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『雇用不安』

野村 正實 19980721 岩波書店,213p. 735


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■野村 正實 19980721 『雇用不安』,岩波書店,岩波新書,213p. ISBN-10: 4004305675 ISBN-13: 978-4004305675 735 [amazon] ※

・紹介:和田紗代子(立命館大学政策科学部2回生)

目次
序章 雇用不安の時代
第1章 日本の失業率の特異性
@ 失業率の国際比較
A 「本当は日本の失業率は低くない」という主張
B 出発点としての4つの事実
第2章 低失業率をめぐる理論
@ 日本の失業率の歴史的特質
A 低失業率を説明する有力な理論
B 高度成長後の理論的状況
第3章 「全部雇用」成立の論理
@ 「全部雇用」論と雇用構造
A 大企業モデル
B 自営業モデル
C 中小企業モデル
D 3つのモデルと「全部雇用」
第4章 「全部雇用」の衰退とその影響
@ 「全部雇用」の衰退
A 「全部雇用」衰退の経済的社会的影響
B 規制緩和と今後の日本
C ドイツへの注目
終章 「全部雇用」を維持して改革を

序章 雇用不安の時代

相次ぐ大型倒産。戦後最悪の失業率。大失業時代の到来が言われるが、欧米に比較して低い失業率はなぜなのか。就業を希望しても求職しない「求職意欲喪失者」の存在に着目し、「全部雇用」概念を復活させ、日本経済の構造と問題について考えていくことを本書の意図としている。

第1章 日本の失業率の特異性

第1章では、日本の雇用・失業に関して4つの特徴を述べている。
1:日本の失業率は国際的にみて著しく低い。
2:二度のオイルショックのような大きな外生的ショックに対しても日本の失業率は大きな変化を見せていない。
3:1970年代からの4半世紀を眺めると、突然の労働需要増加によってかなり深刻な労働力不足におちいった80年代後半のバブル期を別として、日本の失業率は長期的には緩やかに上昇している。
4:日本には求職意欲喪失者(潜在的失業者)が多く、その大半は女性である。
という以上の4点が、日本の雇用・失業の特徴であり、日本経済、雇用構造を分析していくにあたっての出発点となると筆者は述べている。

第2章 低失業率をめぐる理論

第2章では、戦後の日本の低失業率を説明する主要な理論が述べられている。有名なものに、「二重構造」論、「過剰就業」論、「全部雇用」論がある。
「二重構造」論:これは1957年、有沢広巳氏の『経済白書』によって提示された。「一方に近代的大企業、他方に前近代的な労資関係に立つ小企業および家族経営による零細企業と農業が両極に対立し、中間の比重が著しく少ない。一国に、先進国と後進国の二重構造が存在するようなものである。また、前近代的な労資関係に立つ小企業および家族経営による零細企業と農業が、潜在的失業者を吸収しているので失業率が高くならない。」という理論である。
「過剰就業」論:戦後、1950年代において農業に言及せずに日本経済や労働市場を論じることは不可能であった。「過剰就業」論は、大川一司氏によって提示された農業に関する雇用論である。過剰就業とは、ある産業の限界生産力が他の産業における限界生産力よりも恒常的に低位であるとき、その産業は過剰就業であると定義される。日本の農業は典型的な過剰就業であり、これが失業を低くおさえることに大きく貢献したと彼は主張した。
「全部雇用」論:これは、東畑精一氏によって提示された。日本の雇用は、万人が最大限の生産性を発揮し、最善の資源配分が行われ主観的にもそれぞれの仕事に没頭している状態=完全雇用とは違い、各人が最大限の生産性をあげているわけでもなく、その仕事に満足しているわけでもないが、すべての人が働いている状態=全部雇用という状態である。
以上において、農業の衰退とともに「過剰就業」論と「全部雇用」論は忘れられていったが、「二重構造」論だけは高度成長期にも命脈を保ち、1980年代には「新二重構造」論が主張されるようになった。「新二重構造」論では、これまでの中規模企業が極端に少ない「二重構造」論とは違い、中小企業の数は増えたが、大企業と中小企業の力の差は大きく、それによって生産力面での効率性と生産関係面での問題性が浮上してきているという部分を指摘した。
これらの有名な理論の中でも筆者は、高度経済成長とともに忘れられていった「全部雇用」論こそ日本の雇用・失業構造を適切に説明するもので、筆者は再び「全部雇用」論に注目する必要があると述べている。

