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『死刑の大国アメリカ──政治と人権のはざま』

宮本 倫好 19980510 亜紀書房 241p.


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■宮本 倫好 19980510 『死刑の大国アメリカ──政治と人権のはざま』,亜紀書房,241p. ISBN-10:4750598097 ISBN-13:978-4750598093 /1785円 [amazon] c0132, c0134

■出版社/著者からの内容紹介
先進国中、日米両国だけが死刑制度を温存する――。死刑情報を徹底公開し、賛否両派が真っ向からぶつかり合うアメリカ。その死刑制度の歴史的背景から現状までを豊富な実例で明示し、「死刑密行主義」を是認している日本の閉鎖性を浮き彫りにする問題作。

■内容(「BOOK」データベースより)
死刑は犯罪を抑止できるのか、あるいは政治の道具なのか、少年、知的障害者までも容赦しないのか。先進国中、日米両国だけが死刑を温存する。その死刑をめぐる落差を、豊富な実例で明らかにする。

■目次

はじめに
第1章 死刑の政治化──タフな政治家が求められる背景
 1 死刑復活の大潮流
 政治マターとなった死刑/選挙を気にする司法官/厳罰化とコストの増大/犯罪抑止に明確な根拠なし
 2 「男らしさ」重視の社会
 暴力の伝統/デスベルト地帯
第2章 弱者と死刑──“極刑”に例外なし?
 1 「命の値段」と人種問題
 法の二重構造/安かろう、悪かろう/陪審制度と黒人差別
 2 子ども、精神障害者、女性と死刑
 子どもを自立した存在とみなす/精神発達遅滞者への処罰/女性に甘い背景
第3章 処刑の歴史──時代とともに変わる死刑の形態
 1 人類の歴史とともに
 民衆参加型の公開処刑/欧米の死刑史/矛盾するキリスト教の伝統
 2 世界の趨勢
 二極分化する死刑政策/絞首刑、電気椅子、ガス室、注射刑の功罪
第4章 揺れる最高裁──賛成派、反対派の果てしない相克
 1 死刑制度廃止の動き
 黒人解放運動と連携する死刑反対派/「ファーマン」判決で死刑停止へ
 2 死刑支持派の巻き返し
 「死刑そのものは合憲」と転換/死刑支持の世論にさらに譲歩/最後の頼み、知事の赦免
第5章 珍しくない誤判──誤判、冤罪はなぜ起こるか
 1 冤罪の系譜
 バンクス事件、アダムズ事件、ブラッズワース事件/リンドバーグもサッコとバンゼッティも
 2 人種間に潜む不信の深淵
 黒人ゆえに無罪? O・J・シンプソン裁判
第6章 死刑公開はどこまで可能か──言論の自由と遺族の思い
 1 公開することの意味
 パパラッチ精神/報道の自由とプライバシー/死刑のテレビ中継は実現するか
 2 死刑に立ち会う人々
 死刑執行人は人気者?/「苦しみ少ない処刑」に遺族の不満
第7章 強烈な個性の死刑囚たち──死刑を望む者の意外な心理
 「戦おう、最後まで」/銃殺刑望んだギルモア/「終身刑よりも死刑を」と望む者/死刑囚最後の日とジャーナリスト
第8章 なぜ死刑制度の存続か──―直視する国と沈黙する国の落差
 170人殺しの爆破犯を許せるか/そろわない各州の足並み/死刑に沈黙する日本
アメリカ死刑制度の歴史
主要参考文献
アメリカ司法制度の仕組み

■引用(強調はファイル作成者による)

死刑執行人は人気者?
 死刑執行官という職務に対する世間の評価も、アメリカでは随分違うという気がする。戦前シンシン刑務所で死亡した死刑執行官の後釜を募集した時、何千人という応募者が殺到したという話が残っている。この前任者の家は爆破されたことがあり、本人は退職後、銃で頭を撃って自殺したという事実があったのに、である。その応募者の五分の一は女性で、なかには「男を憎んでおり、何人でも電気椅子で殺してやりたい」という勇ましい志願者もいたという。
 当時、死刑執行官は一種の専門職で、徒弟制度になっていた。いわば日本の江戸期の山田朝右衛門である。将軍の佩刀の試し切りを務めた職で、代々朝右衛門を名乗り、死罪執行の斬首役を引き受けることも多く、世に首切り朝右衛門と称された。大英帝国では公式の死刑執行人は鑑札>160>を受けた者で、パブを経営することのできる人ということだったらしい。そのなかでも有名なピエールポイント家は、今世紀初めから死刑執行が中止された今世紀半ばまで世襲だったという。
 以前アメリカにフィリップ・アンナという有名な死刑執行人がいたらしい。最もうまく人間の首を絞められる方法を熱心に研究し、フリーランスの絞首刑執行者になった。運搬できる自分専用の絞首台を持ち、あちこち注文に応じて移動した。唯一の報酬は執行後に保安官と一緒に飲むボトル一本のウィスキーだったという信じられないような話を、『死刑・アメリカの現実』の著者イアン・グレイが書いている。同書によると、ロバート・エリオットというシンシン刑務所の執行人はさらに有名で、各州を渡り歩き、リンドバーグ事件の犯人とされたハウプトマンやら、史上有名な冤罪事件といわれるサッコとバンゼッティも手に掛けた。晩年、自分が無罪だと確信した囚人の死刑執行をさせられたために、死刑反対論者になった
 アメリカでは、六〇年代に死刑が凍結されてから、徒弟制度も崩壊した。それでもこの職が必ずしも敬遠されることはないらしく、八〇年代、ジョージア州、ニュージャージー州で執行官を募集した時も、やはり大勢の希望者が殺到した。
 死刑執行官は現在は匿名が普通で、たとえばフロリダ州では、死刑は日の出とともに行われるが、担当執行官の名前は州の関係者二人にしか知らされていない。この二人の名前も、一般には秘匿されている。執行官は夜明け前に決まった場所に集まるが、その時すでに覆面をしており、執行>161>が終わって手当てを受け取るまで、この覆面ははずさない。ワシントン州は注射刑の他に絞首刑も併用しているが、執行官は立会人にはシルエットしか見えないようになっている。こうした匿名性への配慮は、たとえばマフィア仲間など、関係者による復讐を恐れてのことだと説明されている。
ところが、死刑が正義の執行として強く支持されている深南部になると、このあたりの事情もまた、微妙に違うらしい。たとえばアラバマ州、ミシシッピー州では、執行官はオープンにされており、崇拝されることもないが、世間に顔を背けることもないという。本人たちも、自分に課せられた仕事として、淡々と行うだけと割り切るのが普通らしい。 アラバマ州のチャーリー・ジョーンズは最近四人目の死刑を執行したが、地元では結構人気がある。ミシシッピー州のドナルド・ホカットには、町の人達はいつも「いい仕事をしてくれよ」と声をかける。死刑凍結まで三十数人を処刑したミシシッピー州デルタ地帯出身のバリー・ブルースは、地元では伝説的人物だった。ただ、退職後は二度と血を見るのは嫌だと、好きだったハンティングをぷっつり止めた」(pp.160-162)

■書評・紹介

■言及


*作成:櫻井 悟史 
UP: 20080720 REV:
死刑  ◇「死刑執行人」  ◇身体×世界:関連書籍 1990'  ◇BOOK
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