け、塗炭の苦しみにあえぐ日本を立て直すには、実学こそが求められる。ゼロから経営を学んでいく過程で、会計は「現代経営の中枢」であることを体得した著者が、その実学の真髄を説き明かす。

■目次

まえがき
序章 私の会計学の思想
第一部 経営のための会計学――実践的基本原則
第一章 キャッシュベースで経営する【キャッシュベース経営の原則】
第二章 一対一の対応を貫く【一対一対応の原則】
第三章 筋肉質の経営に徹する【筋肉質経営の原則】
第四章 完璧主義を貫く【完璧主義の原則】
第五章 ダブルチェックによって会社と人を守る【ダブルチェックの原則】
第六章 採算の向上を支える【採算向上の原則】
第七章 透明な経営を行う【ガラス張り経営の原則】
第二部 経営のための会計学の実践――盛和塾での経営問答から
【経営問答1】先行投資の考え方について
【経営問答2】大手との連携による資金調達について
【経営問答3】拡大による借入金の増加について
【経営問答4】経営目標の決め方について
【経営問答5】「原価管理」の問題点
おわりに

■引用

◆物事の判断にあたっては、つねにその本質にさかのぼること、そして人間としての基本的なモラル, 良心にもとづいて何が正しいのかを基準として判断することがもっとも重要である。…それは簡単に言えば、公平、公正、正義、努力、勇気、博愛、謙虚、誠実というような言葉で表現できるものである。/経営の場において私はいわゆる戦略・戦術を考える前に、このように「人間として何が正しいのか」ということを判断のベースとしてまず考えるようにしているのである。…誰から見ても普遍的に正しいことを判断基準にし続けることによって、初めて真の意味で筋の通った経営が可能となる。/経営における重要な分野である会計の領域においてもまったく同じである会計上常識とされている考え方や慣行をすぐにあてはめるのではなく、改めて何が本質であるのかを問い、会計の原理原則に立ち戻って判断しなければならない。[1998:21-22]

◆経営者は誰でも利益を追求するのだが、多くの経営者が売上を増加させようとすると当然経費も増えるものと思っている。これがいわゆる経営の常識なのである。しかし、「売上を最大に、経費を最小に」ということを経営の原点とするならば、売上を増やしていきながら、経費を増やすのではなく、経費は同じか、できれば減少させるべきだということになる。そういう経営がもっとも道理にかなっていることにそのとき私は気づいたのである。[1998:31]

◆事業において、その収益源である売上を最大限に伸ばしていくためには、値段のつけ方が決め手となる。…値決めはたんに売るため、注文を取るためという営業だけの問題ではなく、経営の死命を決する問題である。売り手にも買い手にも満足を与える値でなければならず、最終的には経営者が判断するべき、大変重要な仕事なのである。…つまり、売上を最大にするには、単価と販売量の積を最大とすれば良い。利幅を多めにして少なく売って商売をするのか、利幅を抑えて大量に売って商売をするのか、値決めで経営は大きく変わってくるのである。[1998:32-33]

◆会計データは現在の経営状態をシンプルにまたリアルタイムで伝えるものでなければ、経営者にとって何の意味もないのである。…中小企業が健全に成長していくためには、経営の状態を一目瞭然に示し、かつ、経営者の意志を徹底できる会計システムを構築しなければならない。…そのためには、経営者自身がまず会計というものをよく理解しなければならない。…経理が準備する決算書を見て、たとえば伸び悩む収益のうめき声や、やせた自己資本が泣いている声を聞きとれる経営者にならなければならないのである。…経営者がまさに自分で会社を経営しようとするなら、そのために必要な会計資料を経営に役立つようなものにしなければならない。それができるようになるためにも、経営者自身が会計を十分よく理解し、決算書を経営の状況、問題点が浮き彫りとなるものにしなければならない。経営者が会計を十分理解し、日頃から経理を指導するくらい努力して初めて、経営者は真の経営を行うことができるのである。[1998:37-39]