第3章 「全部雇用」の成立の論理

第3章では、第1章で述べた日本の雇用・失業に関する4つの特徴を、「全部雇用」という観点からさらに補足し、現代の「全部雇用」の成立する論理を述べている。
1:日本の失業率は国際的にみて著しく低い。
これは「全部雇用」のためであり、恒常労働力ではなく、労働力と非労働力のあいだを行き来している縁辺労働力の存在が「全部雇用」に寄与しているといえる。男性ではなく、最近増加してきている女性パートタイマー、女性自営業主と女性家族従業者が主たる縁辺労働力となるが、この縁辺労働力が好況期には労働力となり、不況期には非労働力となる。縁辺労働力が不況期に非労働力化するため、失業は増えない。
2:オイルショックのような大きな経済的インパクトに対して失業率が敏感に反応しない。
これも「全部雇用」のためであり、雇用形態として歴史的には家族全員で家計を維持する自営業モデルが過半数を占めていたが、農業の衰退とともにその数は減ってきた。ところが、それを補うかのように女性パートタイマーが増大し、結果として縁辺労働力の層は厚く維持された。そのため、大きな外生的ショックにもかかわらず、失業率がはね上がることはなった。
3:長期的には失業率が緩やかに上昇している。
これは、「全部雇用」の衰退に起因し、日本の雇用構造が崩壊し始めていることを示唆している。
4:日本には求職意欲喪失者(潜在的失業者)が多く、その大半は女性である。
「全部雇用」を成り立たせているのは、女性縁辺労働力である。女性パートタイマーや女性家族従業者などは、仕事がないときは、非労働力となって家事に専念する。これらの女性たちは、就業条件が限られるため、積極的な求職活動をおこなわないが、就業意欲はもちつづけているので、求職意欲喪失者となる。
というように、「全部雇用」の成立には、女性による縁辺労働力の存在が必要不可欠であるとしている。

第4章 「全部雇用」の衰退とその影響

 第4章では、「全部雇用」衰退の経済的社会的影響を述べている。1980年から90年代に加速化した雇用構造の変化は、「全部雇用」の衰退であるといえる。これからもさらに「全部雇用」が衰退していくならば、日本型福祉社会が終焉し、社会安定化メカニズムが消滅する可能性がある。「全部雇用」において中小企業のもつ役割は大きく、中小企業は、これまで開廃業をともないつつ全体として雇用を増やしてきたが、中小企業が衰退することは福祉社会の基礎を掘り崩し、高失業率をもたらすことにもなる。
また日本にとってアメリカのように規制緩和を実行していくことが日本の経済システムに適応し、雇用などがうまく循環するかというと、それは違う。第1・3章でも述べたように日本は、アメリカなどとは異なる構造的な特質を持っている。これは日本の失業率が顕著に低かったということが、日本の雇用・失業が他の先進国とは構造的に異なる特質を持っていたことを物語っている。しかし、筆者は現在の日本の失業率が緩やかではあるが確実に上昇してきているのは、その特異な構造が壊れ始めているからであると述べている。

終章 「全部雇用」を維持して改革を

 筆者は、これからの日本は、「全部雇用」を維持しながら、より公正な社会をつくっていくことが必要であると主張している。そのためには、環境を第一に考えて経済社会を構成しようとするエコロジー主義や、フェミニズム思想を有力候補としてあげている。前者では、行政的支援の必要性を、後者では、法整備、政策、社会運動などの力によって差別をともなわない女性の労働力化が実現する可能性をそれぞれ述べている。そして「全部雇用」の衰退に歯止めをかけ、その上でより公正な社会の実現向けて努力をおこなうことが必要であるとしている。

コメント

 この本を読んで、日本の経済・雇用システムが国際的にみても特異な性質を持っていることを知った。現在の日本の失業率は約5%であるが、数字のみに注目すると国際的にみても低く、日本経済も捨てたものじゃやないという気さえ沸いてくる。しかし日本には潜在的失業者が多く存在し、実際の失業率はもっと高いといわれている。そこで筆者は、これからの日本の雇用がどうあるべきかについて本書で述べている。筆者は「完全雇用」と「全部雇用」について、「完全雇用」のほうが価値的には望ましく、「全部雇用」は決して理想的な雇用状態ではなく、女性への身分的差別、賃金格差や労働条件などの男性についてもまだまだ問題があるとしている。それでも「全部雇用」を推進するのには、完全雇用を実現するにはかつてのような高度成長が必要であり、これは実現の可能性が極めて低いと考えているからだ。
私は、今の日本経済にとって一番必要なのは安定した雇用であると思う。安定した雇用は安定した社会を生み出す。私も本書を読み、日本経済が立て直すためには、従来の「全部雇用」がもっともベストであると感じた。まずは、雇用の部分において差別のない公正な社会をつくる必要があり、それから規制緩和や「完全雇用」にむけて動き出せばいいと思う。日本は日本の性質を踏まえたうえで、これからの雇用について政策を打ち出していくべきである。


UP:20040215 REV:20070408
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