◆…「キャッシュベースの経営」というのは、「お金の動き」に焦点をあてて、物事の本質にもとづいたシンプルな経営を行うことを意味している。会計はキャッシュベースで経営するためのものでなければならないというのが、私の会計学の第一の基本原則である。[1998:43]

◆苦労して利益を出しても、それをそのまま新しい設備投資に使えるわけではない。売掛金や在庫が増加すればお金はそこに吸い取られてしまっているし、借入金を返済すればお金が消えてしまう。儲かったお金がどういう形でどこに存在するのか、ということをよく把握して経営する必要がある…。[1998:46-47]

◆…どのような利益が数字の上で出ていようとも、結局安心して使えるのは手元にある自分のお金(キャッシュ)しかないことになる。つまり、企業を発展させるため、新たな投資を可能にするものは、自分のものとして使えるお金以外にはないのである。[1998:52]

◆何かを成そうとするときは、まず心の底からそうしたいと思い込まなければならない。「わかってはいるけれど、現実にはそんなことは不可能だ」と少しでも思ってしまったら、どんなことも実現することはできない。どうしてもこうでなければならない、こうしたいという、強い意志が経営者には必要なのである。[1998:55]

◆世の中の経営者には銀行から借金をして、それを元手に事業を拡大していく方が良いと考えられる方が多いであろう。しかし、…銀行は「天気の良い日には傘を貸すが、雨が降れば傘は取り上げる」と言われている。酷な話に思えるが、お金を貸して取りはぐれたのでは銀行の経営が成り立たないので、雨が降ったら借りた傘は取り上げられるというのは当たり前と考え、どんなときでも自分の力で雨に濡れないようにしておかねばならない。つまり、土俵の真ん中で相撲をとるような経営をつねに心がけていなければならないのである。…経営者は必要に応じ使えるお金、すなわち自己資金を十分に持てるようにしなければならないのである。そのためには内部留保を厚くする以外に方法はない。すなわち、企業の安定度を測る指標である自己資本比率を高くしなければならないのである。[1998:56-57]

◆経営活動においては、必ずモノとお金が動く。そのときには、モノまたはお金と伝票が必ず一対一の対応を保たなければならない。この原則を「一対一対応の原則」と私は読んでいる。…「一対一対応の原則」とは…発生したすべての事実を即時に認識し、ガラス張りの管理のもとに置くということを意味する。…誰も故意に数字をつくることができなくなる。伝票だけが勝手に動いたり、モノだけが動いたりすることはありえなくなる。モノが動けば必ず起票され、チェックされた伝票が動く。こうして、数字は事実のみをあらわすようになる。[1998:64-65]

◆本質的に強い企業にしようというのであれば、経営者が自分や企業を実力以上によく見せようという誘惑に打ち克つ強い意志を持たなければならない。[1998:80]

◆メーカーの在庫販売や一般の流通業の場合でも、どうしても仕入れた中には売れ残るものが多かれ少なかれ出てくる。…在庫は仕入れた値段で棚卸されているのが普通である。…そうしていると必ず長期間にわたりまったく売れていない品物が、今後も売れる見込みもないのに倉庫でほこりをかぶり、何度も棚卸されているケースが出てくる。すなわち、すでに価値のないものが財産として置いてあり、資産となっているのである。こうして結果としては、利益が見かけ上増えて、不必要な税金を払っているという場合が出てくるのである。/その意味で棚卸は人任せにせず、本来経営者が自分の目で見て、自分の手で触れて行うべきものである。…こまめに気を配って、会社の資産をスリムにしなければならないというのが、「セラミック石ころ論」の真意なのである。[1998:85-86]

◆…筋肉質の経営をするために重要なことは、原材料費などの操業度に連動する変動費を下げるだけでなく、固定費を一定もしくはできるだけ下げて、利益率を高めるということである。[1998:87]

◆…実際に経営を行う際には社員に固定費の増加を警戒することの意義が十分理解されていないと、それが社員の事業拡大や生産性の向上への意欲を低下させてしまいかねない。固定費を減らし筋肉質の経営体質を実現することは、会社をより強くし、さらなる事業拡大へチャレンジするために必要な努力であることを全社員によく理解してもらわなくてはならない。[1998:89]

◆私にとって投資とは、自らの額に汗して働いて利益を得るために、必要な資金を投下することであって、苦労せずに利益を手に収めようとすることではない。私の会計学には投機的利益をねらうという発想は微塵もない。だから余剰資金の運用については、元本保証の運用が大原則であり、その中に投機的な資金運用のための「リスク管理」などはまったく含まれていない。[1998:90]

◆企業の使命は、自由で創意に富んだ活動によって新たな価値を生み出し、人類社会の進歩発展に貢献することである。このような活動の成果として得られる利益を私は「額に汗して得る利益」と呼び、企業が追求するべき真の利益と考えている。[1998:93]

◆使う分だけを当座買いするから、高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。余分にないから、倉庫も要らない。倉庫が要らないから、在庫管理も要らないし、在庫金利もかからない。これらのコストを通算すれば、そのほうがはるかに経済的である。…これを「当座買いの原則」、または「一升買いの原則」と京セラでは呼び、現在も経営の鉄則として受け継がれている。[1998:98-99]

◆…会社を経営する社長も、その判断が会社の運命を左右する。社長は従業員とその家族、顧客、株主、協力会社などに対し、重大な責任を負っているのである。/その重大な責務を果たすために、経営者たるものは会社全体のマクロな仕事と同時に、部下のやっているミクロの仕事も十分わかっていなければ、完璧な仕事はできない。部下が休んだときでも、自ら代わって仕事ができるくらいでなければ、本当の長たる資格はないとさえ言えるのである。[1998:102]

◆完璧主義をまっとうするのは難しいことだが、その完璧主義を守ろうとする姿勢があるから、ミスが起こりにくくなる。[1998:104]

◆経営において責任ある立場の人々が自ら完璧主義を貫くよう肝に銘じていれば、資料の中のつじつまの合わない部分や数字のバランスが崩れているところに鋭敏に注意がいくようになるはずである。また、そうすることによって、資料をつくる側も自然に完璧主義が身につくようになる。会社全体に完璧主義を浸透させようとするのであれば、それが習い性となるまで数字をつくる側とチェックする側が努力していくことが必要不可欠なのである。[1998:106]

◆…人の心は大変大きな力も持っているが、ふとしたはずみで過ちを犯してしまうというような弱い面も持っている。人の心をベースにして経営していくなら、この人の心が持つ弱さから社員を守るという思いも必要である。これがダブルチェックシステムを始めた動機である。[1998:109]

◆…当たり前のことを確実に守らせることこそが実際には難しく、それだけに大切にすべきことなのである。ただし、それは指示するだけでは徹底されない。トップ自らが、本当に守られているのかを現場に出向き、ときどきチェックしなくてはならないのである。繰り返し確認していくことによって初めて、制度は社内に定着していく。しかし、その根底には、社員に決して罪をつくらせないという思いやりが、経営者の心の中になくてはならないのである。[1998:118-119]

◆企業の会計にとって自社の採算向上を支えることは、もっとも重大な使命である。/採算を向上させていくためには、売上を増やしていくことはもちろんであるが、それと同時に製品やサービスの付加価値を高めていかなければならない。付加価値を向上させるということは、市場において価値の高いものをより少ない資源でつくり出すということである。また、それは、事業活動により従業員の生活を向上させていくと同時に社会の発展に貢献するための前提条件となるものでもある。[1998:121]

◆社会の経済的発展をもたらすものは、、人間が仕事などを通して創造する新しい経済的価値である。この発展の源となる「価値」をより多く生み出すには、できるだけ少ない経費でできるだけ大きな経済的価値を創出する必要がある。企業経営にとって、このことは最小の費用で最大の売上を得ることを意味する。…時間当たり採算とは、この「売上を最大に、経費を最小に」という経営の原則を実現していくために、売上から経費を差し引いた「差引売上」という概念を考えたことから始まった。この差引売上は、一般的な経済用語で言う「付加価値」と呼ばれるものに近い。企業が発展していくためには「付加価値」を生み出し、高めていかなければならないのである。/…単位時間当りの付加価値を計算して「時間当り」と呼び、付加価値生産性を高めていくための指標とした。そして、「時間当り採算表」を管理部門に毎月作成してもらい、現場で作業している従業員にも採算が簡単に理解できるようにしたのである。[1998:123-125]

◆アメーバ経営とは、限られたパイの奪い合いではなく、アメーバ同士がともに助け合い、また切磋琢磨し合う結果としてともに発展していくこと、そして、アメーバ間の取引が市場ルールでなされることにより、社内の取引に対しても「生きた市場」の緊張感やダイナミズムを持ち込むということを目的としているのである。[1998:128]

◆企業というものはつきつめて考えれば人間の集団でしかない。それをたんなる烏合の衆ではなくひとつの生命体としてまとまったものにするには、その集団のリーダー、つまり経営者が社員から信頼され尊敬されていなければならない。…すべての社員から尊敬され「この人のためなら」と心から思われるような経営者となるためには、自らの人格を高める努力を続けていかなくてはならない。/また、そこまで人間ができていなくても、一緒に仕事をしていく社員に、経営者としての誠意は理解してもらわなければならない。そのためには、経営者自身が会社や社員のために誰にも負けない努力を重ねていくことがもっとも大切になる。[1998:144-145]

◆まず大事なことは、経営は幹部から一般の社員に対してまで「透明」なものでなければならないということである。つまり、経営トップだけが自社の現状が手にとるようにわかるようなものではなく、社員も自社の状況やトップが何をしているのかもよく見えるようなガラス張りのものにすべきなのである。/…会社の使命は、そこに働く従業員一人一人に物心両面の幸福をもたらすと同時に、人類、社会の発展に貢献することである。当然、経営者は率先垂範して、この会社の目的を達成するために最大限の努力をしなくてはならない。…透明な経営を行うためには、まず、経営者自身が、自らを厳しく律し、誰から見てもフェアな行動をとっていなければならない。/次に重要なことは、トップが何を考え、何をめざしているかを正確に社員に伝えることである。…会社が何をめざしており、また現在どのような状態にあり、したがって何をしていかなければならないのか、社長の考えが社員全員にわけへだてなく伝えられ、それが各部門の目標として展開されていくのである。…社員が会社全体の状況やめざしている方向と目標、また遭遇している困難な状況や経営上の課題について知らされていることは、社内のモラルを高めるためにも、また社員のベクトル(進むべき方向)を合わせていくためにも不可欠なことである。社員の力が集積されたものが会社の力なのであり、社員の力が結集できなければ、目標を達成することも、困難を乗り切っていくこともできない。そのためには、トップに対してだけでなく社員に対しても経営を限りなく透明にすることが最低限の条件となる。[1998:149-152]

◆…不正をなくすためにはまず経営者自身が自らを律する厳しい経営哲学を持ち、それを社員と共有できるようにしなくてはならない。そして、公正さや正義と言われるものがもっとも尊重されるような社風をつくり上げ、そのうえでこの一体一の対応のようなシンプルな原則が確実に守られるような会計システムを構築するようにしなくてはならない。そうすれば企業の不祥事の大半は必ず防げるはずである。[1998:158]

◆問題は、目標値の高い低いではありません。まずは、経営者としてあなたが「こうありたい」と思う数字を持つことです。経営目標とは経営者の意志そのものなのです。そのうえで、決めた目標を社員全員に、「やろう」と思わせるかどうかなのです。…ですから「人の心をどうとらえるのか」が、経営において一番大事なのです。[1998:193]

■書評・紹介

■言及




*作成:片岡稔
UP:20131202 REV:20131219 1224 20140106 0109
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